無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A1.ノーマルEND。
トゥルーENDの条件は誰一人としていなくなってはいけない。
この世界線では初期にエリックさんが…
Q2.仲良かったの?
A2.相性○。
ソーマとも華麗に仲良くできる人なら、当然この人に対しても関係良好。
Q3.マスク・ド・オウガじゃダメですか?
A3.幽霊とみなされます。
最後を知っているのでマスク被ったくらいではNG判定。
そう言えばこの後それに近い人が出てきますね。
-…ペイラー、頼みがある。-
既に異形の身体と化した友人から、最後とばかりに声をかけられる。
-ある神機使いからの要望だ。本当は私が対応すべきだったのだが…ご覧の有様だからな。-
「神機使い…もしかして例の猟犬君の事かい?」
既に息も絶え絶えながら。
それでもなお言葉が続けられる。
-猟犬か…犬どころか、蓋を開ければとんだ得体の知れない人物だったがな。-
「その様子だと、私の知らない所で一悶着あったようだね。その割には嬉しそうなのが気になるが。」
得体の知れないと評する割には、その声に不快の色は見られない。
-何、私の覚悟を再確認させてくれたというだけの話だ。それに気になると言えばペイラー…一体どんな手管で彼を飼い馴らしたんだ?-…
「飼い馴らしたとは人聞きの悪い。単に彼の望むものを提供しただけさ。」
-その割には欠片も信用されていなかったみたいだがな。-
「それは…」
慣れている、と言いたいところだが。
如何せん今このタイミングで言われると色々勘ぐってしまうものがある。
何しろまるで
当の本人はこの場におらず、何か画策でもされていようものなら完全に打つ手なしの状況だ。
-そう不安がるな。彼なら今頃、外部居住区で戦っている事だろうさ。-
「外部居住区?何故そんなところに…彼は君の計画に賛同していたのでは?」
終末捕喰が始まればどうなるかなど、今更説明するまでもない。
にも拘らず、どうしてこの期に及んでそのような場所で戦っているのか。
-私が説明してもいいが…せっかくだ。気になるなら彼に直接聞いてみるといい。-
「言葉を喋れない彼に、かい?」
そうだ、と端的な答えが返ってくる。
面影すら変わり果てた彼だが、その表情は心なしか意地悪げに微笑んでいるようにも見える。
どうやら真意を説明してくれる気はないようだ。
-…柄にもなく喋り過ぎた。最後だペイラー、彼からの要望を伝える。-
間際を悟り、会話を打ち切ってヨハンが最後の言葉を述べる。
"今期の査定を期待している"と。
予想だにしなかった神機使いからの言葉を口にして。
友人だったアラガミからの反応は潰えた。
………
「…なるほど。彼は彼で、最後まで望みを捨てていなかったという訳か。」
終末捕喰が起きれば地上の全てはリセットされる。
船に乗って逃れない限り、彼の望む未来が訪れる事はあり得ない。
だからこそ彼は皆を生かす選択をしたのだろう。
かつてヨハンがそう決心したのと同じように。
特異点を手に納めて終末捕喰を完成させ。
故に資格無しと箱舟に乗る事を拒絶して。
その上で
文字通り奇跡と呼ぶに相応しい未来を夢見て、最後まで滅びゆく世界のために戦った。
文字通りの全身全霊。
地位や富はおろか、名誉や己が身体に至るまで。
余すことなく全てを賭して。
そして彼は賭けに勝利した。
ならばこそ。
「当の勝者が眠ったままというのは、些か締まりが悪いと私は思うのだがね。」
目の前で眠り続ける神機使いを前に、誰に聞かせることも無くそう呟く。
私は神が人となる事に賭けてヨハンに敗れた。
ヨハンは終末の到来に賭けて彼女たちに敗れた。
彼だけが、己が望んだ未来を完璧な形で手に入れた。
いつ起こるかわからない終末をあえて引き起こし、その上で滅ぶはずの世界を守り通した。
ならば彼には勝者としての義務がある。
死ぬことはもはや許されない。
望む世界を手に入れた代償として、次の世代をその身で紡いでいかなくてはならないのだ。
「何、身体の事を心配することは無い。この私が全霊をもって、君を以前と変わらぬ様子に治して差し上げよう。」
私はスターゲイザー、星の観測者。
人間一人の命の行方を見通せずして、どうしてそのような肩書を背負えようというものか。
「それと…今期の査定と期待していると言ったね。」
観測者が妖しく微笑む。
打算や策を弄するような時に浮かべる物ではなく、よくぞ頼ってくれたと言わんばかりの喜びを込めて。
「期待したまえ。文字通り、金銭などでは賄えない程の価値あるものを、君のために用意しよう。」
そうだね、とりあえずは…
いつの世も、世界を救った英雄にはそれに相応しい武具が授けられると相場は決まっているのだから。
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ここは極東支部の救護室。
一人部屋というには大きすぎる空間だが、相も変わらず俺一人の貸し切り状態である。
身体の方は経過も順調。
正直言えば明日にでも前線復帰しても大丈夫な気はするのだが、如何せんここ数日の生活が快適過ぎた。
黙っていても食事はきちんと用意されるし。
働かずに一日中ゴロゴロしてても文句は言われない。
三食おやつに昼寝付き。いつか夢見た理想郷がここにある。
寧ろこれで堕落しない方が人としてどうかしているというものだ。
これでは元上官の事を言えないな。
今ならあの人が早く隠居してのんびりしたいと言っていたのがわかる気がする。
本を読みながらまったり過ごし。
お茶を飲みつつ微睡んで。
酒を嗜んでるのを見つかってルーキーに殴られた。
…いや、酒くらい飲んだっていいだろ。
こんな生活、半分休暇みたいなものだし。
お前は俺の母親か。
ハハッ、ナイスジョーク。その胸で子持ちとは笑わせる。
せめてアリサくらいになってから出直してこい。
言ったら二人がかりでボコられるだろうから言わないが。
「殴っていいですか?何か不愉快な事を考えている気がするんですけど。」
「リ、リーダー、お見舞いに来ているのにそれは流石に…」
ふざけんな、心を読むとか反則だぞ。
それともこれが噂の感応現象というやつか?
「アリサも何か思う所は無い?」
「…まぁ以前銃で撃たれましたし、一発くらいなら…」
そう言えば信頼度が地の底だったな。
残念ながら匿ってあげたくらいでは特に回復しなかったらしい。
とりあえずナースコールを鳴らして助けを求める。
ナースが来たのは散々殴られた後だった。
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ここは極東支部のとある場所。
立ち入り禁止区画であることに目を瞑れば、月見をするには最適な、最も空に近い場所。
ルーキー達から全てを聞いた。
あの後何があったのか。
終末の日の最後、シオはいったいどうしたのかを。
結果だけ掻い摘まんで言うとシオは月へと飛び立ち、そこで終末捕喰を起こしたらしい。
地球は特異点が引き起こした災厄から無事逃れ、今なおその歴史を歩み続けている。
「………………………」
緑色に染まる月を見ながら缶コーヒーに口付ける。
砂糖やクリームは入っておらず。ただ苦いだけの安物のコーヒー。
酒でもお茶でも、今の気分には合わないと思ったから。
-たべたくないから。シオ、たべたいものだけ"イタダキマス"したい。-
…よりにもよって、最後に言った言葉がそれか。
確かに好き嫌いに対しては何も言わなかった。
だが、まさか一人きりになると分かったうえでそれを押し通すとは思いもしていなかった。
まったく、我ながら情けない話だ。
子供にこんな我慢を強いてしまったなどと、恥ずかしくて両親に顔向け出来ないな。
ただ、まぁ。
生きてて、良かった。
終末捕喰を引き起こそうとした俺にそんな事を言う資格は無いが。
親の仇とアラガミを皆殺しにしようとしていた俺にそんな事を言う資格は無いが。
それでも、なお。
生きててくれて、本当に良かった。
…ただし。
独りぼっちになる事を受け入れてまで好き嫌いしていいとは言っていない。
イヤならイヤだとはっきり言えと、少なくとも俺はそう言ったつもりだ。
あの時に言ってくれていればまた違う結果になったものを。
悪い子だぞシオ。今度会ったら説教の一つもしてやらなくちゃな。
-だから…-
次会う時まで、元気でな。
これにて一区切り。
数話挟んでから時系列が進む予定。
ちなみに新型神機にはならない予定。
理由はこの人壊すから。