無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~   作:猫丸飯店

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Q.推理結果言わないの?
A.今は語るべき時ではない。


無口な無口な名探偵3

ここは極東支部のエントランスホール。

普段の喧騒はすっかり形を潜め、最近は暗い雰囲気漂う広間になっている。

 

今日のミッションは無駄ではなかった。

無駄ではなかったが、余計な事まで気付いてしまった。

 

生きているってところまでで良かったんだよ。

誰がアラガミ化してそうって所まで推理しろと言った。

 

しかも何があれかって我ながら妙に説得力のある裏付けまでしてしまった事だ。

そりゃ死んでないのに自力帰還も救助要請も出来ないって事は、つまりそういう状況だってことに他ならない。

 

これサクヤに言うべきか?

言った瞬間、阿鼻叫喚になる未来しか見えない。

 

じゃあ黙っているか?

不安と焦燥で心身共に摩耗していく図しか浮かばん。

 

…詰んでないかこれ?

 

仮にそれを乗り越えたとしても問題がもう一つ。

 

誰がリンドウの事、介錯するんだ?

 

もうほぼ確定事項だから断言してしまおう。

その方が俺も踏ん切りが付くしな。

 

規定では部隊長がやるケースしか記載はないが。

筋で言えば同じ部隊の隊員が行うのが道理である。

 

で、そうなるとその役目は副官だったサクヤに御鉢が回ってくる訳だ。

 

介錯するの?サクヤが?あんな精神状態で?

おまけに秘匿義務があるから誰も連れていけないし、誰にも言う訳にはいかない。

 

冗談抜きで壊れるぞ。

やっぱ詰んでないかこれ?

 

言っても言わなくてもサクヤが壊れかねないし。

乗り越えたとしてもその先にはもう一個、剥き出しの核地雷が置いてある。

 

アッハッハッハ、もう笑うしかないなこんなもん。

シェイクスピアも脱帽物の悲劇だわ。

一周して喜劇の域だよ。

 

舌打ちして酒を呷るが中身が無い。

いつの間にかすっかり飲み干してしまったようだ。

 

一缶開けたのに全く酔った気がしない。

どうやら俺も相当参っているようだ。

 

カフェインに切り替えていったん思考をリセットしよう。

 

……………………………………………………………………………………………

 

「隣、いい?」

 

顔を上げるとリッカがいた。

 

ちょうどいい、今回の礼に慰めてくれよ。

一人で抱えるには結構辛いぞ。

 

まぁ実際に言うわけは無いんだが。

荷物と違って話したから重荷が減るというものでも無かろうさ。

 

「………………………」

「………………………」

 

無言である。

正直、言える事何にもないぞ。

 

いや、よく見るとリッカの方は何か言葉を選んでいるように見えるな。

 

どうした?

聞きたい事があるならはっきり言えよ。

答えるかどうかは知らんがな。

 

「…こっち向いて。」

 

何?

 

「目。見せて。」

 

答える前にぐいと顔を引っ張られる。

近い近い、年頃の女の子がそんな大胆な事しちゃいけません。

 

「………………………」

「………………………」

 

無言である。

 

いや、どうしたリッカ。何が言いたい。

無言じゃ何もわからんぞ。

 

やや明るめのブラウンの瞳が真っ直ぐこちらを見据えてくる。

ていうか困りますよお嬢さん、そんなに見つめられちゃ流石に照れt「生きてるんだね、リンドウさん。」

 

エスパーかコイツ。

何故わかったし。

 

……………………………………………………………………………………………

 

「………………………」

「………………………」

 

十センチも間が無いほどに顔同士を突き合わせ。

無言真顔でお互いを見つめる男女の姿。

 

傍から見れば中々異様な光景である。

 

と言うかこれは何かヤバイ。

このままだと色々ボロが出そうな気がする。

 

俺の中でもまだ整理が付いていないんだ。

今の段階でペラペラ喋る程口の軽い人間ではないつもりだ。

 

「逃げないで。」

 

アッハイ。

 

顔を背けようとしたら思いっきり引き戻された。

首が少しコキャッと嫌な音を立てた気がする。

 

「………………………」

「………………………」

 

近い、近いってば。

普通なら嬉しいシーンなのかもしれないが、目が真剣過ぎて普通に怖い。

 

「手がかり、あったんだね。」

 

黙秘します。

 

「リンドウさん、生きてたんだね。」

 

黙秘します。

 

「…帰ってこれる状態じゃ、無いんだね。」

 

黙秘してる意味が無いんだが。

何これ、マジで思考でも読まれてるの?

 

………

 

尋問終了。

結局余すところ無くバレてしまった。

 

俺一言も自白なんてしてないのに。

そんなに俺って顔に出る人なの?

 

「………………………」

「………………………」

 

無言である。

気まずい。

 

とりあえず空気を仕切り直すために、飲み物を買ってきた。

 

うむ、我ながら良案だったようだ。

とりあえずプルタブを起こせる程度には気持ちの整理が付いたと見える。

 

「………………………」

「………………………」

 

「…君は、さ。神機使いがアラガミ化した後の話、聞いたことある?」

「………………………」

 

おいばかやめろ、何のために気持ちを整理させたと思ってるんだ。

 

「介錯、してあげないとダメなんだ。同じ部隊の誰かが、出来うるならその人の神機を使って。」

「………………………」

 

言葉が止まる。

だから言わんこっちゃない。

 

…はぁ。まったくしょうがない。

わかったわかった、お兄さんの負けだよリッカ君。

 

俯いてしまった頭を乱暴に撫でてやる。

優しくない?贅沢言うな。それにこのくらい刺激あった方が精神的に楽だろうよ。

 

覚悟は決めた。腹も括った。

なぁに、今更一人二人増えたところで変わらんよ。

 

場所の当たりはついている。

今なら間に合う公算も高い。

 

汚れ仕事は大人の役目。

サクヤの方が年上だが、まぁ一年程度は誤差だ誤差。

 

 

 

 

 

俺が、介錯しにいくよ。

 

 

 

 

 

 

……

 

………

 

 

 

 

 

…いや待てよ?

 

そうか、その手があったか。

でもどうだ、実際いけるのかこれ?

 

…いけるな。いや、我ながら完璧な作戦だろこれ。

今日はマジで名探偵の頭脳が乗り移ってる。

 

もう一回頭を乱暴に撫でてやる。

ちょっと雑過ぎたのか、今度はうにゅっと声がした。

 

「ちょ、ちょっと急に何するの。私は真面目な話をしてるんだよ。」

 

不満が上がるが気にしない。

感謝の気持ちだ受け取っておけ。

 

おっと、こうしちゃいられない。

早速支部長に頼んで手を回さなきゃ。

 

 

 

 

 

--リンドウの探索、()()()()()()()()()()




リンドウは生きているがアラガミ化している可能性が非常に高い。

アラガミ化していれば介錯という名で討伐しなくてはいけない。

討伐してしまえばリンドウの死が確定してしまう。

逆に言うと討伐しなければリンドウが死ぬことは無い。
しかし発見されれば流石に討伐指令が出てしまう。

発見されなければ良い。そもそも介錯は秘匿義務があるので、表沙汰にさえなっていなければ指令が出てもまず特務扱い。

特務部隊の自分が握り潰せばOK。
神機使いのアラガミ化はまず接触禁忌種確定なので、野良アラガミに狩られる心配も無し。

治療法が見つかったらそれを持ってGO。
リンドウ帰還ENDでミッションコンプリート。


以上、完璧な作戦の概要。
なお翌日のサクヤさん見て滅茶苦茶良心が痛んだ模様。
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