無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
無口さんの暗い過去。苦手な場合は読み飛ばして良し。
Q1.この人人間?
A1.混じり気無しの人間です。
Q2.曇り過ぎじゃ?
A2.道中は(以下略)。
Q3.越えられましたか?
A3.オーバーフローしました。
ラケル先生のようにはなれませんでした。
消えていく。
いつも暖かく笑いかけてくれたあの二人が。
時には厳しく叱りつけてくれたあの二人が。
バキリと骨が割れる音がする。
赤い飛沫を撒きながら、少しずつこの世から姿を消していく。
バキリ。グチュリ。
バキリ。グチュリ。
光景から目が離せない。
何が起こっているのかを理解しながらも、心がその理解を拒絶する。
ただ両親が喰われ、身体を失っていっている。
言葉に起こせばただそれだけの光景だ。
声が出ない。口も動かない。
手も足も、指も、瞬きすらも行えない。
………
アラガミは神機使いに討伐された。
今世間に噂される
-大丈夫か、しっかりしろ-
大きな剣を持った人物が話しかけてくる。
大丈夫な訳ないだろう。
-…駄目だ。仕方も無い、この年であんな光景を見てしまったんだから-
大きな銃を持った人物が後ろで呟く。
最後は自分の意志で見続けたがな。
喰われて消えゆく両親と、それを獣のように貪りふけるアラガミ。
それが切られて撃たれて、塵と霧散するその瞬間まで。
目に焼き付けたあの光景を反芻する。
喰らった両親ごと存在が消失した、アラガミが居たその場所を。
血溜りには、もう何も残っていなかった。
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フェンリル直営の孤児院。
大企業直属と言えば聞こえはいいが。
予め素質のある人間を集めておき、子供の頃から自分たちへの忠誠心を刷り込んでいく。
流石に表立ってはやってはいないが、まぁようするにそういう所だった。
まぁ今の自分には都合が良い。
民間のそれらに比べれば遥かに教育環境が整っている。
それだけじゃない。
適合の可能性が見られる者に至っては、現場で導入されているシュミレーターを用いての疑似戦闘訓練まで行えるのだ。
そしてありがたい事に俺には適性があった。
アラガミ共を塵芥に変えられる可能性があったのだ。
年齢の関係上、正式に招集されるのはまだ先だが。
先に述べたように優遇して訓練施設を利用させてもらえるようになっていた。
よかった。自分の手で殺せる方向で進められそうだ。
神機が無いと手間だからな。
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訓練施設。
仮想空間にオウガテイルの姿が映る。
感情のままに襲い掛かったものの、身体能力の差で返り討ちにされたのは懐かしい記憶だ。
アラガミ風情を正面から潰せないのは癪ではあったが。
生憎俺は手段を選ぶような人間ではない。
オウガテイルが飛び掛かってくる。
流して後ろに回り込み、仮想神機を振り下ろして叩き割った。
…手に残る感触が無い。
仮想空間だからまぁ当たり前ではあるのだが。
物足りない。音も色も、何もかもが足りないな。
まぁいい。
畜生共も
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戦い方は身に付いた。
後は実戦で畜生共を殺すだけ。
訓練を終えた後、傍にいた担当官が話しかけてくる。
-素晴らしい。私も長らくここの施設を担当しているが、君のような優秀な人間は本当に珍しい。-
-君は両親をアラガミに殺されたと聞いている。君ならきっとその仇を討つことができる。-
またその話か。
どいつもこいつも、何故同じ事ばかり繰り返すんだ?
-頑張れ-
-期待している-
-君ならやれる-
他人任せもここまで来ると哀れだな。
よくもまぁ特に親しくも無い人間にここまでの期待を寄せられるものだ。
一周回って愉快に思えてくる。
まぁいい。こういう人間ばかりだと思えば、今後何か犠牲が必要になった時でも気が楽かもしれないな。
親の仇?そうだな。
いくら憎んでも憎み足りない、殺しても殺したり無い奴らだ。
一回だけじゃ物足りない。
月並みな言い方だが、脚本家を目指してる訳ではないんでね。
アンタがどの程度を想像しているのかは知らないが。
まぁ今の所、
結局のところ、アラガミは何度も復活するんだろう?
餌がある限り増え続けるとか、本当に畜生と呼ぶにふさわしいな。
…そう言えば。
神機使いも人工のアラガミと呼べるんだっけか。
神機の制御に偏食因子が必要らしいからな。
大雑把な括りとはいえ、アラガミも神機使いもそこまで大差はないらしい。
ますます数には困らんな。
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正式な招集がかかった。
既にフェンリルの息がかかった施設にいる関係上、通常のそれより余裕を持った通知だった。
適合試験まで、あと一月。
ようやくだ。ようやく殺せる。
好きなだけ、思う存分殺しまわれる。
敵はアラガミ。
俺の両親を喰らってくれた、忌々しいクソどもだ。
味方は神機使い。
俺の
フフフ。
フフハハハ。
アハハハハハハハハハハハハ。
良いな、良いな。
まるで仇のバーゲンセールという奴だな。
おまけに減ったら餌を与えて増やせばいい。
その餌もアラガミと言うのだからまた堪らない。
狩って良し。
増やして良し。
より取り見取りとはまさにこの事。
どれから八つ裂きにするか、今から目移りしてしまうな。
いかんな、俺としたことが
ゴールが見え始めて、流石に気の一つも緩んだか。
こほん、とわざとらしく咳払いをする。
何とはなしに窓に顔を向けると、微かに自分の顔が反射して映る。
嬉しそうに笑っている。
楽しみだと言わんばかりに笑っている。
早く早く。一月後が待ち遠しいと。
クリスマスを待つ子供のように、ニッコリした笑顔がこちらを向いている。
うん、それにしても。
俺の両親は本当にこんな得体の知れない奴を助けたかったのかな?
"
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適合試験まであと二週間。
今日も今日とてベッドに寝転がりながら、この前浮かんだ疑問について考えてみる。
アラガミは殺す。それはいいや。
目の前で両親喰われてるんだもの。その資格はあるだろう。
神機使いはアラガミ。それはそうらしい。
細かい事は専門的な話になるのでわからんけど。
じゃあ神機使いもアラガミだから殺す?
じゃあも何も、そもそも俺や両親とは何の関係無いんだが。
両親が入ったアラガミを塵に変えた?
もう消化済みだっただけだろ。俺の両親が塵に変えられた訳ではない。
考えれば考えるほど自分の考えがわからなくなっていく。
俺、何であそこまで色んなものがアラガミに見えていたんだ?
危うく取り返しのつかない道に踏み込んでしまうところだったよ。
手が塵まみれになる前に気付けてよかった。
まぁ間に合ったから今回はいいや。
訳の分からんイカレ野郎を助けて死んだなんて話、俺の両親が報われないからな。
閑話休題、本題に入ろう。
多分だが、ここがきっとターニングポイントというやつだ。
俺の中には元々ああいう気持ちがあったのだろう。
否定はしないさ。いきなり出現するアラガミじゃあるまいし。
両親の死は確かに切っ掛けの一つかもしれない。
だからと言って外道に育っていい道理は一ミリも無いけどな。
そんな
両親が命を賭して生かしてくれた人間が、そんな救いの無いクズであるなんてあってはならない。
じゃあどうするか?
今は落ち着いてはいるものの、またぞろ顔を出されちゃ敵わない。
何、簡単簡単。
別に難しくも何ともない話だ。
認められないなら
だが間違いに気付いた時、それが正せるというのも
あの両親が命を対価に息子の命を救ったという選択が
俺なら出来る。今までもやってこれただろう?
楽観的かもしれないが、
それに猫かぶりの一つくらい
俺の両親の選択は、
………
適合試験当日。
いつもと変わらない、雲一つ無い快晴。
青い空が、防壁の遥か向こう側まで続いている。
うん、今日も良い天気だ。
さて、極東支部へ向かうとしよう。
--適合試験、受かるといいな。
たまに出てくる地金の正体。
いましたね、どこかの世界に手が塵まみれの人。
自分の心のドス黒い部分を超える。
どこにでもよくある、ただそれだけのお話。
真っ赤だと突っ込んではいけない。