無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A1.そもそも無口の自覚が無い。
Q2.無表情直そうとしないの?
A2.無表情の自覚も無い(表情筋が固いだけ)。
Q3.酔ったら直るの?
A3.その前に潰れます。
「ヨハン、あの子も飼い犬にしようというのかい?」
眼鏡のレンズ越し、細く鋭い目がこちらを見つめてくる。
相変わらず食えない男だ。
昔からこういう所は変わらない。
適当に言葉を濁して会話を躱し、やがて特異点の情報へと話を続ける。
「キミはキミで探させているようじゃないか。そっちの方はどうなんだい?」
「思わしくは無いな。やはりソーマ一人だけではどうにもならない所ではあるらしい。」
「…例の"猟犬"君を使ってみてもダメなのかい?」
意地の悪い言い方だ。
こういう所が食えない男と評される点だと言っているのに。
「言葉を選んでほしいな榊博士、彼は犬ではなく、歴とした極東支部古参の神機使いだ。一個人に仕える人間じゃない。それに…」
首輪の付いてない猛獣を手飼いにするほど、私は酔狂な人間じゃない。
そう答えた瞬間、思考の読めない細い瞳が我が意を得たりとばかりに輝く。
「そうかいそうかい!なら丁度いい。彼の事、しばらく私にも貸してくれないかな?」
「何?」
「私の肩書は言うまでもないだろう?場合によっては直接事象を観察したい時だってある。だが…」
疑わし気な私の視線を気にせず、目の前の男は話を続ける。
「科学者というのは臆病な人種でね。信頼できる神機使いが傍にでもいないと、アラガミが闊歩する外なんか怖くて出歩けた物じゃないのさ。」
なるほど、ボディーガード代わりにしようという訳か。
それにしても猟犬呼ばわりしておきながら、信頼できるとはよくも言う。
「護衛付きとはいえ、わざわざ現場に出向くとは。君も酔狂な人間だな博士。」
「酔狂でなければ科学者なんか務まらんよ。」
さも当然と返されてしまっては言葉が無い。
…まぁいい。幸い、新しい第一部隊のリーダーは想定よりも優秀だ。
彼を博士に預けたところで計画にそこまで影響は無いだろう。
それに傍に置くなら、手綱の取れる相手の方が都合が良い。
「わかった。近いうちに君の所へ顔を出すよう言っておく。」
「そう来なくっちゃねヨハン。では、今日の所は失礼するよ。」
………
「…さて、賽は投げられた。出来れば、どちらか一方は手に入れておきたいところだが。」
「二鳥を得るか、二兎とも得られずか。まずは結果を御覧じろってね。」
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ここは極東支部のエントランスホール。
今日も今日とて同輩である神機使い達が忙しそうに任務を受注し、出かけて行っている。
あっという間に休暇終了。
やっぱりフェンリルってブラックだな。
まぁ神機使いは万年人手不足なので仕方ない。何せ離職率が半端じゃないからな。
それでも最近はマシになってきた方ではあるが。
いつぞやタツミが教えてた新人なんて、気付けば中堅どころというのだから驚きだ。
今度また酒でも持って行ってねぎらってやるかな。
ルーキーに至っては今や第一部隊の筆頭。
"噂の新型"から"噂の神機使い"に見事なジョブチェンジである。
物騒な二つ名も付き始めてるようだが、まぁ見なかった事にしておこう。
一緒にミッションに行った感じではそんな風じゃなさそうだしな。
見てるかツバキ教官、あのルーキーは俺が育てた。
実際に育てたのはほとんどリンドウだけど。
後方部隊長面とは人聞きの悪い。
関わりはあったんだから、ちょっとくらいドヤ顔したっていいだろう。
流石に実際に言ったりはしないがな。
鼻で笑われるのがオチだろうし。
「任務行かないんですか?サボってちゃダメですよ。」
缶ジュースを飲みながら取り留めもなく考えていると、噂の人物が話しかけてきた。
サボりじゃなくて出撃待機中です。
後ろを見れば第一部隊の面々がいる。
どうやらこれから出撃する模様。うん、アリサも完璧に立ち直ったみたいだな。
見てるか支部長、アリサは俺が立ち直らせた。
こっちは半分本当だし、まぁこう言ってもいいだろう。
何なら金一封でも欲しい所…いや、やっぱりいいや。
また怪しいオッサンをけしかけられて、変な暗示でもかけられたら堪らない。
「おい、何サボってる。さっさと行くぞ。」
だからサボりじゃなくて出撃待…やべ、ソーマだ。こっちは本当だから反論出来ん。
いやぁ、ジュース飲んでから向かおうと思って。
というかわざわざ呼び来るとは意外だ。
てっきりイライラしながら待ってるものかと。
まぁ言うと怒られるから言わないけどな。
視線が痛いが気にしないことにしよう。
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ここは通称"愚者の空母"。
時刻はもうすぐ夕暮れ時、完成間近と噂されるエイジス島が映える風光明媚な場所である。
クルリと振り返れば動かなくなったスクラップが、文字通り瓦礫の山河を形成している。
世の無常を感じるな。
まぁそれはいい、景色を満喫するのは後でもできる。
今は真面目に任務をこなそうか。
本日の獲物はテスカトリポカ。
クアドリガ神属に属する接触禁忌種の一体である。
本当、いつ見ても戦車か機動兵器にしか見えんなアレ。
初めてクアドリガと戦った時なんか、差し向ける相手間違えてるぞと叫びそうになったからな。
思わずグレネード(本物)を投げてしまったのは良い思い出だ。
いや、初見でコイツをアラガミと思う奴はおらんだろ。
おかげでアラガミ相手に爆弾投げつけるアホがいる、と言わんばかりの視線を向けられてしまった。
腹いせとばかりにクアドリガをズタボロにしてしまったのも若かった故仕方ないと言える。
まぁ俺は今でも若いけど。
思い出にふけるのはこの辺りにしておこう。
そろそろあちらも射程距離に入るはず。
「おい。」
隣からぶっきらぼうな声がかけられる。
「わかってるな?いつも通りだ。」
近頃ミッションで一緒になる度に言われるお決まりの台詞だ。
全く、こんなに根に持つ性格とは思わなかったぞソーマ君。
「俺が前、お前が後ろだ。間違っても俺と一緒の方に来るなよ。」
はいはい、言われなくてもわかってますよ。怒るのが目に見えているので言わないが。
それに俺自身も背面強襲が基本スタンスなので特に異論はない。
さて、接触禁忌種が相手とはいえ。
こっちは極東でも有数の古参二人。
戦車もどき一匹潰すのに、ランタンなんかいらないと証明して見せよう。
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ソーマが真正面から前面装甲を叩き割る。
相変わらずのバケモノじみた馬鹿力だ。
あんな細身のくせして、どこにそんな筋肉を積んでるんだか。
俺はか弱いからあんな真似は出来ないからな。
後ろからこっそりと削らせてもらおう。
まずは後ろ足。
関節部分に狙いを定め、横薙ぎにチャージクラッシュを叩き込む。
鈍い音を立てておかしな方向にへし曲がる。
残念、一撃では斬り飛ばせなかったか。
まぁ引き切るから問題無いがな。
戦車相手に慈悲は無い。
ブチリ、と耳障りな音を立てて足が千切れた。
同時に咆哮と共に巨大な車体がこちらへと向き直る。
ミサイルか、流石にそれは受けられん。
大きめの瓦礫を盾にしながら後退する。
はっはっは、カノンに比べれば温い温い。
アラガミをぶち抜き、壁にまで突き刺さるバリスタ弾に比べればあくびが出るな。
…実はカノンは人型のクアドリガ神属だったりして。
アホな妄想は止めておこう。
というかお前、こっちばかり気にしていいのか?
後ろの
思った傍から咆哮が上がる。いや、どちらかといえば悲鳴に近いか。
正面からでもわかるくらい、派手にオラクル細胞が飛び散ったのが見えた。
再びアラガミが向こうへ体勢を変えようとする。
だが残念、それを見逃すほど俺はお人よしではない。
振り向き様にタイミングを合わせ、前足を斬り飛ばす。
結果、片側前後の足をもがれたアラガミが自重を支えきれずに倒れ込む。
さて、勝負ありというやつだ。
やはり挟み撃ちだとやりやすい。
バランスが取れないから起き上がれないだろう?
もう片側も切ってやればまだ戦えるだろうが。
生憎とそんな優しい性根は持ち合わせていない。
人気商品だからな、慈悲の心は売り切れなのだ。
それでは楽しい追剥ぎタイムといこうか。
ソーマと二人、示し合わせたように前後から神機を振り下ろす。
五分と経たず、アラガミの活動反応は消え去った。
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ここは極東支部の救護室。
怪我をした神機使いがお世話になる場所だが、簡単な治療で済むのであれば個人で備え付けの薬品などを利用する事も出来る。
ミサイルの破片が顔をかすめたのか、いつの間にか切り傷が出来ていた。
ほっといてもよさそうだが一応消毒して絆創膏を貼っておく事にした。
まぁ跡になってもそれはそれで気にしないが。傷は男子の勲章とも言うし。
むしろ男前に拍車がかかってしまうなハッハッハ。
言ってて虚しくなる。
この話は止めようか。
傷と言えば。
確かソーマも途中腕に破片を受けていた筈だった。
破れた服には確かに血が滲んでいた。
それで帰投時に声をかけようと思ったら、いつの間にか傷が無くなっていたのに気づいた。
おまけに見間違えたかとも思ったが、血が滲んだ服はそのままだったのでその可能性も無い。
なるほど、アレが噂の化け物の正体という奴か。
「………………………」
言うほど忌み嫌うものかアレ?
言ってしまえば単に傷の治りが物凄く早いというだけだろう?
体格に似つかわない馬鹿力の事も指してるかもしれんが。
別に取って食われるという訳じゃなし。
真実を知ってしまえば拍子抜けもいい所である。
囃し立ててた輩の人間性が知れるな。
俺の好感度がマイナス5だ。誰が言ってるのかは知らんけど。
ただまぁ、この辺りは余人の知らない事情もあるんだろう。
気にするなと赤の他人が口出しするようなことではない。
………
廊下に出るとちょうどソーマもやってきた。
どうやら飲み物を買いに来たらしい。
ちょうどいい、奢ってやるよ。
偶には年上らしいところを見せんとな。
コーヒーを二本買って一つを放り投げる。
ナイスキャッチ、やっぱり怪我はもう完治してるようだな。
「…いらん。テメェの分はテメェで買う。」
差し返されたが無視して廊下を後にする。
どうせ素直に受け取らんのはわかってたし。
流石に口も付けずにゴミ箱に叩き込んだりはしないだろ。
返すのも無理となれば諦めて飲むしかなかろう?
「…チッ。」
後ろから舌打ちされたが気にしない。
野郎のツンデレに興味は無いんでな。
缶のプルタブを空けながら歩き飲みする。
あぁ、今日も茶がうまい。
………
…部屋に戻る途中、歩き飲みするなと怒られてしまった。チッ。
味覚音痴の噂を知っていたため、飲むまでにたっぷり缶を調べた模様。