無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A1.手は出してないからセーフ。
Q2.この人もしかして若くない?
A2.ソーマより年上だけどリンドウさんより若いです。
年上相手に"さん"を付けない人だけど、一応年齢はわかるはず。
"レディーファースト"と"男女平等"を使いこなす、いい性格の持ち主です。
とまぁ、啖呵を切るのは良いんだが。
相手は顔見知りの神機使い、それも二人がかりである。
おまけに相手は遠慮なく発砲してくるのに対し、こちらは当ててはいけないという制約付き。
射撃に自信がある訳でも無し。さっきのように確実に防いでもらえるという保証がない以上、実質封印プレイと変わりない。
うん、いっそ話し合いで何とかしてくれないかな。
見逃してくれと言われたら秒で食いつくところなんだが。
軽く色仕掛けでもしてくれた日には役得と割り切れるのでなお良し。
まぁリンドウにどつかれるからこんな事言えないけど。
ちらりとアナグラへ通じる通路を覗き込む。
二人の姿はそこにはない。
残念、ここでもたついているようだったら颯爽と現れてロックを解除して差し上げたんだが。
ここにいない以上、どこかの部屋で迎撃すべく待ち伏せしているんだろうなこれ。
まったくどいつもこいつも。
どうしてすぐ武力に訴えようとするんだ。
対話は意思疎通の基本だというのに。
"ペンは剣よりも強し"って名言を知らんのか。
…いや、意外とアナグラの女性陣はすぐ力で訴えてくるな。
ジーナやカノンには撃たれたし、リッカやルーキーには殴られたし。
どうやら大和撫子という文明は消滅してしまったらしい。
おのれアラガミ、許すまじ。
閑話休題、現実に戻ろう。
目の前には探索をしていない大広間への入り口。
一応他の部屋はクリアリングしているので、二人がいるとすればここである。
間違いなく、戦闘態勢を取っている神機使いがここにいる。
手段を選ぶ都合上、まともにやり合えばまず勝ち目はない。
目を閉じてしばし戦術を考える。
「………………………」
よし、イケる。
覚悟は決まった。後は運命に身を任せるだけ。
もっとも、負ける気なんてさらさら無いけどな。
というか絶対負けられないし。
超視界錠60を飲む。
スタミナ活性剤改も飲む。
筋力増強錠90改を飲む。体躯増強錠90改を飲む。
体力増強剤Sを飲む。スタミナ増強剤Sを飲む。
ついでのおまけで強制解放剤改も飲む。
あいにく俺の辞書に"卑怯"、"ズルい"の言葉は無い。
採算度外視、滅多に見せない本気モードでいかせてもらうぞ。
運命とはあらゆる隙間を埋めた上で掴みにいくものだからな。
まぁこれはただの俺の持論だが。
……………………………………………………………………………………………
…ここまでは読み通り。
部屋に足を踏み入れてなお、不気味なまでに静まり返る室内に一人思案を巡らす。
あの二人にとっての勝利条件は何か?
それはただのテロリストとは異なり、
もっと追い込まれでもすればまた違うのだろうが。
現状は一山いくらの神機使い一人に追い込みをかけられている程度である。
犠牲を払って切り抜けるにはまだ早いと俺は睨んだ。
ではその場合に取られる戦術は何だろうか?
一番可能性が高いのは、要所に陣取って二人がかりで射撃戦を仕掛けてくる方法である。
正直これをやられてしまうと、俺にはグレネードでも投げつける以外に打てる手が無い。
近接神機で銃型神機二人の銃撃をかいくぐるのは無理がある。
もしそうなったら嫌だ云々に関わらず、怪我を承知で制圧するより他はない。
その時は申し訳ないが、お互い死ぬよりはマシだと割り切ってもらおう。
次に候補に挙がるのはアリサが奇襲を担当し、サクヤが狙撃で俺を仕留めるというパターン。
俺が予想し、賭けているのはこちらになる。
俺の方は二人を仕留めたい訳ではない。
動きを止め、その隙に口先三寸で丸め込めればそれで勝利条件達成だ。
そしてその相手というのはアリサとサクヤのどちらでもよい。
これは確信というよりただの思い込みだが、きっとアイツらはお互いを見捨てたりなんてしない筈だ。
見捨てるのは俺みたいな奴だけでいいよ。
両親の代わりに生き延びたようなものだし、自分の番が来たと思って割り切れるから。
まぁその話は今はいいや。
銃を突き付けるか、剣を突き付けるか。
到底紳士のやる事ではないが、まぁ今回だけは見逃してもらいたい。
とにかく動きさえ止めてしまえばこっちの物だ。
何にせよ、俺がヘマをしなければ良いだけの話さ。
…とか思ってる間に後ろから物音がする。
やはり背後からの奇襲か。
普段なら聞き逃したかもしれんが、残念ながら今の俺は本気モードである。
それに慣れない奇襲を喰らってやるほどお人よしではない。
…っと、今度は正面にサクヤの姿を捉えた。
いくら一瞬だったとは言え、悪いが今の俺は見逃さない。
だとするとあちらの作戦はサクヤが俺を陽動して、その隙にアリサが後ろから斬りかかるといったところか。
それならサクヤを銃で牽制して動きを止め、アリサにパリングアッパーからの寸止めで勝負ありだな。
うむ、我ながら一分の隙もない完璧な読みだ。
時折自分の才能が恐ろしくなるな。
………
我ながら完璧な読みである。
仕掛けてくる順序こそ逆であったが、まぁそれくらいは誤差だろう。
飛んでくる弾道を予測し、思い切り顔を傾ける。
まぁそうだろうな。胴体はガチガチに固めてるの知ってるだろうし。
専門では無くてもジーナと同じ狙撃型、無防備な頭部を狙ってくるだろうと思ってた。
弾道が頬の隣を掠めたのを認識した後、サクヤに向けて銃口を合わせる。
撃つ気は無いので向けるだけ。引き金は心の中だけで引いておく。
はいヒット、俺の勝ち。何で負けたのか明日までに考えてくるように。
まぁ仮に撃ったところで俺の腕じゃ当たるかどうかわからんが、こういうのは思った者勝ちである。
残るはアリサ。こっちはバレバレなので一々視線を向けるまでも無い。
寧ろアリサを制止するためにサクヤは狙撃してきたのかもしれないな。
神機を肩に担いだまま、装甲を展開して斬撃を受け止める。
うむ、手ごたえあり。我ながら完璧なタイミングだ。
そしてすかさずパリングアッパー。
いつもと違って色々な意味での全力攻撃、アラガミ相手なら中型種でも斜めに両断間違い無しだ。
まぁ今回は寸止めだがな。
俺に仲間を殺すようなヤバい趣味は無い。
サクヤに銃を突き付け、アリサに剣を突き付ける。
生殺与奪を握られた二人の動きが完全に止まる。
ハッハッハ、完全勝利S。
ドーピング?知らんな、勝てばそれでよかろうなのだ。
………
戦闘終了。勝ったので晴れて官軍である。
支部長命令だから負けても官軍だけど、まぁその辺りは気にしない。
サクヤもアリサもどうやら負けを認めてくれた様子。
抵抗の意志は無さそうなので俺も構えを解いて帰り支度を始める。
折よくお薬の効果時間も切れた模様。
別に動けなくなるほどではないが、瞬間的とはいえ全力以上で動いた反動で、早く帰って休みたい程度には体の節々が軋みをあげている。
既に軽い筋肉痛の症状も出始めている。
若い証拠だ素晴らしい。
「…いや、貴方何してるの?私達を殺しにきたんじゃなかったの?」
帰り支度を始めているとサクヤが訝しげな表情で聞いてくる。
そんな訳あるか馬鹿野郎。
いくら支部長命令だからって、本気で仲間を殺そうとする奴なんている訳ないだろ。
大体そっちがそれを言うのかよ。
説得する前に爆発弾撃ってきたのはどこの誰だ。
私じゃなくてアリサだとか言われたら困るので言わないが。
それにあまり掘り返すと俺のやらかしにもツッコまれそうだし。
まぁいい、終わり良ければ何とやらだ。
さっさとアナグラに帰るとしよう。
「もしかして、見逃そうとしてくれてるの?」
いや、お前らも来いよ。
流石に行く宛なんて無いだろう?
さっさと来いと手招きする。
あらやだ、アリサがすっごい睨んでる。
クルリと向きを変えて背中を向ける。
スマンな、シャイだからレディの熱視線には耐えられないんだ。
「…行きましょう。大丈夫アリサ、歩ける?」
「大丈夫ですけど…本気ですかサクヤさん。今更あの人の事を信じるんですか?」
後ろからアリサの疑念全開の声が聞こえてくる。
ちくしょう、最善を尽くしたはずなのに信用度が地の底まで落ちている。
やっぱり現実って厳しいな。
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ここは極東支部の個人部屋。
先日気まぐれで掃除した過去の自分を褒めちぎりながら、お招きしたお客様をお通しする。
本日は生まれて初めてのナンパに成功し、素敵なレディをお持ち帰りである。
それも二人同時。別の意味で両親に顔向け出来ないなこれは。
まぁただのお仕事の都合なんだけどな。
夢見る独り身の戯言なので大目に見てもらえるとありがたい。
話を戻そう。
ここからが大変である。
詳細はどうあれ、二人はアナグラの最高権力者に銃を向けてしまった。
普通に考えれば営倉云々どころの話ではない。
指名手配されるのは間違いないし、腕輪をしている以上は
おまけによしんばうまく隠れたところで、今度は偏食因子の投与期限という爆弾が付いて回る。
神機使いの犯罪者がゼロに近いのはこれが理由だ。
逃げ切るのはまず不可能なうえ、自首しなければそう遠くない内にアラガミ化するだけ。
なので二人を生かすというのであれば、まず初めにこの二つをクリアする必要がある。
そこで腕輪の追跡を振り切るためにひとまず俺の部屋に匿う事にした。
いくら居場所がわかると言っても大雑把な座標ベースの話なので、流石にアナグラの何処にいるのかまではわかるはずがない。
偏食因子の投与については俺が任務でたまに使用する携行タイプの投与キットで代用する。
あくまで当座の凌ぎではあるものの、アーク計画の兼ね合いもあるので尽きる前にはどちらにしろ決着が付くだろう。
後は念のための保険として、支部長に
とりあえず現状打てる手はこんな所か。
あぁそうだ、ルーキー達にはどう伝えたものか。
俺も女だったら話は楽だったのだが。
事情はどうあれ、自室で女性二人を侍らせている状態である。
見られた日には言い訳無用で下衆野郎扱いされても文句を言えない状況である。
誤解されないよう、ある程度は事情を話しておく必要がある。
既にアリサからの信用度が地の底なのだ。
さらに底に穴が開くような事態は避けたい。
「助けてもらえた…ってことでいいのかしら?」
紅茶で一息付けたのか、先程よりもずっと落ち着いた口調で質問してくるサクヤの声で閃いた。
そうか、サクヤの口から説明してもらえばいいのか。
よくよく考えてみれば、俺もどうして二人がエイジスに潜入していたのか知らないしな。
隣で話を聞いていれば俺への説明も省けて一石二鳥である。
そうと決まればポパピプペっと。
ルーキーさん御指名です。
スピーカーモードで通話アプリを起動すると、そのままサクヤに端末を手渡した。
本編と違い、ここで初めてリンドウの話を聞いて曇る無口さん。
支部長への信頼度が博士の若干下になりました。
人間不信になりそうですね。