無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.頑張れコウタ君。
残念ながら男が三人集まってもかしましくはなれません。
-Side_コウタ-
今日は榊博士主催の食事会。
何でも無事終末捕喰を乗り越えたのを境に、ここらで一つ親睦会をしないかという話。
んで女性陣は榊博士が手配した食材を使って料理の準備。
その間に男性陣はラボラトリで各種準備をしているという訳なんだけど…
「………………………」
「………………………」
いや気まずすぎるだろ!
よりにもよって何でこの二人を一緒の役割に割り振ったんだよリーダー…
ソーマはソーマで不機嫌そうな顔してるし、この人はこの人で相変わらず無表情で何考えてるかわかんないし。
というか一緒になった俺が一番キツイ。
「そ、そういやさー。今回の食事会の料理、博士が地下プラントで量産に成功した野菜をたっぷり使うって話なんだけど…」
沈黙に堪えかねて何とか話題を振り絞る。
「俺、新鮮な野菜なんて久しぶりに食べるからなぁー。勢い余って二人の分も食っちゃったらゴメンねー、なんて…。」
「………………………」
「………………………」
窄まる語尾にも二人の反応はない…あ、いや。
ユウマさんが手を止めないまま、何も言わずにこっちを見ている。
いつも通りの感情の読めない鉄仮面。
そこに填め込まれている青い瞳が、真っすぐこっちを凝視している。
…いや、怖いよアンタ!
その視線は何だよ。思う所があるなら何でもいいから言ってくれよ。
この際ソーマみたいな毒舌でも構わないからさ…
内心懇願するも虚しく、室内は変わらず沈黙に包まれたまま。
ダメだ、もう堪えられない。
こんな空間に長居してたら、親睦会の前に俺の心が先にやられてしまう。
「あ、あーっ、そう言えば結構時間も経ってるし、そろそろ料理が出来ている頃合いかなー?」
「………………………」
「………………………」
相槌一つ返ってこないが、今度はソーマが何だと言った感じにこちらを見てくる。
我ながらわざとらしい言い方だがこの際そんな些細なことを気にしてなどいられない。
「も、もしかしたら運ぶのに苦労してるかもしれないし。俺、ちょっと様子見て来るよ!」
言うが早いか、手に持った食器類を近場の机に置いてそそくさと部屋を後にする。
「…サボりやがったなアイツ。」
部屋を出る直前、後ろからそう呟くソーマの声が聞こえた。
そう思うならもっと会話を続けろよ!
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-Side_ソーマ-
「丁度いい。テメェに一つ言いたい事がある。」
何時切り出したものかと考えていたが。
コウタが居なくなったのはいいタイミングだった。
ここには俺とコイツの二人だけ。
聞かれると色々面倒なメンバーは今はいない。
「シオがここから連れ去られた日…手引きしたのはテメェだな?」
ピタリ、とその言葉に神機使いの手が停止する。
が、構う事無く言葉を続ける。
どうせ言葉が喋れない相手だ。
返事なんざ待つだけ時間の無駄だろう。
「はっきり言っておくが、俺はテメェを許しちゃいねぇ。シオをあんな目に合わせてくれた、クソ親父の手先の事なんざな。」
コイツはあくまで一介の神機使いに過ぎないというのは分かっている。
俺とは違い、親父に本気で命令されれば否が応にも従わざるを得ない立場の人間であることも理解している。
だがそれでも納得出来ない怒りというものはある。
一言紡ぐ度に腹の底から怒りが湧き上がってきているが、出来る限り感情を抑えながら話を続ける。
「親父はあの日俺たちがぶっ飛ばしてやったが…正直、テメェの事も箱舟から戻ってきたらそのまま叩き返してやるくらいの気持ちでいた。」
…が。コイツは空に上がっていく船の中にはいなかった。
助かる資格は持っていたにも関わらず、わざわざ沈みゆく船の上に残っていやがった。
「…何でだ?何で、他の奴らのように逃げなかった?」
俺達がクソ親父と戦っている間。
俺たちと同じかそれ以上に、コイツは身も心も限界まで酷使して戦い続けていた。
まるで自分に助かる資格は無いと言うかのように。
あのクソ親父が、死ぬ間際に言っていたのと同じように。
もしかして罪悪感の一つでも感じていたのか?
そんなもの親父に罪を擦り付けて、構う事無くとっとと空へ逃げ出してしまえばよかったのに。
問いかけた言葉に対する回答は無い。
出会った頃と何一つ変わらない、青い目を浮かべた無表情が、ただただこちらを見つめている。
「…まぁ、別に答えが返ってくるとなんざ思っちゃいないがな。」
元よりコイツが何か話すであろうなんて事は期待しちゃいない。
何一つ疑問は解消しちゃいないが、潮時だろうと会話を打ち切る。
「だが、次からは誰かに相談くらいしやがれ。お得意のレポートでも何でも、口が聞けなくても伝える手段はあるだろ。でなけりゃ…」
-次にやった時は、遠慮無くぶちのめすからな。-
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-Side_部隊長-
いやぁ驚いた。
まさかあのソーマから"誰かに相談しろ"なんて諭される日がこようとは。
何で逃げなかったのかと聞かれて、どう答えた物か考えている矢先にこの言葉である。
多少お前に言われたくないと思わなくもないが、そこはまぁ気にしないでおこう。
しかし、あのソーマがねぇ。
"俺に関わるな~"とかよく言ってたあのソーマがねぇ。
昔のコイツを知っている身とすれば中々に感慨深い。
あんなに人間嫌いだったソーマが、誰かを頼れと提案するまでになるなんてな。
正直弄りたい。
やったが最後、遠慮無くぶちのめされる未来しか見えないのでやらないが。
それでも、うん。
成長したなソーマ。
確か極東じゃこういうのを後方保護者面と…あぁいや、保護者じゃなくて兄貴だな。
俺若いし。ソーマとそんなに歳変わらないし。
でもまぁここは一つ、年長者としてちゃんと褒めといてやるよ。
手を伸ばし、
ガシガシと、まるで大人が子供を褒めるかのように。
「………………………」
「………………………」
…あ。
しまった、やっちまった。
思いっきりシオにやってあげてた時の癖が出てしまった。
「………おい。」
ソーマからドスの効いた声が漏れる。
うん、滅茶苦茶キレてる。怖すぎてお兄ちゃん泣いてしまいそうだよ。
ぶちのめすとか言っていた時の百倍は殺気が籠ってるなこれ。
「テメェ、一体何の真似だ?…まさかとは思うが、俺をシオと同じに扱ってるんじゃねぇだろうな?」
くそっ、勘が鋭い。
いやわざとじゃないんだ。ただ手が滑っただけなんだ。
マズイ、上手くごまかさないと冗談抜きにぶちのめされる。
何か、何か上手い言い訳は…
いや無理だろこれ。
ここから巻き返せる詭弁があるなら是非ともお目にかかりたい。
ちくしょう、せっかくこれから美味しい物を食べるって話だったのに。
たった一つの失態のせいで軒並み鉄臭い飯を食う羽目になろうとは。
現実って厳しいな、と諦めかけたその時。
入り口のドアが開いて誰かが部屋に入り、目の前の光景を見て一言漏らした。
「…兄弟かな?」
「ッ!?」
ボソリと呟くように漏らされた声に、ソーマが驚きと共に顔を向ける。
「ヤベッ」と口を押えて顔を反らすコウタがそこにいた。
………
-見てないっ!俺、何も見てない事にするからっ!-
-うるせぇ!テメェ待ちやがれ!-
部屋の外の廊下を二人の声がフィードアウトしていく。
ふぅ、何とか運良く事なきを得られた。
おかげで無事美味しい料理にありつけそうだ。
これも日頃の行いの賜物、神様の思し召しというやつだな。
もっとも、その荒神様に俺の両親は喰われてるが。
ハハハ、冗談冗談。ブラックジョーク。
それにしても神様とアラガミがたった一文字の違いしかないとは、つくづく極東の文学は不思議である。
まぁそれはいいや。
何にせよ危機は去ったし、あとは料理が届くのを準備して待つだけである。
「………………………」
…準備して待つだけである。まだ準備できてないけど。
そして準備担当の内二人は今部屋のお外で鬼ごっこに興じている。
え、俺一人で残り準備するの?
損な立ち回りは年長者の役目。
自業自得とか言ってはいけない。
もう少し間に小話を挟む予定です。