無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~   作:猫丸飯店

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Q1.頭がある?
A1.Yes。

Q2.手足がある?
A2.Yes。

Q3.つまり人?
A3.Nein(いいえ)。

人じゃないので論理的にセーフ。



無口な無口な偏食記3

接触禁忌種。

その危険性から一般の神機使いは接触を禁じられているという危険な存在。

正確には第一種と第二種が存在しており、危険度の違いはあれど、基本的には一般の神機使いが遭遇しないよう秘密裏に討伐されるのが常である。

 

今回のお目当てである蟹もどきは危険度の高い第一種の方。

 

正直一人でやり合うのは面倒な相手ではあるのだが。

あいにくソーマとはまだ気まずい感じが抜けてないので声をかけるのは諦めた。

 

だってアイツ俺の事睨んでくるんだもの。

あのクソトカゲのお礼参りに誘おうとした時もすっごい訝し気な目でこっち見てきたし。

 

まったく根に持ち過ぎだぞお子様め。

古参のくせに優秀な神機使いには記憶力の欠如が必要だというのを知らんのか。

 

誘えなかったものは仕方が無いので諦めてソーマ抜きでの戦術を組み立てる。

 

ソーマと違って俺は真正面からやり合えるだけの体力は無いからな。

とりあえず何とか後ろに回り込んで…

 

-チョイチョイ-

 

不意に肩をつつかれたのでそちらの方へ視線を向ける。

フフンと自信ありげに微笑む、何か可愛い生き物がそこにいた。

 

「ソーマから話は聞いています。こういう時は私が前…ですね?」

 

わかってますよと言わんばかりのドヤ顔。

うん可愛い可愛い、こういうのでいいんだよこういうので。

 

まぁ俺の答えは"だが断る"で決まってるんだけどな。

理由?とりあえず十年早いとでも言っておこう。

 

前に出るというのはそれだけでも危険な役目。

ソーマやリンドウじゃあるまいし、ゴッドイーターになって一年も経たないルーキーに任せるような事じゃない。

 

当人の実力はともかくとしても、こういう時は実績の無い奴には任せないというのが俺の信条だ。

手の届く所で誰かが死ぬのはもうたくさんなんだよ。

 

おっと、戦闘前に湿っぽくなってはいけない。

これでもそれなりの古参兵、自分から戦意を落とすなんて笑い話にもならないからな。

 

取り急ぎの問題として。

どうやってそれをルーキーにわからせようか。

 

ストレートに伝えるというのは論外だ。

コイツの性格からして絶対に聞く訳ないし。

 

情に訴えるのも効果が薄いだろう。

ルーキーにとって俺の事情なんて知った事じゃないだろうし。

 

というか伝える俺の方が恥ずかしい。

帰還後にそれを言いふらされた日には即日極東支部以外に移籍願いを出すね。

 

少し前なら上官命令だと言い張る事も出来たが。

何だかんだで立場的にも階級的にも今は同じになってるからな。

 

あれ?

そう考えると俺、何でコイツにいつもお菓子奢らされて…

 

この話は止めようか。

 

とりあえず今までの案を整理してみたが。

どうも言葉で説得するのは無理そうだ。

 

正論言っても聞かないし。

情に訴えても聞かないし。

 

上官命令も通じない…というか立場がもう同じだし。

先輩命令なら…先輩に殴りかかる奴が聞く訳ないか。

 

改めて考えると無敵の人かよ。

仕方ない、レディ相手に正直気乗りはしないんだが。

 

無言のまま懐に左手を忍ばせる。

何時あのクソトカゲと出会っても良いように装備に抜かりは無いからな。

 

ここから先は古参兵以外はご遠慮願…

 

-ガシッ-

 

懐から手を抜く前に。

先程つつかれた肩に手が置かれる。

 

「どうしました?懐に手を入れて…あぁ、私が接近しやすいよう援護してくれるんですね。」

 

チラリと懐手の姿を一瞥し、先程と変わらぬ笑顔で続けられる。

そっと腕を抜こうとしたものの、途端に手を置かれている肩からミシリと不吉な音が鳴る。

 

ちくしょう、何故バレたし。

少しでも不穏な動きをしたら問答無用で肩をオシャカにされそうだ。

 

スタングレネードで目を眩ませたその隙に俺が正面に展開。

出遅れたルーキーはやむなく側面後方から支援するという完璧な布陣を取るはずだったのに。

 

「聞こえなかったようなので、もう一度言いますね。」

 

懐に手を入れたまま動かない俺に対し、笑顔のままで言葉が繰り返される。

 

「私が前、先輩が後ろです。異論は…もちろんありませんね?」

 

この野郎、さっきは疑問形だったくせに。

優位と見るや今度はしれっと断言しやがった。

 

有無を言わさぬこの笑顔。

可愛いは正義とはこういう事か。

おまけに力まで兼ね備わっているのだから始末に負えない。

 

まぁこうなっては仕方がない。

残念だが無力な神機使いはただ従うしか道は無さそうだ。

 

今回は大人しくしておこう。

実力はあるんだし多分大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

ただし。

ヘマしたら絶対に許さんからな。

 

……………………………………………………………………………………………

 

今回の作戦はシンプルに一つ。

 

ルーキーが正面から、俺は背後からアラガミを攻め立てる。

要するにただの挟み撃ちだ。

 

何時ぞやは妙に手強い個体で回り込むのに苦労したが。

あの時と違って今回の作戦エリアは通路上の狭い場所。

 

死角に潜り込むのはそう難しい事じゃない。

それに前もって作戦を決めているので陣取る場所が被る心配も無し。

 

唯一の懸念はルーキーの実力だ。

いや、申し分ないのは分かっているんだが。

 

仮にも相手は接触禁忌種だからな。

それクラスを相手にルーキーと組むの初めてだし。

 

まぁ最悪ルーキーだけでも逃がせばいいか。

アラガミもやってきたことだし、お手並み拝見といこうかな。

 

………

 

いや、実力があるのは分かっていたが。

接触禁忌種と正面からやり合えるとかソーマかよ。

 

ソーマはバスターブレードの一撃でアラガミと渡り合うタイプだったが。

ロングブレードの威力不足をインパルスエッジの火力で補うというのは流石新型と言わざるを得ない。

 

ボルグ・カムラン相手の時は相性良いな程度の感想だったが。

接触禁忌種相手でも通じるという事は、まず間違いなく相手を選ばず戦える。

 

使い手のスタンスと神機のコンセプトが噛み合ったというだけではここまで強くはなるまい。

ソーマも一目置いてるようだし、これは俺も認識を改めないといけないかもしれないな。

 

またお菓子たかられそうだから本人には言ってやらないけど。

 

まぁいいや。

とにもかくにもミッションは達成。

 

お待ちかねの調理タイムである。

コアを捕食しようとするルーキーを制し、動かなくなったアラガミの胸元(?)へと移動する。

 

以前シオに聞いた話ではこの辺りに甲殻の継ぎ目があるらしく。

それをパコっと開いた中にある肉質部が柔らかくて美味しいとの事。

 

んー、どれどれこの辺か?

継ぎ目と言われても目視じゃいまいちわからんな。

 

後ろから「何やってるんですか?」と声を掛けられるが気にしない。

今下準備してるから待ってなさいな。

 

手探りも交えて探る事数分。

ようやくそれらしきへこみを見つけて指でなぞる。

 

これが継ぎ目か?

よし、じゃあここに神機を差し込んで…何だこれ?

 

プレートのような感触が指に触れて手を止める。

楕円状の薄い金属板に紐のような鎖が繋がり、その先がアラガミの身体に埋まっている。

 

察するにアラガミの身体を構成するオラクル細胞に飲み込まれた何かだと思うが。

この形、どこかで見た事ある様な…

 

「…ドッグタグですね。」

 

それだ。良い勘してるなルーキー。

でもいきなり真後ろから声をかけるのは止めような。

 

お兄さんびっくりしちゃうから。

女の子に悲鳴を聞かれたら恥ずかしいじゃないか。

 

まぁそれはさておき。アラガミに捕食されてなお、こうして形を留めているなんて珍しい。

金属だろうが何だろうが、普通はオラクル細胞に分解されて影も形も残らない物なんだが。

 

おまけに物によっては吸収スピードも一瞬だ。

俺の両親なんて、ものの三十分と経たない内に完全消化されたみたいだったからな。

 

閑話休題。

とりあえずこれは金属片なので食べられないので取り除こう。

 

神機で甲殻を継ぎ目から開き、肉を抉り出してドッグタグを摘出。

軽く拭いて綺麗にした後、落とさないようチャック付きの内ポケットにしまい込む。

 

既に刻まれた名前は読み取れなくなっているものの、もしかすると判別できる時が来るかもしれないからな。

 

「もしかして、それが目的だったんですか?」

 

いや違うけど?

俺の目的はこっちの蟹もどき。

 

まだコアを抜いていない新鮮素材。

直ぐ焼けるよう良い感じにマグマの河がそこにある。

 

待ちに待った調理&実食タイムだ。

もし美味かったら食料物資の開発班に新しい素材として持ち込もう。

 

さーて、まずはハサミから…

 

-グシャリ!-

 

…グシャリ?

待った、何だ今のグシャリって。

 

疑問に思ったのも束の間。

見る見るうちに地面に溶け出し、塵と変わっていくアラガミ。

 

神機使いになって何度も見た、コアを捕食されたアラガミが辿る末路の姿。

デジャヴと呼ぶには早すぎる。

 

ちくしょう、何でだよルーキーめ。

まだコアは抜くなって制止したじゃないか。

 

素材は鮮度が命なんだぞちくしょう。

こんなのもう食べられないじゃないか。

 

溶け切り霧散したアラガミを見詰めながら、ルーキーが言葉を紡いでいく。

 

「このアラガミも()()()()使()()()()()()()()()()()?さっきのドッグタグ、きっとこの人の持ち物ですよね。」

 

戦闘前の笑顔は鳴りを潜め。

先程とは打って変わった神妙な面持ちでルーキーが続ける。

 

「私達は…」

 

 

神機使い人間を殺してしまったんでしょうか?-

 

 

 

 

 

「………………………」

 

 

 

 

 

…言われてみれば。

スサノオはアラガミ化した神機使いの成れの果てっていう話だった。

だとするとコイツ、蟹もどきでも何でもないな。

 

俺の両親喰ってくれたアラガミじゃあるまいし。

人を美味しそうなんて思う感覚は俺にはない。

 

何だよ、そうなると結局ただの無駄足か。

まぁ危険なアラガミには違いないし、討伐出来ただけ良しとするか。

 

ほら帰るぞルーキー。

もうこんな暑苦しい空間に用は無い。

 

…どうした?何か顔色が悪いぞ。

どこか具合でも…あぁ、そう言えばさっき神機使いを殺したとかどうとか言っていたな。

やっぱりお嬢ちゃんにはまだ刺激が強すぎたか。

 

結論から言うと。

 

見つけて殺した以上、あれはアラガミ。

元が人間かどうかは関係無い。

 

人間として殺したくないなら見つけてはいけないし。

人間として助けたければ殺してはいけない。

 

もし見つけてしまったのなら、それはもう人間じゃないから殺さなければいけない。

そして殺してしまえば、もう話はそれでおしまい。

 

アラガミと違って人間というものは生き返らない。

未来永劫、人間として助ける機会は無くなるのだ。

 

リンドウも本当なら助けられたんだがな。

途中までうまくいっていたのに、俺のしくじりでクソトカゲに()()()()()()()()

 

だからアイツは殺す。人を喰うアラガミだからな。

後悔するのは後回し。仲間を喰ってくれたクソトカゲは、俺が絶対に--

 

…まぁ何が言いたいのかというと。

余り気にし過ぎるなという事なんだが。

 

「………………………」

 

うーん駄目っぽい。

この状態じゃどんな言葉を言って聞かせても通じ無さそう。

 

仕方ない。俺の元上官殿よろしく、()()()()()()()()事にしようか。

ルーキーちゃんの頭に右手をセットして、と。

 

おやおや、ルミナ君は可愛いですね。

何事かよくわからずに、ぽかんとこちらを見返してきてる。

 

極東支部指折りの精鋭部隊隊長とはいえ。

こうして見ると年相応の女の子だな。

 

まぁそんな子にこれから酷い事をするんだけど。

というわけで--

 

難しい事を考えてるおつむは、ちょっとシェイクしましょうね。

 

 

「お、あ、わ、わ、な、なっ…!?」

 

体罰?馬鹿言え、俺がレディに手を上げる訳ないだろ。

これは余りの可愛さに魅了されたので、激しくなでなでしてあげてるだけである。

 

セクハラとか言ってはいけない。

流石にそれは言い訳出来ないからツバキさんにシバかれてしまう。

 

「ちょ、何っ、止め、先ぱっ、頭っ、止めっ…!」

 

余りの振動にルーキーの両手が俺の右手を掴んでくるが。

しれっと筋力増強錠を飲んでる俺には無駄な抵抗である。

 

揺する、揺する。

余りの抵抗の通じなさに、いつもクールな感じのルーキーが珍しく本気で慌てている。

 

ヤバい、ちょっと楽しくなってきた。

これは何だかイケない扉が…

 

「止めてくださいって言ってるでしょう!」

 

開く前にキレたルーキーに殴られた。

というかボコボコにされた。

 

 

とりあえず。

 

無事余計な思考は吹き飛んだようだな。

元気が出たようで何より。

 

さて、今度こそ帰ろうか。

今足に来てるからゆっくりな。

 




正気とはひょんなことから戻るもの。
狂気が埋まったとか言ってはいけない。

肩を並べて戦える仲間。背中を預けて戦える仲間。
着実にルーキーちゃんの実力も認めてくれてきています。

まさかハンニバル相手に慢心したりはしませんね?
ダイスは仕舞っておきましょう。
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