無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A1.一部内緒の横流し品。
Q2.誰から入手している?
A2.この人が懐手だとビビる人。
良い商売人とはお得意様が購入したものは覚えているもの。
支部長室に呼ばれた。
目の前では支部長が俺からの嘆願書に目を通している。
怒られるかな?まぁ大丈夫だろ。
少なくとも適当とは言えそれらしい理由は書いたつもりだ。
拒否られたところで別に実害はない。
普段はそれ以外から入手してるしな。
でもまぁ個人的な思いを述べるのなら。
会社の経費で好きな物手に入れるってワクワクしない?
横流し品はお安くないのだ。
神機使いの稼ぎは決して悪くは無いが、それでも無駄遣い出来るほど裕福ではない。
それに個人的な欲求を満たすためだけにこんな真似をしているわけではない。
榊博士から便宜を図ってもらっている以上、支部長からも何かしてもらわないと不公平じゃないか。
いざという時に賄賂を貰っているから…と心が鈍っては困るのだ。
「…君の要望は理解した。要望通り、保管庫から携行火器の支給を許可しよう。」
嘆願書から目を離した支部長がそう告げる。
いつもより若干眉間に皺が寄っている気もするが、まぁ気のせいだろう。
差し出されたカードキーと受け取り、口頭で告げられた暗証番号を記憶する。
これで晴れて支部長公認で装備を整えられるというもの。
せっかくだし、拳銃以外にも色々見繕ってこようかな。
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ここは極東支部の武器保管庫。
と言ってもあまり整理整頓はされていないらしく、保管庫というよりただの倉庫のような印象を受けるが。
アラガミ相手には既存の銃火器ではまず効果が無い。
異常な硬度のオラクル細胞に弾かれるか、液体のような流動性のオラクル細胞に受け流されるかのどちらかだからである。
専らこれらの用途は対人向け。
もっともデモ隊の鎮圧くらいであれば神機使いを二人も差し向ければ簡単に叩き伏せられるので、あまり出番は無い。
つまり何を選んでも問題無い。
より取り見取りとはまさにこの事である。
装備にしたって、使われないまま埃を被ってるよりは使われた方が幸せだろうし。
極東に伝わる付喪神の概念というやつだな。
拳銃に各種グレネード、新しい防弾チョッキに普段は滅多に流れてこないマシンピストル。
予備の弾丸も豊富なうえ、横流しの中古品ではない、今なお組織で使われている現役品である。
うむ、装備云々を抜きにしても普通に気持ちが昂るな。
幾つになっても銃火器は男のロマンに他ならない。
ましてや俺は若いからな。
胸のときめきもまたひとしおだ。
っといかんいかん。
一応これは任務に向けた事前準備。
欲張りは禁物。
名残惜しいが今回はこの辺りにしといておこう。
………
支部長室に戻るとオオグルマ先生がいた。
…オオグルマ先生がいた。
大事な事なので二回確認した。
オッサンの足に目を向けると、ちゃんと二本の足で立っている事を確認できた。
何だ、幽霊じゃないのかビビらせやがって。
これが出撃前か帰投直後だったら懐のブツを抜いて確かめてたところだ。
顔に視線を戻せば意地悪そうな笑みを浮かべてこちらを見ている。
畜生、からかいやがったなこのオッサン。
冗談抜きで弾いてやろうか。
まぁ流石に支部長室でぶっ放すほどアホではない。
そんな真似をすれば営倉どころか軍法会議待ったなしである。
「さて。」
椅子に座った支部長が口を開く。
「知っているかどうかは知らないが。あえて最初から説明させてもらおう。」
いつも通り、祈るように身体の前で手を組んだまま話を続ける。
「エイジス計画の本当の目的。そして死んだはずの彼が何故ここにいるのかを。」
あ、前半だけでいいです。
親しい間柄という訳でもないし、オッサンの生き死には別にどうでもいいです。
どうせ後で、何時ぞやのお礼をしますので。
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…うん、これは普通にショックだな。
いやまぁ、薄々勘付いてはいたんだがな。
やっぱりエイジス計画なんて存在しなかったのか。
分かってはいた。
計画成就も間近だというのに試験の一つも行われた話を聞かないし。
何だったら外部居住区へのアラガミ侵入も許してるんだ。
仮にそれで完成したとか言われても信用できる訳がない。
代わりに出てきた案がアーク計画か。
選ばれた千人を生かす代わりに、他全員を残さず犠牲にするって寸法か。
…で、俺にそれの是非を問うの?
イジメか支部長。やっぱりフェンリルの人間には人の心とか無いんだな。
そんなの、
俺がどうやってあの時生き延びられたか知らない訳じゃないだろう?
それともあれか、
ハハッ、マジウケる。笑っているうちに止めような。
まぁ俺の感情はさておき。
大局的な話で答えるなら、これはもはや議論の意味が無い問題だと思う。
誰かを犠牲に生き延びるなんて言語道断、と口にするのはたやすいが。
それは正確なタイムリミットがわかっていて、かつ明確な対抗手段が確保できる場合にのみ認められる。
例えば一月後に終末捕喰が起こるとしよう。
それまでに対策が取れなければ人類終焉である。
そして今時点では千人だけだが生き延びる手段がある。
どう選んだかはどうでもいい。とにかく千人、限られた人数だけが生き延びられる。
さて最終日だ。
未だ全員が助かる手段は見つかっていないが、正しい選択肢はどれだろうか。
1.全員助からないので、
2.千人を助けるために、
答えられない?
じゃあ人数を減らそうか。
1.全員助からないので、助けられた一人も道連れにする。
2.一人を助けるために、残り二人を犠牲にする。
まだ答えられない?でもタイムアップ、強制的に1ですね。
時間は待ってはくれないのだ。何しろアラガミが目の前にいるのだから。
ちなみに俺は2だった。選択肢なんて無かった…というより、選べる頃には時すでに遅しという奴だ。
まぁ選べたとしても同じ選択を選んでいるがね。
そうじゃないと俺の両親が浮かばれないじゃないか。
命を犠牲に息子の命を繋いでくれた、俺の両親の選択が間違っていた事になるじゃないか。
そんな訳あるはずがない。
一般論はともかくとしても、他でもない息子の俺がそう断言しなくてどうするんだ。
話を戻そう。
結局のところ、この問題に正解などありはしないのだ。
答えるにはあまりに状況が不確定過ぎるし、だからと言って決め打ちするには個々人の主観が入り過ぎている。
きっとこの支部長はそこまで考えた上で俺に話を振ってきている。
否定でもしようものなら、待ってましたと言わんばかりに非難の言葉を浴びせかけてくるだろう。
あーやだやだ、これだからフェンリルの人間は信用できないんだ。
とはいえ、こうなっては俺に選択肢などあるはずもない。
無言のまま、肯定を表すように頷いてみせる。
気に入らないから返事こそはしてやらないけど。
それでもその答えに満足したのか、支部長からはふと僅かな笑みがこぼれていく。
ちくしょう、ナイスミドルめ。そんな優しく微笑むんじゃない。
俺はやっぱり間違っていないんだと甘えそうになるだろうが。
これが妖艶な女性だったらヤバかったかもしれんが。
生憎支部長の他には腹の出たオッサンしかいない。
現実って厳しいな。
………
「ありがとう。君ほどの人物に賛同してもらえた事を、私は心から嬉しく思う。」
銀色に光るカードを受け取ると、先程よりも嬉しそうな微笑みで支部長が言葉を続ける。
「さて。そんな君の思いに漬け込むようで大変申し訳が無いのだが…一つ頼みたい仕事がある。」
受け取ってから言わないでください。
まぁそうでなくてもフェンリル所属の神機使いに拒否権なんかある訳ないのだが。
「君も認めてくれたアーク計画だが…悲しい事に力に訴えてでも認めないという輩がいるようなのだ。」
まぁ、いるでしょうね。
良いか悪いかはさておき、他人を犠牲にすることに堪えられない人種というのは存在するのだ。
「これから彼女達を待ち伏せて排除する。ついてはそこにいるオオグルマ博士と共に、その手伝いをしてほしい。」
ふむ、テロリストの排除。アラガミではないけれど、フェンリル所属の人間の仕事と言えば仕事か。
それに俺に声をかけるという事は普通に荒事だろうし。
てかオオグルマ先生来るの?
そんなに腕に覚えがあるんなら、仕返しは後ろから襲い掛かる事にしておこう。
事前に良い情報を聞けて何よりだ。
それにしても彼女達か。
怖い怖い、まるで
前門にアリサ、後門にこの人。
仕返しする気満々ですが、オオグルマ先生はこの人の戦闘スタイルを知りません。
流れ弾なら仕方ない。
次の前にこの人の過去話入るかも。
どちらに付くと思います?(別に展開は変わりません。)
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支部長
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榊博士
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レディーの味方