無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.ボーナス or 欧州土産をあげればよかった。
単純な事ほど気付かないし、誰も実行しないもの。
人生とはままならないものである。
「君は、ペイラー博士とは面識があるかな?」
特務案件の報告書を提出し、部屋を後にしようとしたタイミングでそう質問された。
御存じありませんね。どこのどちら様の事でしょうか?
喉まで出かかった言葉を辛うじて飲み込む。
白を切り通すにしても、自分は流石に古参が過ぎる。
だって正直、関わり合いたくないんだもの。
フェンリル関係者の上にそこそこ権力を持った科学者とか、胡散臭い事この上ないし。
「彼から直々に君の御指名があった。何でも、現地視察の際のボディーガードにとの要望だ。」
と思っていたところにこの言葉。
何だビビらせやがって。普通の護衛ミッションの依頼じゃないか。
てっきりモルモット候補にでもされたのかと思った。
疑い過ぎ?糸目、眼鏡、研究職の権力者なんて怪しい以外の何物でもないだろうが。
よく見るぞアーカイブのアニメでそういうの。
まぁ俺は人間の出来た良い大人である。
現実の世界に二次創作のイメージを持ち込んだりはしない。
お仕事と思って割り切るとしよう。
しかし護衛。護衛かぁ。
守る戦いは苦手なんだが。
生き延びる術というなら得意なんだが。
何しろ俺は
冗談だ笑えよハッハッハッハッハ。
まぁこの辺にしておこう。
ブラックジョークは適度に抑えるのが出来た大人というものだ。
………
「いやぁよく来てくれたね!無理言ってヨハンに頼んだ甲斐があったというものだ。」
ズイッと顔が近づけられるが、余りに突然の出来事に反応出来ず間近で顔を突き合わせてしまう。
近い近い。何だったら絶賛来た事後悔してますよ。
こういうシチュエーションは異性だけに留めておいてもらいたいものである。
まぁ拒否権なんて無いも同然なんですがね。
宮仕えの下っ端の悲しい所である。
「ホント助かるよ。何しろ特務案件が受注できる神機使いは片手で足りるほどしかいないからねぇ。」
ようやく顔が離れたところで一息つく。確かに言われてみればこれは普通に特務案件か。
何しろ極東支部でも有数の重役がアラガミの跋扈する現場に出向きたいというのだから。
何故出向かなければならないのかという理由は説明されたがいまいちピンとこなかった。
孤児院の出身なのでそこまで頭の出来には期待しないでもらえると嬉しい。
そんなこんなで次のミッションは博士の御守…もとい、護衛しながらの調査ミッションと決まった。
これもまぁ良い経験か。それにお偉いさんに顔を売っておくのも悪くは無い。
「…さて、ここまではお堅い職務の話。ここから先はプライベートな相談なんだが。」
ミッションの話に一区切りついたと思ったところでそう切り出される。
「君、ヨハンから特異点に関する話は聞いているかな?」
あぁ、エイジス計画の要になるというアラガミの話ですか。
一応聞いてますがそれが何か?
「難しい話じゃない。もし君がそれらしいのを見つけた時は…ヨハンより先に、私に教えてくれないかという相談だ。」
眼鏡の奥で細い瞳が怪しい輝きを帯びるのを感じる。
…やっぱり科学者なんて信用できないじゃないか。
支部長を出し抜く気満々だよこのオッサン。
「科学者たるもの、新発見はいの一番に観察したいというのが人情さ。だが組織という構造上、ヨハンに連絡してしまえば観察できるタイミングが一も二もなく後回しにされてしまう。」
-そんなこと、この私が我慢できると思うかい?-
いや知らんがな。
いい大人なんだから我慢してくださいよ。
「もちろん、タダでとは言わない。君が仮にそれを飲んでくれるというのなら…」
ごそごそと背後から風呂敷包みを持ち出し、結び目を解いてテーブルの上に広げて見せる。
現れたのは初めて見る絵柄のパッケージに包まれた携行食料(レーション)。
「私はアナグラの食料開発局の担当でもあってね。これは試作品だが、
-聞くところによれば、君は随分な健啖家だというじゃないか。私に協力してくれるなら、喜んで試食品の融通をしようじゃないか。-
マジかこのオッサン。
金でも地位でもなく、たかだか食い物で神機使いを買収しようと言うつもりなのか。
「何、あくまで私的な頼みだ。報酬がこの程度なら断るのも簡単。金銭や役職の保証を持ち出すよりも、よっぽど健全な取引だとは思うがね。」
いや、それはそうなんだろうが。
でもこれに乗ると言うのもそれはそれで…
………
「………………………」
モキュモキュモキュ。うん、美味い。
咀嚼するほど、カラメルソース(?)がこれでもかと言わんばかりに歯と舌に絡みつく。
加えてじゃりじゃりとした砂糖の舌触りがまた食欲を刺激する。
これは濃いめの茶が欲しくなるな。
買収された訳じゃないぞ。これはあくまで試食だからな。
この後提案を蹴ったって別に問題などありはしない。
「…気に入ってもらえたかな?」
食べるのに忙しいので返事はしない。
何でも次の配給ではこのクラスの代物が普通に出回るとの事らしい。
うむ、極東の未来は実に明るいな。
「邪魔するのも悪いし、私はこれで失礼するよ。ミッションの方は発注しておくから、準備が出来たら受注しておいてくれたまえ。」
え?いや待って、ここ貴方の部屋なんだが。
一介の部隊長が主不在の部屋で食べ物貪ってたら見栄えが悪すぎるでしょうが。
飲み込んでから言おうとしたものの、間に合わず博士が部屋を後にしてしまった。
目の前には結構な数のレーションが残っている。
これを食べきるとなればそれなりに時間がかかりそうだ。
…仕方ない。せっかくだし、誰か誘ってティータイムとでも洒落込むか。
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「…半ば、冗談のつもりだったんだがねぇ。」
彼にまつわる噂…というより評判の一つを当てにしてみたが、まさかこれほど上手くハマるとは。
ここまで来ると逆に何か見落としでもあるのではと警戒してしまう。
別に書面を交わした訳でも何でもない。反故にしようと思えば簡単に出来る。
それでも賄賂を受け取ったという事実は、少なからず意味を持つものであると私は考える。
まぁ彼は一言たりとも発していないので、言質というのは私の思い込みの域を出ないのではあるが。
「…確かにヨハンとは相性が悪いかもねぇ、彼。もっとも、私にとっては好都合だが。」
今日の事をヨハンに伝えたところで文字通り鼻先で一笑に付されるだろう。
だがそれはそれとして、この事を理解した時の彼の顔を見てみたい自分もいる。
「首輪を付けられなかった猛獣が、食べ物一つで自分から手綱を渡してきたなんて。ヨハンが知ったらどんな顔をするだろうねぇ。」
久方ぶりに、心地の良い笑いが零れるのを感じた。
カノン「こ、濃いですねこれ…」
リッカ「そう?私は結構好きだけどな。」
ジーナ「私もそのままだとキツイわね。濃いめのコーヒーとか紅茶だと合うんじゃないかしら?」
ユウマ「………………………」(モッキュモッキュ)
残念ながら第一部隊はお仕事中。
次当たりシオちゃんが出てくる予定。