無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.Yes、Yes、Yes。
タグ条件達成(メタ)。
そしてちょっとだけシリアス。
いやぁ、我ながらこんなに上手く事が運ぶとは。
いやいや、誤解しないでほしい。
私としても、こんな弱みに付け込むようなやり方は取りたくは無いんだがね。
だって仕方ないだろう?
いくら何でも試作配給品の横流し程度で引き込んだ相手に、機密情報なんて話せる訳ないじゃないか。
そもそも買収出来ているのかだって怪しいものだ。
書面どころか口約束すら無し。賄賂だけ受け取って後は素知らぬ振り、なんてオチも十分にあり得る。
そう。これは彼を陥れるためではなく、あくまで我々のためにやった事なんだ。
極東風に言えば
少なくとも食べ物で買収しましたなんて言われるよりはよっぽど信用できる話だ。
そうだろう?
「…マジですか?」
「うむ。マジな話さコウタ君。」
何なら私自身まだ信じられない話だからね。
「確かにあの人、食べ物に弱いというのは知ってましたけど…」
「"事実は小説よりも奇なり"って奴だね。もっとも、教えられたところで実行する人間がいるかどうかは疑問だが。」
ヨハンのあの苦労は何だったんだろうね。
流石にこんな事は口に出せないが。
「でも言われてみれば…リンドウも頼み事をする時はよく配給ビールを持っていってたような…」
「そう言えば彼はイケる口だったね。いよいよ買収手段には事欠かなさそうだ。」
幸い私はそこまで飲む方じゃない。
贈答品の処分も出来て正に一石二鳥という所かな。
「お酒や食べ物で買収される神機使いって…この支部、別の意味で本当に大丈夫なんですか?」
「いや、リーダーが言うんですかそれ?」
「アリサ、どういう意味?」
目の前でじゃれ合いが始まる。
うむ、仲良きことは美しきかな。
「と、いう訳で。部隊こそ違えど彼も君達と同じ共犯者…もとい、協力者だ。これからもよろしく頼むよ。」
おっといけない、つい"共犯者"と言ってしまった。おかげで皆の視線が白く感じる。
失敗失敗、ハハハハハ。
「…ホント、食えないオッサンだぜ。」
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ここは極東支部のラボラトリ…の奥にある隔離室。
元々は回収したアラガミのコアを解析したりする場所だったそうな。
部屋の主の手でコーディネートされた今となっては、かつての面影はいまいち感じられない。
本日の任務は捕獲したアラガミの観察である。
決して子供のお守りではない。
生憎保育園の保父さんに転職した覚えはないからな。
こんなんでも一応、古参のプライドは持っているのだ。
しかし元々何でも屋みたいな部隊ではあったが、いよいよ現場に行かない任務も回されるようになったか。
俺の元上官だったら諸手を上げて歓迎するんだろうが。
うん、俺はやっぱり現場に出てる方が性に合ってるな。
別に働きたい訳ではないのだが、単に向き不向きという…痛っ。
考え事をしていたら不意打ちで頬をぺちっとされた。
こらこらお嬢ちゃん、人の頬を叩いてはいけません。
「ひまかー?」
うん、暇。一応これもお仕事だから、そんな事言っちゃいかんのだがね。
「それじゃおはなしするかー。シオ、おはなししたいぞー。」
うん、いいぞ何話す?と言っても、俺もそんなに会話のネタがある訳ではないんだが。
「んー…なんでも!なんでもおはなししたいぞー!」」
おっと、世間の親御さん方が困る要求ベスト5が来たな。
結婚どころか彼女すらいないというのに、この台詞を言われる日がこようとは。
「おやご、さん?"おやごさん"ってなんだー?」
"親御さん"な。んー、わかりやすく言うとシオを生んでくれた人…というかアラガミ?の事だな。
「シオ、おやごさんいるのかー?」
そういやその辺どうなんだ?
普通のアラガミは空気中のオラクル細胞が再結合して自然発生するらしいが。
なぁシオ。お前、生まれた時に傍に他のアラガミいた?
「んーん。シオ、ずっとひとりだったよ。」
うむ、この話は止めておこう。
とはいえ他に話題と言われてもな。
…この際、いっそ俺が気になってる事でも聞いてみるか。
なぁシオ。お前、人間は食べたいって思わないんだよな?
「うん。」
食べた事は無いのか?
「ないぞー。」
食べてみたいって思った事は?
「んー…ないぞー。」
…じゃあさ。
「んー…」
-わかんない。-
…そっかぁ。
…そうだよな。
…それじゃあさ。
食べてみるか?
もしかしたら、今以上に人間らしく話せるようになるかもしれないぞ?
「んー………」
-いらない。よくわからないけど、なんかイヤ。-
…そっか。
ん?いやいや、それでいい。
偉いぞシオ、偉い子だ。
「えらいか?シオ、えらい子か?」
偉い偉い。頭撫でてやるよ。
「ん!」
……………………………………………………………………………………………
おっと、もうこんな時間か。
我ながら久しぶりに話し込んでしまった気がする。
意外と子供相手に会話するのも楽しいものだな。
お守りなんてと馬鹿にしてたが、存外これはこれで悪くないような気がしてきた。
おまけに歴としたミッションなので報酬もまぁ悪くない。
さて、そろそろ第一部隊の面々が帰ってくる頃。
名残惜しいが俺は俺で別のお仕事を片付けてくる事にしよう。
「またな!」
うん、またな。次来るときは何か土産持ってきてやるよ。
ひらひらと手を振って部屋を後に…しようとしたところで振り返る。
いかんいかん、俺とした事が
いやまぁ、お話自体は楽しかったんだが途中で肝心のネタが尽きてな。
ついうっかり愚痴をネタにしてしまった。
粗方喋った後で後悔したんだが時既に遅し。
おまけに語感が気に入ったのか、妙に連呼するようになってしまった。
………
「そうかー、アリサはぷにぷにかー。」
あれだけ砂糖菓子食ってたからな。触った事無いけど多分ぷにぷにだぞ。
「ルミナもぷにぷにかー?」
ぷにぷにだ。間違いない。二人揃って"プニシスターズ"だぞ。
「プニシスターズかー…なんか、いい響きだな!シオ、この言葉気にいったぞー!」
お気に召したようで何より。今度お腹つつきながら"ぷにぷに"って言ってやるといい。
二人とも泣いて喜ぶぞ。
………
…うん、殺されるなこれ。
我ながら口が滑り過ぎた。よっぽど普段ストレスを溜め込んでいたと見える。
シオの名前を呼んでやる。
「んー?」と無邪気な生返事が返ってきた。
さっきの話は内緒な。大人の約束、という奴だ。
「おとな…シオ、おとなか?」
うん、大人大人。
だから内緒で頼むぞマジで。
そう言って頭を撫でてやると「ん!」と元気の良いお返事が返された。
うむ、可愛い。そしてこの笑顔に俺の生死が掛かっているというのがまた恐ろしい。
ただ信じるしかないという事の何と過酷な事か。
まぁこうなった以上は諦めて成り行きを見守るしかない。
さて、口止めも無事済んだ事だし。
逃げるか。
実はこの人はこの人で思う所があった模様。
なおスッキリした結果(以下略)