無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.万が一の時の用心棒。
あまり分割するのもどうかと思ったのでとりあえずこれにまとめます。
溜息をつく。
ジュースを飲み終えた身体が単に酸素を求めただけなのかもしれないが。
ここ最近、まともに戦果を挙げられていない。
ミッション自体は失敗こそしていないものの、以前からは考えられないような平凡なミスが増えている。
原因は既に分かっている。
動きの前にあれこれ考え過ぎなのだ。
目の前に敵の手が迫っているのに、そこから避け方を考えたって遅すぎる。
攻撃と同時に、何なら攻撃の前段階で既にどう避けるかなど決まっていなければならないのに。
攻撃にしたって同じだ。
武器を構えてから"さぁ、どこを斬ろうか?"なんて話が通じるのはアニメの世界だけでしか通らない。
どこを斬るか、決めてから武器を振るうのだ。
こちらに至っては構えるという動作すら悠長が過ぎる。
わかってはいるのだ。
誰かに言われるまでもなく、こんな初歩の話など疑う余地なく理解はしているのだ。
急に出来なくなったからここまで困惑しているのだ。
今まで実感する事の無かった考えの数々が、瞬時の動きをこれでもかと阻害してくるのだ。
おまけに最後に浮かぶイメージは決まって同じような光景が再生される。
アラガミに斬りかかる。
後は振り下ろすだけのそれに他の選択肢は存在しない。
-もし躱されたら?-
振り下ろす神機に急ブレーキがかかる。
躱されはしなかったものの致命傷を与えるには至らず、そのまま乱戦の様に発展してしまう。
アラガミが腕を振り上げる。
予備動作も既に把握しており、少し身体を屈めてやればそれはもう当たらない。
-もし躱せなかったら?-
咄嗟にシールドを展開して構える。
防いではいるので怪我には至らないものの、動きを止められてしまったためにそのまま力押しの戦いに移行してしまう。
自分ながらほとほと嫌になる。
こんな状態でも結局あれからは一度も無いというのに、想像力だけは無駄に豊かなのだから。
自分が痛い目を見るのは別にいい。
そのせいで
そして最後には今のように一人反省会を開き、最終的に"あの先輩が悪い"と嫌悪を抱きながら悪態をつき。
最終的に"私が弱いから"と言う結論に落ち着く。
「…嫌味の一つも言ってくれればいいのに。」
喋れなくとも、感情を表に出すくらいは出来るでしょう。
お前のせいで怪我をした、と。
不満の一つも見せてくれれば、悔しさと言う感情をバネに出来たのかもしれないのに。
仮に伝えたところでそんな事知るかと一蹴されればそれまでなのだが。
結局のところは私の未熟と己惚れが元凶であることに変わりはない。
しかしいくら奮起しようと現状はこれだ。
僅かずつ、などと控えめな表現すらお世辞にも言えたものではない。
何とかしなくては。しかしその感情所以にドツボに嵌る。
お手本のような悪循環だ。
再び溜息をつく。
既に手の缶ジュースは残っていない。
「よぅ、お悩みの様子だなお嬢さん。」
不意に声がかけられる。
顔を向けた先には直属の上官がいつの間にかコーヒー片手に立っていた。
「今日はお酒じゃないんですね。」
「ははっ、軽口叩ける元気は残ってるようで一安心だ。」
隣いいか?と聞かれたので頷いて了承する。
「はぁー、やれやれどっこいしょっと。」
…いい人なのだが若い見た目に反しておじさんっぽい言動が多いのが玉に瑕である。
「…んで、何か良い解決策は浮かんだか?」
質問諸々をすっ飛ばし、いきなり本題とばかりに投げかけてくる。
こちらも説明は不要だろうと判断し、首を振って芳しくない様子を伝える。
「まぁそうだろうな。こういうのは慣れるしかないってのが一般的なお話だし、正直俺も何か良い案を持ってる訳でもない。」
これは意外だ。てっきり良案を教えてもらえるのかと期待していたのだけれど。
付き合いこそまだ長くないものの、それでもそう思えるくらいにこの人の事は十二分に信頼している。
「…が。こういうのは考え過ぎても良くないって事だけは知っている。という訳で…」
懐から何かの用紙を取り出してひらひらさせている。
察するところに何らかの要望書か辞令の類だろう。
「どうだお嬢さん。気晴らしにデートにでも洒落込まないか?」
あぁ、任務ですが。何を討伐するんです?
もうコウタくらいしかデートの言葉に騙される人はいませんよ。
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…リンドウさんもいい性格をしてる。
あの人が不調の発端だと知っているにも関わらず、あの人からの同行依頼ミッションにサインさせるのだから。
「睨むな睨むな。個人的にも上官としても、お前さんが不調のままってのはちょいと見過ごせないんでな。」
睨んでません。ジト目で顔を見つめているだけです。
「というかヴァジュラの討伐ミッションだとは聞いてますけど…それだけが目的のミッションではないですよね?」
通常の小隊編成でこそあるが部隊長二人に古参の神機使い一人。
精鋭と表現しても言い過ぎではなく、ヴァジュラ一体を相手にするにはいささか過剰戦力のように思えてならない。
「ソーマは何か…」
「俺が知るか。」
言い切る前にぶっきらぼうに返答される。
リンドウさんに視線を向けるが、俺も詳細は知らないと簡潔に返されてしまう。
「…まぁ、ここだけの話だが。」
アラガミの反応が近づいてきたところでそっと耳打ちされる。
「このミッションは俺がアイツに相談したのが切っ掛けなんだよ。お前が不調で困ってるから、何か良いアイディア持ってないかってな。」
アイツも色々経験してる身だ。
もしかしたら俺たちは知らない解決策を知ってたりするかもしれないってな。
んで、相談した矢先にこのミッションが飛んできた。
俺にはどうもわからんかったが、アイツには特効薬的な良案があるらしい。
「ま、何にせよ始まってみなくちゃわからないってのが正直なところだ。気負う必要は無い、お前さんはいつも通りやればいいだけさ。」
そこまで話すと耳打ちを終え、リンドウさんは再び周囲の警戒に意識を戻す。
詳細を知らない以上、私がこれ以上事前に何か出来ることは無い。
本番でヘマをしないよう、改めて気を入れ直すくらいだ。
…そうだ。今度こそ、あの時のようなミスは起こさない。
気合を入れ直し、目の前の古参兵の背中を見つめる。
-ピンッ-
「…え?」
スタングレネードが飛んできた。
防ぐ間も無く、閃光と爆音に私の意識は包まれた。
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誤解の無いよう、明確に宣言しておきます。
私は何も悪くない。
私は何も、悪くない。
とても大事な事なので二回宣言した。
そうでしょう?スタングレネードを投げつられているというのに、私の何処に非があるというのか。
むしろ私が被害者だ。
確かに気負いがあったのは認めます。
ここ最近の実績が上がってなかったのも確かです。
腕利きのベテランから見れば足手まといと思われても仕方ありません。
だからってスタングレネードは無いでしょう。
視界が戻り、駆け出すリンドウさんの姿が映る。
聴覚も戻り、「またかあの馬鹿っ!」と怒鳴るソーマの声が隣から聞こえる。
ていうか常習犯なんですか。
遅ればせながら私も駆け出す。
十秒と経たずに件の馬鹿先輩の姿が見えた。
すぐ傍には首の無いヴァジュラが横たわっている。
考えるまでもなく、確実に息の根が止まっている。
私達の眼が眩んでいたのは精々十数秒。僅かその間に起こった出来事がこれだ。
極東支部ではヴァジュラを単独討伐出来て一人前と評されるが、ここまで出来ないとお話にならない世界とは。
神機使いがこちらを向いた。
何も言わず、何も語らず、表情すらも変わらない。
…わかりました。えぇ、言葉にしてもらわなくても結構です。
そうですか、
文句があるならこれくらいやってみせてから物を言えと。
そうですよね。仮に不調で無くとも今の私の実力ではこれと同じ真似は不可能です。
おまけに実力不足も甚だしいのに、誰かの事を考えながら戦うなんて烏滸がましいにも程がありました。
理解しました。えぇ、心の底から理解しました。
文句は言いませんよ。
…ただし。
そう遠くない内に私の実力を認めさせます。絶対に。
覚悟しておいてくださいね?
その時もしも今回と同じような真似をしようものなら、そこに転がっているアラガミと同じくらい酷い目に遭わせますから。
…あぁ、それと。
「何やってんだこの馬鹿っ!」
「何も言わずに突っ込むなこの馬鹿っ!」
二人は当然、
止めませんよ。何なら私も参加したいくらいですから。
…いや、勝手に突っ込んだ事に対してなら。
当然、
「私、今日の事は忘れませんから。」
心なしか助けを求めるようにこちらを見ていた鉄仮面に。
一言断ってから拳を叩き込んだ。
ユウマ「………………………」←渾身のドヤ顔(無表情)
袋叩きまであと十秒。