無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.自力では閃けなかったので(結果的に)相談したのと一緒。
-Side_部隊長-
神機使い・雨宮リンドウ少尉の捜索について
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1.戦闘現場において死亡、または重傷を負った痕跡無し。
2.現場付近の捜索で発見できないことから、近辺に潜伏している可能性は低い。
3.現時点においても未発見である事から、自ら姿を見せる事が出来ない状況である可能性が高い。
4.上記3の理由は神機の喪失、または腕輪の機能不全により神機を使用できないためと推測される。
以上の理由より、現時点においても救助要請の痕跡が無い事から偏食因子の投与猶予期間前にアラガミ化している可能性が非常に高いと推測される。
危険性を考慮して一般隊員による探索を打ち切り、特務案件として処理する旨を提起する。
なおソーマ特務曹長は対象と深い交友関係にあり、任務遂行に当たっては懸念点が存在する旨を合わせて提起する。
--報告者:ユウマ・マカヅチ特務少尉
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-Side_ヨハネス・フォン・シックザール-
…全く、ほとほと優秀が過ぎる。
手駒に出来ないと聞いた時は少し残念に思った程度だったが。
時間外に送信されてきた報告書を見終え、一息入れるように天井を見上げる。
邪魔者は排した。
これで計画の妨げとなる者は存在しない。
後は穏便に事を収束させるだけ。
神機使い達は近頃のミッションに対する成果を理由に押さえつける事が出来るのだが。
上層部の人間をどのように黙らせるか思案していたところにこの報告書だ。
本当に手駒で無い事が悔やまれる。
忠誠心は疑うべくも無い。が、首輪の着いていない猟犬など、いくら優秀であろうとも他人から見れば畏怖の対象でしかない。
私とて時間が許すのであればこの報告書に頼る気など起こらない。
都合とタイミングが余りに良すぎて、もはや疑わしさしか感じない。
だが事は既に進むべき時に達している。それにリンドウ君の事もある。
これ以上時間をかければ、どこから新しいネズミが入り込んでくるかわかったものではない。
しかし、惜しいな。
ネズミの件さえ目を瞑れば、リンドウ君は優秀な神機使いだった。
計画のためとは言え、失ってしまった事は正直損失に他ならない。
実力は彼に匹敵し、忠誠心は彼を凌駕する。
そんな逸材を野放しにするほど、生憎私はお人よしではない。
おまけに最近はもう一人。
そうだな、良い機会だ。
この際、彼女と合わせて彼とも機会を設けてみよう。
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-Side_サクヤ-
無駄だって、頭の中ではわかってはいる。
けれどそれでも、何か行動せずに入られない。
神機使いはそれぞれの役割が明確に決まっている。
属している組織の構成においてもそれは同様。
私達はアラガミと対峙し、それらを倒す事が役割だ。
言ってしまえば戦闘部隊のようなものであり、探索においては素人同然。
そんな私達が少し探したくらいで見つかるのなら、とっくの昔に見つかっているはず。
頭ではそれが理解できても、心がそれを受け入れる事が出来ずにいる。
ふと起こした視線の先には今回のミッション責任者である彼の姿。
いつもの鉄仮面はこちらからは見えず、ただただ窓の外の風景を眺めているように見える。
(…もしかしたら、近くの別のエリアに移動したのかも。)
あれだけ捜索して見つからないのだ。
既にあの場にはいない可能性が高い。
窓の外には雪景色が見える。
鎮魂の廃寺と呼ばれる、ミッションでも訪れる機会の多い場所。
(あそこなら風雨を凌ぐ建物も残っている。十分移動できる距離にあるし、怪我をしていてもあそこなら…)
折よく近辺を飛行中だ。
少しでいい、今から頼んで寄ってもらえば…
(…駄目。いくら何でも、そこまでの迷惑はかけられない。)
言いたい。言いたい。
少しで良い。私だけでも構わないから。
出来る事なら何でもする。
どうか、どうか頼みを聞いてほしい。
心が悲鳴のように叫びをあげる。
声に漏れ出てしまわないよう、唇を噛みしめて顔を伏せる。
この任務への同行だって、相当無理を通してくれたと聞いている。
リッカに言われるまで、そんな当たり前のことにすら私は気付けていなかった。
それでも彼は、最終的に自分勝手な頼みを通してくれた。
文句どころか態度にだって殆ど出さず、ミッション無視ともいえる探索行為を完全に黙認してくれたのだ。
これ以上は頼めない。
私の勝手な感情で、これ以上他人に迷惑をかけるわけにはいかない。
景色が流れて、雪原の切れ間が映る。
(…リンドウ。)
何処にいるの?
生きているの?
…死んでなんか、いないわよね?
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-Side_リッカ-
「駄目だよ、渡さない。ツバキさんには私から説明しておくから。」
目の前の神機使いにはっきり告げる。
私も人の事を言えるほど身だしなみに詳しい訳では無いけれど。
それでも目の前の女性の有様は目に余る。
泣き腫らした目に酷いクマ。
どう贔屓目に見てもミッションなんかこなせるメンタルだとは思えない。
「でも…!」
「鏡見てきて。そんな顔して出撃しようとしてる人に、私が神機を渡すと思う?」
目の前の女性は食い下がる。
納得して引き下がってくれればよかったのだが。
私に出撃要請を却下する権限なんて無い。
これは単なる時間稼ぎに過ぎないし、ツバキさんに言ったところで命令となればそれに従わざるを得ない。
私だってリンドウさんの件は納得も諦めたつもりもない。
でもだからと言って、それを理由に自棄になっていい訳がない。
サクヤさんだって本当は分かっているはず。
分かっているけど、感情の整理が追い付いていないだけ。
「………………………」
ふと気配を感じて視線を向けると彼がいた。
こちらが気付いたのを認識すると、手に持った紙をこちらに見せてきた。
サクヤさんの出撃に関する申請書だ。
「ッ貴方ねぇ…!」
承認欄には彼の名前が書いてある。
紙の中央には
………
「ゴメン。嫌な役やらせた」
謝罪を紡ぐが返事は無い。
代わりに無表情の顔が何も言わずにこちらを向いて…
「わっ!?わっ…!」
言葉ではなく缶飲料が飛んできた。
急に放られたそれに不意を突かれてしまったものの、何とか落とさずにキャッチする。
「………………………」
相変わらず言葉は無い。
表情もいつも通りの鉄仮面。
-気にするな-
ただ、缶を受け取ったのを確認する瞳が、心なしかそう言っているような気がした。
缶飲料のラベルを見る。
正直、美味しくはなさそうだ。
「…ありがとう。」
用は済んだと背中を向けようとした人物にそう呟いた。
次あたりでちょっと時系列が進む予定。