無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~   作:猫丸飯店

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※前話のあとがきに間違いがあったのでひっそり修正しました。

貴方にも見えるはず。
神秘ステSのルーキーちゃんが。

Q.ところで無口さんのメンタル大丈夫?
A.No Effect(無問題)。

無口さんのメンタルは形状記憶という名の鋼の心。
いくらルーキーちゃんが可愛くとも易々と限界オタクMadnessになったりなんかしません。

安心してください、大車先生直々の暗示だって跳ね返しましたからね。
生半可な精神干渉なんか高確率でシャットアウトなのです。

ただの固有アビリティです。
誓って嘘は言ってません。


無口な無口な新フォームー幕間ー

「--ふぅむ、なるほど!実に、実に興味深い!」

 

ここは極東支部のラボラトリ。

夜もすっかり更けた深夜の一室、カタカタとキーボードを打ちこむ硬質な音と壮年の科学者が漏らす感嘆の声が静かに室内に染み響く。

 

「神機の捕喰形態とはアラガミのコアを引き抜くために、意図的に制御の手を緩める事でオラクル細胞が持つ"喰らう"という性質を強めている状態。しかし同時に、それはオラクル細胞という暴れ馬の手綱を緩めているも同然の状態と言っても差支えない。」

 

猛り狂う獣を繋ぐ鎖を緩めれば何が起こるか。

言うまでもなく、即座に人の手を離れんと力の限り辺りに暴威を振りまく事だろう。

 

しかし--

 

「神機を扱うのと同様、その解放の仕方を使用者がコントロールする事でオラクル細胞が放つ力場の方向を調整し、指向性を持った攻撃手段として運用する。…()()()()()()()()()()()という命題に腐心させられた我々科学者の視点から言えばまさに盲点、率直に言って目から鱗という感想に他ならない。」

 

言葉と同時に打ちこむ手を止め、一度一息つくように傍らの資料に視線を落とすものの。

すぐさま新たな着想が頭をよぎったのか、再び自身に言い聞かせるように思考を言葉と発しながら目の前の端末に情報を打ちこんでいく。

 

「…あー博士、忙しそうなところ大変申し訳ないんだが…ぶっちゃけあとどのくらいかかる?」

「ん?あぁすまないリンドウ君、もうこんな時間になってたのか。いやはや、我ながらつい年甲斐もなく時間を忘れて興奮してしまったよ。」

 

反面、そんな博士が陣取る席の向こう側から発せられるのは疲れとだるさが混じったようなやるせない声。

興が乗っていたところに差された水に時刻を確認すると、既に残業というには大分遅い時間になっていることに気が付く。

 

「しかし君にしては声をかけるのが遅かったね。私の予想では、もう一時間は早く声がかかるものと思っていたんだが。」

「そこは残業代って事で居ない間飲み損ねていた配給ビールにありつかせて貰ってたしな。ただまぁ…」

 

そう言ってリンドウが視線を向けた先にいるのは。

アラガミ化した己が右腕に寄り添って寝息を立てるサクヤの姿。

 

「流石にそろそろうちの可愛い隊員をベッドで寝かせてやりたいと思ってな。まったく普段酒なんて飲まないくせに、珍しく飲むなと思ってたら幸せそうに寝落ちしちまってまぁ。」

 

その言葉の通り、彼女の意識はとうの昔に夢の世界へ旅立ち、艶やかな黒髪がベールのように顔を隠しているものの。

彼女の両手はその存在を確かめるように自身の腕を抱え込んでおり。

 

リンドウは最低限の身動きしか取れない状態ながらも、どこか懐かしそうな苦笑いとともに榊博士にそう告げる。

 

「それだけ今まで気を張り詰め続けていたという事だよ。君だってそれがわかっていたから、彼女を部屋に帰すような事を言わなかったんだろう?」

「…やれやれ、そういうのは思っても口にしないもんだと思うぜ博士。」

 

そう、それは決して咎めるような事ではなければ、指摘するような事でもない。

 

戻ってきたいつもの日常。

戻らないと思っていた、夢と見まごう程に眩しい平穏。

 

ひょっとするとこれは夢で。

目が覚めるとまた愛しい人のいなくなった日々が待っているのではないかと。

 

掴み取った願いを素直にそのまま受け入れるには、自分たちは少々人生に経験を重ね過ぎた。

 

故に慣れぬアルコールであるにも関わらず。

今宵の彼女は進められるがままに盃を重ねた。

 

もしもこれが夢であるのなら。

溺れても構わないから、このままずっと覚めないでくれと。

 

そして自分も榊博士も、何とはなしにそれがわかっていたからこそ。

 

彼女が徐々に力なく微睡み、やがて静かな寝息を立て始めても。

起こす事無く静かに彼女を眠らせておいたのだ。

 

--とはいえ、だ。

 

時刻は既に夜も更け。

寝かせてやるにしても、このままずっと彼女の枕になってやるという訳にもいかない。

 

「まぁいい、とりあえず誰か人を呼んでくれないか?サクヤを部屋に送ってやろうにも、俺はまだ一人でここから出歩いちゃいけないんだろ?」

 

照れ隠しに頭を軽く掻き。

彼女を起こさないよう優しく支えながら博士にそう頼む。

 

「いやぁ、そうしたいのはやまやまなんだが…もう夜もいい時間だろう?一応こういう時は君の監視役となっている彼かリーダー君を呼ぶべきなんだが、彼らは明日も仕事だし、多分もう寝てしまっているよ。」

 

しかし返ってきたのは予想に反した博士の言葉。

どことなく眼鏡の奥の細い目に悪戯な空気が纏ったのも妙に気になる。

 

「ん?じゃあ誰か他の人間を呼べばいいだけじゃないか?それこそ夜勤の一人二人、普通に誰かしら働いてはいるだろう?」

 

が、そんな事を言っていても始まらない。

続けていくつか率直な意見を博士に言ってはみるものの、どことなくのらりくらりと言い訳を続ける博士に流石に何を言わんとしているのかリンドウも察する。

 

「…あー博士、もしかしてだが"目を瞑っといてやるから俺がサクヤを送ってこい"って事か?俺を信用して便宜を図ってくれるのは大変ありがたいんだが…元とは言え一部隊長としての意見を言わせてもらうと、こういう横紙破りはあまり褒められた事じゃ…」

 

辿り着いた博士の思惑に先程とは違う意味で頭を掻きながら苦言を漏らす。

別に嫌だとかそういう訳じゃないんだが、大きなお世話というか余計なおせっかいというか…

 

が、返ってきたのはまたもや予想と異なる博士の言葉。

 

「いやいや!代理とはいえこれでも極東支部長という立場を預かっている身だ。君に言われるまでもなく、強権を使って規則を曲げようなんてつもりはないよ。」

「おいおい、それじゃサクヤはどうすりゃいいんだ?流石にこんな状態のコイツを部屋から追い出す訳にはいかないし、まさかここのソファに寝かせとけって言う訳じゃ…」

 

 

 

 

 

「何を言ってるんだい?寝場所ならすぐそこにベッド付きの部屋があるじゃないか。」

 

 

 

 

 

そう言葉を遮って博士が視線を向けた先には。

ラボラトリに併設させた、本来は研究対象を収容するために設けられた機密性の高い小さな部屋への入り口。

 

「…は?いやいや、そこは俺が経過観察のために寝泊まりしている部屋で…」

「私の事なら気にしなくていい。勘違いされがちだがここはあくまで仕事のための部屋、私の自室は別にちゃんとあるからね。」

 

自分はいなくなるから気兼ねする必要はないと告げる榊博士に。

流石に言わんとしている本当の意味に察しが付き、慌ててリンドウが言葉を重ねていく。

 

「おいおい!いくら俺とサクヤが昔からの長い付き合いだからって、流石にそりゃマズいだろ!」

「"長い付き合い"なら何もマズい事はないだろう?何、心配はいらない。サクヤ君は明日はオフだとツバキ君から既に聞いている。多少慣れないベッドのせいで寝坊したところで咎められやしないさ。」

「真面目に聞けオッサン!アンタわかっててわざととぼけてるだろ!」

 

眠っているサクヤが起きないよう、極力声を抑えつつもつい声を荒げるリンドウに。

そんな彼からの抗議の声を「ハッハッハ」とこれまた声を抑えつつもからかうように笑って流す榊博士。

 

「まぁ真面目な話、君がいなくなってしばらくのサクヤ君はそれはもうひどい有様だった。そこから何とか立て直したのも束の間にヨハンの一件、そしてダメ押しとばかりに君の帰還だ。結末としては大変喜ばしい落としどころになったとはいえ、ここらで少しばかり彼女に心安らげる時間を用意してもバチはあたらないんじゃないかな?」

 

ひとしきりからかい終えて満足したのか、榊博士が諭すように口にする。

 

同時にそれまでは単純に男女の同衾という事を理由に異議を申し立てていたリンドウだが。

榊博士のその言葉に思う所があるのか、それまでとは打って変わってウッと言葉を詰まらせる。

 

「…そりゃまぁ心配かけちまった事は申し訳ないし、実際博士の言う事はその通りだと思うが…しかし俺が傍にいた所でそこまで影響があるもんかね?」

「ハッハッハ、本気で言っているなら君も大した朴念仁だ。だが君は私の肩書を忘れてはいないかな?私には君の方こそ、彼女が眠っている事を良い事にわざととぼけてるようにしか見えないがね?」

 

言いながらトントンと自身の目を二、三指差したかと思うと。

唐突にズイと勢いよく前のめりに榊博士が顔を近づける。

 

普段ならのけぞって反射的に距離を取るところだが、今はサクヤに腕を掴まれているためままならず。

至近距離で自身を覗き込んでくる眼鏡越しの細目に、不本意ながらもリンドウは博士の言葉の意図を汲まされる。

 

「--ッわかったわかった降参だ!アンタの言う通りにするのは癪だが…今日の所は俺が責任もってサクヤの面倒を見る事にするよ。」

 

その言葉にようやく満足したのか体勢を戻した後。

ハッハッハと今度こそ満足そうに笑う博士の声が室内に響き渡る。

 

「おっと失敬、あんまりうるさくするとサクヤ君が起きてしまうね…それじゃ後の戸締りはキミに任せて、私は自室に戻って眠るとするよ。」

「へいへいおやすみ、この度はお気遣いいただきましてどーも。」

 

若干苦虫を嚙み潰したような視線と共に言いながら。

部屋を後にしようとする博士をひらひらと手を振って見送り。

 

「--これは単なる独り言なんだがね。以前シオが居た時と違って映像の類は別に記録していないから、私が帰った後は本当に誰気兼ねなく「いいから早く帰って寝ろオッサン!」

 

………

 

「ったく、いい年した大人が何言ってんだか。冗談に聞こえねぇんだよまったく…」

 

過ぎたおせっかいに堪えかねるように声を大きくして榊博士を追い出した後。

静寂と共に改めて室内に二人取り残された事実を認識しながら一人ぼやく。

 

「こっちはこっちですっかり呑気に寝ちまいやがって。…仕方ねぇ、とりあえずサクヤをベッドまで運ぶか。まったく、コイツを布団まで運んでやるなんて何時ぶりかねぇ?」

 

そう言って"よっこいしょ"と一息入れてサクヤを抱き抱え。

何処か昔を懐かしむように言いながらラボラトリの奥へと足を向ける。

 

 

 

 

 

「…ま、心配かけちまったのは事実だしな。」

 

 

 

 

 

-…悪かったなサクヤ。-

-お前さんにゃ、本当に随分といらん心配をかけちまった。-

 

 

 

 

-もう、お前を置いてどこか行ったりなんかしねぇからな。-

 

 

 

 

 

「--さて、そんじゃ俺は、今日はどこで寝るとしますかねぇ?」

 

…………………………………………………………………………………………

 

「--さて、サクヤ君とリンドウ君の方はまぁこれで良いとして…こちらについてはどうしたものかな。」

 

一方その頃、自室へと向かう帰路の途中。

手にしたレポートを改めて流し読みしながら、一人ごちるは人気のいない深夜の廊下。

 

「神機の制御というのは言葉で言う程単純な話じゃない。ひとたび制御に失敗してオラクル細胞が暴走すれば、たとえそれが適合者であったとしてもたちどころにその肉体は喰らい尽くされてしまう。」

 

それはオラクル細胞を扱う技術者・研究者にとっては、もはや当たり前と言っても過言ではない前提知識。

ミスが起きればどうなるかなど今更議論検証する必要はなく、故にその制御に当たっては十重二十重に渡る厳重なセーフティが施されている。

 

そんな堅牢ともいえる仕組みに対して、真っ向から喧嘩を吹っかけてるとも言えるのがこのレポートだ。

 

最低限の制御はシステム、即ち神機に負担させる事によって保ちつつ。

使い手は意図的にその制御を放棄して、オラクル細胞を暴走ともいえる状態へと陥れる。

 

「しかし暴走の方向性を調整する事でアラガミに対する攻撃手段に転化しつつ。自他の細胞同士の喰い合いによって勢いが失われる事を利用して再び神機や使い手が制御可能な状態へと復元する…彼らしいというか何というか、実に合理的で冒涜的な理論だ。」

 

要するに"セーフティがあるならその分無茶苦茶やったって大丈夫"というのがこのレポートの内容である。

本職の技術者からしてみれば「セーフティはそういうためにあるんじゃない」と文句の一つも言いたくなるだろう。

 

リッカ君が激怒したというのも頷ける話だ。

実際、帰還した彼にふざけてるのかと小一時間は問い詰めたとも聞いている。

 

「しかし着眼点自体はまさに脱帽、何故科学者たる自分が思い至れなかったのだと悔しささえ覚えたのもまた事実だ。文字通り"星の観察者スターゲイザー"など呼ばれる程度には果てなく上を見続けていたつもりだったが…何時の間にか知らず知らず、常識という名の色眼鏡越しに物事を見るようになってしまっていたのかもしれないね。」

 

そう、技術者達が口をそろえて言うであろう通り。

無茶をするためにセーフティという物が用意されているのではないが。

 

仮に無茶をしてしまっても大丈夫なようにセーフティという物は用意されている。

 

であれば、それが本当に必要な事であるのなら。

多少の無茶はそれによってカバーすると考える事も、あながち的外れな思考とは言えない。

 

思えばまだ私も昔は若さに物を言わせて何日も寝ずに研究に入れ込んだ事もあるし。

ヨハンも駆け出しの頃は時たま、実験に熱が入ってアイーシャに無茶を窘められた事もあった。

 

だからこそ科学者ペイラー・榊として率直に感想を述べるなら。

嬉々として彼にさらなる検証を依頼したいというのが本音になる。

 

 

 

 

 

--リッカ君の怒りの矛先に私が加わるという点に目を瞑れるのなら。

 

 

 

 

 

「…うむ、どちらにせよやはりデータだ。まずはデータが揃わない事には何の仮説も検証もままならない。」

 

気付けば何時の間にか辿り着いていた自身の居室。

冷たい金属の扉を前に意を決したようにそう呟いた後、ロックを解除して入室する。

 

「まぁ私も技術者としての知見は多少あるから彼女の気持ちは痛いほどわかるからね。であれば、私まで彼女に叱られないようにするためには…」

 

持ち物を片付けて就寝準備を整えつつ。

誰に聞かせるでもなく一人呟きながら思案を巡らせることしばらく--

 

「…そういえば。そもそも今回の一連の発端は何かといえば、リーダー君が感応現象でリンドウ君の生存を認識した事だったな。」

 

そう、それは新型神機使いの間で起こる。

未だ多くの謎を秘めている未知の現象。

 

しかし全容こそまだ観察しきれていないものの、それでもリーダー君の報告を通して、いくつか確定ともいえる情報はぽつぽつと出そろい始めている。

 

その一つが記憶の追体験。

 

まるで当事者そのものになったかのように記憶の出来事を追体験し。

挙句は本人しか知りえないその時の感情までもその脳裏によぎるという事象である。

 

「彼は言葉を話せないとはいえ、その思考そのものに異常性は見られない。感応現象を通じて、普段リッカ君が気にしている"彼が私達の想定を超える無茶を実行する"というのを事前に察知し、防げるようになる可能性は十分に期待できる。」

 

無論、その事に絶対の保証がある訳ではない。

が、"多少の無茶"を許容させる事前の準備としては今時点では十分な譲歩範囲だともいえる。

 

決して否定する根拠の不足を突いている訳ではない。

 

それに仮にこれがうまくいけば事前に彼の暴走を防げるだけでなく。

言葉を喋れない彼に対する、この上ないコミュニケーションアプローチの手段になりうる可能性すら秘めている。

 

「そうと決まれば明日の朝一番に…おっといけない、明日は重役出勤をしなくてはいけないんだった。」

 

 

 

 

 

--とりあえず、午前中は自室でリーダー君以外の新型神機使いのメンバーの予定を確認しておくとしよう。




間が空いたのでひとまず幕間でお茶濁し。
ちょこちょこ書き足していたせいか思ったより長くなったので丁度良いと区切りました。

今回は神秘はお預け。
たまにはそんな夜があってもいい。

次回は引き続き神秘ステSのルーキーちゃんになる予定。
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