無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.道中はどれほど曇らせてもよい。
ここは通称"鉄塔の森"。
森と言っても木々は無く、鉄塔と言うより廃工場と呼んだ方がしっくりくる。
長年放置された人工物には穴が開き、臭いだけでも身体に悪そうな汚水が水たまりを作っている。
「ハアッ!」
訓練ついでに、おなじみ定期湧きしてる小型種の掃討が目的だ。
今日の主役はアリサ嬢。気合一閃、アラガミの身体が両断される。
うん、順調な回復ぶりだ。
元々実力はある方だったしな。
ブランクさえ埋まれば特に心配するようなこともない。
ただまぁ一つ、懸念点があるとすれば。
「次ッ!」
「そこですッ!」
「まだまだぁ!」
気迫は良い。
良いんだが。
白兵戦ばかりで一度も銃形態を使ってないな。
まさか本当に変な癖つけちゃったか?
…あぁいや、多分違うな。
うん、これはあまりよろしくない。
使わないのと使えないのとではまるで違う。
切れる手札は多いに越したことは無いのだ。
とはいえどうしよう。
戦線への復帰予定日も近いし、お決まりの時間が解決という手は使えない。
いっそ二、三発撃たせてみるのも手の一つか?
的になるのは正直嫌だが、最初から撃たれると覚悟しているならまぁ堪えられない事もない。
いや、でもそれで裏目に出たら目も当てられんな。
何か良い手は無い物か。
「………………………」
…閃いた。別に
極東にはいるじゃないか。
うってつけの教官様が。
ついでに言うなら、アリサへの当たりがほとんど無いというのもポイントが高い。
思い立ったが吉日。
端末取り出しポパピプペっと。
………
帰還するヘリの中で端末を確認する。
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次の日。
昨日と同じ作戦エリアへ降り立ち、神機を担いで前に出る。
今日も今日とて的…もとい、小型種の掃討任務である。
なお今日のアリサは訓練の名目で銃形態のみ使用を許可している。
普通に剣で戦われたら何の意味も無いからな。
そして隣には臨時講師としてお呼びしたカノン教官。
うむ、思ったよりも良好にコミュニケーションが取れているようで何よりだ。
やはり女性同士の方が精神面でよさそうだ。
何より見てる方も心が和む。
どうだ羨ましかろうブレンダン君。
今からミッションに飛び入りしてもいいんだぞ?
飛び入りしてもいいんだぞ?
遠慮するなよさぁおいで。
出撃前にサポート要請したんだが、カノンと一緒の所を見るなり拒否られた。
畜生、要請する順番を間違えた。
一隊長程度の権限じゃ、無理やり連れていけるのは一人までだからな。
-えっ!?今日は好きなだけアラガミを撃って良いんですか!?-
良い笑顔だ、可愛いな。ミッション指令を見て綻んだ笑顔が忘れられない。
そして愛らしさに目が眩んで、甘い読みをかましたあの時の俺を殴りたい。
まぁいいや、済んでしまった事を悔やんでも仕方ない。
諦めて的に徹するとしよう。
………
カノンを連れてきた理由は簡単で。
自分より酷い人物を見れば、アリサも多少は心の負担が減るかなと思ったからである。
自分の意志ではなかったにしろ、結果としてあの有様だったからな。
気にするなという方が無理筋な話である。
チラリと二人の方に視線を向ける。
アリサが信じられない物を見るような目で隣の人物を見ている。
わかるぞその気持ち。
信じられるか?そこの人、100%自分の意志で引き金引いてるんですよ。
カノン曰く、誤射するよりも射線上に入った方が悪いらしい。
俺近接神機だからその辺の感覚がわからない。
装填しているバレットもまたひどい。
的になっても大丈夫な算段を立ててたのに、文字通り全部消し飛ばされた。
以前一緒になった時に見たカノンのメインバレットは三つ。
近距離用の放射弾、中距離用の重力弾、遠距離用の大型弾の三種類だ。
今回二人は射撃戦に専念するので放射弾で焙られる心配は無い。
重力弾…もとい、着弾時爆発の榴弾は弾速が遅いのでその気になれば十分避けられる。
大型弾は比較的弾速が速いが、今回の俺の神機はいつものバスターブレードである。
最悪刀身を盾代わりにする事も十分できる。
どうだカノン、お前の手の内は全て見切ってる。
アリサのPTSD解消のためにも、思う存分撃ってこい。
…そう思っていた時期が、俺にもありました。
あ、ヤバイ。
とっさに近くにいたオウガテイルと体勢を入れ替える。
次の瞬間、高速で飛んできた何かにオウガテイルが吹っ飛ばされた。
………
"極東の誤射姫"の異名は伊達ではなかった。
このタイミングで新兵器を引っ提げて来るとは恐れ入る。
その一つが今オウガテイルが吹っ飛ばされた高速弾。
SSサイズの装飾レーザーに
しかし放射弾だけあって威力は折り紙付き。
おまけに防いだ所で突き刺さるという様は、さながらバリスタのそれである。
それを自身のオラクル量に物を言わせて乱射してくるのだ。
一言言っていいか?
こんなの止められるか馬鹿野郎。
装甲どころかアラガミの身体すら貫通してくるんだぞ。
アリサ、見てないで早く止めてくれ。
隣のその人正気なんだよ。
正気だから、止めないと延々とぶっ放してくるんだよ。
一緒になって撃たなくていいから。
………
「私、今日誤射が少なかった気がします!」
良い笑顔だ。狙って撃ったと申すのか。
隣見てみろ、アリサが何も言えなくなってるじゃないか。
いつか絶対仕返ししてやる。
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ここは極東支部のエントランスホール。
暗かった雰囲気も徐々に収まり、ようやく普段の喧騒が戻り始めている。
今日の打ち上げはカノンも交えてのお茶会である。
飲み物こそ缶の紅茶だが、カノンの手作りクッキーが添えてあるのでティータイムとしては悪くない。
まぁ俺は少し離れた位置でお仕事中なんだが。
カノン。お前、あのバレット禁止な。
壁にも突き刺さる放射弾とか、マジで死ぬかと思ったぞ。
と言うわけで使用制限を提起した報告書を作成中である。
賄賂(クッキー)食べてるのに酷いって?規律と感情は別物です。
一段落ついて顔を上げるとさっきのミッションについて話している二人の姿。
うん、アリサの方も色々吹っ切れたようで何よりだ。
逆に引き金軽くなってたりしないよな?
怖いからしばらく正面に立つときは気を付けようか。
耳を澄ませばひそひそ声が聞こえてくる。
まーたアイツらは性懲りもなく。
-新型の奴、今度はカノンと一緒のミッションに連れてかれたのか…-
-もしかして誤射に見せかけてってやつか?あの人もえぐい事思いつくな…-
ちょっと待て、聞き捨てならんぞどういう事だ。
まるで俺がカノンを利用してアリサを嵌めようとしたような言い草じゃないか。
言いがかりにも程がある。
一回本気でしばき倒して…
「君、ちょっといい?」
ちっ、命拾いしたなお前ら。
内心毒づいてから声の方に顔を向ける。
リッカがいる。
何か知らんがニコニコ顔だ。
ちょうどいい、一緒に茶でも飲む?
同じ"しばく"と言うのなら綺麗な女性とお茶する意味の方が良いからな。
「カノンの神機の事なんだけど。点検したらリザーブタンクが取り付けられてたんだ。」
視線の端、アリサの手を引いて逃げ出すカノンの姿が目に映る。
ちょっとまて、お前何をやらかした。
「危ないから、カノンは使用禁止の筈だよね?」
知らん。いや、マジで知らん。
重ねて言うがちょっとまて、それが俺に何の関係がある。
「君、今回のミッションにカノンをわざわざ指定してたよね?」
「………………………」
…ははーん、理解したぞカノン。
………
カノン発見、ここであったが百年目だ。
今までの件も含めてたっぷりと…
「………………………」
…ちっ、命拾いしたな。
今日の所はプリンに免じて許してやるよ。
カノン「お菓子作り置きしておいてよかったぁ…」