無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
Q1.他人の神機使った時の激痛は?
A1.意識が吹っ飛んだせいで知覚出来ず。
Q2.暴走しちゃう?
A2.一瞬突沸しただけで片付いたのでセーフ。
Q3.どうやってクールダウンした?
A3.視界内で動くものがなくなった。
ただし突沸&ドーピング状態なので何時ぞやみたく眼は真っ赤。
タツミが警戒するのも仕方無し。
時は少し遡り--
………
やっちゃった。
字面的には"殺っちゃった"と言うべきか。
いや、コイツを仕留めたのは別に問題無いんだが。
八つ裂きにする際、ついうっかり落ちてた神機を使ってしまった。
不活性化してなかったおかげで無事討伐出来たが。
代わりに俺の手の方も思いっきり神機に捕喰され始めている。
アラガミ越しに刃を押さえ。
手に喰い込んだ神機をベリベリと肉ごと引き剥がす。
実は落ちていたのは俺の神機だった、なんて事は無く。
剥がすと同時に鮮血が吹き出し、ついで激痛が駆け抜ける。
うん、救護室直行コースだこれ。
何だったらちょっと手のひらの白い骨が見えかけて…
この話は止めようか。
考えるだけで痛みが増してきそうだ。
取り急ぎ回復錠を飲もうと取り出す。
流石に飲んだ途端に肉が再生、なんて魔法みたいな話は起きないが。
鎮痛と止血に治癒促進。
要するに"出来たお薬"という代物である。
一息にグイっと…おえっ。
しまった、つい怪我した利き手を使って飲んでしまった。
血生臭いったらありゃしない。
だがまぁ流石の即効性、早速痛みが引いてきた。
口の中が気持ち悪いが、今はそれより優先すべきことがある。
自分が駆け付けた時にはすでに二人の意識は無く。
事が済んだ今なお動き出す様子は見られない。
取り急ぎ近かったリッカの方へ駆け寄り容態を見る。
うん、規則正しい呼吸音。
出血も無いし脈も正常、気を失っている以外に特に問題は見られない。
ひとまず負担にならないよう身体を横にさせ。
続けて地面に伏したままのルーキーに駆け寄る。
こっちも重傷を負っている訳ではなさそうだが。
俺と同じように右手が黒ずみ傷んでいる。
この馬鹿、意図的に他人の神機を使ったな?
新人研修の時に何を学んでいやがったんだ。
大方、夢の中でおやつでも食ってたんだろうけど。
だがこの程度で済んでよかった。
救護室送りなのは間違いないが、一歩間違えれば今の俺よりも酷い事になっていたかもしれないからな。
ともあれ、ひとまず大事無さそうでよかった。
本当にアラガミが死んでいるかの確認が出来ていないが。
まずは一刻も早く二人を救護室に運ばなくては。
幸い強化薬の効果はまだ切れていない。
今なら十分一人で運べる。
ルーキーを左肩に担ぐ。
ついでリッカに駆け寄り、右肩に担ぐ。
…確かルーキーの方が小柄だったよな?
この子、リッカよりずっと重…
「おい!二人を下ろせ!何をするつもりだお前!」
唐突にぶつけられた怒声に声の主へ視線を向ける。
おぉ、誰かと思えばタツミじゃないか。
ナイスタイミング、これであのアラガミのトドメは気にしなくていいな。
安心して歩を進めようとした踏み出した瞬間。
タツミから溢れんばかりの敵意と一緒に神機の刃先が向けられる。
…え、何これ。
何で俺タツミに神機向けられているんだ?
というか邪魔だよ入口に立つな。
手遅れになるとは言わないが、なるはやで二人を医者に見せたいんだよ。
どけという意思を込めてこちらからもタツミを見るが。
タツミもタツミで構えを解かず、その場を動こうとしない。
ふむ。これは何か勘違いされてるな?
真面目なタツミが理由も無しに喧嘩を吹っ掛けてくるはずは無し。
まぁ絵面だけ見れば普通に人さらいのそれに見えなくも無いしな。
とはいえ。真面目に対話で誤解を解いてる時間は無い。
薬の効果時間もあるし、何だったら右手がちょっと激痛モードに入りかけてる。
なので手っ取り早く右手をタツミに見せつける。
途端、一瞬驚いたように目を見開いた後、状況を理解したのか表情を曇らせる。
「…お前、もしかして意識があるのか?」
意識があるのかって何だよ。
寧ろ右手が痛すぎて意識が飛びそうだよ。
寝てるのは両肩に担いだお姫様達。
白亜のお城(救護室)に連れてく途中なんだから、わかったらさっさとどいたどいた。
神機の切っ先が下りたのを確認し。
タツミの横をすれ違い、そのまま部屋を後にした。
………
部屋を出て数歩歩いた所で重みが肩にのしかかる。
ヤバい、お薬の効果が切れた。
タツミに構い過ぎたかちくしょう。
うおおぉぉ重い、いくら神機使いでも人間二人担いで動くのは少々キツイ。
おまけに思いっきり力んでいるので右手からもボタボタと出血が止まらない。
いかん、このままでは落としてしまう。
一旦二人を下ろして、と。
回復錠に筋力増強錠、スタミナ活性剤を一気にグイっと…ごほっ。
しまった、またやらかした。
また利き手を使って飲んでしまった。
さっきよりもべちゃべちゃで、気持ち悪いったらありゃしない。
まぁいい、今はそんな事を気にしているような時ではない。
改めて二人を担ぎ直す。
うむ、やっぱりリッカに比べるとルーキーの方が断然重…
この話は止めよう。
せっかく拾った命、わざわざ無駄にすることは無いからな。
ただまぁ。
二人とも俺の血で服がベタベタなんだよな。
お気に入りの服を駄目にしたってシバかれるのくらいは覚悟しておくか。
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あれから数日。
傷跡すら無くなった右手の感触を確かめた後、改めて自分の神機を握り直す。
うん、いつも通りの感触で問題無し。
予定通り今日から戦線復帰できそうだ。
ちなみにルーキーの方はもう少しかかるらしい。
何でも入院中に差し入れされた食べ物に中ったそうな。
まったく、まったくもう。
手の届く所なら何とかするが。食あたりなんかまで面倒見切れるか。
最初は中々重たい物を背負った娘だと思ってたんだが。
今やすっかり"口数の少なさに似つかない、食べ物の気配に敏感なアレな娘"と言った印象である。
黙っていれば間違いなく可愛い部類なのに。
何ともまぁもったいない話、残念美人ってああいうのを言うんだな。
言ったら洒落にならない事になりそうなので言わないが。
良くて救護室送り、最悪『人間ってどんな味がするんでしょうね?』とか言われて神機で捕喰されかねない。
まぁこの話はこれくらいにしておこう。
あまり考えてると何かの拍子にうっかり口にしてしまいそうだからな。
さて、普段の俺なら怪我にかこつけてもう少しサボ…休暇を満喫するところだが。
今回ばかりはそれを切り上げてでも仕事に戻りたい理由がここにある。
近々、この極東支部に新型使いが多数配備されるとの噂されていたが。
ついにその第一陣の配備が決まったのである。
そう、ついに。
ついに俺にも待望の部下が付くのである。
というか今までがおかしすぎる。
一応俺は極東でも相当長い間部隊長やってる人間なんだぞ。
なんで来る日も来る日もワンオペで色んな任務に駆り出されなければならないんだよ。
中には「そんな部隊あったっけ?」と俺を無所属扱いしやがる心無い馬鹿までいやがるし。
おまけに最近は「あの人第一部隊だよね?」とか言い出す奴まで出る始末。
あーやってられん。
真面目に働いているのにこの仕打ち、働いたら負けってこういう事を差すんだな。
閑話休題。
話を戻そう。
我ながら思いの外ストレスが溜まっていたようだが。
そんな鬱憤溜まる日々もようやく終わりの時を迎えるらしい。
目の前に居るのはこの前ルーキーのお見舞いに来ていた少年…少年?
改めて見ると驚くほどに中性的な容姿だな。
さっき自己紹介してもらった時の口調は男性寄りだったが。
今思い返せば声色は女性的だったような気もしてきたな。
…うむ、慌てるな俺。
今ここで焦る必要はまったくない。
せっかく初めての部下になってくれるかもしれないのに。
こんな些細な勘違いでいきなり気まずい空気になどしたくはない。
とりあえず心の中ではレン君と呼んでおこう。
これならどっちの性別でもそこまで違和感は無いからな。
呼び方も決まった所でお仕事に入ろう。
まずは実力確認のために実地訓練だ。
さぁ付いて来いレン君。
極東有数の古参兵たる部隊長様の実力。
今日は思う存分見せてやろう。
………
あはは…この人、本当に何も喋らないや。
リンドウの記憶で知ってはいたけど。
まさか本当にこんな神機みたいな人間がいるなんて。
おまけに言葉を話さない上に表情まで仮面みたいに変わらない。
何なら僕達
でもまぁ、僕にとっては好都合かな。
この人自体は大変興味深い存在だとは思うけど。
リンドウや彼女に勝るとも劣らない強さで実力は十分だし、言葉を話せないから妙な詮索をされる事もない。
それに感情が無いというのなら、いざという時躊躇ったりする心配もなさそうだ。
言葉を話せない人間と知れ渡っている事も大きい。
仮に彼女が何かに気付いたとしても、彼から情報を引き出そうとすることは無いだろう。
…うん。
本当に、良い手札を手に入れた。
このまま彼と行動を共にしていればきっと…
待っててねリンドウ--
--もうすぐ楽にしてあげるから。
レン君登場、精神体なので複数同時顕現もお手の物。
ただしこちらはルーキーちゃんといる方よりもちょっとしっとりしています。
ちなみにルーキーちゃんが重いのはバリバリの戦闘要員だから。
うっかり口を滑らすと神機の餌にされます。