無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.こう見えます。
もうどのくらい
沸き立つ感情が収まらない中、思考の一部が焼け切れたのか不意に疑問が浮かび出る。
腕が重い。足が重い。頭が重い。体が重い。
音が遠い。視界が暗い。感触が鈍い。
おかしい、どうして。
さっきまで何も感じていなかったのに。
今まで夢見心地に認識出来ていなかった苦痛のそれが、麻酔でも切れたかのように身体中を浸食し始める。
アラガミの体が開き、串刺しにせんとばかりに針が構えられる。
意識は避けろと命じるが、身体は石のように動かない。
…針が撃ち出されるより早く、アラガミの体は左右に裂けた。
猛攻に体勢を崩してしまい、好機とばかりに飛び掛かるべくアラガミの四肢に力が籠もる。
意識は被弾を覚悟して、身体を石のように硬直させる。
…飛び上がったのとほぼ同時に、アラガミの体は上下に分かれた。
新手が離れた位置からこちらを見据えて攻撃準備を整える。
避けるべきが防ぐべきか、決めかねたままに向かってくるアラガミを成すすべなく見定める。
…何かをどうこうする前に、アラガミの体は虫のように叩き潰された。
………
オラクル細胞で構築された屍の山が、自然分解されて塵へと姿を変え始める。
重なった屍に目もくれず、次だと言わんばかりに前へと進み出る神機使い。
跳びかかろうとしたアラガミは瞬時に地面に切り伏せられた。
僅かな痙攣しか出来なくなったそれは、削り削ぐかのように切り千切られた。
新手と勇んで現れたアラガミは、足元から宙へと刈り飛ばされた。
既に致命傷に達していたそれは、抗う術無く無残に砕き飛ばされた。
勢い頼みに突撃してきたアラガミは、ただ正攻法で地面に打ち落とされた。
神機に手をかけて逃れようとしたそれは、そのまま地面を引きずり回されて引き千切られた。
ここに至って、私は今までの自分がおかしかった事を自覚した。
自分以上の異常性を目の当たりにして、ようやく自分がまともな状態ではなかったのだと理解したのだ。
無言のまま、無表情のまま。
感情の揺らめきすらも無いままに、現れたアラガミを蹴散らしていく。
楽に仕留めるわけではない。
苦しめ嬲る訳でもない。
その瞬間、その時々で殺し方を決めている。
自分にはその権利があると言わんばかりに。
仇を討てたという達成感も無ければ、まだ終わっていないという焦燥感も無い。
アラガミを殺すという目的だけが、ただただ完全に独り歩きしている。
私は違った。達成感もあれば焦燥感もあった。
アラガミを倒した後は仇が討てたという達成感に満たされた。
新しいアラガミを見つける度にまだ終わってないという焦りが心を浸していた。
ただ幾度繰り返してもそれが終わる事は無い。
当然だ。終わらせる契機など当の昔に失っていたのだから。
私は既に敵の姿を思い出せない。
仇を討ったと喜んでもらう家族の姿
空っぽの動機を燃料に、中身の無い感情を燃やし続けて。
ゴールの見えないその道を、ただ止まる事も出来ずに進み続ける。
その先にある物は…
「………………………」
感情の籠らない冷たい瞳が、真っすぐこちらを見据えていた。
……………………………………………………………………………………………
あれから少し、世界の見え方が変わった。
正直アラガミへの恨みはまだ消えてはいないものの、前に比べれば幾分心に余裕が出来たような気がする。
もしあそこで立ち止まれなけばどうなっていたのだろう。
目の前の神機使い同様、最後には機械のような人間になり果てていたのだろうか。
今思い返してもぞっとする。
復讐を糧にしていた事を否定するつもりはないが、人間を辞めてまで突き進むのかと問われれば流石に二の足を踏む。
それでは憎きアラガミと同じではないか。
もっとも、以前の私ならそれでも構わないと答えたかもしれないが。
私が求めているのは力だ。
復讐と呼ぶには大分色褪せてしまったかもしれないが、それでも当面はアラガミを倒すという目標に変わりはない。
それには今のままでは駄目だと気づいた。
感情任せのままでは、いつか私は私で無くなってしまうとわかったから。
…それはともかく。今気になっているのは目の前の神機使いである。
相変わらず言葉一つ発した所を見たことが無いが、とりあえず付き纏ってみてわかった事が一つある。
この人、
冷やしカレードリンクを好んで飲んでるだけでも奇異なのに、わざわざホットで飲んでる人とか初めて見た。
温めるのに何で"冷やし"を選んでいるのか。選択理由が矛盾で結合崩壊を起こしている。
おまけに昼食なのかレーションも一緒に食べているのだが、ちらっと見えたパッケージにはプリンの柄が書かれていた。
カレーとプリン?認識するだけでまた頭がおかしくなりそうだ。
トラウマで言葉を失っているとリンドウさんが言ってたけど、それ以外も色々失ってるのではないだろうか。
「………………………」
いつの間にか青い寒冷色の瞳がこちらを見ている。
言いたい事があるのかもしれないが、相変わらずこの人は何も語らない。
「ミッションの同行をお願いしたいのですが。予定の都合は付きますでしょうか?」
敬語で話しかけるが反応は無い。
ただ無言で立ち上がって神機保管庫へ向かいながら、端末を取り出して操作をしている。
程なくして同行申請に承認の返事が返ってきた。
相変わらず付き合いづらい人だと思う。
自分も口数が多い方ではないが、それでもここまで極端ではない。
まぁ、拒絶されてないという事は少なくとも嫌悪はされていないのだろう。
実は…と言われたら流石に傷ついてしまうが、とりあえずはこの状況に甘んじるとしよう。
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「…任せてくれたんじゃなかったんですか?」
数日後のミッション後。
普段ならお礼の一つも言う所だが、流石に今日は腹に据えかねて不満が出た。
相手はコンゴウとはいえ立派な中型種だ。
少なくとも新人一人に任せるような相手ではない。
白状すると少しは見得もあった。
それでもやってみせると言った後、無言で背中を預けられた時はえも言えない嬉しさが身体を満たすのを感じた。
信頼されている。
一人の人間が、私という人間を信じてくれている。
少し前の自分なら馬鹿らしいと鼻で笑ったところだろう。
それが否定できるくらいに、今の自分は
復讐心からじゃない。
誰かの仇でも、自分の感情を満たすだけでもない。
一人の人間として、誰かのために刃を振るおうとしているのが実感できるのだ。
それで高ぶらない方がどうかしている。
神機を振り上げ斬りかかる。
距離が開けば形態を切り替えて、射撃戦を展開する。
いける。実力は伯仲。けれど負ける予感は全くしない。
…などと思っていた矢先にアラガミは斜めに肩からずり落ちた。
「…私の事、信じてなかったんですか?」
自分なりにわざとらしくジト目で問い詰めてみるが、相変わらず無言、無表情の先輩だ。
最近思うのだがこの人、トラウマで喋れないのを良い事に都合の悪い事はわざと知らんぷりを決め込んでいるのではなかろうか。
「知っていますか?女性への謝罪には甘いものが効果的だとこの前ニュースでやっていましたよ。」
視線を感じる。まだだ、振り向くにはまだ早い。
というかこの人、やっぱり喋れないだけで感情の機微は普通に持ってそうな気がする。
アラガミを罠に嵌めるのと同じだ。
十分に引きつけたところで一撃を浴びせる。
「私、甘いものが食べたいです。」
タイミングばっちり、振り向いた視線は青い瞳を確実に捉えた。
「………………………」
無言が続く。
「………………………」
無言が続く。
「………………………」
無言が続く。
心なしか周りも声を潜めているような気がする。
「………………………」
視線が切られる。
無表情のままよろず屋さんの位置を確認し、懐手のままでそっちへ向かっていく。
…この人、何ならチョロいというまであるのでは?
自分でやっておきながら少し心配になってしまった。
ほら、周りの人も嘘だろマジかって呟いてますよ。
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・幕間の幕間その1_カレーとプリン
「ねぇソーマ。カレーとプリンって一緒に食べれる?」
「食えるわけねぇだろ。どこのアホだよ。」
「………………………」←ここのアホだと言いたいが、いい大人なので我慢している。
・幕間の幕間その2_無口と無口と万事屋さん
「………………………」←懐手のまま近寄ってくる。
「ッ!?…な、何だアンタか。いつも言っているが、そうやって脅かすの止めてくれねぇか?」
アナグラにいたらわからねぇかもしれないが、外のスラムとかだったら懐から色々出てくるもんなんだよ。
-周りの評判が1下がった。
・幕間の幕間その3_無口と新型と整備士さん
「リッカさん、一緒にクッキー食べましょう。」
「え、いいの!?…ってずいぶん買い込んでるね。どうしたのこれ?」
「女心を裏切られたお詫びに奢ってもらいました。」
「えっ!?それってどういう…あっ。」
「………………………」←予想以上に買わされてちょっと不機嫌。
「…ありがとう!あ、これこの前出た新商品!実は結構気になってたんだよね。」←気付かなかった振りして食べ始める。
「私は前からあるこっちの味が好きですね。」←そもそも気にすらしていない。
「………………………(モキュモキュ)」←俺が買ったんだしせっかくだからと食べ始める。
長くなったのでさらに区切ります。
投稿するかはその内に。
ちなみに「嘘だろマジか」はルーキーちゃんに向けられた言葉です。