無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A1.遂行する。
Q2.仲間は?
A2.助ける。
両方やれてようやく一人前の部隊長。
目は染まってないので安心です。
-Side_アリサ(chapter3)-
息を殺して待つ事数分、神機使いが姿を現す。
右手には愛用のバスターブレードを担ぎ、左手には先程こちらへ発砲してきたサブマシンガンを携えている。
(予想通り、神機と銃の二刀流ですか。最初から両手に銃を持っていてくれたのなら幾分やりやすかったんですけど。)
もし神機を持っていないのであればこの場で即仕掛けたところなのだが。
防がれる可能性がある以上、諦めて予定通りに彼がホールに入りきるのを待つ。
チャンスは一瞬。
防がれ、間合いを取られてしまえば勝ち目はない。
勝てるのだろうか?
否、勝つしかないのだ。
不安に手が震える。
しくじる訳にはいかない。
(…皮肉ですね。こんな時にオオグルマ先生の言葉を思い出すなんて。)
脳裏によぎるのは忌々しい記憶。
心の弱みに付け込み、傀儡とするために囁かれ続けたあの言葉。
-один(アジン)、два(ドゥヴァ)、три(トゥリー)-
何度も何度も囁かれた言葉。
唱えるだけで私に強さを与えてくれる魔法の言葉。
(один、два、три…)
リンドウさんを殺してみせた、忌まわしい魔法の言葉を唱える。
「один、два、три…」
死なないために、生き延びるために。
そして何より--
リンドウさんを愛したあの人を、絶対に死なせないために。
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-Side_サクヤ(chapter3)-
--マズい。
あれは誘いだ。
攻めあぐねた敵が、こちらのミスを誘うべく打った必殺の一手。
剣を手にし、銃を携えるほどに警戒してなお。
アリサの様子を伺う。
事前に決めた手筈通り、中央まで進んだ所で背後を強襲する様子を見せる。
駄目だ、バレている。
止めなくては。でもどうやって?
既に無線を使える状況は過ぎている。
仮に使えたとしても、確実に通信内容が相手にも伝わってしまう。
どうする、もはや時間は残されていない。
このままではアリサが返り討ちに--
-旧型は旧型なりの仕事をしていただければいいと思います-
先程の言葉が頭をよぎった。
皮肉でも侮蔑でもない、覚悟を決めた彼女の本心。
あぁ、そうね。
そう言えばリンドウも似たような事を言っていたっけ。
同じような事を言う辺り、つくづく私たちは似た物同士だったのかも。
クスリと思わず笑みが零れる。が、生憎それを満喫する余裕はない。
隠れ場所から飛び出す。
瞬間、死神の青い目と銃口が、真っ直ぐにこちらを捉えてくる。
片や、射線もろくに捉えられていない狙撃銃。
片や、射線に構わず圧倒的な弾幕で制圧が可能な機関銃。
勝敗などわざわざ確認するまでもない。
それでもなお、未来を信じて引き金を引く。
狙うは顔面。
防弾チョッキに守られていない、剥き出しの急所。
一筋のレーザー痕が、無情にも彼の
あぁ、やっぱり駄目だったか。
ゴメンねリンドウ。
悔しいけど、私じゃここまでだったみたい。
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-Side_アリサ(chapter4)-
何で、何で貴女が囮になっているんですか!
怒りが火山の噴火のように溢れ出す。
だが、それを感情として表す余裕はどこにもない。
意識も体勢も、完全にサクヤさんに向けられている。
この機を逃せば、私達にもはや勝ち目はない。
文字通り、サクヤさんが捨て身で作ってくれた最後のチャンス。
恐れは消えた。
迷いはとうに捨て去った。
私は、他ならぬ私の意志で。
目の前の神機使いを討伐する。
………
衝撃音が鳴り響く。
本来なら決して耳にする機会の無い、神機同士がぶつかり合うおぞましい音。
「………………………」
甘かった。
欠片の油断もしてはいなかったつもりだが、それでも尚認識が甘かった。
まさか、こちらを視認するまでもなく攻撃を防ぐとは。
次の瞬間、立て直す間も無くパリングで武器が弾かれる。
(マズい、防御を…!)
崩れた体勢を必死に持ちそうとするが間に合わない。
地面を削りながら、こちらを両断せんと勢いよく迫りくるバスタ―ブレード。
氷のように冷たい色の青い瞳が、睨むように真っ直ぐこちらを見据えていた。
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-Side_サクヤ(chapter4)-
私たちは敗北した。
銃を突き付けられ、致命の一撃を横腹に添えられて。
引き金を引かれて、それで終わり。
切り上げられて、それで終わり。
けれど、そこまでだった。
銃撃も斬撃もその手前まで止まり、それ以上は何もなかった。
何も言わず、何も語らず。
やがて神機使いは唐突に、全ての武装を仕舞い込む。
射線を外し、剣筋を離し。
まるで用は済んだと言わんばかりにさっさと身支度を整え始める。
「…いや、貴方何してるの?私達を殺しにきたんじゃなかったの?」
思わず浮かんだ疑問がそのまま口から漏れ出る。
神機使いは答えず、どこか不機嫌そうな無表情でこちらを一瞥すると、そのまま神機を担いで出口の方へと歩を向ける。
この神機使いは明らかに支部長に与する人間だ。
先程のやり取りからそれは十分に伝わっているし、その上で支部長は私達を殺せと命じてきている。
私達が生きている以上、矛を収める道理など無いはず。
にも関わらず、あの勝利が確定した状態から突然戦闘を中断し、あまつさえ私達を放置してどこかへ去ろうとしている。
「もしかして、見逃そうとしてくれてるの?」
あまりに希望的な観測。
しかし、恐ろしい事にそれは的中どころの話ではないようで。
彼が手招きしている。
神機を持ち、未だ武装を解かぬまま。
早く来い、と言わんばかりに部屋の入口で手をこまねいている。
「…行きましょう。大丈夫アリサ、歩ける?」
「大丈夫ですけど…本気ですかサクヤさん。今更あの人の事を信じるんですか?」
銃まで撃ってきてるんですよ?とアリサが難色を隠さず示す。
否定は出来ない。
あそこまで殺意を向けておいて演技だと言われた日には、流石の私も人間不信になりそうだけれど。
「…どの道負けた私達に選択肢は無いわ。それならいっそ、リンドウが信じたあの人を信じてみましょう。」
無口無表情の鉄仮面。
私とて正直、関わりたくない手合いの人種と思っていたのだけれど。
-いやぁ。アイツ、あれで中々人間臭い奴なんだぜ?-
-ただ言葉を話せないだけさ。機会があったら、サクヤもアイツを信じてみてやってくれ。-
いつの日かリンドウが話してくれた言葉を思い出す。
もし。もし彼が本当に、
(…信じるわよリンドウ。貴方が認めた、この人の事を。)
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-Side_アリサ&サクヤ(chapterFinal)-
「あ、あのサクヤさん?私達、何でこんな事になってるんでしょうか…?」
ここは極東支部におけるとある神機使いの個室。
質問にまともな答えを返す事も出来ず、ただ「さぁ…?」と一言だけ、何とか言葉を口にする。
片隅に座り込む私達を気にすることなく、無言のままカチャカチャと手持ちの端末を操作している神機使い。
まるで私達など眼中に無いと言わんばかりに、真剣な表情でひたすら何かを打ち込んでいる。
覚悟を決めてエイジスに潜入したまではよかったが、無念にも戦いに敗れてしまった私達。
だが待っていたのは終わりではなく、何故かアナグラの彼の部屋に招かれ、こうしてティータイムに付き合わされている現実。
クピリ、と先程手渡された缶紅茶に口を付ける。
味覚音痴と聞いていたので警戒していたものの、ごく普通の市販ラベルだと確認出来たので安心して封を切った。
冷蔵庫で十分に冷やされたアイスティー。
先程まで生き死にの緊張感に曝されていたせいか、乾いた身体に妙に水分が染み渡っていくような感覚を覚える。
「助けてもらえた…ってことでいいのかしら?」
問いかけてみたものの、目の前の神機使いは答えない。
代わりに彼が操作していた端末が私とアリサの前に差し出される。
画面に映っているのは起動された通話アプリ。
接続先には、第一部隊隊長の私室アーカイブが表示されていた。
百の言葉より一つの行動。
名言ですね。伝わるかどうかは別ですが。