無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.微妙にずれてる。
神機並みに会話が成立しないから仕方ない。
なお微妙に噛み合ってもいるので一周回らずとも問題無いパターン。
あの人に限ってみれば。
僕達神機も人と大して変わらないような気がする。
そもそも神機というのはオラクル細胞、即ち偏食因子の塊だ。
そこに言葉や感情は存在せず、当然コミュニケーションなどというものもない。
そういう意味ではあの人も同じ。
喋れない故に誰とも話さず、表情というものを理解しているのかすらわからない。
ふむ、もしかして。
人間って思っているより、会話や感情のやり取り無しでも問題無かったりするのかな?
これは実に興味深い話だ。
僕みたいに人型を取れるようなケースは稀も稀。
何だったら意識すら芽生えていないというのだって普通なのだ。
そこから言えばリッカさんは凄いとしか表現できない。
確かに僕らの不調を判断する際は機械的、数値的な計測結果を持っての事だけど。
彼女の整備はとても心地が良いのだ。
それは決して技術的な理由だけではなく、まるで母親が子供をあやすかのように丁寧で。
もちろん、僕も彼女に整備されるのは大好きだ。
話が横道にそれちゃったので戻そう。
とにかく、彼女と僕達の間だけをとって見ても。
好ましい関係を気付くのに言葉はそれほど必要では無い事がわかる。
そしてそれが人間同士でも通じるというのは彼が証明している通り。
であればここは一つ。
彼に倣ったやり方で、公の場で彼女に僕の事を印象付けておくのも悪くない。
流石にまだ僕の正体を伝えるのは早いけど。
二人に僕の姿が見える以上、ある程度は僕の存在についての共通認識を持っておいてもらった方が良いと思うし。
折よくもこの後、新しくやってきた神機使い二人の紹介の場が設けられているとの事。
うん、せっかくだし。
是非とも僕も、紹介の場に便乗させてもらおうかな。
………
新しく極東に来た新型神機使いの紹介に合わせ。
二人の隣で自分の番を待機する。
ちなみに僕の姿はあの人とリーダー以外には見えない。
存在そのものを認識されていないので、僕の立ち位置は必然二人が並んだ後の端に固定される。
まぁ姿が見えない以上、最後の紹介じゃないと不自然に割り込まれてしまうかもしれないのでちょうど良い。
自分の番が訪れるまでの間。
新しくやってきた神機使い二人の自己紹介に耳を傾ける。
うん、元気がいいね。
きっと神機の方も気に入ってくれると思う。
次は僕の番。
あの人のように無言で、ただしにっこりと微笑みながら彼女に首を傾ける。
…あ、あれ?
何でそんな渋い顔をするんです?
僕、何か間違えたかな?
………
-へぇ、あの人の部隊になったんですね。うん、無口だけど良い人ですよ。たまに意地悪い所がありますけど。-
-…いや、あの人の真似は駄目ですよ。あれじゃどうやったって、コミュニケーションのコの字もとれませんよ…-
-そんな事続けていたら、その内リッカさんに物理的な会話をされますよ?-
新型神機使いの紹介が終わった後。
自販機前で鉢合わせたリーダーさんにそう諭されてしまった。
えぇ…コミュニケーション全然取れてないじゃないですか。
いやでも、これもある意味円滑なコミュニケーションと言えるのかな?
とりあえず。
あの人の真似は止めましょうか。
リッカさんには今まで通り接してもらいたいですし。
下手に神機だなんてバレた結果、人間に対する以上に手荒い物理言語を用いられるようになったらそれこそ目も当てられない。
「ちなみにだけど。あの人、多分喋れない事悪用してるよ。」
「どういう事です?」
「都合の悪い事は徹底的にだんまりを決め込むから。何度もされてるから間違いないよ。」
それが本当ならの話なら。
僕達神機より性質悪いなぁあの人。
少なくとも、僕らは話せない事を悪用したりはしませんからね。
話したくても話せないからしょうがない、と言うやつです。
え?あの人も多分その理由を使ってるんですか?
…あの人、本当に人間なんですか?
実は僕達みたいに、神機か何かの精神体とか言いませんよね?
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ここは通称"鎮魂の廃寺"。
人々の集まりが途絶えて既に久しく。
朽ちかけた建物の隙間から吹き込む風雪に、文字通り御仏の形代が侵食されゆく場所。
例のクソトカゲを探しに来てみたものの
既に縄張りを移動しているのか、それらしき痕跡一つ見られやしない。
くそっ、爬虫類のくせに一丁前に知恵を働かせやがって。
もし穴の中で冬眠でもしていようものなら、生き埋めにした上で出てきたところをなます斬りにしてやるところだったのに。
何しろリンドウを喰ってくれた仇だからな。
手荒くなるのも致し方ない。
何なら斬り刻んだ中からひょっこりリンドウが出てきてくれれば万々歳なんだが。
中から引きずり出して無事リンドウ帰還のハッピーエンド。
まさにファンタジー顔負けの大団円である。
これならクソトカゲも粉微塵にして仕留められるし、我ながらいう事無しだなハッハッハ。
「…僕の気のせいかもしれませんが。もしかして何か気が立ってたりしません?」
おっといけない、もしかして表情に出てしまっていたか。
俺とした事がらしくない。
急いては事を仕損じるというからな。
穏やかに穏やかに。頬でも揉んで表情筋をリラックスさせるとしよう。
「…いや、気のせいじゃなかったのは分かりましたけど。一体その無表情の何処を解そうとしてるんですか…?」
………
探索を始めてしばらく。
見つけたのはプリティヴィ・マータ。
そういやそもそもの話。
リンドウがKIAに認定される要因を作ったのはお前だったか。
なら今日の所はお前でいいや。死ね。
…と、仕留めにかかるのはたやすいが。
一応今日のミッション目的は別にある。
配属してそれなりの日数は経つものの。
何だかんだでレンと一緒に任務に行った回数は多くない。
だってこの子、ミッションに連れて行ってもその履歴が残らないんだもの。
いくら特務部隊の中でも秘匿性の高い隊員とはいえ。
毎回そんなのを連れ回してたら、遠からず俺の方にツッコミが来てしまう。
こういうのってちゃんと隠蔽するのも隊長さんの役目だからな。
もしレンの正体がバレたりした日には俺の方がお叱りを受けてしまう。
それならいっそ連れていかなければいいのかというとそうもいかない。
建前上は同じ部隊に所属する上官と部下。
隊員の能力を把握できていない部隊長など、もはや部隊長を名乗る資格はない。
たった一人きりの部隊だったとはいえ。
俺にも隊長としての矜持くらいはあるからな。
という訳で。
今回は完璧な隠蔽工作を施した上でのミッションである。
受注時に申請するコードネームは偽名。
それも単なる思い付きの名前ではなく、あらかじめNORNのデータベースを編集して経歴作成もばっちりな物。
加えて最新の機密スレスレの情報を織り込むことで信憑性を上げる事も怠らない。
具体的には新型神機の汎用化に向けて実施された、適合テストに合格した人員に対する実地試験だとか。
そして最後。
万が一、レンを知る人間に彼(?)の姿を見られたとしても大丈夫なように。
「一応聞いていいですか?…これ、貴方の趣味だったりします?」
俺じゃなくてリッカの趣味。
スマンな、極東支部の特務兵は一度はそれを着るのが義務付けられているんだ。知らんけど。
俺は着た。
ソーマは着てない。ルーキーも着てない。
でもレンが着たからこれで二対二。
この事実を盾に、何時かアイツらにも着せてやるんだ。
今からその瞬間が楽しみで仕方ない。
特にソーマ、お前は絶対に逃がさんぞ。
よくも任務に忠実だっただけの俺をイカれ呼ばわりしやがって。
俺はあの事を忘れてなんかいないからな。
近い将来、お前も
そして写真を取ってシオに見せつけてやる。
閑話休題。
話を戻そう。
とまぁ、そういう訳で。
ただのとばっちりではあるのだけど、ツイてなかったと我慢してくれ。
寧ろ寒いこのエリアなら身体が冷えなくてちょうどいいだろ。
隊長さんに是非ともお前の実力を見せてくれ。
レン。いや、極東支部所属の謎の神機使い。
その名もコードネーム"kigurumi"君。
出来れば俺と同じ、近接型だと親しみ持てて嬉しいな。
実際の所、レンの姿は誰にも認識されていないので建前すら立っていないという事実。
Q.そこにウサギの着ぐるみを合わせるとどうなります?
A.極東支部の七不思議、"新型使いのキグルミさん"が爆誕です。
中に誰もいませんよ?