無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.元上官の口調がうつっているだけ。
ここ最近、例のルーキーの調子が悪いらしい。
動きが鈍いというのではなく、粗が目立つ動きが増えてきたとの事。
話を聞いた時、正直大して気にも留めなかった。
前と違ってアラガミ絶対許すまじといった感じでも無かったし。
むしろ今までが迷いに対して遮眼帯状態で戦っていたようなものなのだ。
復讐心のように一つの感情で心を満たしてしまっていれば、そこに迷いが湧き立つ余地は無い。
結果的に頭空っぽで戦っているのと同じ状態だ。
迷う余地が無いのと迷いそのものが無いという違いはあるが。
ところがあの子にはそれが無くなってしまった。
感情にどう折り合いをつけたかまでは分からないが、心に余裕が生まれたことで文字通り余計な事まで考えてしまえるようになったのだ。
迷いは動きの精度、粗さに直結する。
今まで気付く事の無かったそれであれば、その影響は普通よりも顕著に表れるだろう。
まぁこればっかりはある程度慣れてもらうしかない。
そのうち時間が解決するだろう。
…何て事をつい先日まで考えていたのだが。
「とまぁ、まだ問題が大きくなってない内に何とかしたいんだが…何か良い方法無いかねぇ?」
そう言ってビールをあおるのはあの子の直属上司であるリンドウ君。
適当な話しぶりに聞こえるものの、その表情はいたって真面目である。
「お前、この前アイツ庇ってヴァジュラに吹っ飛ばされてたろ?サクヤが言うにはどうもあれから調子が崩れ始めたみたいなんだわ。」
あー察しがついた。そっち方面で新しい傷が出来ちゃったか。
まぁ人間一人、目の前で空中飛んでいったらそりゃしばらく引き摺るか。
となると時間任せの解決だと長引くな。
言ってしまえば軽いトラウマになってるようなものだし。
しょうがない、俺が吹っ飛ばされたのが原因の一端だからな。
とりあえず
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この手の話に対応するのは初めてではない。
まだ上官の下に付いていた頃、痛い目にあった隊員の動きが明らかに鈍くなるのを何度も見聞きしている。
迷いが原因というのは変わらないが。
大抵の場合、そうなってしまう原因は次のどっちかに大別される。
【被弾を恐れて判断が遅くなる】か、【ミスを恐れて判断が遅くなる】か。
被弾もミスも同じ意味に聞こえるが、実のところその意味合いは全く異なっている。
被弾を恐れるというのは人間としての本能であり、正しい反応である。
痛いだけならまだしも、大ケガや最悪死に至るという話なのだから判断に迷うのも当然の話だ。
結果として恐れているそれが現実となる可能性を高めてしまっているというのが何とも皮肉だが。
だが件の新人はこのケースには当てはまらないように見える。
簡単な判断基準として戦闘開始に躊躇いが現れるのがこのケースだが、話を聞く限りではそんな感じではなさそうだ。
となるとレアケースで無い限りは後者のパターンとなる。
端的に言えば
あの子の場合だと不用意にアラガミの前に進み出た事を"判断ミス"と捉えていそうだな。
その結果俺はあの子の代わりに廃材の山へ打ち込まれた訳だ。
結果は見ての通りノーダメージだ。まぁこんなでも古参だし、予期せぬ事態の一つや二つ、備えくらいは当然してる。
ちょっとピヨりはしたけどな。
ただあの子のメンタル的にはそうでもなかったらしい。
何事も無かったのはただの結果論であり、そういう事態になってしまった時点で大問題だと考えてしまったのだ。
次にそんな事態があってはならない。
思考に吟味を重ね、間違いが起こらないよう慎重に行動する。
結果、迷いで動きに粗が出るという不調に至ってしまったのだ。
ではどうすればこの不調は治るのか?
簡単である。
"失敗してもまぁいっか"と思ってもらえばよいのである。
優秀な神機使いにはある程度のちゃらんぽらんさが必要なのだ。
もっとも、それを思い込ませるというのが普通は手間暇かかる話なのだが。
"失敗なんて気にするな"で事が足りるならカウンセラーなどという仕事は存在していない。
そう。普通は大変なのだ。
普通は、な。
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「………………………」
所変わって再び"贖罪の街"。
相変わらず定期湧きしてるヴァジュラの討伐が目的である。
メンバーは絶賛不調中のルーキーに、ソーマとリンドウが参加している。
今回は第一部隊としての任務ではなく、俺が発注したミッションに同行してもらっている形だ。
さしずめチーム特務部隊と言ったところか。
ルーキーちゃんは違うがその内任命されるだろう。知らんけど。
ルーキーちゃんの様子を伺う。
アラガミを恐れている様子は無いが予想通り妙に緊張して身体が強張っている。
うん、事前の予測と相違なし。
大方、自分がヘマしてまた俺が吹っ飛んだらどうしようとか考えてるんだろう。
己惚れるなよルーキー。
新人なんぞのお世話が必要なほど、足手まといの老害になった覚えはない。
まぁ"老"害と呼ぶには俺はまだ若過ぎるしな。
おっとアラガミの反応が近くなってきた。
そろそろ真面目に始めようか。
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今回の俺の主目標は一つ。
想像力豊かな新人ちゃんに、考えるだけ無駄だと頭に叩き込むことである。
"気にしない"というのはある意味でそのように物事を考える必要がある。
ところがこれは"気にすべき"と言う考えと競合してしまうので、"気にしない"の割合が大きくなるまで不調は解消しない。
これが普通の手段では時間がかかる理由である。
俺がやろうとしているは横車を押すやり方だ。
"気にすべき"と言う思考の先に"考えるだけ無駄"というロジックを仕込んであげるのだ。
この手法であればいくら気にし続けようと問題無い。
何しろ気にした結果で"無駄"と言う結論が出て来るので、結果的に気にしなくなるのと同じ事になるのだ。
さて、本題に戻ろうか。
先頭に俺が立ち、その後ろに三人が続いている。
合図をすれば戦闘開始という訳だ。
この角を曲がればその先にヴァジュラがいる。
もう少し進めばあちらも目視圏内だ。
よし、それでは治療を始めよう。
…あ、言い忘れてた。
ここから先はカウンセラー以外ご遠慮願います。
言葉代わりに後ろへスタングレネードを放り投げた。
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予めピンを抜いて時間調整しておいた二発目をヴァジュラの前に放り投げる。
ほぼゼロ距離で閃光を直視してしまい、苦悶の表情で顔を反らすヴァジュラ。
アラガミ相手には十秒も持てば良い方のそれであるが、不意打ちを仕掛けるには十分だ。
回り込んで後ろ足に横薙ぎを叩き込む。
一本はそのまま切り飛ばせたが流石に二本目までは無理だった。
まぁいいさ。しばらく使い物にならんだろう?
それにこの時点でもう俺の勝ちは確定してる。
ヴァジュラが咆哮を上げながら腕を振り抜かんと向き直る。
お手じゃなくておかわりの方とは芸が細かい。
意思表示できる奴は嫌いじゃない。
構わんぞ、既に
閃光と共に三発目の爆音が響き渡る。
若干耐性を得たようで顔を反らすには至らなかったが、視界が眩んだせいで盛大に空振り、その勢いでそのままズテンと派手に転んでしまう。
仕上げである。
口に含んでいた筋力増強錠を飲み込んでドーピング。
狙いは鬣のような甲殻の裏側。
流石にこのサイズを一刀両断という訳にはいかないんでね。
ヴァジュラの視界が戻ったようだ。
瞳孔の無い点のような瞳がまっすぐこちらを見返してくる。
残念、少し遅かった。
………
時計を取り出してタイムを確認する。
うむ、レコードタイム更新だ。
顔を上げれば一緒に来ていた三人が駆け寄ってくる。
何かを叫んでいるようだが流石にスタグレ三発分の爆音を聞き続けたのでまだ聴覚が元に戻っていない。
とりあえずミッションコンプリート。
どうよルーキー、隊長さんは
新人程度がいくらヘマしようと、別にどうという事は無い。
俺だから強いという訳じゃないぞ。ソーマとリンドウも多分同じ事出来る。
極東の古参兵の肩書は伊達ではないのだ。
今後はもっと気楽な気持ちでミッションに来るんだな。
お嬢ちゃんにあんな緊張されると、お兄さん気になって仕方ないからな。
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ここは極東支部のエントランスホール。
周りの任務上がりの喧騒の傍らに、一人片隅で頭を抱える。
悩んでいるわけではない。
物理的に痛むのだ。
あの後めちゃくちゃぶたれた。
頭が結合崩壊するかってくらいボコボコにされた。
それも三人がかりである。
リンドウはともかくとしても、ソーマとルーキーは俺より階級下だろうが。
直属ではないが俺は上官だぞ。
まぁ悪かったとも思っていたので何も言わずに甘んじてボコられた。
流石にスタングレネード使ったのはやりすぎだったか。
でも今回の目的を達するには必要だったんだよ。
ここまで圧倒的な実力を見せつければ、間違っても
もっともこれに甘えられて手を抜かれるようになっても困るが。
もしそうなったらツバキさん辺りにチクってしごき回してもらおう。
ま、その心配はなさそうだが。
散々殴られはしたものの、その後の表情はどこかスッキリしていたような気がする。
殴ってスッキリしたのではないと信じたい。
まぁいいさ。迷える後輩を導くのも先輩の大切なお役目だ。
これも立派な仕事さね。
「………………………」
-ズキズキズキズキ-
「………………………」
でもソーマ、お前は駄目だ。
後輩どころか同期という方が近いだろう。
良い機会だとばかりに遠慮無くどつき回しやがって。
いつか仕返ししてやるからな。
例のペンギンのコラ画像(ただしどつき回されるおまけつき)。
ちなみにいつかが来た試しは無い。