無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.チーム戦なら中の上。
「あの人、頭おかしくないですか?」
いい加減堪えかねて求めた同意がそれだった。
後々考えてみても失礼極まりない感想ではあったが、周りの反応を見るに特段間違った認識ではなかったのだと安堵する。
「あー、あの人は確かに、なぁ?」
「おかしいというより馬鹿なんだアイツは。」
「私はそれほど一緒になったことは無いけど…確かに意思疎通が足りてないとはよく聞くわね。」
「喋れない理由はわかるんですけど…何かあの人、それを悪用してる節ないですか?」
コウタ、ソーマ、サクヤさんと順に意見を述べてくれる。
うん、思ったより周りも同意見だったようだ。
というかあのソーマが意見を言う辺り中々良い性格の持ち主のようだ。
僅かに燻っていた罪悪感が綺麗に吹き消されていく。
「その様子だと何かあった?」
「何かあったなんてものじゃないですよ…」
最初の同行ミッションはヴァジュラの討伐だった。
この極東では単独討伐出来て一人前と評される辺り、この支部のレベルの高さが伺える。
旧型とはいえ、きっとこの神機使いのレベルも相当な物なのだろう。
そう思っていた矢先にアラガミの前でフリーズし、そのままペシりと吹っ飛ばされたのだから堪らない。
この人、本当に熟練の神機使いなのか。
新人補助役として着いてきているはずなのに、これでは自分の方が補助役ではないか。
「ヴァジュラ相手に吹っ飛ばされてた?」
「…アイツがか?」
怪訝そうな声を上げたのは私と同じ新型使いと彼と同じくらいの古参兵。
反応の仕方こそ違っているが、どちらの瞳も"ありえない"と言いたげな視線を向けてきている。
「…体調でも悪かったんじゃないのか?」
今度はソーマに周りの視線が向けられる。
ニュアンスは違えど、こちらも同じく"ありえない"と言いたげな視線だ。
「…何だ。」
「いや…お前、他人の心配も出来たんだなって…」
「そうね。ソーマがそんな風に言うのって何時ぶりだったかかしら…」
「チッ…」
口が滑ったと言わんばかりに舌打ちしてソーマが場を後にする。
「…照れてやんのアイツ。」
「止めなさいコウタ、後で殴られるわよ。」
すっかり場の興味がソーマに移ってしまったが、私の中には先程よりも強い疑問が燻ってしまった。
強い弱いで語るなら、恐らく彼は極東でも指折りの実力者だ。
私が呈した疑問に疑問で返されている事がその証拠。
ではあの様は何だったのか?
本当に体調が悪かっただけであるなら、それはそれで失望を覚えるところだが。
体調管理もまともに出来ずに、よくこの極東支部で生きてこられたものだ。
そんなだらしのない人に教えてもらうことなど、正直あると思えませんが。
まぁいいです、私の所属は第一部隊。
あの人の部下になった訳ではありません。
もう一緒になる事は無いと思いますし。
ついてなかったミッションだったと割り切る事にします。
……………………………………………………………………………………………
…何でまたこの人と一緒のミッションなんですか。
何とか取り繕ってはみたものの、正直表情が誤魔化せているかは自信が無い。
何しろ今回のミッションはこの前とは比べ物にならないほど厄介だ。
ターゲットはコンゴウ。
この極東では珍しくもない、神機使いとしての入門編代わりに討伐される相手。
だがそれには当然、一対一という前提条件が付いているのが暗黙の了解だ。
アラガミの膂力は小型種の時点で大型の肉食獣にも匹敵する。
中型種ともなれば既に比肩しうる動物はおらず、囲まれたりすれば人間など一瞬のうちに餌にされてしまうだろう。
「貴方、何考えてるんですか。」
はっきりと不満を載せて後ろから問いかける。
当然だ、何しろターゲットの数が入門編どころか常軌を完全に逸している。
「………………………」
「この前のミッションの事、もう忘れたんですか?」
反応が返ってこないことに苛立ち、語気を強めてさらに問いかける。
相変わらず正面の神機使いからの返答は返ってこない。
コンゴウ
それが今回私たちが受注したミッションの全容だ。
一匹程度なら私でも倒せる。
二匹同時でも時間稼ぎぐらいならやって見せる自信はある。
だが四匹同時と言うのは流石に無理です。
いくら新型の自負があると言っても、出来る事には限度があります。
ましてやヴァジュラ一匹に不覚をとっているような旧型使いにこなせるミッションとは到底思えない。
「私、このミッション失敗しても責任持ちませんからね。」
ついに我慢の限界を迎え、吐き捨てるように告げる。
ミッション失敗が目に見えている以上、先走った不始末の責任まで押し付けられては堪らない。
「………………………」
「…えっ!?あ、ちょっと!」
無感情の青い瞳がこちらに振り返る。
次の瞬間、前を向き直した目の前の神機使いが突如何も告げずに駆け出した。
………
不意を突かれた特攻に思わず声が上がる。
慌てて駆け出そうとしたのも束の間、曲がり角からアラガミの反応ありと携帯レーダーがアラームを鳴らす。
数秒と経たずにアラガミが姿を現し、物音に気付いてこちらにその巨体を向けてくる。
(こんな時に面倒なっ…えっ?)
咄嗟に射撃体勢を整え、アラガミの正面に銃口を構える。
引き金を引くよりも早く、アラガミの身体は肩から斜めにずり落ちた。
「………………………」
無感情の青い瞳が、アラガミの向こうからこちらを見ていた。
……………………………………………………………………………………………
この人、色々おかしすぎる。
ミッション開始からしばらくして出した結論がそれだった。
この前ヴァジュラに弄ばれてたあれはいったい何だったのかと問い詰めたい気分だ。
確かにコンゴウは強いアラガミではない。
しかし四匹という数の暴力は、既に個体の強さだけで推し量れる戦力ではなくなっている。
小隊クラスが連携を取り、場合によっては犠牲も覚悟しながら討伐に挑むレベル。
少し前…いや、今時点の私だってそのように認識している。
対する神機使いは二人だけ。
一人は新型とはいえ新人で、もう一人はベテランといえども旧型使い。
ミッションの成否についてなど、火を見るよりも明らかだったはずなのに。
残りターゲットはもう一匹だけ。
戦力としてはもはや壊滅状態と言っても過言ではない。
対するこちらは全くの無傷。
それどころか私に至っては剣戟、銃撃の一つすら放ってはいない。
三匹ともまともな抵抗すらあげられず。
人間一人仕留める事も出来ずに逆に斬り倒されてしまった。
一匹目は振り向き様に後ろから。
二匹目は振り向く間もなく後ろから。
三匹目は振り向いた直後に後ろから。
どの個体も接敵とほぼ同時、ものの一分と経たずに真っ二つにされてしまった。
本当にヴァジュラに手こずっていた人間と同一人物なのだろうか?
何なら双子の兄弟とでも言われた方がまだ信憑性がある。
…携帯レーダーに最後の一体が反応する。
近くの物陰に身を潜めていた私たちの目の前に一際大きいコンゴウが飛び込んでくる。
(っまた、いつの間に…!)
隣にいた人物はもういない。
コンゴウが私に気付いて威嚇してくるが、私の視線はその後ろから伸びるバスターブレードに釘付けになっている。
刃が縦に振り下ろされて見事両断かと思いきや。
私の予想に反して、それは急に横一文字に軌道を変えた。
当然急な軌道変更に威力が乗るはずもなく、両断とはいかずに真横に吹っ飛ばされるコンゴウの身体。
「………………………」
青い瞳が静かにこちらを向いている。
やがて一度アラガミへ視線を向けたかと思うと再びこちらに視線を戻し。
しばらくしてまたアラガミに視線を向け直す。
「そういう事ですか…」
そう言えばこの神機使いは喋れないのだったと思いだす。
そしてこのミッション…というか彼の本来の目標は新人補助。
つまりは私の実施訓練が目的だ。
-コンゴウ一体、まさか倒せないとは言わないな?-
青い瞳が何も言わずにそう語ってくる。
馬鹿にして。
馬鹿にして、馬鹿にして、馬鹿にして!
いいです、わかりました。
私の、新型神機使いの実力を見せてあげます!
……………………………………………………………………………………………
エリア奥の廃講堂。それが私の戦場だった。
隠れる事は出来ず、正面からアラガミとの戦闘を強制させられた。
求められていたのは戦術ではなく。
もっと基本の、アラガミとやり合うだけの基本的な身体スペック。
強いアラガミではないとはいえ、コンゴウは歴とした中型種だ。
倒す手段はいくらか練ってはいたものの、正面から戦術無しの正攻法でやり合うというのは、今の私ではまだ荷が重かったらしい。
予想外に体力とスタミナが削られる。
せめて地の利を生かせればと恨めしそうに神機使いに睨みを飛ばす。
青い瞳は何も答えない。
弱卒に用はないと言わんばかりに、品定めするかのようにただこちらを見返している。
(ヴァジュラなんかに吹っ飛ばされていたくせに…!)
悪態をつく。が、今の自分にそれを口にするだけの余力はない。
むしろ毒づいた後でそのまま自分自身の皮肉になっていると気付く。
今の自分はヴァジュラどころかコンゴウ一匹に手こずっている状況だ。
自覚した瞬間、苛立ちから余計動きが荒くなってしまう。
それでも少しずつ食らいついてコンゴウの体力を奪っていく。
やがて堪えかねたのか、コンゴウが背を向けて逃走を図る。
しまったと不意を突かれて悔やむ感情。
これで一息付けると安堵する感情。
二つの感情が交差したのも束の間、件の神機使いが出口に立ちはだかる。
次の瞬間、顔面を割られながらコンゴウが廃講堂の中へ叩き返された。
-どうした、戦え。逃がす訳ないだろ。-
-お前もだ。コンゴウ一匹、
感情を感じさせない表情で、青い瞳がそう告げるかのようにこちらを見ていた。
……………………………………………………………………………………………
アラガミの反応が消える。
緊張の糸が切れると同時に、身体が酸素を求めて大きく肺に空気を取り込んでいく。
この人、本当に色々おかしすぎる。
改めて今回のミッションの異常さを理解した。
コンゴウ四匹の討伐、それに求められる戦力と戦術。
その判断基準について、私は少しも間違っていないと思っている。
現に私一人でも倒す事が出来た。
一匹当たりに一人ないし二人で立ち向かい、連携を阻害しながら戦うのであれば同時討伐も不可能ではない。
ところがこの人は違う。
同時討伐どころか遭遇と同時に討伐、理想的な各個撃破の様相でミッションを進めていった。
実力が無いから戦術で…という訳ではない。
一対一でコンゴウを文字通り瞬殺できる実力があり、最後に戦った個体も結局この人から逃げだす事が出来なかったのだから。
だから、厳密には私一人で討伐したわけじゃない。
逃げ出すたびにペナルティを受けてコンゴウが衰弱し、そこを私が突いたというのが正しい評価。
要するに。
徹頭徹尾、サポート付きでの一対一だったという訳だ。
不意に肩に手を置かれた。
息もまだ整わない中、顔を上げる。
「………………………」
青い瞳がこちらを見ている。
無言無表情、変わらぬ鉄仮面がそこにある。
だからこそ、この人の所業が許せなかった。
微かに。本当に、見落としそうなほどに微かにではあるが。
鉄仮面の口元が確かに動いた。
この人、
見間違えなんかじゃない、流石にこの距離なら間違えようはずがない。
ねぎらいでも称賛でも何でもない。
明らかな侮蔑と嘲笑を籠めて。
「馬鹿に、しているんですか…」
怒りを込めて悪態を返す。
整わない息でどれほど通じたかは定かではない。
青い瞳は、もうこちらを見てすらいなかった。
……………………………………………………………………………………………
あれから数日。
ミッションの合間合間に実地訓練の申請を提出している。
本来は上司であるリンドウさんにお願いするのが普通だけれど。
「訓練?あぁ構わん構わん、アイツに同行依頼出しといてくれ。承認サインは書いておくから。」
そう言って白紙の申請書にサインが書かれる。
前から思ってはいましたが、あの人も結構いい加減ですよね。
「…まぁそれがあの人の良い所だから。」
隣の新型神機使いも苦笑気味に答えてくれる。
この人もあまり話が得意な方ではないと言っていたけど。
共通の話題があった事もあってか、思いの外ここ数日で距離が近くなった。
二枚の申請書に記入して承認申請が通るまでの間、他愛の無い話に花を咲かせる。
「…承認、来ませんね。」
「…行きますか。」
なかなか返ってこない出撃承認。
止まっている原因は分かっているのでその理由の元へ二人で向かう。
………
「………………………」
ミッションの受注端末が鳴動している。
が、頭痛がすると言わんばかりに頭を抱えて無視を決め込む人物。
「…鳴ってますよ、それ。」
青い瞳が見上げてくる。
何だ、顔色良いじゃないですか。
「旧型呼ばわりして侮った事は謝ります。だけど…」
受注端末を確認する相手に、答えを求めずに言葉を続ける。
「私、あの未熟者扱いするような蔑んだ目、忘れませんから。絶対、直ぐに見返させてあげます。」
「………………………」
「嫌そうな動きしないでください。というかどういうことです?私の時は戦わせてすらもらえなかったんですが。」
嫌そうな動きって猫ですか。というかその話、私も気になるんですけど。
私、コンゴウと一対一で正面対決させられたんですけど。
同じ新型なのに、私の時だけスパルタ過ぎません?
「ハッハッハッ、いやぁモテる男はツライねぇ。ただ火遊びもほどほどにしとけよ?」
リンドウさんが私達を見て面白そうにからかってくる。
…あ、今不機嫌そうな動きした。
滅相も無い、流石は噂の新型さんです。
ちゃんと一人で倒せたじゃないですか。
肩で息しちゃってるけどー。
俺の倍以上時間かかってるけどー。
まだルーキーちゃんだから仕方ないかなー。
「………………………」←まぁ言ったら殴られるだろうから言わないでおくかと思ってる。
実は笑ったのではなく、口から出そうになったのを堪えただけ。