無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.Nein(いいえ)。
クソが付くほど優秀な後輩だ。
コミュニケーション能力こそ論外だが、それを差し引いても評価に値する。
体力、技術、それに度胸。どれをとっても新人とは思えないほど出来が良い。
特に立ち回りが秀逸だ。
「こいつはたまげた。いくら何でも新人なんぞに倒せる相手じゃないんだがな。」
実地訓練という名のOJTも早三日。
率直に抱いた感想は"こいつなら大丈夫"というよりは、"こいつを受け持っている間は楽に討伐数が稼げるな"と下心。
新人教育なんて仕事は人気が無いのだ。
そもそもが命がけの仕事なのにお荷物まで背負わされて働かされる。
おまけに荷物が"ヘマ"でもしようものなら評価まで下げられる。
だからスキルアップと言うよりは死なないための心構えを教えたつもりだったんだがな。
この仕事は余程の穀潰しでもない限りクビにならない(というより辞めさせてもらえない)のだから。
「中型種でも相手にならねぇか。こりゃあ当面、労せず美味しいおこぼれにありつけそうだ。」
真っ二つに叩き割られたコンゴウの亡骸と、無言のまま眉一つ動かさずに神機で捕食する期待のルーキー。
ちょっと失礼するぜと断って隣で捕食作業に参加する。
上前を跳ねてるだと?人聞きが悪ぃな、捕食で回収できるコアには神機毎に指向性があるんだ。
なるべく大勢で捕食した方がより資源を稼げるんだよ。
(徹夜しながら慣れん推薦書を書いた甲斐があったぜ。まぁこれは教育費って事で、しばらく頼むぜルーキー。)
彼は知らない。
本当にしばらくした後、"噂の神機使いを育てた名上官"として引っ張りだこの忙しい日々(という名の強制労働)を送る事になることに。
「クソッ!優秀過ぎだぞルーキー!お前のせいで俺はなぁ!」
いや知らんがな。
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「………………………」
ここは極東支部のエントランスホール。
今日も今日とて同輩である神機使い達が忙しそうに任務を受注し、出かけて行っている。
高みの見物を決め込んでいたのも束の間、携帯端末が振動して任務の呼び出しを合図する。
今日はお呼びが掛かるのが早いな。これは忙しい日になりそうだ。
通知を止めて立ち上がり、受注用の受付端末へ歩を進める。
今更ながら、疑問に思った事が一つある。
どうして俺にはわざわざ任務通知用の端末が支給されているんだ?
いや、まぁ思い当たる事情が無いわけではない。
人様には公に言えないが、部隊長たるものそれなりに秘密の任務と言うのもある。
それでも、だ。通知されてくる任務にいささか節操が無くないか?
討伐任務と書いてあるが、これ要するに「新人教育現場の近くで不測の事態に備える」って内容だろ。
重要だろうが少なくとも機密端末で通知してくるような任務じゃない。
だいたいリンドウもソーマも俺みたいな専用端末なんて支給されてないじゃないか。
「お?今日も彼女からデートのお誘いか?モテる男はツライねぇ。」
クソッ、今日は非番か?これから任務じゃなかったらその未開封のビール缶を奪ってやったのに。
「…フンッ。」
いや、お前は逆に何か言えよ。話しかけてもないのにその反応は気になるだろうが。
まぁ内心愚痴を言っても仕方がない。
仕事は仕事、さっさと神機保管庫へ行って準備するとするか。
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珍しく神機保管庫の窓口が混んでいる。
どうやら今日は極東全体で忙しい日のようだ。
「あっ…!す、すいません!今退けます!」
頃合を見計らって申請窓口に着いてみると、そこには先日すれ違った新人がいた。
書きかけの書類を雑にかき集め、慌てて窓口から身を避ける。
おいばかやめろ、お前わざとやってるんじゃなかろうな。
退けろどころか俺は一言たりとも言葉を発していないだろうが。
まぁ済んだ事を掘り返してもしょうがない。
仕事前にテンションを下げるのもあれなので、気を取り直して出撃申請の書類を提出する。
「コラコラ君ぃ、いけないんだぁ部隊長が新人いびりなんて。討伐戦果から色抜くよう告げ口しちゃうからね。」
いや、仮にも上から数えるレベルの本職技師だろうが。
何で受付嬢なんてしてるんだよ。
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討伐対象の撃破に成功し、撤収指示があるまで一時の休憩に入る。
さっき採取したハーブと持参したお湯と混ぜ合わせ、持ち込んだレーション(カステラ味)と合わせて即席野草茶のティータイムと洒落込む。
任務中なのにサボりじゃないのかって?
良いんだよ姿まで監視されてるわけじゃないし。
そもそも今回の本命は不測の事態に備えた待機要員である。
近いとまでは言わないが、そこそこ遠くない距離で先程あった新人が絶賛OJTの真っ最中である。
いや、優秀だとは思っていたが実際は想像以上の逸材みたいだ。
神機使いは"消費資材"と言っても過言ではないが、それゆえ運用方法については意外と慎重が期されている。
にも拘らずの実地訓練だ。
"ヘマ"する懸念と成長の可能性を天秤に掛けた結果、保険を掛ければ問題無しとの判を押されたのだ。
これは将来が楽しみだ。あわよくば俺の部隊に入って楽させてもらえば万々歳だ。
下衆い感情で妄想していたところ、不意に連絡用の端末が振動する。
どうやら不測の事態とやらが起きてしまったようだ。
手早く片付けを済ませて神機を担ぎ、共有されたアラガミの出現予測位置へ視線を向ける。
(しばらく頼むぜルーキー。お前が独り立ちするまでの間、精々俺は甘い汁を吸わせてもらうとするよ。)
ふと以前世話になった上官の言葉を思い出す。
いかんいかん、年のせいか最近昔を懐かしむような事が増えていけない。
…老けたといったやつは前に出ろ。
キレやすい若年世代と言うやつをその身で実感させてやる。
まぁどちらにせよ、俺が甘い汁を吸えるのはもう少し先だろうがな。
それまでは新人さんが安心して太れるよう環境整備に努めるとしますか。
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よくよく縁と言うのは意地が悪い。
正直会いたくないレベルで苦手な人間なのだが、ここ最近は思いとは裏腹にかち合う機会に恵まれている。
相も変わらず感情の読めない表情。
ただ何となくではあるが「コイツまだ居たのか。」と言わんばかりの視線なのは感じ取れる。
相変わらず言葉は一言として発してもらえていないが。
正直、ストレートになじられでもすれば怒りに任せて感情をぶつける事が出来るのだが。
見方によってはただ不器用な社交性を発揮しているだけの様に見えるのがまた質が悪い。
少なくとも自分はもう、この人の差し入れに口をつけようとは思わない。
「す、すいません、今退けます…」
不要な諍いを避けるため、大人しく申請の順を譲り渡す。
自分でも若干声が上ずってしまった感があるが仕方ないというものだ。
新人の自分と仮にも部隊長のこの人では立場そのものに大きな差があるのだ。
誰かにからかわれたら緊張したのだとでもごまかそう。
それにしても。
ちらりと覗き見た書類から自分の出撃場所の近くに行くと分かった。それも単独で。
部隊長ともなるとここまで実力に信が置かれるものなのか。
いつの日か、自分もその域に達する事が出来るのだろうか。
「コラコラ君ぃ、いけないんだぁ部隊長が新人いびりなんて。討伐戦果から色抜くよう告げ口しちゃうからね。」
別の意味での繰り返しになるがそれにしても。
この整備士の先輩無敵だな。
その内変わりますが現在は旧型神機のバスター使い。
戦闘スタイルについてはおいおいに。