無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
Q1.ルーキーちゃんの装甲は?
A1.論ずるには及びません。
Q2.ルーキーちゃんの戦力は?
A2.論ずる術がありません。
薄くても当たらなければどうという事はなし。
それどころか大型相手にパリィスタブを取れまする。
え?いたってバックラーの話ですが何か?
"どっちもバックラーじゃん"とか言った人はエイジス島でルーキーちゃんと握手。
ここは極東支部の訓練場。
我ら神機使いにとっては馴染みの深い、神機の調整や戦闘訓練でお世話になる場所である。
「なるほど、チャージグライドの制御はこんな感じでやれば…リッカさん、次のターゲットはこっちに跳躍してくる感じでお願いできますか?」
普段の地味な…もとい、模範的な格好とは異なる装束を身に纏い。
身の丈以上の大槍を軽々と振り回しながらルーキーが制御室のリッカに次のターゲット要求する。
今の彼女の服装についてざっくり説明すると。
上半身は肩口周りを重点的にカバーしている厚手のジャケット。
上腕の半分ほどで腕部の生地は切り詰められており、付属の指切りグローブまでそのまま地肌をさらす形となっている。
おそらく従来の剣型・銃型神機よりもポール型神機の取り回しを考えての事だろう。
筋肉や関節回りを露出させる事で可動域と排熱性の確保するのと同時に、オミットした布地の分の重量軽減も実現。
加えて前傾姿勢が基本となるチャージグライドやショットガンによる突撃。
教本通りであれば両腕は脇を締めて身体に密着する形となるため、突撃時に生じる風圧・飛来物の衝突は防御力の高い肩周りで受ける形になる。
総評して軽装化による影響が極力抑えられている秀逸なデザインであると言えよう。
下半身は拳二つ分ほど膝上に切り詰められたショートパンツとスカートの組み合わせに。
同じく拳二つ分ほど膝下までカバーするやや重厚な作りのミドルブーツ。
こちらはブーストを使った高速戦闘、即ち突撃時の足回りと空力に主観を置いて作られているのだろう。
しっかりとした作りのブーツは度重なる摩擦と衝撃にも十分耐えうる耐久性。
棚引くスカートは目まぐるしく変化する戦闘環境においても、着用者の動作を阻害する事なく最適な空気抵抗をもたらすものと思われる。
またトップスで実現されている重量軽減についてもしっかり考慮されている点は見逃せない。
脛上から膝回りと大腿筋の半分ほどが露わになった大胆な意匠。
上半身同様に教本に基づき押さえるべきポイントを確実に押さえ、メリデメの最大/最低化を完璧に実現している。
余談だがこの足回りの露出。
緻密な計算と匠の技の両方が合わさって展開されるこの神域を、極東では敬意と慈愛を持って"絶対領域"の専門用語で呼称する。
将来フェンリルの開発局で働きたいと思っている人間は必修の知識なのでメモしておくように。
うむ、興が乗ってきたのでもう少し神秘の一端を語るとしよう。
上下の大まかなデザインについては今語った通りだが。
この服を語るに当たってもう一つ外す事の出来ないポイントが存在する。
腹部である。*1
丹田、即ちへそ回り。具体的にはIt's the Waist.
非常に大事な事なので三回言った。
聡明な紳士淑女の諸君には言うまでも無い事だが。
全ての生物にはすべからず自身が生まれ出た始まりの地というものが存在する。
それは言うなれば原初の故郷。
この世に生を受ける遥か前、一切の穢れを知らずに悠久の安寧を享受していたあの世界。
母なる海にして母なる大地。
今となっては故郷に帰る術はなく、ただ遠巻きに眺める事しか出来ない遥かな聖地。
されど幾度月日が流れども、その記憶は決して薄れる事はなく。
今なお心馳せるだけで我々に無垢だったあの頃の姿を思い出させてくれる。
要するに何が言いたいかというと。
この服は大変素晴らしいデザインであると言う事だ。
惜しむらくはルーキーが恥ずかしがって、気になる度にお腹を隠そうとする点だな。
これはこれで恥ずかし気というスパイスが中々の味わい深さを醸し出しているのだが。
後でそれらしい理由をこじつけてルーキーに矯正を促しておこう。
私欲?違う、過酷な戦場を生き抜くための先輩からのアドバイスだ。
ちなみに先程言った原初の姿を想起させる事象の事だが。
専門用語でバブみを感じてオギャるというらしい。
宗教用語なので別にメモはしなくてよい。
布教に熱心な敬虔な信徒だけ、手元の聖書に書き足しておくといい。
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「--うん。全開にするんじゃなく、補助的な感じで一瞬だけ出力すればもしもの時の緊急回避にも使えますね。…どうです?私の動きで何か気になる所はありましたか?」
さて、BGMも終わったところで現実に戻ろう。
全てのターゲットを撃破し終え。
振り返ったルーキーがアドバイスを求めて俺の方へ駆け寄ってくる。
うん、ここでしれっとお腹とか言えたらどれだけ楽な事だろうか。
誤解のないよう先に言っておくが。
別にそういうやましい目でルーキーを見ていた訳では断じてない。
ルーキーがあまりに
視線が文字通り釘付けになってしまっていただけだ。
正直に白状するとな。
確かに開始してしばらくは役得だなとか思っていたよ。
神機使いは世界でも類を見ないブラックな職種の代表格。
OJTという名目でいきなり戦場に放り込まれるケースだって珍しく無い中、今回は訓練場でホログラム相手に神機を振り回すだけの平穏なミッション。
命がけの戦場で探求心を満たしている暇などありはしないが。
安全が確立された我らが拠点内であるならば。
世界の神秘について、心行くまで存分に追求してみたい。
そんな風に考えていた時期が俺にもあった。
準備運動も済んだルーキーが、徐々にお腹を隠す事を気にしなくなり始めた辺りまでは。
二三度払うように素振りをして。
二三度型を変えながら空を貫いて。
一回チャージグライドを解放して。
「慣れてきました」と一言口にしたかと思うと。
後はもうすっかりベテラン槍使いの機敏な動きだよ。
いくら何でも熟練するスピードがおかしすぎるだろ。
さっきルーキーが口にしてた補助的云々な話にしたってな。
あれは瞬間的にブーストを吹かして後方へ飛び跳ねる"バックフリップ"って技で。
使いこなせるの欧州の槍使いでもごく限られた一部だって話だぞ?
それをあっさり習得するどころか、あえて敵の方に向かって飛び越えるように跳ね返り、着地と同時に間髪入れずターゲットの背面に即チャージグライドとか。
もうお腹云々の話じゃないわ。
別の意味で目が点になって離せんかったぞ。
「…あの、聞いてますか?今更貴方が話せない事に文句は言いませんけど、相槌くらい打ってくれてもバチは当たらないと思うんですけど。」
思い返しからの衝撃で宇宙猫状態になっていると。
俺の反応が無い事を訝しんだルーキーが、不満そうな表情で文句を口にしてくる。
まぁ真面目な話、練度云々の話で言うなら正直ケチのつけようがないほど完璧だったので。
言う事無しの花丸評価で話は終わってしまうんだけどな。
「--よぉおつかれさん、精が出るな二人とも。」
そんな感じで何を言おうか悩んでいたところ。
唐突に後ろから久方ぶりに聞く同僚の声が響き、目の前のルーキーも俺越しに後方の人物へと意識を向ける。
「リンドウさん!もう自由に出歩けるようになったんですか?」
「おかげ様でな。流石にまだ"どこでも自由に"とまではいかないけどな。」
「それはまぁしょうがないかと…ってリンドウさん、訓練場って煙草吸っても良い場所なんでしたっけ?」
「あの狭いラボの個室で吸う訳にもいかないからな。ちょいと目を瞑っといてくれ隊長殿。」
"隊長"の部分を強調するように言いながら煙草に口付け、吸い込んだ煙を天井に向かって吐き出すリンドウ。
悪びれる様子もなく口止めを要求するそんな上官の姿に"仕方ないですね"とルーキーもまた苦笑しながらそう答えを返す。
ちなみに訓練場は当然ながら禁煙なので、バレたら普通にツバキさん辺りにどやされる案件である。
まったくリンドウもルーキーも仕方のない奴らだ。
口止め料に後でビールとつまみを要求しておこう。
「--さて、久方ぶりの一服も済んだところで…実は改めて、お前さんたちにちょいと頼みたい事があるんだ。」
二人が雑談を交わす隣でこっそりリンドウの請求書がどのくらい溜まっているか数えていたところ。
煙草を吸い切ったリンドウがおもむろに訪れた目的について改めて口にし始める。
「頼みですか?それも私達にっていう事は、もしかしなくてもその腕絡みですか?」
「あぁ、その前に俺の腕…というか俺の状態についてなんだが。お前さんたち榊博士からどの程度話を聞いている?」
言いながらリンドウが持ち上げるは異形と化した己が右腕。
事情を知らない人間が見れば恐怖心の一つも抱きかねない程に禍々しい様相をしているが。
既に諸々を先刻承知のルーキーは特にそれを気にする事もなく、顎に手を当てて自身の記憶を辿り起こしていく。
「えぇと、たしか見た目はアラガミっぽくなってるけど、遺伝子レベルでは人間の腕と変わらないとは聞いてますね。」
「そうそう。実際のところ見た目だけじゃなく、単純な筋力とかも人とはもうかけ離れちまってるらしいんだが…ありがたい事にそれでも俺はまだ人間やれてるって、この前榊博士が太鼓判を押してくれた。」
榊博士曰く。
腕輪による制御を失った影響でリンドウは一時完全にアラガミ化。
その後奇跡が起きてこうして一命を取り止めはしたものの、その右腕だけは今もこうして人のそれとはかけ離れた形を残すに至っている。
見た目も中身もかつての人の腕とは完全に別物。
されどそれを形作る要素は他ならぬかつてのリンドウの細胞と同じまま。
「で、それはそれでありがたい話ではあるんだが…それに関係して一つ、どうしても解決しなきゃならん問題が出てきてな。」
言いながら持ち上げていた腕を自身へ向け。
鋭く尖った指先で口元を指しながら、カチンと一度、これ見よがしに歯を鳴らしてリンドウが言ったのは。
「有り体に言うと--飯の話さ。」
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「ふぅ…リンドウさん、とりあえずこのくらいあれば良いですか?」
「おー上出来上出来。お前さん、ちょっと見ない間にずいぶん腕を上げたなぁ。」
ここは通称"愚者の空母"。
やってきたのはこの極東でも有数の、新鮮な海鮮アラガミの漁獲場である。
本日のターゲットはグボロ・グボロ。
喰らった物の性質を取り込む事により、凄まじい速度で進化し続けるのがアラガミという存在だが。
その中でも水にマグマに極寒冷、果ては何を間違えたのか"金"属の柔らかさまでその身に取り込み適応した種がいる、アラガミと言う存在を説明するにこの上なくわかりやすいサンプルの代表格である。
元とは言え自身の部隊長からのお褒めの言葉に上機嫌に胸を張るルーキー。
その傍にはずらりと並んでいるのは銛…じゃなかった、チャージスピアの一撃で風穴を開けられ。
コアを抜く直前で活〆された、現在までに確認されているグボロ全種の盛り合わせ。
「…しかしお前さん。俺のいない間、うちの後輩にどんな厳しい訓練を施したんだ?期待の新型とはいえ、彼女まだ入隊して半年経つかどうかだろ?」
並べられたアラガミを軽く吟味しつつ、後輩の戦果をひとしきり褒めたかと思いきや。
スススと音も無く近寄ってきたリンドウが、俺の槍型神機を一瞥しながら怪訝な表情でそう尋ねてくる。
まぁリンドウがそう尋ねたくなる気持ちもわかるにはわかる。
グボロの弱点である刺突属性とはいえ。
使い慣れない神機で中型アラガミ四匹を瞬殺。
はっきり言って入隊して半年経ってない人間が叩き出すスコアじゃない。
優秀なのもそうでないもの含めて、多くの神機使いを育ててきたリンドウなら抱いて当然の感想である。
しかしどんな厳しい訓練と言われてもな。
最初の頃に一回同行した以外特に何もしていないけど。
でもそれだってまだ君が普通に極東支部にいた時の話だ。
なんならルーキーの実力はその頃の時点でちょっとした噂になってたくらいだし。
ましてや彼女は今や押しも押されぬ極東のエース。
先程チャージスピアの使いこなしを見た俺としては"ルーキーならあれくらいやる"という感想にしかならない。
なのでここはしれっとクールに後方先輩面させていただこう。
ルーキーは俺が育てた。
部隊違うだろという指摘は聞こえない。
「ところでリンドウさん。ご飯云々の話は先程聞きましたけど、これって何か調理とかした方が良いんですか?」
ルーキーにツッコまれないよう、ドヤ顔を返しそうになるのを堪えながら。
リンドウと一緒にアラガミの側まで近寄ると、ルーキーがショットガンに変形させた神機を瀕死のグボロに突き付けながらこちらに質問を投げかける。
うん、アリサの時も思ったが。
君たちは神機を調理器具か何かと間違えていないだろうか?
ショットガンで作る料理なんて俺は知らないぞ。
出来て精々ミンチだし、絶対にそれだけじゃ火は通らんと思う。
「…あ、当たり前ですけど"散弾で挽き肉に"って意味じゃないですよ?火属性の放射でこう満遍なく火を通す的な…」
やかましいわ。火が通れば良いと言ってるんじゃない。
武器を調理に使うなと言っているんだ。
見ろ、リンドウ君も困ってるじゃないか。
同じ女性なのに料理得意なサクヤと比べてなんという女子力の差。
せっかく決めた後方先輩面も思わず顔を背けてしまいそう。
「あー、せっかく手料理を振舞おうとしてもらえる所申し訳ないんだが…残念ながら喰うのはこっちの口からじゃなくてだな。」
言いながらアラガミの前に進み出て、おもむろに右腕を上げて強く拳を握るリンドウ。
「「ッッ!!」」
「正直アラガミになってた頃の記憶は曖昧なんだが…おぼろげながら、こうやってアラガミのコアを取り出してたような事は覚えていてな。」
握った拳から瞬く間に形成されるのは、かつてリンドウが愛用した神機を思わせるような刀身。
すわアラガミ化かと神機を構えようとしたものの、
そして生み出された剣でリンドウがアラガミを一閃すると。
裂かれた腹から勢いよくオラクルの粒子が噴き出し、徐々にコアを引き抜かれた時と同様にアラガミの身体が霧散し始めていく。
「とまぁこんな感じだ。ただ見ての通り喰い始めるのにちょいと時間がかかるのに加えて、アラガミじゃなくなったせいでコイツを作るにゃ喰ってる分以上にエネルギーを使っちまうらしくてな。」
「あー、もしかしてサクヤさんが言ってた、リンドウさんが何時お見舞いに言っても何か食べてるっていうのは…」
「ご名答。まぁ俺としては博士やリッカからの要望っつう事で、その分遠慮なくタダ飯を食らわせてもらってるがね。…それにしても。」
そういってリンドウの視線が俺の右腕--
正確には俺の右腕を力強く握るルーキーの手に注がれる。
その視線はどこか微笑ましげというか。
仮に自分に向けられていたら思わず手が出てしまいそうな妙な腹立たしさを感じる笑みが浮かんでいる。
「お前さん、ほんとちょっと見ない間に変わったなぁ。俺がいた頃も多少良くなり始めてはいたが…随分と仲間と打ち解けられたようで何よりだ。」
「え…あっ!?ち、違いますよ!これはその、急にリンドウさんがあんな事してびっくりしたというか、この人が誤解して先走らないようにしたというか…!」
始めはわからずぽかんとしていたものの。
視線と言葉の意図に理解が追いついた途端、ルーキーが大慌てで手を放して弁解を口にする。
「ははっ、そいつはすまんかった。次からは後輩や同僚が怖がらないよう、ちゃんと"いただきます"って言ってから食う事にする。」
「べ、別に怖かったって訳じゃなくてですね!あ、貴方も先輩なら何かフォローしてくださいよ!」
はいはい、フォローね。
とりあえず怖くない怖くないと頭でも撫でておいてやるか。
「………………………」
しかしリンドウが見せたアレ、やっぱりアラガミ化は治らなかったかと警戒したが。
やった事は神機でアラガミを斬った…というより。
………ふむ。
今の俺なら出来そうな気がする。
-ブチィ!!!!-
「「ッッッッ!!!?!?」」
「………………………」
ん、出来た。
帰投後、リッカにルーキーがチクったせいでマニュアル外の神機の運用についてレポートを書かされる羽目になった。
こんな事ならこっそり訓練場で一人の時に試すんだった。
ルーキーめ、今度神秘探求の礎にしてやるからなちくしょう。
リザレクション編開幕。
手始めにポール型神機とプレデターフォームが使えるよう準備中。
次回も引き続きルーキーちゃんと神秘について考察していきましょう。