無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A1.不機嫌だと(無言無表情で)人並みに圧が出るだけ。
Q2.辛辣じゃない?
A2.それくらい好意的には思っている。
Q3.鋼メンタル?
A3.形状記憶メンタルです。
シリアスタイムに入ります。
何があったかはBURST本編を参照。
「…そうか、手駒に引き入れるのは難しそうか。」
「も、申し訳ありません。途中までは上手くいっていたのですが…。」
「ふむ、時間をかければ取り込める可能性は?」
「それも難しいかと…専用の薬の使用を認めていただければまた別かと思いますが…」
「壊れる可能性の方が高い、か。…いや、そこまでの手間とリスクを賭けるほどのメリットがあるとは思えない。」
「………」
「現状、彼のフェンリルへの忠誠心は高い。計画を進行させるのに不都合はない。」
「では…」
「あぁ。頼んだよ。」
--オオグルマ博士。
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ここは極東支部のエントランスホール。
ある者は悲壮感に打ちひしがれながら、ある者は焦燥感に駆られながら次々任務を受注していく。
かくいう俺も内心穏やかではない。
こういう感情はとっくの昔に割り切れていたと思っていたんだが。
足音がした方に視線を向ける。
目が合った神機使いがそそくさと早足に出撃ゲートへと向かっていく。
うん、皆任務が忙しいんだな。
決して俺が嫌われている訳ではないと信じたい。
受注端末を確認する。
普段はミッションの一つ二つは残っているものだが、最近の極東支部ではバーゲンセールのごとくミッションが品薄状態になっている。
たまにミッション失敗の報告を受けて後始末に出向いたりもしているが。
理由は確認するまでもなくわかっている。
全く、リンドウも
事の発端は先日発生したとあるミッション。
端的に言うとアリサやルーキーの面々を逃がすため、リンドウ自ら囮になって時間稼ぎをした。
その隙に第一部隊の面々は戦線を脱出。
折を見てリンドウも離脱して万々歳…となればよかったんだが。
まぁ現実は厳しいというのは身に染みている。
そうじゃなければ俺も今頃家族とワイワイしていたかもしれないしな。
問題が顕在化してきたのはその後だ。
未帰還のリンドウを探索するという名目で次々にミッションを受注し、挙句目的度外視で探索に精を出す馬鹿共が急増した。
確かに俺も空き時間を利用して探してみたりはしているけどな。
流石にミッション目標も達成せずにやるほどアホな真似はしていない。
おまけに結果がミッション失敗だと?
何度俺に尻拭いをさせるつもりだ。
気付けば既に缶の中身が空になっている。
舌打ちと同時に握り潰し、テーブルに投げ捨ててソファーに座り直す。
これも全部リンドウの馬鹿野郎のせいだ。
数どころか自分の命令すらわかってないのか。
ビールの一つ二つじゃ済まさんぞ。
…ミッション受注端末が鳴動する。耳障りな音だ。
わかりきった内容なので見向きもしないが、一周回って逆に頭が冷え始める。
うん、まぁ神機使いと言うのは因果な商売だ。
どんな腕利きのベテランでも、運が悪ければそういう時はあっさり訪れる。
それ自体は否定しないし、周りが万が一を引き摺ってしまう事も否定しない。
さっきも言っているが現実は厳しい。皆仲良く生存エンドなんて、そんな優しい世界ではないのだ。
それを認められない輩がいるというのも現実ではあるのだが。
ただまぁ機械のように割り切れとまでいうつもりはない。
人の感情は複雑なのだ。
「…鳴ってますよ、それ。」
おっと、この前聞いたセリフだな。
言ってるのは別人だけど。
………
独立遊軍といえば聞こえはいいが。
要は体のいい何でも屋のお助け部隊である。
ノルマこそはないものの、忙しい時はとことんこき使われる。
飛んでくる任務内容にも節操が無い。
討伐、防衛、護衛に救助。偵察、強襲、殲滅戦に陽動、囮、伏兵部隊とまぁまぁ枚挙に限りが無い。
最近のトレンドは探索任務の同行補助だ。
まだ未熟な神機使いでも、ベテランが補助についていればある程度ランクが上のミッションも受注できる仕組みになっている。
…ふざけているのかお前ら?俺の仕事はガキの御守じゃない。
自分の身の丈くらい、鏡見てしっかり自覚してこい。
最近になって急に俺の仕事を勘違いし始めた馬鹿共が急増したのもイライラの原因だ。
そしてその最たる例が目の前に一人。
自分で受注していく分には問題無い。
自力でミッションを達成し、他所様に迷惑をかけてないのであれば、むしろ俺が口出しする方が変だしな。
だが人のミッションまで当てにして探索に精を出すのは筋違いだ。
それ専用のチームも組まれている以上、そこまでやるのはでしゃばり以外の何物でもない。
「…同行お願いします。私はあの場にいたから、探索の効率も上がるはずです。」
リンドウの探索自体は否定しない。個人的には魅力的なお誘いだ。
だが生憎、俺に探索ミッションの指示は出ていない。
宮仕えの下っ端風情が、勝手に動き回る訳にはいかないんでな。
「…心配じゃ、ないんですか。私が言えた義理じゃないのは分かっています。けど…」
おいおい、泣きそうだな。紳士たるもの、ここで甘い言葉の一つもかけてやるべきなんだろうが。
それをやるわけにはいかないのが隊長さんの辛いところだ。
「…貴方、そんな冷たい人間だったんですか。」
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ここは極東支部のエントランスホール。
普段は種々様々な喧騒溢れるこの場だが、今この瞬間は時間が止まっているかのような静寂に包まれている。
…やっちまった。
いや、まだそこまでの事態にはなっていないんだが。
売り言葉に買い言葉とはよく言ったものだ。
まぁ俺から売った言葉は無いんだが。
やっぱりあのカウンセリング受けたのは失敗だったな。
どうも最近、感情が突沸する回数が多くなってきた気がする。
うーん、気は進まないがメンタルケアでも受けてみるか。
正直、あの糸目のオッサン(?)の方が胡散臭い感がしてならないんだが。
閑話休題、現実に戻ろう。
いい年こいた野郎が、そこそこの少女相手にガンを飛ばしている状況である。
…これ、治安部隊来たら言い訳出来なくないか?
男と女、年上と年下、上官と下士官。おまけに一触即発のこの空気。
俺が保安員だったら、男が悪いと査問会通報待ったなしの場面である。
マズい、誰か止めてくれよ。
少なくとも俺の方は頭が冷えたぞ。
助けを求めようと視線を逸らすとサクヤが見えた。
よし、もう大丈夫。後は待ちの一手だな。
…おい待て、誰がリッカまで呼んできた。
レンチ片手に突っ込んでくるとか、武力鎮圧までは求めていないぞ。
数分後、読み通りやってきた二人に引き離されてひとまず場は収まった。
…収まった。収まったから。
とりあえずレンチをしまってくれ。
感情豊かなポーカーフェイス。
某正規空母と一緒です。
気性が荒い?男の子だもの。