無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A1.高火力。
Q2.ポイズンクッキング?
A2.Nein(いいえ)。
強いて言うなら徹甲属性。
"料理の天災"という言葉を考えた人はすごいと思う(小並感)。
あれから数日。
てっきり第一部隊の面々がアリサの手料理を食べに来ると思ってたんだが。
予想に反して誰も来ない。
意外とロシア料理って人気無いのか?
確かに極東だとあまり口にしないタイプの味わいだとは思うけど。
それともやはり、アリサの料理の腕の問題か。
具材のニンジンを持ち上げる。
見事なまでに皮付きだ。
具材のジャガイモを持ち上げる。
見事なまでに皮付きだ。
本人が練習中と言っている通り。
どれもこれも、料理上手な出来であるとはお世辞にも言えない。
見てくれも料理を楽しむ要素の一つである。
きっと見た目に不安を感じて忌避感を覚えてしまっているのだろう。
味は別に悪くないんだがな。
欲を言えばもう少し薄口の方が個人的には好みである。
まぁ女性の手料理に注文を付けるなど紳士的じゃないから言わないが。
マンガやアニメで見るようなポイズンクッキングという訳でもないしな。
モキュモキュモキュモキュ。
ふぅ美味かった。
俺以外、
一人手を合わせて御馳走様の感謝を捧げる。
今日は珍しくアリサは不在。
珍しくルーキーがヘマをしてしまったので、手料理を持ってそのお見舞いに行っている。
まったく、まったくもう。
手の届く所なら何とかするが。
一緒ではないミッションの時までは流石に面倒は見切れんぞ。
それとも一緒に付いて行ってやるべきだったか?
赤子相手じゃあるまいし、そこまでやれるか馬鹿らしい。
まぁそれはそれとして。
可愛い後輩を虐めてくれた畜生には、たっぷりお礼をしないとな。
クソトカゲめ。まさか自分の部下に手を上げるとは。
楽に、死ねると、思うなよ。
………
あ、あれ?
君、どこのどちら様?
新種と聞いたから、てっきりリンドウかと思ったんだけど。
出てきたのは
なんだよ、色も全然違うし完全に無駄足じゃないか。
強いと言えば確かに強いが。
リンドウと一緒に仕留めたあのクソトカゲと比べると…。
最初から全力全開で戦ったせいもあってか。
ものの数分で背中をメッタ裂きにしてケリがついてしまった。
仕方ないじゃないか。いくら何でも動きが遅すぎる。
あんなの、好きな所から斬ってくれと言っているのと変わりない。
欠伸が出るなんて挑発文句、生まれて初めて使ったぞ。
まぁいいや。
どうせアラガミ、遅かれ早かれ討伐ミッションは出ていただろう。
何でもコアを引き抜いても生き返る"不死身"の異名を持つアラガミとの事。
俺とリンドウにボコられたのを契機に、速度を犠牲に耐久力に特化させたという所か。
うーん、アマチュア的な思考だな。
そんなの、手足を切り落とされればそれでもうお終いじゃないか。
現にお前、
手足は斬り飛ばして杭打ちされてるし。
頭は潰されて身体は達磨。
この状態から打つ手があるなら、作家の素質有りだと俺なら言うね。
ちなみに答えは聞いてない。
この後俺はお前をサイコロステーキにする。
終わったらコアを捕食する。
再生したらまたサイコロステーキに調理して。
以下これらを繰り返す。
皆が夢見た永久機関の完成だ。
うむ、榊博士に良い手土産が出来たな。
とりあえず。
神機が満腹になるまでやってみよう。
その後?
粉微塵にすれば流石に再生できないだろ。
待っていろよクソトカゲ。
次はお前の番だからな。
……………………………………………………………………………………………
ここは極東支部のエントランスホール。
中央にそびえる大型エレベーターの正面、階下を見渡せる特等席で酒を嗜む。
久しぶりの休暇である。
真昼間から酒を飲み、任務へと出撃していく同僚を軽く煽る。
ふはははは、俺は休みだ羨ましかろう。
キリキリ働け皆の衆。
ここで思いの丈を口にしないのが出来た大人というもの。
思うだけならいくらでもタダだし。
余計な妬みを買わずにストレスのみ発散する、もっとも優れたアウトプットのやり方である。
たまに感性が鋭いのか、通じない奴もいるというのが困り者だがな。
主にルーキーとかルーキーとか。
無言で近寄ってきて言いがかりを付けられた挙句、食べ物全てかっさらわれた時は衝撃で何も言えなかったぞ。
閑話休題。
とにもかくにも俺は休暇中である。
うん、平和だ。
願わくばこんな平和が何時までも続きますように…
-ビーッビーッビーッ!-
唐突に地下空間にアラーム音が鳴り響く。
ハッハッハ、俺の馬鹿。フラグだなんて言いきる前からわかりきってた筈なのに。
警報を聞くに、どうやらアナグラに小型アラガミが数体侵入してきたらしい。
まぁ今でこそ回数は減ったが、昔は結構よくある事だったよ。
中型以上ならまだしも、小型程度なら焦る必要は無し。
出撃中の同僚が戻ってくるまでの時間稼ぎ程度なら、飲み終わった後でも余裕で出来る。
慌てない慌てない、一休み一休み。
極東に古くから伝わる、声に出して言いたい良い言葉だ。
缶に残った酒を飲み干し。
ふと何気無しにエレベーターの方を見る。
慌てた様子で駆けていくルーキーの姿が見える。
あぁ、そう言えばお腹を壊したとかで数日間休暇を取っているという話だったか。
「………………………」
確かそれに合わせて不具合を起こした神機もメンテナンスするとか言う話だったな。
で?アイツ今、神機も無しにどこに向かおうとしている?
「………………………」
「………………………」
「………………………………………………」
状況を理解した次の瞬間。
目の前の机を蹴り飛ばし、最短距離でルーキーの後を追う。
周りのどよめきが耳に入るが、そんな些事を気にしている場合ではない。
あのクソガキめ、ふざけやがって。
リンドウから一体何を教わって今まで戦ってきやがったんだ。
アラガミがこのアナグラに侵入してきた。
程なく区画は隔壁で封鎖され、神機使いが帰投するまでの時間稼ぎが行われる。
昔から確立されている緊急時の危機回避のための手段だ。
今でこそ多少は珍しくなったものの、ここに危険を冒す必要性はもはやない。
万が一、
万が一、
何一つ問題など起こりえない。
起こりえよう筈がない。
だがしかし。
今この状況、その万が一が起こり得ようとしている。
逃げ遅れた人間がいると見て。
不要に駆けつける人間がそこに居る。
視界に浮かぶはあの光景。
真っ赤な水溜りに浸かった、欠けた身体の両親と。
真っ黒な霧に飲み込まれた、左半分になった身体のリンドウと。
そしてそこに新たに一つ。
真っ赤に染まる女性の姿が目に浮かぶ。
駆けながら止まることなく装備を確認する。
銃器良し、グレネード良し。
回復錠良し、強化薬良し。
うむ、問題無い。何一つ問題無い。
小型種程度、生身であっても十分殺せる。
今度は、今度こそは十分間に合う。
ルーキーに遅れを取る事数拍。
彼女が駆け込んだ神機保管庫へと突入する。
意識を失って倒れ込んでいるルーキーがそこにいた。
意識を失って壁に寄り添いうなだれるリッカがそこにいた。
視界が一気に真っ赤に染まる。
有無を言わさず懐から拳銃を引き抜いて発砲し、その隙に準備していた強化薬を口にする。
スタミナ増強剤Sを噛み砕き。スタミナ活性剤改を噛み砕き。
筋力増強錠90改を噛み砕き。体躯増強錠90改を噛み砕き。
体力増強剤Sを噛み砕き。スタミナ増強剤Sを噛み砕き。
駄目押しに強制解放剤改も噛み砕く。
服薬を終えるやいなや駆け出し、
アラガミを裂いた所で記憶は途切れた。
……………………………………………………………………………………………
ここは極東支部の救護室。
怪我をした神機使いがお世話になる場所だが、実は利用率はそこまで高くない。
何しろ大抵はここを通り越す事態が多いからな。
命が残っているならただそれだけで儲けものと言う話だ。
そして現在、俺の目の前ではルーキーが怒れる女神様の熱烈なお叱りを受けている。
いくら緊急時の事とはいえ、他人の神機を使ったりすれば当然だな。
何か助けを求めるような視線を向けられているが知らん振りする。
この極東では女性を百合の花に例えた上で"間に挟まる輩は○ね"という大変含蓄豊かな御言葉がある。
あいにく俺はまだ死にたくないんでな。
決してとばっちりが怖くて口を挟まない訳じゃない。
しかしモテモテだなこのルーキー。
リッカはともかく、いつの間にか
全員女性なのは気になるが。まぁ極東だし、そういう話もあるだろう。
細かい事は気にしないのが人生を楽しく生きるコツなのだ。
さて、何にせよ火急の難は去った。
自分の治療も済んだ事だし、もうここには用はない。
「…ちょっと待って。キミ、何しれっと立ち去ろうとしてるのさ。」
不意に後ろから声が掛かる。
ちくしょう、俺の事を忘れてた訳じゃなかったのか。
咄嗟にダッシュして部屋を後にしようとしたものの。
後ろから飛んできたレンチの一撃を受け、逃げ切る前に身体が地面に倒れ込む。
既に全身は薬の副作用で筋肉痛。
そこに後頭部へ強い衝撃を喰らってしまい、もはや指一本動かせない。
「普段から言ってる事だけど。キミもリーダーも、どうして自分の事はすぐ二の次にしちゃうのかなぁ?」
むんずと襟首を掴まれ、ずるずると救護室内へ引きずり込まれる。
なるほど、これが極東名物"お持ち帰り"。まさか男の俺が体験する羽目になろうとは。
「丁度良い機会だし。キミもリーダーも、今日という今日はたっぷりと言いたい事を言わせてもらうからね。」
ベッドに投げ捨てられ、ペシっとこれ見よがしにレンチを見せつけながら告げられる。
ルーキーは既に観念しているのか、プルプル震えながら俺の頭にしがみついている。
「…先輩。これ、何とかなりません?」
ならんな。諦めろ。
なるならとっくの昔にどうにかしてる。
…時間にして数時間後。
第一部隊の面々がお見舞いに来たタイミングでようやく説教タイムは終わりを告げた。
「あ、君はまだだよ。仮にも古参なんだし、あの子以上に責任がある立場なんだから。」
…ハッハッハ、ナイスジョーク。
リッカちゃんったら冗談が上手いんだからもう。
何食わぬ顔で逃げようとしたら再度レンチが飛んできて動きが封じられる。
くそ、俺はこれでも怪我人なんだぞ。
もっと丁重に扱えよ。
「ん?何か言いたい事でもあるのかな?」
…ありません。
背筋を正して拝聴させていただきます。
ちくしょう、現実って厳しいな。
………
(…まさか二人も僕に触る人がいるとはね。)
(まぁ幸運と言えなくもないのかな?何しろ二人とも僕と相性がよさそうだし。)
(うん、そうに違いない。手札は多い方がいいからね。)
(待っててねリンドウ--)
--もうすぐ楽にしてあげるから。
Burst本編開始。
ちなみに目の前でハンニバルに吹き飛ばされてたら無口さんの声(絶叫)が聞けましたが。
サディストではないので今回はそうはなりませぬ。