無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.ソーマより年上でリンドウさんより年下。
リッカちゃんの愚痴&ジーナさん回想の回。
任務が終わり、神機返却のために保管庫へ足を向ける。
ちょうど入れ替わるように出てきたタツミとカノンと目が合い、軽く右手振って挨拶をする。
「お疲れ様ですジーナさん。今任務上がりですか?」
「えぇ。例のあの子のお供の帰り。二人はこれから?」
「あぁ、外部居住区の近くに反応があってな。シュンとブレンダンも先に行ってる。」
「あら大変。手助けは必要かしら?」
提案してみるが小型種の群れが数グループ程度だから問題無いとタツミが軽く返事を返す。
中型以上が混じっていれば気にもなったが、その程度であれば確かに一小隊だけで十分対処できる数だ。
「ところでジーナさん。その、左手に持っている神機って…」
カノンが視線を向けるその先には普段とは違う鎌型の神機。
ちなみにいつも使っている愛用の神機はケースに入れて右肩に担いでいる。
「リッカに頼まれているのよ。帰還したらあの子から神機を取り上げて持ってきてほしいって。」
「えっ!?じゃあそれあの人の神機って事じゃ!?だ、大丈夫なんですか!?他人の神機に直に触っちゃって…!」
「カノン…お前神機使いになってもう一年だろう?もうそれくらい覚えておけよ…」
何食わぬ顔で答える私。
オロオロと急に慌てだすカノン。
それを見て呆れ顔で溜息をつくタツミ。
「そうね。私の神機じゃないから…今まさに左手からオラクル細胞に浸食されてる所じゃないかしら?」
「えええぇぇぇっ!?」
「煽るな煽るな。何だジーナ、冗談言うなんて何時になく機嫌がよさそうじゃないか。」
当たり前の話だが捕食されると分かっているのに他人の神機に触る訳はない。
戦闘中や整備中であれば直に触れることは大変危険だが、帰還時に既に神機の不活性処理は済ませてある。
この状態なら他人の神機であっても素手で持ち運ぶことが可能だ。
「あら、わかるタツミ?」
「普段お前はこういうノリはしないからな。」
心外ね。あの子に比べれば私は随分人付き合いの良い方だと思うのだけど。
意地悪く微笑みながら毒づいてみたところ、そりゃアイツと比べればなと苦笑気味に返される。
「おっといけね、あまりのんびりしてるのもマズい。後で何があったか教えてくれよ。」
「い、行ってきますジーナさん!後でクッキー持っていきますから!」
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駆け出す二人に手を振って見送り、神機保管庫に入る。
保管庫に入るやいなや、待ってましたとばかりに目当ての人物が出迎えてきた。
「お疲れ様ジーナさん!今回は本当にありがとね!」
「ただいまリッカ。あの子はもう来た?」
軽く室内を見渡してみたが件の人物の姿は見えない。
「さっき評価シートだけ先に持って来てたよ。後でレポートも書いて持ってくるんじゃないかな。」
「流石、付き合いの長さが違うわね。会話は無くともツーカーって奴かしら?」
「違う違う、あの人喋らないだけで結構わかりやすい人だから。」
あぁ、それは確かに。
少し前まではクールとかミステリアスといった印象が強かったのだが。
差し入れに一つだけ変な味の物を仕込んできたり。
神機を壊してしまったので怒られる前に逃げようとしたり。
機嫌を損ねた後輩にお菓子を奢らされてたり。
わかりやすいかどうかはさておき。
少なくともこれをクールとかミステリアスと呼ぶ地域は無いだろうと私は思う。
どちらかというとそれは噂の新型使いの子の方がしっくりくるイメージだ。
「ね、ね。それはともかくとして…早速だけどあの人が使ってた神機、見せてくれる?」
「あらいけない、すっかり忘れてたわ。はいこれ、私が見た感じは特に問題無いように見えるけど。」
そう言って差し出した神機を受け取ると、おもむろにそれを作業台に置いて目検していくリッカ。
技術者として観察するその眼は正に真剣そのものと言った表情だ。
「うん、うん…可動部もポール部分も問題無し…刃渡りの潰れも想定範囲…」
時間にして数分くらいだろうか。
一通り見終わったところでリッカが大きく息を吐いて安堵する。
「…あぁよかったぁ~!やっぱりジーナさんにお願いして正解だったよ~っ!」
「何?そんなに今回の試験は不安だったの?」
「"試験が"じゃないよぉ!いくら貴重なデータを取ってきてくれるって言っても、あの人絶対に神機壊してくるんだもの!」
あぁ、それは確かにリッカからすれば重大な問題だろう。
この極東で彼女ほど神機を心から大事に扱う人間を私は知らない。
何しろ神機の傷跡からどのような人間なのかわかると豪語しているくらいだ。
故に壊してくると分かっている相手に神機を預けざるをえないのは中々に強い葛藤があるのだろう。
それにしてもあの子、そんなに毎回神機を壊してるのかしら。
剣と銃の差異はあれど、神機はそんなにやわな作りではないと思っていたのだけれど。
…言われてみれば。
一緒になったミッション、全部神機を破損させてたわね。
シュンごとアラガミに斬りかかって神機を折りかけてたし。
銃身でアラガミを殴り飛ばしてへし曲げてたし。
そう考えれば今回お目付け役を頼まれたのも当然の流れかもしれない。
何かやらかしそうな時は狙撃してでも止めてほしいと。
まぁ、その判断は正解だったのだけれど。
初めてよ?誤射じゃなく、意図的に
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初めはテストする神機の感触を調べているのかと思った。
手に取って眺め、くるくると手の中で回し、次いで棒術のように両手で鎌を回転させ始める。
…いやおかしいでしょ貴方。アクション映画の撮影じゃないのよ?
近接と遠距離のスタイルの違いと言われてしまえばそれまでなのかもしれないけれど。
でも遊んでるというには動きがとても滑らかね。
もしかして本当に準備運動か何かなのかしら?
…ちょっと止めて、何で急にこっちを見るのよ。
思いっきりスコープ越しに見ちゃったじゃない。
そうね。リッカにも変な事し始めたら狙撃してでも止めてって言われてるし。
-とりあえず、一発撃っておこうかしら?
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「撃ったの?」
「撃ったわよ。アレ、どう見てもふざけてたもの。」
もっとも、当然ながら実弾ではない。
そもそも私のミッションだって正確には新しいオラクルバレットの運用試験が目的だ。
要請があったとしても一神機使いの素行監視に人員を割り当てるほど、この極東支部は暇ではない。
「ちなみに当ててみた感触はどうだった?」
「着弾速度には問題無しね。通常の
狙撃弾。
最近極東支部で開発された速度と貫通性能に優れた新型のオラクルバレット。
しかし優秀な性能なだけあって制御機構が難しく、今のところはスナイパー銃身で無ければ扱う事が出来ない専用弾。
そこで高速で射出されるという点のみに着眼し、装飾弾と呼ばれる他のオラクルバレットを補助する弾丸として使ってはどうか?
それならば制御機構も単純で済み、スナイパー銃身以外でも用いることが可能になるのではないか?
そんな背景の元に試作開発されたのが今回渡された銃弾だ。
威力を犠牲にしているので当然アラガミには通じないが、代わりに人間に当たったとしてもダメージはほぼない。
文字通り豆鉄砲程度にしか感じないだろう。
とはいえ、弾速と発砲音は本物同様だ。
撃たれる側からすればダメージは無くても良い気分はしないだろう。
「大丈夫。あの人、自分に非があると思ったら結構素直に怒られてくれるから。」
「えぇ…」
怒られるのと撃たれるのではまた違うと思うのだけれど。
まぁ実際あの後は大人しくしていたので認めるしかない。
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テストが本格的に始まった。
弾丸をアラガミ用の実弾に切り替え、こちらも真面目に討伐任務のつもりで気持ちを切り替える。
(凄いわねあの子。本当に初めて使う武器種なのかしら?)
不測の事態に備えて狙撃体勢のまま待機するものの、目の前で繰り広げられるのは数の優位も虚しく蹴散らされていくオウガテイルの群れ。
斬られ、刺され、そのまま振り回され。
叩きつけられた拍子で身体を鎌で引き千切られる。
捨て身の様相で跳びかかろうものなら、いつの間にか背後に周り込まれて首を刎ね飛ばされる。
何とか踏み留まる個体もいるにはいたが、その場合は後頭部を踏みこまれて無理やり刃に押し込まれる。
武器の見た目も相まってさながら死神のそれと見まごう程…いや、むしろそっちの方がまだ仕留め方に温情があるように見える。
無表情で淡々とやられては見ているだけでも神経が摩耗していく気がする。
(正直、欲求不満ね…まぁ、本当はそれが良いのかもしれないけれど。)
みるみる内にオウガテイルの反応が消えていく。
今の所、自分が咲かせられる蕾は残らなさそうだ。
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「うーん。それだけ聞くとあの人、普通に怖いけど実力も確かなんだよねぇ…」
「確かなんてものじゃないわよ。単純な戦闘力だけで言うならソーマかリンドウさん並みじゃないかしら?」
確かにオウガテイルは小型種に分類される。
他所の支部なら一人で倒せて一人前と評価される程度の力しかない。
だが、それはあくまで一対一という前提の話だ。
アラガミと言う事を差し引いても大型の肉食獣に引けを取らない存在であり、複数体で囲まれれば人間一人、成すすべなく餌にされるのが普通だ。
それを囲みを物ともせず同時に制圧する。
支援射撃も無しに単独で、しかも使ってる武器も普段使い慣れた物ではないのにというおまけ付きだ。
「………………………」
パサリと目の前にレポートの束が置かれて会話が中断される。
顔を見上げれば件の神機使いが立っていた。
「あら、噂をすれば。どう?貴方もお話ししていかない?」
茶化し気味に誘ってみるが反応は無い。
そのままクルリと背を向け、そのまま部屋を後にされる。
「…嫌われちゃったかしら?」
「いや、多分後でお菓子持ってきてくれるよ。あの人その辺りもよくしてくれるから。」
「本当?アラガミみたいに後ろから首を刈られたりしない?」
「しないしない、怖い事言わないでよジーナさん。ていうかむしろ、それやったの私の方だし…」
…え?
-幕間の幕間_無口な無口な部隊長の視点1-
先日しばかれたその後。
(散々ボコられた挙句、次の試験の時は監視役付けるからねって脅された。)
(…そんな暇な神機使い、いるわけないだろ。)
(何だかんだで忙しいからなここ。ジュース賭けてもいいね。)
………
ブリーフィング前。
(ジーナがいる。…え、マジで?)
(コイツが使ってるのは銃型神機だよな。それもスナイパータイプの。)
(…流石に撃ってくるとかないよな?)
(俺一応部隊長なんですけど。ジーナよりも階級上なんですけど。)
………
ミッション開始直後。
(ちょっと映画の真似しただけで撃たれた。解せぬ。)
(いや待って、マジで撃ってくるの?流れ弾ってレベルじゃないくらいガチに狙撃されたぞ?)
(…今居る奴片付けたら隠れよっと。)
………
ミッション終盤。
(ハッハッハ。流石にこの高さにいればジーナもアラガミも狙撃できまい。)
(ってヤバ。近接の俺が隠れてたら狙撃手のジーナがアラガミに襲われるじゃないか。)
(仕方ない、ちょっと高さはあるが強襲するか。)
(なぁに、相手はアラガミ、慈悲は無い。戦場で背中を見せる方が悪いのだ。)
-アラガミのくせに、まさか卑怯とは言うまいな?
To be continued.
後編へ続きます。