無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.何でも美味しく食べられます。
どうやら思った以上に扱いに困る人物のようだ。
反抗的なのとはまさに逆、どんな無理難題でも文句一つ言わずに引き受ける。
そのうえで明らかな無茶をやらかすのが厄介なのだ。
少なくとも、銃型神機で
「銃型と言っても本質的には近接神機と同じ物質構成だ。強度と言う点に目を瞑れるのなら、確かに近接神機と差異は無いと言っても過言ではないね。」
何時になくペイラーも上機嫌のようだ。
上機嫌過ぎて話が専門分野の域に入っており、誰もそれについていけていないようだが。
しかし、忠実すぎるというのも考え物とはな。
不満の一つも言ってくれればわかりやすいが、拒絶されないとあっては彼に不要な消耗を強いてしまっている。
考えるほどにソーマとは別ベクトルで扱いづらい人物だ。
しかしこれほど優秀な手駒をみすみす逃す手も考えられない。
…ふむ。そういえば最近の彼の任務は交流も兼ねた後方での兵器運用試験だったな。
ちょうどいい、今回はメインではなくサポートとして交流してもらう方向に調整するか。
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「…そういえば、誰かアイツの声って聞いたことある奴いるか?」
ここは極東支部のエントランスホール。
今日も今日とて同輩である神機使い達が忙しそうに任務を受注し、出かけて行っている。
集まっているのはいわゆる"防衛班"に所属する面々。
珍しく空き時間が重なり合い、ホールの一角で暇つぶしがてらに駄弁っている。
話題に上がったのは極東支部でも有名な無口無表情の神機使い。
きっかけは謹慎明けでテンションの高かったシュンとカレルのやり取りである。
「アイツ本当ありえねぇよ!人をぶっ飛ばしておきながらゴメンの一つもねぇんだぞ!」
「それはお前の自業自得だろうが、ああいうやつとは要領よく付き合うんだよ。…アイツ実力だけは確かだからな。ミッションに付いていくだけでも我慢に見合うだけの実りが入るぜ?」
ぎゃあすかと中々に姦しい光景。
多少人を選ぶであろうが、これはこれで賑やかで味がある。
そんな喧騒の中で不意に出てきたのが先程の質問である。
「ブレンダンは?この前一緒の任務だっただろ?」
「いや、多少文句は言ったが別に反論の一つもなかったな。…その後の俺はベースキャンプ勤務だったしな。」
「カノンは?お前もこの前一緒だっただろ?」
「わ、わたしはその、正直あまり記憶が残っていなくて…」
まぁカノンはいつも通りのカノンだったとブレンダンから既に話は聞いている。
「ジーナは?この前ミッションで射撃のレクチャーをしてたって聞いたんだが。」
「私も無いわね。というより、呼吸の波は分かるのに全く声色が聞こえないって不思議な感じだったわね。」
「シュンとカレルは…まぁ聞くまでも無いか。」
アイツに対してもっとも愚痴を言っているのはこの二人だ。
罵りあいの一環で声を聴いている可能性もあるが、アイツの声の想像がつかないのでそちらの線もイメージ付きにくい。
「決めつけんなよ。まぁ確かに無いが…」
「ケッ、無口がカッコいいとでも思ってんのか?これだからガキは…」
「で、でも私は良いと思いますよ!?それに意外とあの人天然と言うか…」
「あぁ、そういえばあの後も確かリッカに怒られていたわよね。殴ったら銃が壊れたって常識的に考えて…ねぇ?ふふっ…」
「不慣れな武器でもそう感じさせないくらい動きが良いしな。あれは学ぶところが多い。」
一部不平不満も出ているがまぁ現実的には妥当な評価の部類だろう。
寧ろ一言も声を出した事の無い人間に対してはかなりの良評価ともいえる。
うーん、言うべきかなぁ。
デリケートな問題ではあるものの、知ってるだけでも受ける印象は大分違うはずだ。
うーん、でもなぁ。
「中々、興味深い人物の話をしているね。」
不意に聞こえたその声に思わず驚き居住まいを正す。
周りの反応も似たり寄ったりだ。
「あぁ、楽にしてくれて構わない。今は私も休憩中だからね。」
ヨハネス・フォン・シックザール。
「フェンリル」創設メンバーの一人にして、極東支部の長。
爽やかに微笑みとともに話しかけられるが、仮にも相手はこの極東支部の最高責任者である。
わかりましたと先程と同じノリで会話を再開するには無理がある。
「そういえば彼の話をしていたね。ちょうどいい、良ければ私から説明しておきたいと思うのだが…」
構わないかね?と視線と共に尋ねられる。
元々自分にそんな権限は無し、ましてや上役自ら説明すると言っているのであればそれを遮る道理はない。
許可が出たと判断されたのか、支部長が淡々と話し始める。
初めて聞く内容である周りは元より、聞きかじった以上の情報を含むそれに俺も息を飲んで話に聞き入る。
ありふれた。そう、今のご時世では本当にありふれた話だ。
裕福とは言わないながらもそれなりに暮らしている一般の家庭。
それが不幸にもアラガミに襲われ、目の前で両親が喰われてしまった。
不幸だったのは一人逃げ出すには彼は
身動き一つとれぬまま、両親がこの世からいなくなる様を最後まで見てしまったのだ。
気を失っているのかと思ったが、そうではなかった。ただ声一つ上げず、眉一つ動かさない。
おそらくはあまりのストレスから身を守るために、彼は感情そのものを破棄して対応してしまったようだ。
救出に入ったゴッドイーターの報告書のその文に、読んだものは全員言葉を失った。
「その後は恐らく君たちも知っての通りだ。身寄りの無い彼は孤児院に引き取られ、やがて神機使いの素質を見出されてゴッドイーターとしてこの極東へやってきた。」
ゴッドイーターというのは半ば強制的に就かされるものでもある。
精神的に問題があるという程度ではそうそうお役を免除される事などないのだ。
壊れた心が癒される前に、強制的にトラウマの元凶と向き合わされる。
否やの選択肢など与えらえず、下手をすれば死と隣り合わせの恐怖と共に。
もし。自分がその立場になったらな。
自分は今の自分のままでいられただろうか。
「…だが。ここにきて変化が発生した。君たちも心当たりが無いかな?彼は人との接点を求め始めたのだ。」
言われてみれば俺にも思い当たる節が無くもない。
この前俺が教えていた新人にわざわざ差し入れをしていたのだから。
「まぁとは言っても、まだまだ問題は山積みではあるのだがな。いくら助けてもらえるとて、毎回神機でアラガミごと斬りかかられては堪らないだろう?」
水を向けられてシュンが言葉を詰まらせる。
普段なら強がりの一つも言ってるところだが、相手が相手だけに素直に現実を受け止めているようだ。
「君たちが許容できる範囲で良い。願わくば、彼も仲間の中に入れてやってほしい。」
言い終えた支部長が振り返り、誰かの肩を叩いて斜めに歩き出す。
…件の人物がそこにいた。
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…いや、盗み聞きするつもりはなかったんだが。
これも最近よく任務が一緒になっていた縁だと思って、飲み物を手土産に話に混ざろうかと思ってただけなんだが。
飲み物を買って戻ってくると、いつの間にか支部長が話の輪に入っていた。
いや、俺ら一応下っ端なんですが。
お偉さんが混じってたら正直話しづらいと思うんですが。
輪に入るタイミングを逃してしまったので聞き耳を立てていると、どうやら俺の生い立ちの話をしている。
…うん、間違いでは無いけれど真実と言うには大分語弊がある気がする。
何か言葉を喋れない人の様に見られていないか?
確かにトラウマの影響は一時期あったけど。
というか感情が無いっていうのは完全に支部長の思い込みでしょうに。
昔はともかく、わかりづらいかもしれないがこれでも色々考えたりはしているぞ?
そんなんだからソーマと仲が悪いんですよ。
アイツもあれで根っこは激情家ですからね。
お、話が終わるか。
この雰囲気で会話に混じるのも気恥ずかしいし、飲み物だけ渡して帰るとするか。
…この人いきなり何言いだしてるんだ?
"仲間の中に入れてやってほしい"ってこの流れで参加なんて余計出来るか。
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「…アイツ、何しに来たんだ?」
「わからん。まぁちょうど茶も無くなってたし、いいタイミングの差し入れではあったがな。」
頭に疑問符を浮かべながらも差し入れ
俺ともう一人の経験者、そして話だけは聞いている他二人は警戒して缶に手は付けていない。
…いや、シュンはもう少し警戒しろよ。
お前は一回斬られかけているだろうに。
ほぼ同じタイミングで口をつける二人。
ところが予想とは反して吹き出したのはカレル一人。
「うわっ!?汚ねぇ何しやがる!」
何時もならここで喧嘩の一つも始まるところだが、思いの外相手のダメージが大きいようだ。
むせかえるばかりで立ち上がる気配がまったく無い。
「お、おい大丈夫かよ。何事だよ一体。」
地面に付した人物がむせ返ったまま床に転がる缶を指さす。
-美味しい
示し合わせたように全員手元の缶を確認する。
-美味しい
(うーん、コミュニケーション能力の問題かこれ?)
どうやら一本だけジョーカーが混ぜられてようだ。
こんなユーモアは求めていないんだが。
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-その頃、自室のユウマ・マカヅチ-
…買ってきた緑茶が紅茶に化けてるんだが。
トラウマはあったが克服済み。
克服の経緯はおいおいに。
なお味覚については元からです。