無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A1.不良在庫を買い占めてくれる上客です。
Q2.この人本当にトラウマ克服してるの?
A2.Yes。
Q3.ちゃんと
A3.何とは言わないが2巻5話参照。
匂わすだけならセーフ。
ここは極東支部のエントランスホール。
同輩の神機使い達が行き来する中、片隅のテーブルに陣取ってティータイムと洒落込む。
出撃待機中である。決してサボりなどではない。
こんなホールのど真ん中で堂々とサボる奴がいるなら是非ともお目にかかってみたいものである。
例えティーポットを使って本格的な紅茶を嗜んでいたとしてもサボりではない。
寧ろ英国紳士として当然の立派な心掛けであると言えよう。
まぁ俺は別にイギリス人でも何でもないんだが。
おまけに飲んでるのはロシアンティーだし。
濃口に淹れた紅茶と砂糖ざらつくプリンレーションのハーモニー。
本場はジャムらしいが、カラメルでもそんなに差はないだろう。
本当、安売りしてた所を買い占められたのはラッキーだった。
手持ちで十分足りたし、資本主義様々だな。
遠巻きに同僚の神機使い達が羨ましいそうに見ているが気にしない。
何見てるんだ、見世物じゃないぞ散れっ散れっ。
-ビーッビーッビーッ!-
唐突にエントランスに鳴り響くアラーム音。
最近よく聞く外部居住区へのアラガミ侵入を知らせる警報だ。
うん、散るのは俺の方だったか。
やっぱりフラグは立てるもんじゃなかったな。
飲み食いの片づけもそこそこに神機保管庫へ足を向ける。
部屋に入って神機を受け取り、いつも通りに武装を整える。
アラガミ相手に普通の銃火器なんて何の役にも立たないんだがな。
これはこれで意外と役に立つ時が多いのだ。
さて、準備の方は整った。
一匹残らず始末してこよう。
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ここは極東支部の外部居住区。
居住区と言えば聞こえはいいが、言ってしまえば"中枢に入れなかった"人達の住処である。
アラガミに食い散らかされた僅かな資材を掻き集め、それでもなお必死に生き延びようとする人達の集う場所。
ここでは皆が皆、今日という日を必死で生きている。
防壁の内側とはいえ、それでもなお明日にはアラガミに喰われるかもしれない過酷な世界だというのに。
親が子供を、子供が親を。兄弟が、姉妹が。お互いをこの上なく思って精一杯生きている。
全てが全てとまでは言わないだろうが、概ね大半はそんな感じである。
眩しすぎて俺には直視できないな。
いや、別に皮肉という訳じゃないんだが。
「どうした?見た目はいつも通りに見えるが…何か雰囲気が普段と違うぞ?」
不意にタツミに肩を叩かれて正気に戻る。
いかんいかん。どうも最近気が乗らない任務ばかりで気が滅入っているようだ。
何でもないとばかりに軽く手を挙げて答えを返す。
これは防衛戦。
普段のように、ただアラガミを討伐して終わりという訳ではない。
深呼吸、深呼吸。
うん、まるでゴッドイーターになる前の頃を思い出す。
黒歴史だな、忘れよう。
………
作戦概要が説明される。
アラガミが侵入したポイントと予想される進行経路。
付近の住人の情報に、各々が管轄する討伐対象の概要。
俺の担当は侵入後に散開したヴァジュラテイル一体の討伐。
ただし住宅街に近いため、急がないと被害が広がる可能性がある。
…よし、マップは頭に叩き込んだ。
後は最短経路で目標地点まで辿り着くだけ。
気負う必要は無い。
間に合わなかったら、それはそういう運命だったというだけさ。
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目標地点に到着。
簡易レーダーを眺めてみるも反応は無し。
元々小型種は探知に引っ掛かりにくい特性があるのだが、今回の獲物は余程隠密性に優れた個体なのだろう。
レーダーを見ながら付近をウロウロ。
ついでに逃げ遅れた住人に避難を促す事も忘れない。
危険を冒してアラガミがうろつく中を避難するくらいなら、神機使いが救援に来るまで身を潜めるという人たちも少なからずいる。
そんな人たちを見つけては安全地点まで護衛するのも防衛部隊の立派なお仕事。
俺はどちらかというと荒事専門だからこの手の任務は苦手なんだがな。
常日頃からこういう任務をこなしている防衛班の面々の凄さを改めて認識する。
…っと、そうこう言ってる内に住民を発見。
どうやら母と娘の二人連れ。先程まさに言った通り、神機使いが来るまで何とか住処で恐怖に堪えていたという所か。
向こうもこちらに気付いたのか、安堵の表情を浮かべて駆け寄ってくる。
パタパタと早足気味に。
次の瞬間、屋根の上から大型の肉食獣が振ってきた。
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母が咄嗟に娘を突き飛ばす。
娘の代わりに、母親が獣に組み伏せられる。
固まる少女。叫ぶ母。
獣の口が大きく開き、女性の頭へ喰らいつかんと迫る。
視界が真っ赤に染まる。
赤く、赤く。
いつか見た、鮮血の湖のそれよりも。
次の瞬間、アラガミが近くの建物の壁に突き刺さる。
回転しながら飛んできた大型神機に貫かれ、引き千切れる寸前の状態で磔にされている。
「ヒッ…!」
「………ッ!」
少女が思わず悲鳴を上げる。
娘を庇わんと母がその身を抱き寄せる。
「………………………」
彼の視界に人の姿は写っていない。
見据えているのは壁に引っ付いている、塵になりそこなっている仇が一つだけ。
アラガミは必死にもがく。
迫る死の運命から逃れようと、残る力を懸命に振り絞って。
神機使いが何かを口にする。
ガリっと音を立ててそれを噛み砕き、飲み込むと同時にアラガミの胴体を掴む。
-ギィヤアァ!-
アラガミの身体が引き裂かれていく。
神機を身体に突き刺されたまま。
それを軸に縦に真っすぐ、頭に向かって一直線に生きたまま裂かれていく。
アラガミも抵抗する。
が、人とは思えない膂力の前に、それはあまりにもか細い抵抗で。
神機使いの表情は変わらない。
いつも通りの鉄仮面のまま。
いつも通りの青い瞳を、深紅に染まる眼に浮かばせたまま。
誰の目の前で、
いやしんぼめ、俺の親だけじゃ満足できなかったか?
あぁなるほど、おかわりが欲しくなるくらい美味かったって事か。
それは重畳。お気に召されたようで何よりだ。
…フフッ。
ハハハハハッ。
アッハッハッハッハッハッハ。
死ね。
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ここは極東支部のエントランスホール。
周りの任務上がりの喧騒の傍らに、一人片隅で頭を抱える。
やっちゃった。
いや、ミッション自体はちゃんとこなしてきたけれど。
女性と年端もいかない少女の目の前で解体ショー。
いくらアラガミが相手とは言え、完全に絵面がアウトである。
おかげで少女と母親の二人とも完全に怯えてしまい、避難を誘導しようにも全く会話が出来なくなってしまっていた。
幸い他のアラガミは討伐された後だったから良かったものの、これで二匹目に襲われていたらと考えると内心冷汗ものである。
でも言い訳させてほしい。
だって仕方ないじゃないか。
いくら克服したとはいえ、目の前で親が喰われるなんてトラウマである事には違わないんだよ。
おまけに今度は間に合ったんだよ。
変えられない過去とは違って、少し頑張れば変えられる未来だったんだよ。
そんなの頑張るに決まってるじゃないか。
まぁ結果として別のトラウマを植え付けてしまっては世話は無いのだが。
ここは一つ、コラテラルダメージという事で何とか…駄目ですかそうですか。
あーやるせない。
言い訳出来ないレベルの失態なだけに余計やるせない。
酒でも飲んで気分でも変えようか。
………
今日は少し強めのお酒にしてみた。
大人だもの、酔いたい時だってあるものさ。
…やっぱり俺、誰かを守る戦いは向いてないなぁ。
道中はどれほど曇らせてもよい。(ハットトリック)
どこかで書きたいけどタイミングが見つからない。