無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
無口さんの暗い失敗談。苦手な場合は読み飛ばして良し。
Q1.この人にとって仲間とは?
A1.家族のような繋がりのもの。
Q2.アラガミが家族や仲間を奪うのは?
A2.許さないし許せない。
Q3.リンドウさん取り込んだハンニバルは?
A3.アラガミです。
絆というものは時として血の繋がりよりも濃くなっていくもの。
どこぞの黎明卿も似たような事を仰ってるので間違いありません。
叫びと共にアラガミの背中から鮮血が吹きあがる。
当然だ。こんな馬鹿みたいに隙を晒しているのに、リンドウに襲われない訳が無い。
流石のお前も、無防備な背中を喰い千切られるのは効くだろう?
俺が右腕を押さえている間にリンドウが背中からアラガミを喰い破る。
アラガミもようやく生命の危機を感じ始めたのか、リンドウを振り払わんと獣のように暴れに暴れ、やがて俺とリンドウの二人を振り払う。
アラガミの狙いはリンドウ。
弱った獲物を仕留めるよりも、自身を脅かす脅威の排除を優先する模様。
先程も見せた神速のタックル。
それを繰り出すべくリンドウの方へ向き直って…
-グギャアアアアァァァ!?-
リンドウが切り裂いた背中の傷を抉られて再び咆哮が轟く。
この瞬間を待っていた。
まったく本当にわかりやすいバケモノだ。
確かに俺の神機じゃ致命傷は与えられない。
だがそれはあくまで致命傷になる程の深い傷を与える事は出来ないという意味。
既に深い傷が付けられているというのであれば。
そこからコアを抉り出せば適合率が低くてもアラガミを絶命させることができる。
抉る、抉る。アラガミが叫び、暴れるが好都合。
やはり図体ばかりで記憶力の方は大分お粗末らしい。
リンドウの剣は普通に突き刺さる事をもう忘れたのか。
というわけで。
分かっているなリンドウ君。
再び宙に咲く鮮血の花。
同時に背中からも大きな大輪が花を咲かせる。
前からは喉を剣で貫かれ。
後ろからは心臓を引き抜かれて。
後日"不死のアラガミ"と呼ばれるその変異種はようやく息絶え、地に伏した。
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勝った。
生き延びた。
リンドウも俺も死んじゃいない。
満身創痍だが勝ちは勝ちだ。
ざまぁみろバケモノめ。
極東の古参兵を甘く見るからこうなるのだ。
流石にもう限界だけどな。
今ならオウガテイル相手でも勝てる自信が無い。
幸いというかアラガミの反応は近くになさそうだが。
まぁあんなバケモノが闊歩してたんだから当然か。
リンドウは…律儀にコア回収しているな。
普段の任務には結構適当な感じだって言うのに。
こういう時にはちゃんとするとか。
意外と根は真面目だったんだな。
とりあえず人の形は保っているようで何よりだ。
何だかんだで共闘出来たし、
それにしても、完全にアラガミ化して自我を失っているものと思っていたんだが。
リンドウの意識が残っているなら何の問題も無い。
見た目はちょっとアラガミ化しているが…まぁ見ようによってはカッコいいから気にするな。
今なら十分間に合う。
完全に元通り治す事はまだ無理でも、自我を失ってる畜生から戻すよりかは遥かにたやすい筈。
それに生きていると分かっただけでも残されている人間は安心するのだ。
サクヤは泣き崩れる様が目に浮かぶな。
ツバキ教官は多分エレベーターかどこかで人目を忍んで泣くんだろうな。
ソーマはフードで顔を隠しながら微笑んでそうだな。
別に嬉しがるのは恥ずかしくないんだし、その時は是非とも皆の前でフードをひん剥いてやらなくては。
コウタは思いっきり感情を露わにして喜びそうだな。
ルーキーは逆に穏やかに尻尾ブンブン振ってそうだな。
他の面子にしてもリンドウの帰還を喜ばない人間は一人もいない。
そうじゃない人間?色々あって皆いなくなっちゃった。
まぁその話はおいおい…俺?請求書が無駄にならなくて何より。
利子付きでしっかり払ってもらうからなハッハッハ。
さて、そろそろ戻ろうか。
多少なりとも体力は回復したし、長居してられるほど余裕でもない。
帰るぞリンドウ、アラガミはもう十分だろう。
帰って皆で美味い食事でも…
…リンドウ?
先程までアラガミを貪っていたリンドウが、いつの間にか地面に四つん這いになっている。
慌てて駆け寄り声をかけると、虚ろな瞳を浮かべた表情でこちらに向けて口を開く。
「…あぁ、お前さんが手伝ってくれたのか…」
…突然何を言っている?
手伝うも何も、さっきまで一緒にこのバケモノとやり合っていたじゃないか。
答えようとした次の瞬間、突然リンドウが右腕を押さえて苦しみだす。
一瞬、リンドウの右手の甲に浮かぶコアのようなものが青白く光ったものの、直ぐに光を失ってリンドウの呼吸が荒くなる。
「ふぅ…くそっ、ここまでか…」
…は?
いや待て、何を言っている。
まるで意味が解らんぞ?
ここまで?馬鹿を言うな、これからだろうが。
その冗談は欠片も笑えんぞ。
これから生きて帰るんだよ。
不吉だからまるで死ぬみたいな事を言うな。
頭が理解を拒絶する。
諦めたように呟かれた言葉に思わず反論するも、独り言のようにリンドウは言葉を続ける。
「畜生……」
リンドウがゆっくりと天を仰ぐ。
こちらの言葉などまるで聞こえていないかのように。
「生きてぇな……」
「…っ!」
ついに脳が言葉の意味を理解し。
同時に感情が爆発する。
「テメェ寝ぼけてんのか!生きて帰るって…さっきから言ってるだろうが!」
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胸倉を掴みあげ、溢れた言葉のままに怒鳴りつけた。
ふざけるなと。聞いているのかと。
荒々しい語気に対する反応は無い。
既にリンドウの目は俺の姿を捉えておらず。
ただ漏れ出るままに言葉が紡がれていく。
俺にこの場を離れろと。
俺の事は放っておけと。
ふざけるな。何を好き勝手な事をほざいてやがる。
それとも俺がそこまで薄情な人間だとでも思っていやがったのか。
指を動かすのも億劫だった身体で、怒りに任せてリンドウの胸倉を締め上げ怒鳴る。
死ぬなというのがお前の口癖だろうと。
数だけじゃなく自分の口癖までわからなくなったのかと。
怒鳴る。怒鳴り続ける。
それでも声は届かない。
「聞こえなかったのか!?さっさとここから立ち去れ!!」
「聞こえなかったかは俺の台詞だ!!テメェも一緒に帰るんだよっ!!」
力づくで引き摺ろうとするものの、疲弊した身体は抵抗に抗えずあっさり振りほどかれてしまう。
それでもなお語気を衰えさせることは無く、どちらも聞く耳を持たないまま一方的に己の主張をぶつけ続ける。
「早くしろ!今すぐここから…逃げるんだっ!!」
「煩い黙れっ!!俺はテメェの部下になった覚えはねぇ!!」
仲間だろうが。見捨てられる訳ないだろうが。
それなのに俺にもう一度、親を喰われたあの日を繰り返せとほざく気か?
ぶちのめすぞテメェ!!
「上官でも何でもないくせに…俺に、
もういい。
こんな馬鹿の戯言には付き合ってられん。
引き摺るどころか、二人して這いずってでも。
無理やりにでも連れ帰ってやる。
力づくに訴えようと、今一度リンドウの胸倉を掴み直すために手を開く。
…次の瞬間、瀕死の人間とは思えない力で身体ごと吹き飛ばされ。
リンドウがアラガミに変わっていく様を見てしまった。
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ここは通称"鎮魂の廃寺"…の外れにある廃民家。
建物の奥の突き当り。
比較的綺麗な一室まで辿り着いて崩れ落ちる。
…失敗した。
失敗した失敗した失敗した。
やらかしたしくじったヘマをした。
見てるしかなかった。
逃げるしかなかった。
あれだけ助けると息巻いておいて。
あれだけ生きて帰ると息巻いておいて。
助けられなかった。
喰われてしまった。
あの日のように。あの時のように。
赤く染まらず。ただただ黒く。
何故だ?何がいけなかった?
何処だ?何処でしくじった?
もっと早く探しにくればよかったのか?
もっと装備を整えてくればよかったのか?
運が悪かった?
いいや違う、全て俺のミスが原因だ。
タイミングが悪かった?
いいや違う、全て俺が行動を起こすのが遅かったのが原因だ。
…今なら、無かった事に出来るか?
元々考えていたように、治療薬が出来るまで時間を稼ぎ続ければ…
無理だ。
それをやるには、俺はもう痕跡を残し過ぎた。
身体も装備も、神機までもボロボロで。
おまけにそのどれにもあのバケモノの返り血がこびりついている。
バレる。隠しようがない。
誤魔化すのは無理…じゃあ全員の口を封じれば…
駄目だ。それは誰一人として望んでいない。
リンドウも、アイツらも、俺だって。
本末転倒、何一つ望んだ結末に至れない。
「………………………」
ハハッ、ざまぁない。
文字通り、八方塞がりで詰みというやつか。
何だ。結局あの日と同じ結末か。
指一本どころか、五体満足に動いた所でこのザマじゃないか。
良い大人が聞いて呆れる。俺はまだまだ若いけど。
何しろあの日からまるで成長出来ていないと証明されてしまったしな。
両親の生暖かい笑顔が目に浮かぶようだ。
お前はあの日から何も変わってはいないのだなと。
フフフ。フフハハハ。
アハハハハハハハハハハハハ。
浮かんだ笑顔が良い笑顔過ぎて。
思わず俺まで笑ってしまうな。
ハハッ…ちくしょう。
ちくしょうっ、ちくしょう、畜生、畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生ォッ!
その面、絶対に忘れんぞ。
持ち上げてから叩き落とされたので抵抗失敗。
SAN値チェックのお時間です。
・仲間がアラガミ化する瞬間を直視する。(1d6)
・残酷な現実を理解する。(1d5)
・自分のミスで友人を失う。(1d5)
・酷い自己否定に囚われる。(1d3)
・トラウマフラッシュバック(1d2)
減った分はちゃんと回復します。
安心ですね。