無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
Q1.一人しかいない部隊無い?
A1.ありますね。
Q2.統合する?
A2.Nein(いいえ)。
あくまで現状。
今後増えれば問題ありませぬ。
この辞令が読めるなら。
今日から貴方も部隊員。
ここは極東支部の神機保管庫。
ずらりと立てかけるように保管された多数の神機を背景に、三人の神機使いが背筋を伸ばして居住まいを正している。
三人の前にいるのは一人の少女。
「…リーダー、ホントにやるの?」
「やります。大事な事なんですから恥ずかしがってちゃ駄目ですよリッカさん。」
「そうそう。お前さんもいつかは後進を育成する立場になるんだろうし、今の内に経験しとくってのは損じゃないぜ?」
美人な白肌にチャームポイントのように黒いオイルを引いた彼女が、困ったように苦笑しながらそう確認する。
そんな彼女にルーキーは真面目な表情で力強く頷いて肯定し。
続いてリンドウがややからかうような口調ながらも後押しの言葉を口にする。
「もう、そんな適当言って…どっちかっていうと面白がって言ってるでしょリンドウさん。」
「ハハッ、そりゃあお前さん、俺くらいの年になるともう誰かの下に付くっていうのは中々無いからな。心機一転、新人気分で改めて頑張らせてもらうとするさ。」
リッカからのツッコミに対してリンドウがそれらしい事を言いながらおどけて返し。
隣にいるルーキーもまた呆れるように小さく笑いを漏らす。
「そんな訳ですからリッカさん。諦めて一つ、挨拶をお願い致します。」
そうして紡がれたルーキーの言葉にリッカも諦めがついたのか。
コホンと軽く咳払いをした後、同じように居住まいを正してこちらに宣誓するかのように言葉を紡いでいく。
「…今日からしばらくの間、君達三人の上官という立ち位置になりますフェンリル極東支部所属神機整備班--」
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「私は皆のように戦場に出て戦う事は出来ないけど、神機の整備という形でなら一緒に戦えるから。神機の事で困ったことがあったらいつでも言ってね。」
はい、我らが新しい上官。
リッカ班長のありがたいお話でした拍手ー。
パチパチと俺とリンドウが軽く拍手を鳴らし。
つられてルーキーが若干大きめの拍手で後に続く。
「フフッ、私と初めて会った頃を思い出しますねリッカ班長。」
「は、班長は止めてよリーダー、恥ずかしい…」
からかい半分、懐かしさ半分で言うルーキーに恥ずかしそうに俯きながらリッカが答える。
うむ可愛い、これはリンドウ君のアラガミ化した右腕にも効果がありそうだ。
え、サクヤに対する浮気になるんじゃないのかって?
失礼なこれは慈愛だよ。
あちらは純愛、極東の愛の種類は百八式まであるのを知らんのか。
「いやいや、立派な挨拶だったぜリッカ班長。これなら
俺が彼女たちのやり取りを微笑ましく見ていたところ。
唐突にリンドウがそんな言葉を彼女たちに投げかける。
「そうそれだよリーダー。恥ずかしくて忘れるところだったけど…」
言いながら、唐突にリッカがこちらを向いたかと思えば。
疑わし気な表情を向けながら妙な事を俺に確認してきた。
「君、本当にこれで私の言う事ちゃんと聞いてくれるようになるの?無茶するなって指示、これからは本当に従ってくれる?」
--従うも何も。
これ正規の手続きで出たれっきとした辞令なんだろ?
真の目的はもしもに備えた監視対応とはいえ、名目上はまごう事無く俺達の上官になった事に変わりは無く。
であれば指示の順守に否やも抵抗もありはしない。
というか真面目で可愛いレディの上官の命令である。
逆らう奴がいるとか正気か?
俺の元上官殿の時に比べれば百倍身の入りように差が出るわ。
「大丈夫ですよリッカさん。上官と女の子、これに食べ物も付けた日には、この人大抵の事は真面目に言う事聞いてくれますよ。」
「…お前さん、もしかして俺がいない間にキャラ変わったりとかした?」
張り倒すぞルーキー。
人を犬猫みたいに言うんじゃない。
リンドウ君は後で工廠裏…
いや、その右腕で返り討ちにされそうだから止めとくか。
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時は流れて数時間後。
ここは通称"贖罪の街"。
極東にいる全ての神機使いが、ここからゴッドイーターとしての経歴を歩みだす始まりの地。
--うん、マジで俺だけミッションに送り出されるとは思わんかった。
いや、事情を聴けば確かに納得しかない。
リンドウは当たり前だが現時点でアナグラの外に出せようはずが無い。
というか神機が壊れたままなのでそもそもアラガミと戦り合うための手段も無い。
ルーキーは一応リンドウ程の行動制限はされていないのだが。
聞くところによるとどうも神機の調子が良くないらしい。
『どうも君の偏食因子と神機のオラクル細胞のパワーバランスが崩れちゃってるみたいなんだ。これはちょっと調整に時間がかかるかもしれないね…』
『そうなんですか?確かに普段よりちょっと重たいような気もしますけど、別に戦えないって程じゃ…』
ルーキーがそう言った瞬間笑顔のまま『リーダー?』と圧を掛けたリッカの表情は忘れられない。
アレは怖いぞ、大型アラガミにも物怖しないルーキーが反射的に"ピッ"って叫んだくらいだからな。
そんな訳でルーキーはお留守番…というかリンドウと一緒に諸々の検査と神機調整のお手伝い中。
俺はというとそれら作業に利用されるオラクルリソース確保のために、こうして回収ミッションへと出向く事になった訳だ。
本日のご注文はオウガテイル数匹分のコア。
ところが今回のこのミッション、残念なことに見た目ほど楽な任務という訳ではない。
神機使いの諸兄は気になった事は無いだろうか?
同じアラガミの討伐なのに難易度によって受注可否が制限されていたり。
同じアラガミのコアを採取したのに得られる素材に差異が出たりするのかを。
結論から言ってしまうとアラガミという生物は例え同じ種に属するものであっても。
細胞レベルで紐解くと"限りなく近い別種"だからである。
例えば訓練によって筋骨隆々となった軍人と市井の一般人。
戦闘能力に差はあれど、これらはどちらも人間という括りからは外れない。
しかしこれが我々神機使いとの比較になると話は変わる。
探せば神機使いの戦闘能力に匹敵する軍人の一人や二人は見つかるかもしれないが。
偏食因子を投与された神機使いは文字通り細胞そのもののレベルが違う。
そしてこれは偏食因子が制御するオラクル細胞そのものので構成されているアラガミに対しても同じ事が言える。
偏食因子によって細胞そのものを強化させたのが神機使いというのであれば。
補喰によって細胞そのものを進化させていくのがアラガミというもの。
見た目は確かに同じアラガミ。
しかしその構成要素まで紐解けば最早別種とも言える程の大きな差。
ソーマがいう"バケモノ"という表現も。
比較対象が人かアラガミなだけで、本質で見れば実はあながち的外れでもないのだ。
そんな訳で今回ターゲットのオウガテイル。
見た目程容易い相手ではないものの、オウガテイルはあくまでオウガテイル。
流石にベテラン神機使いを掻き集めて挑む程ではないが。
もしもを考えると単独討伐に挑むのは少々憚られるというのが上官殿の見解。
『小型種の高品質なコアは欲しいけど、討伐は必ず誰かと一緒に行く事。いいね?』
指を立てつつ前傾気味に念押しする姿を見下ろすのは中々に目の眼福になった。
惜しむらくはアリサやカノン程とは言わないが、せめてサクヤかアネットくらいあったなら…
閑話休題、話を戻そう。
真面目にやらないと上官殿に叱られてしまう。
「…あの、そろそろ話しかけてもいいですか?」
俺が気を取り直した所を見計らったのか、後ろから声がかけられる。
スマンスマン、少し自分の世界に浸り過ぎてた。
何分これほど嬉しい日というのも中々無くてな。
それではさっそく。
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トップバッターは最早説明不要。
アネットやフェデリコの同期、医療班所属の新型神機使いのレン君である。
得物はショートブレードとスナイパー。
大人しい見た目と性格だが、たまに"喰い合いなら負けない"と漏らす辺り意外と好戦的な面もある神機使い。
ちなみに今回の作戦メンバーを集めてきてくれたのも彼である。
誰に声かけようかとエントランスでクピクピ呷っていたところ、紹介したい人達がいると声を掛けられ。
丁度良いとなし崩し的に俺の部隊名義で全員ミッションに参加させたというのが事の経緯である。
新人とかだったらどうするつもりだったかって?
問題無い、先も言った通り相手は所詮オウガテイル。
俺とレンがいるなら何の問題も無い。
その時は後方でミッションが終わるのを待っててもらい。
そのまま実戦訓練終了と称して俺の部隊に編入させるだけだった話だ。
まぁ新人じゃなかったからその手はポシャったんだけどな。
大丈夫、まだ部隊編入の目が消えた訳じゃない。
という訳で二番手。
「久しぶり…いや、ここは初めましてというところかな。」
声を聞いた瞬間、血の気がサッと全身から引いていく。
見た目は確かに少々奇抜なファッション。
顔を覆い隠す
馬鹿な、ありえん。
お前は確かに死んだはずじゃ--
「君も知っての通り、僕は極東で最も華麗に戦う神機使い。エリック・デア=フォーゲルヴァイd「彼はマスク・ド・オウガさん。貴方の知ってるエリックさんの知己の友人です。」
胸元から下の見知った着こなし、何より聞き覚えのあるその声を前に俺が声も出せず身を固まらせていた所。
ニコニコとした笑顔のレンが唐突に彼の自己紹介を遮り、紹介の続きを引き継いでいく。
「…そう!僕の名前はマスク・ド・オウガ。今は亡き華麗なる神機使いにして無二の友エリックに代わって、これからは僕が君達の力となろう。」
「元々オウガさんは別の支部にいたんですが、その時オウガテイルとの戦いで顔に傷を負ってしまいまして。以来その時の油断を忘れないよう、傷隠しも兼ねてこうしてマスクで顔を覆って戒めとしているんです。」
ゆゆゆ、友人?ゆゆゆ幽霊ではなく?
い、いやいやだって服装はともかく声、声がいくら何でも似ているってレベルじゃ。
引き継がれた紹介に乗っかる形で改めてマスク・ド・オウガなる人物が名を名乗り。
今尚疑惑の目を向ける俺を察したのか、レンが懇切丁寧に説明を続ける。
「同郷の同い年というのもあってか、僕とエリックは感性が似ていてね。声や背格好も近かったから、知り合いからはよく間違われたものさ。」
「そうなんです。エリックさんとオウガさんはあくまで別人。間違っても幽霊や死人なんかじゃありませんからね。」
そ、そうなのか?
まさか俺を騙そうとしてるんじゃないだろうな?
いいいや別に幽霊を信じてるとかじゃないから俺としてはどっちでもいいんだが。
で、でもたしかにいくら似てると言っても誰かと同一視するなんて確かに人として失礼だな。
うん、落ち着け俺。深呼吸深呼吸。
エリックはエリック。マスク・ド・オウガはマスク・ド・オウガ。
エリックには悪いが君はこれからも天からこの世を見守っていてくれるように。
何なら俺の両親にもよろしく頼む。同じ頭から喰われた同士きっと意気投合する事もある筈だ。
まぁ俺の両親、頭どころか身体全部無いけどなハ、ハハハッ。
(君から話を聞いた時は何かの冗談かと思ったんだが…彼、マジなのかい?)
(気持ちはわかりますけどマジです。実はそのせいで僕も未だに本当の事話せずじまいなんですよ。)
(なのに僕を紹介するとか君も結構…いや言わないでおこう、華麗じゃない。)
ふと我に返れば視界の端で何やらコソコソ話を決め込む二人。
い、いかん、もしかして動揺が面に現れてしまっていたか。
ペチリと頬を叩いて気力を再充填し。
最期のトリへと移るとしよう。
………
--神機使いのファッションは多々あれど。
--その風貌はまさに異様の一言。
「………………………」
「………………………」
--露出で言えば皆無の一言。
--しかしそれに対する感想に"清楚"や"慎ましい"といったものは全く抱かない。
「………………………」
「………………………」
--強いて湧くなら愛玩の類。
--しかし時と場を外しているこの場にあっては容易く恐怖の二文字に早変わる。
「………………………」
「………………………」
--しかし俺は知っている。
--アラガミの討伐というこの場にあっては、この場違いな恰好こそがまさに最適解の一つである事を。
--各所に仕込まれた多数のモーターと最新鋭の通信解析装置。
--これらが生み出す超人的な瞬発力と空間把握能力*1。
「…あー、レン君。その…彼は一体?」
「彼はキグルミさんですよオウガさん。端的に言うと僕や貴方と似たような存在…といっても、実は僕も彼の事あまり知らないんですけど。」
いや連れてきた君が知らんのかい。
まぁいい、佇まいからしてただ物ではない事くらいわかる。
何よりコイツは、
--コイツは…エースだ!
………
顔合わせも済んだところで改めてミッション内容と戦力を整理しよう。
ターゲットは普段より気持ち強めのオウガテイルが数匹。
こちらは新型神機使い二人に遠近それぞれの旧型神機使いが二人。
うん、これは勝ったな間違いない。
新人の寄せ集めというならまだしも。
こちらはどう低く見積もっても古参のベテランが二人以上。
何だったら仕留めた後茶でも一服しばいていくくらいの余裕すらある。
--ふむ。そうか、茶か。
後ろを振り返った先にいるのはレンを含む先程初顔合わせを済ませた神機使いの面々。
まだ所属こそ違う部隊とはいえ、ゆくゆくは同じ部隊になるかもしれない貴重な人員。
せっかくレンが紡いでくれた縁だ。
むざむざ無下にするのは無作法というもの。
そんな風に思ったが吉日。
おもむろにバスターブレードの捕喰形態を解放しつつ、強制解放剤を口に放り込んで一気にバースト状態へと移行する。
後ろからレンの驚く声が聞こえたが気にしない。
喜べ諸君、人生は短い。
ミッション後の砲火後ティータイムは俺から君達へのプレゼントだ。
という訳でたかだかオウガテイル数匹、華麗にちゃっちゃと喰い殺してしまおうか!
あ、ミッションが終わったらこの異動届けにサインをよろしくな。
…………………………………………………………………………………………
ここは極東支部の整備室。
冷たい金属質の床に直に正座して俯く俺に対し。
リッカが前傾気味に上からじっとりとした視線を向けている。
「--君さぁ、もしかして"無茶するな"っていうのは"無断でするな"って言う意味と勘違いしてたりしない?」
お叱りの言葉とともにぺしぺしと柔らかな紙の感触が頭に繰り返し落とされる。
恐らくは俺が先程提出したレポート用紙の束だろう。
先のオウガテイル討伐ミッション、勝確だと確信してたからまぁ色々やった。
一匹目は華麗に瞬殺。
オウガ君が爆発バレット吹っ飛ばした直後、間髪入れずにバスターブレードで真っ二つにした。
二匹目、三匹目はよくある鉄板戦術で完封。
オウガ君が遠距離から注意を引き、取り囲んだ後三人がかりで切り刻んだ。
四匹目はちょっと危なかった。
油断したオウガ君の頭上に飛び掛かった畜生目がけてバスターブレードを投擲し。
壁に張り付け状態になったバケモノを皆で挽き肉にしてもらった。
最期の五匹目は文字通りのモルモット。
レン曰くもうアラガミの気配は無いとの事だったのでこの前思い付いた新しい補喰形態の実戦テストに協力してもらった。
いやぁ、エミュレーターと違って生のデータが集まる集まる。
おかげでモルモット君が霧散する頃には十分な検証データを得る事が出来た。
…で、その結果をレポートにしてリッカに渡した結果がこれである。
「--念のために確認しておくけど。
ぐっ、人が密かに気にしてる所を。
確かに現時点では俺の部隊俺一人しかいないけれど。
ちなみにレン達三人は帰投するなり音も無くどこかへ行ってしまった。
きっと所属部隊の隊長へ報告にいったんだろう。
きっとそうに違いない。でなければ臨時の部隊長の俺を置いていくはずなんてないのだから(Q.E.D)。
そうやって現実逃避をする事しばらく。
あらかた不満を言い終えたのか、頭上からリッカが大きく溜息をつく様子が響いてくる。
「…うん、いや、いいや。私ももう少し、キミに言い逃れ出来ない形ではっきり言葉にしておくんだったと反省してる。」
顔を見上げれば目頭を押さえ、頭を振って本気で苦悩するリッカの姿。
流石にここで"どしたん?話聞こか?"と我関せずに言える程俺は空気の読めない人間ではないので黙っておく。
「…よし決めた!キミ、しばらくは出撃禁止!必要な際は必ず私にメンバーを報告してから行く事!絶対厳守の上官命令だよ…いいね!」
良いんですか!?と言いそうになったのを寸でのところで堪えきり。
リッカがそう言い切った所で誤魔化すように大きく頷いてお茶を濁す。
…ハッハッハ、大分遠回りした感はあるが。
合法休暇、ゲットだぜ!
明日から何しようかな?
え、報告すれば出撃は出来るぞって?
いやぁ、いくら上官殿でも明らかに無理な面子を要求されれば承認する事は出来ないだろ。
つまりリッカは職務に従って判断しただけなので悪くなく。
俺は現実的な意見を出しただけなので悪くなく。
結果俺の休暇が増えるだけなので(俺的に)悪くない。
いやぁ良い時代になったものだハッハッハ。
ちなみに後日になってわかった事だが。
俺の出撃申請は初めにリンドウが目を通すそうな。
そもそも整備班のリッカにメンバーの妥当性を判断する事は出来ないからだって。
まぁごもっともな話ではある。
…リンドウ君。もう一回、サクヤの所でMIAになるつもりない?
急激にSAN値減ったので不定の○○。
顔もお目目も真っ青っ蒼。
幽霊ダメな人だから仕方無し。
あの部隊の代わりは務まりません。
でもレン君ちゃんのナイスフォローで華麗なる神機使いが無事参戦。
ついでに極東最古参の神機使いも参加決定です。
リザレクション編に向けてちょっとずつ始動開始。