無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A1.(アラガミを)殺る気が出たの。
Q2.この人知識偏ってない?
A2.セッツブーンに落花生を撒き散らす人。
訓練初日。
耳を塞ぎたくなる衝動に何とか抗ってみせる。
耳を塞いではいけない。
これは当然の報いなのだから。
あれだけの大口を叩いておいてあの有様。
挙句、私はリンドウさんを…
-じゃあ、諦めて受け入れる?-
頭の中で反芻される言葉。
迷いを払うように帽子を押さえながら頭を振る。
-犯してしまった以上仕方がないと。自分の意志ではなかったにしろ、抗えなかった自分が悪いのだと。-
-許さないよ。私は、それは許さない。-
そうだ。私は立ち止まる訳にはいかない。
私にはもう、膝をつく資格なんてものは無い。
過去は覆らない。
私がリンドウさんにやってしまった事は変わらない。
ならば、ならばせめて私は。
-けどね。もし、少しでも諦めようとしない気持ちがあるのなら…-
大丈夫。
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ここは極東支部のエントランスホール。
訓練を終えて帰投し、ソファーに座って手渡された缶ジュースに口を付ける。
…ッ!?
と同時に思わずえづき、顔を伏せる。
何これ?おでんソーダ?
爽やかな醤油の清涼感って…
ミッションに同行した人物に目を向ける。
普通に配給ビールを飲んでいる。
すみません。私、そっちが良いです。
思わず口から出かけたものの、そんな事を言える立場ではないと頭を振る。
復帰に向けた第一歩は、一匹のアラガミを倒すことも無く終わりを迎えた。
訓練向けの討伐ミッションとは言え、ものの十分と経たないうちに小型種の群れは壊滅した。
この人の戦闘スタンスは知っている。
けれど今日の戦い方はそれとは違った。
文字通りの一方的な蹂躙。
いくら小型種が相手とは言え、並みの神機使いではこうはいかない。
…私には到底無理だ。
奮いかけていた心に揺らぎが起こる。
いや、ダメだ。
立ち止まる訳には、私はいかない。
私にそんな資格は無い。
立ち止まれない理由を、もうあの人に貰ったから。
ミッション結果の書類と一緒に、事前に説明された訓練プログラムのリストを読み返す。
長期間の不安と抑圧、それに瞬間的に極度のストレスが加わった事が原因のPTSD。
それが私に出された診断結果だ。
治療を兼ねた訓練課程は概ね三つに分かれている。
第一段階はアラガミそのものに対する恐怖、忌避感の払拭。
第二段階はアラガミとの戦闘。
最後に作戦行動を意識した他者との連携確立。
今日のミッション目標は最初の一つ。
戦闘行為を行う事無く、可能な限りアラガミと至近距離で対峙する。
捕食の恐怖に曝されながらも、折れることない精神の構築が目的。
…大丈夫。私はもう、アラガミごときを恐れない。
それは顔の見えない誰かの侮蔑嘲笑に対しても同様だ。
言い訳出来る立場であろうはずがない。
笑われて、見下されて当然じゃないか。
私は、それだけの事を犯したのだから。
だけどそれは諦めではない。
受け入れ、その上で恐れず、絶対に乗り越える。
きっとそれが、私にできる唯一の償いだから。
…ただ。
ただ許されるなら。
ただそれだけが今は怖い。
それまで無くなってしまったら、きっと今度は立ち上がれなくなってしまうから。
すがるように顔を上げる。
そこに神機使いの姿は無く、見えたその背に声が上がる。
青い瞳がこちらを振り向く事は無かった。
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訓練開始から数日。
自分の予想より早く戦闘訓練へと移行した。
戦闘は良い。
身体を動かすたびに淀んだ感情も振り払われていくような錯覚を感じる。
アラガミの身体が二つに分かれる。
手に残る感触に、少しずつだが私はまた戦えるようになってきているのだと実感する。
…そう思ったのも束の間。
神機を変形しようとして吐き気を覚える。
よぎったのはあの日のリンドウさんの背中。
情けない。私はまだ怖がっている。
そんな資格、私にあると思っているのか。
もういい構わない。新型が何だというのだ。
変形出来ないのなら、いっそそんな邪魔なものは無くていい。
-один(アジン)、два(ドゥヴァ)、три(トゥリー)-
リンドウさんを殺してみせた、忌まわしいあの言葉を唱える。
-そうだよアリサ!そう唱えるだけで、君はどこまでも強くなれる!-
煩い、煩い、煩い。
そんな気休めなんか少しもいらない。
アラガミ一匹殺せない女の、いったい何処が強いというのか。
-один、два、три…-
(один、два、три…)
「один、два、три…」
один、два、три!
咆哮一喝、アラガミを叩き切る。
手の感触はもう気にならない。
私は立ち止まらない。立ち止まれない。
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「…私はそんなつもりで言ってない。」
ペチリと両頬を手で挟まれ、不満顔で呟かれる。
「呆れた。最近様子が変だと思ったら、そんな事を悩んでたの?」
「ちょ、ちょっとやめてください。恥ずかしいです…」
むにむにとそのままこねられてしまった。
鏡を見ずとも、変な顔になってしまっている事くらいは理解できる。
「でもよかった…と言っていいかは微妙だけど。てっきりあの人が何かやらかしてるのかと思ってた。」
安心したように話してくる声に心が救われる感じがする。
出来れば頬をこねるのを止めてもらえたら嬉しいのだけれど。
「大丈夫?ちゃんと訓練させてもらえてる?」
「えぇ、今日もオウガテイルを何匹も斬ってきました。」
「…やっぱりまだ銃は怖い?」
「…はい。」
諦めて身をゆだねながら答えを返す。
新型特有の感応現象により、私の心象はこの人には筒抜けだ。
「いっそ私を練習台に二、三発撃ってみる?吹っ切る切っ掛けにはなるかもよ?」
「冗談でもそんな事言わないでください…それに、もう頬をこねるのも止めてください…」
ちなみにこの人の心象もある程度私に筒抜けである。
今の姿からは想像できない、少し前の彼女を知る事が出来たせいか、その台詞にもあまり動揺せずに返すことが出来た。
というか流石にこれ以上こねくり回すのは止めてほしい。
陰口には堪えられても、こっちはこっちで恥ずかしくてつらい。
女子二人でじゃれ合う事しばらく。
通信端末が音楽を奏で、メッセージの到達を告げる。
送信者は近頃同行を続けている部隊長。
端末を取り出してメッセージを確認し、思わず「え?」と声を上げてしまった。
「何て内容?」
「明日のミッション、銃形態のみの使用を認めるって…」
「あの人はまた…それだけ?」
「あと…カノンさんが一緒のミッションだそうです。」
「………………………」
こねてくる手が止まった。
チャンスとばかりに抜け出して頬を自分でマッサージする。
「どうしたんですか?」
「…私、もしかして発想があの人と同じなの?」
…今頃気付いたんですか。
貴方たち、意外と似ている所多いですよ。
ちなみに隊長さんは遠くで見ていたり。
話かけないのは男が割り込むのも無粋かなと思ってるため。
長くなったので区切ります。
行は増えてるのに文章量は減ってる不思議。