無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.定時、良い響きだ。滅多に見ないからこそ価値がある。
「………………………」
ここは極東支部の神機保管庫。
同輩である整備士達が忙しそうに工具を振るい、神機の整備を続けている。
ここに来る途中、何人かの神機使いとすれ違った。
記憶違いで無ければ全員普段使っている物と異なる刀身や銃身の神機を持っていた。
そう言えばちょっと前に装備の換装を目的とした新型技術の運用試験をやらされたな。
あれから話は聞いていなかったが、どうやら上手く本番運用までこぎつけたようだ。
うん。テスターとはいえ、自分が関わった技術が世の役に立つのは喜ばしい。
それに討伐効率の向上や新たな才能の発掘などは間接的に自分にもメリットがある。
心なしかブラスト銃身に換装している奴が多かった気もするが多分大丈夫だろう。
誤射姫様は一人だけで十分だ。
さて、ここに呼ばれた時点で察しはついていたが。
今日のミッションも新型技術を用いた神機の運用テストである。
ちなみにまた俺が選ばれた理由は分かっている。
この前の突撃の一件でリンドウが裏から手を回してきたのだ。
端的に言うと"しばらく後方勤務で反省してろ"という事だ。
ちくしょう、頼まれて善意でやったのにこの仕打ちか。
まぁ実害は無いので別に文句を言ったりはしないが。
後方勤務、たまにはのんびり出来ていいじゃないか。
「お待たせ!神機の準備が出来たからこっちの部屋に来てくれる?」
おっと、整備士様からの御指名だ。
待たせちゃ悪い、さっさと入るとしますか。
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「………………………」
槍が置いてある。
いや、現実にあるような一般的な槍とはちょっと違う見た目だが。
アニメやマンガとかに出てくるようなデカい槍と言えばわかりやすいか。
え、これを使えと?冗談だろう?
思わずリッカの方に顔を向ける。
ニコニコと上機嫌そうに笑っている。
良い笑顔だ、可愛いなコイツ。
しかしこういう笑顔を浮かべている時は要注意だ。
何故なら笑顔の理由はそれまで難航していた課題が一気に解消したからに他ならない。
だからといってねぎらいの言葉などかけてはいけない。
かけたが最後、ここまで来るのにどれだけ大変だったかを詳細込みで延々と聞かされる羽目になる。
長い苦労がようやく報われたのだ。解放感だけでは満足できず、誰かの共感にも飢えている。
要するに話が長くなる。
沈黙は金。さっさとミッション概要を読んで出撃するとしよう。
「いやー苦労したんだよホント。アプローチからして今までの技術と一線を画す所からのスタートだったんだから…」
ちょっと待て、おかしいだろ。
ねぎらいどころか俺は言葉一つ発していないぞ。
文句をつけるよりも早く、リッカ先生の神機講座(1h)が始まった。
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今日のターゲットもおなじみオウガテイルだ。
ヴァジュラに行けって?初めて使う武器で大型なんか討伐に行けるか。
というか槍自体使うのが初めてである。
長柄武器なんて神機じゃなくても使った事無いし。
そもそもこんな穂先がゴツい槍なんてフィクションでもそうそうお目にかからんぞ。
極めつけは各所に取り付けられている小さな噴出孔。
何とこの槍、ジェット噴射で短時間ながら空も飛べるのだ。
実際は飛行ではなく滑空と表現するのが正しいが。
「原理的にはジェットと言うより銃型神機の射撃に近いんだ。神機使いのオラクルエネルギーを利用して…」
「技術進歩で耐久性と軽量性を両立出来たから見た目よりも軽いんだ。理論上は短時間なら空だって…」
「密着状態でもジェット噴射すれば十分な威力が出せる。これさえあれば仮にアラガミに覆いかぶされたって…」
良い笑顔で懇切丁寧に説明するリッカを思い出す。
正直かなり辟易したがあの笑顔を見れた対価だと思う事にしよう。
これ相当苦労して作ったらしいからな。
あの笑顔の理由がただの深夜テンションだとかいうオチではないと信じたい。
ただまぁ一言言わせてもらうなら。
これスピア(槍)じゃなくてランス(馬上槍)だよね?
馬はいない?代わりに自分で騎馬の速度を出せるじゃん。
………
気を取り直してミッション開始。
レーダー反応のあったアラガミを見つけ次第蹴散らしていく。
神機のテストもそうだが如何せん槍を使った戦い方なんて知らないからな。
自分自身の慣らしも兼ねて、まずは手堅い戦い方を繰り返す。
後ろに回り込んで横薙ぎに払い飛ばす。
流石にバスターブレードのようにはいかないが、小型種くらいなら余裕で蹴散らせそうだ。
次は正面から。
慣れない武器とはいえ、オウガテイルと一対一でやり合うくらいなら問題無い。
飛び掛ってきたそれを叩き落とし、間合いの外から突き刺して仕留める。
剣よりもリーチが長いので、慣れればこれも長所になりそうだ。
斬る、薙ぐ、突くは問題無し。
次はお待ちかねのジェット機構を使ったテストである。
色々ケチを付けておいて何だが実は個人的には気になっていた機構である。
ブースターによる高速移動を駆使した機動戦、ときめかない方がどうかしている。
軽く操作テストをした後、いよいよオウガテイルに向かって槍を向ける。
-ブースト点火、フルスロットル!
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「………………………」
ここは極東支部の神機保管庫。
同輩である整備士達が忙しそうに工具を振るい、神機の整備を続けている。
楽しかった。
正直こんな楽しいミッションになるなんて予想だにしていなかった。
試験としては間違いなく成功だ。
耐久性や取り回しに問題は無く、ジェットを用いた機動戦術も考察に値する。
やはりスピアではなくてランスじゃないかというツッコミはさておき。
この機動戦術がとにかく強かった。
遠距離から一瞬で間合いを詰められるので文字通りの強襲が可能。
相手の状態によってそのまま急所を貫くか、斬り抜けながらそのまま離脱するかの選択肢も選べる。
強いて課題をあげるなら高機動力に振り回せれないよう、多少習練に時間がかかりそうと言う点か。
あとは剣型よりも間合いが広いので、乱戦中の味方に気を付けなければいけないというくらいか。
どちらにせよ訓練次第でいくらでもどうにか出来る部分なのでそこまで問題にはならないだろう。
「…ふーん。試験自体はちゃんとやってくれたんだね。レポートの
さて、現実に戻る時がやってきた。
楽しい時間と言うのは過ぎ去るのが早いものなのだ。
神機が置いてある。
壊れてはいないし壊してもいない。
ちょっと柄が曲がっているだけで普通に使える。
ちょっと刃こぼれしているだけで普通に使える。
ちょっと泥土で汚れているだけで普通に使える。
仕方ないじゃないか。レポートにも書いてあるだろう?
高機動力に振り回せれないよう、多少習練に時間がかかると。
それは俺だって例外じゃない。
古参とは言えどこにでもいる、一山いくらの一般的な神機使いなんだ。
突き刺したアラガミを引き抜けず、何回か引っかかったまま引きずり回した。
斬り抜けた後も速度を殺しきれず、何回か勢い余って刃を壁に叩き付けた。
加速し過ぎて吹き飛びそうになり、何回か地面に突き刺してブレーキをかけた。
結果、操作に慣れた頃には"ちょっと柄が曲がって"、"ちょっと刃が欠けて"、"ちょっと泥と土にまみれた"だけ。
あ、ちなみに継戦能力には問題無しだ。ちゃんとアラガミ倒せたからな。
レポートでもちゃんと評価しといたぞ。
まぁヤバイ予感はしてたのでレポートだけ出してさっさと逃げようとしたんだが。
今日に限って帰還口で鉢合わせ。神機を見られた結果、そのまま保管庫へ拉致されて現在に至るという訳だ。
「言いたいことがあるなら言っても良いんだよ?」
声のトーンが低い。残念ながら深夜テンションはもう終了しているらしい。
であればねぎらいと称賛の言葉でごまかすのも手の一つか。
流石は天才技術者リッカちゃん!こんなすごい神機を発明した君は偉い!
…駄目だ、そんな事宣おうものなら次の瞬間には冗談抜きに神機のエサにされる。
「…黙ってやり過ごそうとか思ってない?」
観念してリッカの方を見るとニコニコと
声のトーンは変わらず低い。
良い笑顔だ、可愛いなコイツ。
でもゴメン、今その笑顔は見たくなかった。
結局めちゃくちゃ怒られた。
まぁ殴られなかっただけでも良しとしよう。
「いいんだよ?言いたい事言っても。」←ニッコニコのいい笑顔。
「………………………」←言い訳すると更にヤバくなりそうなので黙っている。
「ちなみにね、わかってるとは思うけど。」←ニッコニコのいい笑顔。
「………………………」←聞きたくないので黙ってる。
「言っても言わなくても。どっちにしても怒るから。」←ニッコニコだが声のトーン一段下がった。