無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A1.喋れるのでしない。
Q2.何でもわかるリッカちゃん?
A2.知ってる事だけ。
久々登場のルーキーちゃんの本名。
※ただしタイトルだけ
「やっぱりおかしい。あの人、絶対何かを隠してる。」
無口な部隊長が置いていったお菓子を頬張りつつも、疑惑の表情でリッカさんがそう告げる。
「このお菓子にしたってそうさ。別に今まで無かったって訳じゃないけれど、何時もなら自分も一緒になって食べるのに今日に限って置いてくし。」
言われてみれば妙な説得力だ。
あんな雰囲気に似つかわず食べ物に弱いあの人が、自分の分も碌に食べないまま立ち去ってしまっている。
まだ結構な量が残っているクッキーの一つに口を付ける。
サクリ、と軽い歯触りの後に程よい甘みが舌の上に広がっていく。
うん、美味しい。
今日のお菓子は一段と上物だ。
たまにとんでもないハズレが混じってたりするので油断は出来ないが。
リッカさんも同じ物を食べてはいるけど、彼女の味覚もちょっと怪しいので安心は出来ない。
以前それで酷い目にあった事は生涯忘れる事は無いだろう。
それはともかく、リッカさんの愚痴が止まらない。
口と連動しているのだろうかクッキーを食べる手も止まらない。
サクサク、サクサクと。
まるでリスのような食べ方で、見ている分にはちょっと可愛いのだが。
「そんなに疑わしいならいつものように身体に聞いてみたらどうですか?」
「ちょ、変な言い方しないで!それに私、そんなに毎回力づくで聞き出したりしてないから!」
またまた御冗談を。
さっきだってレンチをペシペシしてたじゃないですか。
からかい半分に真似してあげるとリッカさんが可愛らしい唸りを上げる。
良い笑顔なのでもう少し続けてあげましょう。
…調子に乗って続けた結果、ついに堪えかねたリッカさんに逆襲とばかりに頬をむにむにつねられてしまった。
………
「痛た…酷いなぁリッカさん。ちょっとしたスキンシップじゃないですか。」
「酷いのはキミだよ。人を面白がってからかうなんて…もう神機のメンテしてあげないからね。」
しばらく二人でじゃれ合った後。
ふくれっ面のリッカさんに怒られてしまったので素直に謝る。
他愛の無いスキンシップではあるけれど。
こういう風に区切りを付けるのは大事な事だ。
何しろ
楽しくてついさっきまで忘れてしまっていたけれど、思い出せたのでセーフという事にしておきましょう。
「さて、遊ぶのはこれくらいにして…リッカさん、私が呼ばれたのは"あの人に探りを入れてほしい"って頼むためという事で合ってます?」
先んじて予想を切り出して見たところ、一瞬間を置いてから彼女が頷く。
心なしか"忘れてた"みたいな表情をしてましたが、まぁ見なかった事にしておきましょう。
「うん。探るっていうのは少し言い過ぎかもしれないけど…あの人が何か隠してるのは間違いないからね。」
きっぱりと強い意志で断言される。
彼女は普段から物事をはっきり口にするタイプの人だけど、今回は殊更はっきりとした言葉で述べる。
「立場的に内緒にしなきゃいけない事もあるっていうのは分かるし、本当は気付いていない振りをしてあげるのが正しいのかもしれない。…でもさ、その結果がこの前のやらかしだからね。」
「あぁ、私だけがのけ者にされてたあれですね。」
苦笑しながら話すリッカさんに意地悪く言ってみる。
「ゴメンって」と困り気味に返してくるリッカさんに思わず私もつられて苦笑する。
「だから今回だけはこっちからもアプローチさせてもらうんだ。もっとも、本当に立場的に内緒にしなきゃいけない話とかだったらごめんなさいしなきゃなんだけど。」
「大丈夫ですよ。その時は私の方で握り潰しておきますから。」
そう言ってギュッと右手を握り締める素振りをしてあげる。
内緒話というものはそういうもの、洩れなければ何も問題は無いのだ。
苦笑いの向き先がこっちになった気がしますが、多分気のせいでしょう。
まぁそれにしても。
「あの人も難儀な人ですよね。主に難儀しているのは私達の方ですけど。」
確か専門的には失語症と言うのだったか。
身体的な理由からではなく、精神的な問題から言葉を発する事が出来なくなってしまう心の病。
軽度であれば多少の吃音程度に留まるそうなのだが、重度になると文字通り言葉そのものを発する事が出来なくなる。
酷いものでは本人が会話をしようと口を動かしているにも拘らず、声だけが出てこない症例すらあるらしい。
彼のケースは明らかに重度の方。
さらに声だけでなく、感情を表現するための表情すら"鉄仮面"と評されるほどの無表情に冒されている。
言葉を話さず、喜怒哀楽の感情すら顔に表れない。
青い瞳のみを携えて、こちらを値踏みするかのように真っすぐ視線を向けるのみ。
…まぁ、これだけを言うなら重い何かを背負っている人という評価だけで終わるんですけど。
「言葉を喋れないというのは仕方がないと思うんだけど…それならそれで筆談とかでも構わないのにね?」
「何かそれはイヤみたいですよ。理由は知りませんけど、以前紙とペンを渡したら"そんな物に頼るな"って書かれましたから。」
「そのやり取り、昔何かの雑誌で見た事あるよ。」
そう。
確かに言葉は喋れないのだが。言葉を
確かに感情は現れないのだが。感情を
褒められれば喜ぶのだろう。貶されれば怒るのだろう。
何かを失えば悲しむだろうし。楽しむ時は…多分飲み食いしている時だろう。
言葉を知り、感情がある。
だからこそ、間違いなく。
「あの人、絶対に言葉を喋れない事を悪用していますって。今回の件にしたって、バレた所で喋れないから別にいいやとか思ってますよきっと。」
「あぁー、それはありそう…実際この前もあの人に聞き出した時相当苦労したからね…」
自分の心身と上手く付き合っていると言えば聞こえは良いが。
何の事は無い、喋れないという事実を体よく使いこなしているだけである。
出来るけどやらないのだ。何故ならその方が楽だから。
そのくせそれに至った経緯だけは触れるのも禁忌な程重いのだから性質が悪い。
「ちなみにレンチで聞き出したって言ってましたけど、自白出来ないのにどうやって問い質したんですか?」
「疑わしい事を一個一個質問していくんだよ。YesかNoかでほんのちょっとだけ反応が変わるから、それを元に当たりを付けていくって感じかなぁ。」
まさかのQA形式。
てっきり力づくで証拠を奪い取っているのかと思っていましたが。
しかも読み取り方は嘘発見器と同じ原理。
物的証拠の強奪ならまだしも、流石にこれは真似できないですね。
「だから今回のようにこっちが当たりも付けられないような、全く知らない情報については聞き出すことが出来ないんだ。」
言いながらリッカさんがお手上げのポーズを取る。
確かにその方式ならヒントも何もない状況では質問自体無意味である。
なるほど、だから私に声をかけてきたのか。
問い質せるだけの情報を調べてきて欲しいと。
理解出来た所で話を戻し、承諾の意志を伝える。
「苦労を掛けるね」と感謝と共に告げられましたが、それはあの人のせいでもあるので気にしません。
とりあえず、しばらくはあの人がミッション行くときに同行してみましょうか。
………
それにしても重ね重ね、あの人も面倒な人である。
秘密を話してくれるかどうかはさておき、仮に喋れるというなら一言二言発するだけでも円滑なコミュニケーションが図れるというのに。
その事についてはリッカさんもウンウンと私の意見に完全同意してくれる。
呼ばれた本題も済んだ今、お互い余暇を満喫するように雑談に華を咲かせます。
「言葉ねぇ…あの人、どうすれば喋ってくれるかな?」
「案外"ちゃんと喋ってください"って言ったら普通に喋り出すかもしれませんよ?」
「あっはっは、まっさかぁ!」
私の提案に声を出して大笑いするリッカさん。
そんなに笑わなくてもいいじゃないですか。
まぁ、普通に皆そう思いますよね。
もし喋れの一言で本当に喋り始めたら下手な喜劇より笑い話ですし。
でもこればっかりは文句を言っても始まりません。
何時になるかわかりませんが、時間が解決してくれる事を祈りましょう。
ルーキーちゃんが付いてきた理由。
無口さんと同じくウロチョロできる権限持ち。