無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A1."07"のマーキングはありません。
Q2.特化型神機?
A2.そんな物はありません。
相変わらず適当な事を言って誤魔化すレン君ちゃん。
回避特化バックラー?ジャスガで無理矢理圧し潰せばOK。
「先に言っておきますが、僕の神機はアラガミを倒す力を持っていません。」
ショートブレード型の神機を持ち上げて見せながらレンが説明を続ける。
「剣形態でアラガミからオラクルを奪い取り、銃形態でそれを様々な形で放出する。新型神機の基本コンセプトであるそれにバリエーションを持たせた場合のプロトタイプが僕の神機に当たります。具体的に言いますと…あぁ、ちょうど良い所に小型アラガミがいますね。」
促された視線の先にはオウガテイルの姿。
まだこちらに気付いていないのか、悠長に首をもたげて周囲の状況を伺っている。
「見ててください。行きますよ…それっ!」
掛け声とともに一直線にアラガミに駆け出すレン。
うん、特務部隊というだけあって流石に身体能力は普通の神機使いよりも数段上のようだ。
対するアラガミはまだこちらに気付いていない様子。
レンは音もなく駆け寄り、そのまま流れるようにアラガミの首を刎ねて…あれ?
切り上げられた神機の刃。
それは確実にアラガミの首を捉えた筈だったが。
俺の見間違いで無ければ、それは文字通り空を切るかのようにアラガミの身体をすり抜けた。
それどころか斬られたはずのアラガミすら、それに気付く事無く周囲の警戒を続けている。
いや、お前のすぐ隣に不審なウサギの着ぐるみがいるんだけどな。
こっち見んなよ。お前が見るべきは横だよ横。
誰に言うでもなくツッコんでいる内にレンがこちらに戻ってくる。
結局気付かれずに戻ってくるあたり、凄い隠密スキルの持ち主だな。
もしかしてこいつ、実は幽霊か何かだったりして。
特務部隊は基本情報が秘匿されてるし、経歴が無い事を誤魔化すために名乗ってるとか。
もしそうだとすれば俺今すぐ泡拭いて倒れる自信あるんだが…
アッハッハ、まぁそれは無いか。
着ぐるみ着る幽霊とか聞いた事無いし。
閑話休題。
アホな事を考えてるといつの間にかレンの神機が銃形態に変形している。
「見てもらった通り、僕の神機でアラガミを切りつけてもダメージの類はありません。ですが、実はバレットに用いるためのオラクル細胞は通常の神機よりも多く奪い取れているんですよ。」
言いながら向けられる銃口を何も言わず真っすぐに見つめる。
これでもそれなりの古参兵だからな。
撃ち出されるのは回復弾かその類だと理解出来ているので、反射的に避けようとするのも意識して抑える事が出来るのだ。
ただしカノン、お前は駄目だ。
回復しますとか言って普通に放射弾撃ちやがって。
痛くはなかったけど首がもげ飛ぶかと思ったぞ。
「…流石に慣れているみたいですね。安心してください、今から撃つのは支援用の強化弾ですから。」
ふむ、俺は近接神機使いだから話に聞いた程度になるが。
確か最近開発された、味方の支援用に筋力や体躯を強化させるバレットだったか。
便利と言えば便利なんだが効果時間が短いうえに消費コストも高すぎるから実用性に低いって話だが。
「ご存じかもしれませんが、このバレットはお世辞にも優れたバレットとは言い難い代物です。効果の短さもさることながら、それに見合わない程のオラクル消費量が最大のネック…ですが。」
言いながら撃ち出された弾丸が身体に当たる。
瞬間、普段はここぞという時に服用している強化薬を飲んだかのような感覚が身体に漲っていく。
「このオラクル吸収に特化した神機であれば、ほんの数回アラガミを切りつけるだけで連発が可能です。まぁその代わりに近接攻撃力は皆無と言っても差し支えないレベルなんですが…」
なるほど、理解した。
要するに支援型の銃型神機と本質は同じ。
前に出てアラガミを仕留めるのは俺達近接使いの役目という訳だ。
これはこれでバランスも取れてるし問題無いのではないだろうか。
それに先程の強襲でレンのスペックも十分わかった。
支援メインとは言っても、不意に近接戦が発生したとしても普通に渡り合えるほどの実力はありそうだ。
であれば。
俺も何時も通りの戦い方でよさそうだな。
俺の戦い方は支援の有無とか関係無いし。
長い事一人部隊で単独ミッション行く事も多かったからなぁハッハッハ。
この話は止めようか。
今はもう一人じゃないのだ。
ちくしょう、ネガティブな気持ちにさせやがって。
ミッションの目的はもう達成済みだし、さっさとターゲットを狩って帰投しよう。
厳密には違うとわかっているけど。
リンドウの仇め覚悟しろ。
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ここは極東支部のエントランスホール。
今日も今日とて同輩である神機使い達が忙しそうに任務を受注し、出かけて行っている…ように見えるが。
実際はこちらを一瞥した後、関わり合いになりたくないと言わんばかりに早足に出撃ゲートへと向かっていく。
「いやぁ、初めはどうかと思ったんですけど。着てみるとこれ、意外と悪くないですね。」
まぁ原因は既に分かっている。
単純な話、俺の目の前に不審なウサギがいるためである。
着ぐるみを着込んだまま、ストローでジュースを飲みながらそう話すレン。
啜るのに合わせてピコピコと耳が動いているのがまた何とも言えない。
いや、人様のファッションにとやかく言うつもりは無いが。
ミッション終わったならさっさと脱いでくれよ。
お前の名前がミッション履歴に残らないから、それを誤魔化すために用意しただけなんだぞ。
何でわざわざこんな公共の目立つ場でまでその恰好でいるんだよ。
"ちょっと一服していきませんか?"なんて念願のやり取りにホイホイ乗った結果がこのザマである。
周りの視線も痛いし、これ飲んだらさっさと部屋に戻ろう。
「見た目に反してずっと動きやすいし、それにすごく美味しそうな匂いがするし…人間って本当、服装一つとっても贅沢ですよね。」
それはひょっとしてギャグで言っているのか?
適当に相槌打ってやり過ごそうと思った矢先にこれである。
確かにそれはウサギの着ぐるみだけど、"美味しそう"って表現する人間は初めて見たよ。
"美味しかった"っていう感想は聞いた事あるけどな。
文字通り三分の二程味わった上での感想だ。
可愛い笑顔と引き換えに般若みたいな顔した女神にボコボコにされたよ。
「あ、いたいた。ねぇキミ、ちょっと聞きたい事があるんだけど…」
噂をすれば何とやら。
振り返って後ろを見れば、極東支部におわせられる我らが女神様のお出ましである。
丁度いいや、顔見知りかもしれないけどレンの事を紹介しておこう。
そう思って正面に顔を戻してレンを見ると、くてっと頭を垂れたウサギの着ぐるみがそこにいた。
膝の上には横になったジュースの缶。
当然中からは液体がこぼれだし、着ぐるみの生地に甘い染みを広げさせている。
…ん?
そういえばこの着ぐるみって何だかんだリッカのお気に入りの一品じゃ…
思うが早いか、ガシッと肩を掴む力強い感触。
何食わぬ振りで後ろを振り返ると、案の定怒れる女神(アラガミ)様が降臨していた。
「わざわざ着ぐるみを持ち出してどうしたんだろうと思って来たんだけど…まさかキミ、お人形遊びするためだけに持ち出したとか言わないよね?」
馬鹿言え、良い歳した大の男がそんな阿呆な真似するわけないだろう。
これにはちゃんとした理由があるんだよ。
あ、でもそれを言う訳にはいかないのか。
レンの存在は結構セキュリティクリアランスが高い情報みたいだからな。
そもそもの話、ミッションの受注履歴を誤魔化すためですなんて言えないし。
「…まぁどうせ何か理由があって誰かにこれ着せてるんでしょ。ジュースこぼしたのは多めに見てあげるから、せめて中に誰がいるのかくらいは教えてよ。」
素晴らしい、何も言わずにここまで察する事が出来るとは。
やはり仕事の出来る女性は一味違うな。
そしてここで変に茶化したりしないのが出来る男というもの。
どうせレンの事を紹介するつもりだったのだし、促されるままに着ぐるみの頭を取り外して…
「………………………」
「…中に誰もいないけど?」
カポリと頭を取り外し、覗いた中身はがらんどう。
一度そっと着ぐるみの頭を元に戻し、一拍おいてからもう一度頭を取り外す。
「………………………」
「…説明、してもらえるかな?」
説明も何も。
寧ろ俺が状況を説明して貰いたい。
レンが着ぐるみのままジュースを飲んでいて。
そこにリッカがやってきて。
前を向いたら着ぐるみがジュースをこぼしてて。
中を覗いたら誰もいなかった。
以上、説明終わり。
…まさかとは思うけど。
レンの奴、ジュースこぼしたから怒られる前に逃げた?
あのアラガミに斬りかかってもバレない程の隠密スキルがあるならさもありなん。
便利そうだし、技術の類なら是非とも教えを請いたいところである。
まぁそれはともかく。
差し当っての問題は。
「………(にこにこ)」
眩しいまでのリッカの笑顔がこちらを向いている。
うん可愛い、やはり女の子の笑顔に勝る物は無いな。色んな意味で。
「とりあえず、保管庫に行こっか?」
………
あはは、連行されちゃった。
ちょっと悪い事しちゃったかな。
あの着ぐるみ、思いの外便利で良かったんだけど。
リッカさんに僕の声は聞こえないし、三人交えてだと流石にボロが出ちゃうかもしれないから仕方ないか。
…それにしても。
まさか偽装工作をしてまでミッションに連れ出そうとするなんて。
疑り深いんだか、面倒見が良いんだか。
でも。
悪い人では、ないのかな。
この人ならきっと、リンドウの事も--
-その後の神機保管室-
「とりあえず。キミ、当分は着ぐるみ貸出禁止だからね。」
「………………………」(←別に構わないがと思ってる。)
「あとジュースこぼした罰としてクリーニングはキミにしてもらうからね。」
「………………………」(←レンに押し付けようと思ってる。)
「…で、キミさ。そろそろ隠し事について教える気ない?」
「………………………」(←"無い"と言ったら殴られるんだろうなと思って黙ってる。)
「…また黙ってやり過ごそうとしてるでしょ。」
今回は何とかやり過ごしました。