無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
まぁ気の向くままなのでご容赦を。
追記)タイトルに"1"って付け忘れてた。
「これはまた、ずいぶん陰気な奴が入ってきたな。」
ドやかましい、と聞こえよがしに呟いた隊員に睨みを返す。
「お前の経歴は聞いているぜ。中々ヘビーな過去を持っているそうだが…まぁこの極東支部では結構ありふれてる話さ。」
だから同情はするけど特別扱いはしないぜ、と初っ端に言われた言葉は今でも忘れていない。
根に持っているのかって?逆だ、あの一言がまさに今の俺に至る始めの一歩だった
不憫に思うのか哀れみなのか。正直、そんな感情はうんざりしているのだ。
上辺か本心なのかは知らないが…少なくとも俺自身は当の昔にそんな経歴は気にしなくなっている。
それなら普通に喋れと?それこそドやかましい。
トラウマ云々を抜きにしても、何で他人の顔色を窺いながら喋らなければならないんだ。
「まぁだからこそ俺から言える事は多くない。それでも最初に心構え的な事な事だけは伝えておく。」
一つ、死ぬな。
二つ、死にそうになったら逃げろ。
三つ、生きてきた理由を忘れるな。
まぁ何とも臭いセリフ回しだ。
若者でもオッサンでもない微妙な年齢の人間が言っているのも拍車をかける。
「…いや、何か反応しろよ。恥ずかしくなるだろ…」
なら言うなよ。
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「………………………」
ここは極東支部のエントランスホール。
今日も今日とて同輩である神機使い達が忙しそうに任務を受注し、出かけて行っている。
とはいえ時刻は既に正午過ぎ。
普段は一つ二つ任務をこなしている頃合いだが今日に限っては全く音沙汰がない。
…これはワンチャン、飲んでも許される状況ではないか?
仕事が無いのは考え物だが、職業柄忙しくないというのは平和であるというのに直結するのだ。
うむ、うむ。これこそ正に神託と言うやつだ。
別段特定の宗教に傾倒しているわけではないが、神に感謝を捧げながら飲む酒はまた格別なのだというのは経験上身に染みついている。
いやぁ、こんな堕落は心からしたくはないのだが。
神に背くは人にあらず。敬虔な信徒の気持ちを胸に、自販機へ向けて歩を進める。
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「あっ…!す、すいません!今退けます!」
自販機コーナーに着いてみると、そこには先日すれ違った新人がいた。
何を買っていたのかと思えばそこには両腕いっぱいに抱えた500mlのチューハイ缶。
「こ、この前タツミ隊長に進められて飲んでみたらこれが妙に後引く味で…す、すみません、この事はどうかご内密に…」
うんうん、任務明けのアルコールは堪らないものがあるからなぁ…って、おいばかやめろ、チューハイ缶を差し出すな。この光景は100%誤解されるだろうが。寄こせどころか俺は一言たりとも言葉を発していないだろうが。
「あーっ、コラコラ君ぃ。カツアゲはれっきとした犯罪だよ?いけないんだぁ部隊長が新人いびりなんて。」
ほら見ろ、めんどくさい奴に捕まった。
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お茶の缶と、妙に軽くなった財布を手にエントランスへ戻ってくる。
よもや安物のお茶一缶が冷やしカレードリンク十杯と等価に化けるとはこの部隊長の目を持ってしても(以下略)
そして目の前には先程買った酒を遠慮がちに飲む新人の姿。
酒だけでは味気なかろうと特別にツマミ(プリン味のレーション)を差し入れたが、流石に昼日中からエントランスで酒盛りする度胸はなかったらしい。
まぁ一般常識は身に付いているようで何よりだ。
これで喜び勇んで酔いつぶれるようなら流石に苦言の一つも呈さなけれなならなかったが。
茶をすすり茶菓子(プリン味のレーション)を口にしながら後輩とまったりとした時間を過ごす。
とはいえ、これでも肩書きは部隊長なのだ。
そんな相手と一緒では仕事の一環という感覚は拭えず、せっかくの酒も飲んでる気がしなかかろう。
気を利かせて手早く茶を飲み干し、残ったレーションを差し出してエントランスを後にする。
…こんな言い方をすると冷たい人間に思われるかもしれないが。
神機使いなんて職に就いている以上、いつ故人になるかなんてわかったものじゃないのだ。
情を深めた相手が明日から今生の別れです、何て珍しくも何ともない。
手助け程度ならまだしも過度な感情移入は御法度である。
しかし、それならせめて今生きているという事実だけは満喫してほしい。
悔いなく、後悔無く生きたのだといつか誰かに胸を張って言える人生を送ってほしい。
「…オッサンの感性が移ったか。いや、俺はまだ若い。若い、はずだ…」
いつか昔、初めて隊長と仰いだ人物の姿を思い浮かべながら。
誰に聞かれることもなく、気晴らしに散歩へと出かけるのだった。
…なお。
件の"元"隊長と偶然に鉢合わせ、雑談(という名の会話のドッジボール)に花咲かせる姿が噂になったのはまた別のお話。
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確かに生きて帰ってきた。
だが実感するそれは"生き延びた"などと高尚な表現が出来るものではなく。
噂に聞いていたアラガミ。
ゴッドイーターとなったその日から、何度も耳に穴が開くほどに討伐方法を復習したあの存在。
蓋を開ければ何のことはない。リアルな死の恐怖から尻餅をつき、小悪党の様に無様に神機を振り回して叫ぶ醜態っぷり。
助けてくれた隊長には感謝しかないものの、下手をすれば文字通り"終わっていた"という現実はそうそう拭えるものではなく。
「はぁ…」
溜息と共に自販機のボタンを押し、初日に薦めてもらったアルコールの缶を自販機から取り出す。
気にするな、と言ってくれた。
最初は皆そんなものだと言ってくれた。
極めつけには"命が残っただけ儲けもの"だとも。
言い返す資格が無いのは重々理解している。
それでも尚、こう反論したいのだ。
-自分は、生きていて恥ずかしい、と。-
そんな折に飲んだアルコールは正に麻薬のように感じた。
罪悪感は霞と薄れ、隊長が言ってくれた慰めだけが暗示のように脳内に響き渡る。
飲んでは誤魔化し、正気に戻っては耐えきれずまた飲む。
後々聞いてみれば神機使いが"死亡"以外で除隊となるのはほぼこれに該当して精神的に再起不能となったケースだとの事。
その淵に自分が立っていたというのは後から思い返しても身の毛のよだつ話だ。
「こ、この前タツミ隊長に進められて飲んでみたらこれが妙に後引く味で…す、すみません、この事はどうかご内密に…」
そんな綱渡りの毎日を送る中、再び出会ったのは噂の部隊長。
こちらの姿を認識するや否や、次の瞬間に手に抱え込んだアルコール飲料に視線を移す。
目は口ほどに物を言うとはまさにこの事だ。
相変わらず言葉こそ発しないものの、その目線と表情は如実にこう告げている。
-あぁ。コイツはどうやら、ここで終わるのか。-
今思えば掛け値なしの煽りである。
ろくに自分を知らない人間が、一方的にこちらの価値を決めてきているのだから。
にも拘らず、出ていたのは気まずさをごまかすためのちゃちな袖の下。
おまけにたまたま通りがかった整備士の先輩に助け舟を出してもらうというおまけ付きだったのだからたまらない。
情けない。情けない、本当に情けない。
まぁそれに対抗するように奮起したのも束の間、その後の流れについては"アルハラ"と言うより無いのだが。
もしかすると酒に溺れかけていたのを見かねての事だったかもしれないが。
「先輩…流石にプリン味とチューハイは合わないですよ…」
時系列的にはBURST~2RBまでを想定しています。
時系列の矛盾についてはおいおい調整するかも。