無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A1.触ってしまったのが分岐点。
Q2.レン以外なら上手くいった?
A2.途中でリバースしてしまう。
Q3.悪夢見てるけど大丈夫?
A3.もう慣れた&振り切れたままなので効果薄。
同じトラウマは~とか言い換えてもよし。
走る。
走る。
脳裏にあるのは先程見たあの光景。
リンドウさんがアラガミに呑まれ。
それでもなお、リンドウさんとしてそこにある。
--リンドウさんは生きている。
それは公に言うにはあまりに主観的で。
胸に秘めるにはあまりに具体的に過ぎた。
走る。
走る。
目指す場所は支部長室。
紆余曲折ありながらも、極東支部の最高権力者となった榊博士。
リンドウさんの姉であり、自身も神機使いとして前線を走り続けたツバキ教官。
最初に伝えるべきはこの二人。
余りにか細い私の話を。
理詰めで、感情的に、付け入る隙無く埋めてくれるこの二人。
…これほどまでに感情的になったのは何時ぶりだろうか。
説明というにはあまりに乱雑な吐露が終わってしばらく。
静寂が続いた室内に榊博士の言葉が響き渡る。
「…新型特有の感応現象ってやつだね。それでリンドウ君が生きている、と。」
無言のまま。
ただその言葉に力強く頷いて見せる。
「にわかには信じがたいが…いずれにせよ、他の誰にも言わず、まず私達に報告したのは賢明だった。」
言いながらこちらに視線を向けるツバキ教官。
私とて、出来る事ならこんな不確かな状態でリンドウさんの事を報告なんてしたくはなかったが。
それでも言わずにはいれなかった。
そして、私が気にしていた事は全てツバキさんが代弁してくれた。
徒に期待させておきながら、やっぱり駄目でしたなどと。
それは無責任を通り越して、もはや悪魔が好む愉悦の部類に等しい。
私だったら許さない。
例えそれが良かれと思っての行いであっても。
申し訳ないがタダではおかない。
あの人がふざけた事をした時と同じように、拳の十発は覚悟してもらう。
少し熱くなり過ぎましたね。
本題に戻りましょう。
説明の甲斐もあってか。
私の陳述は正式なミッションとして受注されることになりました。
まずは私の話を裏付けるための証拠集め。
リンドウさんが生きているという証拠、その痕跡を十二分に集めると言うのが最初のミッション。
とはいえ、痕跡と言ってもそれと断言できるものが無い以上。
集める物は可能な限り幅広く。
結果的に発注されたのは有用素材の収集依頼。
内容の割には実入りが良いミッションではあるが。
緊急性を低く偽装している以上、受注割合もそれなりで。
正直言ってもどかしい。
今回ほど人海戦術という言葉が頭をよぎった事は無い。
己惚れながら、今の私なら人を集める事はそう難しくないと思うけれど。
現時点ではリンドウさんの事を伏せている以上。
表立ってそれを理由に人を集める事は出来ず。
本当の目的は伏せたまま。
ただでさえ少ない人員を、ただの一般の素材収集ミッションに掻き集める。
流石にそんな事は現実的に無理な話。
が、だからと言って簡単に諦められるほど、私は物分かりの良い人間ではない。
どこか、どこかにいないものか。
流石に本当の目的を伝える事は出来ない。
ある程度は矛盾が出ない形で歪曲する事になるだろう。
その上で。
仮にバレても事情を察して詮索せず。
周りに吹聴しない人間が。
--どこか、どこかにいないものか。
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ここは通称"鎮魂の廃寺"。
リンドウが忌まわしいクソトカゲに喰われてしまった場所である。
あのトカゲ、ずっとここを根城にしてくれれば話は早かったのだが。
どういう訳か目撃情報すら見つからないままこの地を離れてしまったようで。
正確には疑わしい情報だけならそれなりにある。
最近よく聞くのは討伐対象のアラガミがいつの間にか狩られているという話。
仮にあのクソトカゲがリンドウの意識を持っているなら、神機使いとしてアラガミを狩っているとしても不思議ではない。
まぁ俺には全く関係無いが。
例え意識がリンドウであろうとも。
リンドウを喰ってくれた畜生なんぞに慈悲は無い。
斬って叩き割って突き刺して。
砕いて嬲り、散らし晒して…この話は止めようか。
発想がどこからどう聞いても危ない人のそれである。
まったく、俺の両親が命懸けで救った息子はそんな狂人ではないというのに。
最近なにかと感情が高ぶる事が多くていけない。
酒の飲み過ぎかな?それとも少々エスプレッソを呷り過ぎたか。
だってアレ美味いんだもの。
特にフェデリコが淹れるやつなんか風味が凄くて病みつきになるし。
極東には"紅茶をキメる"という言葉があるが。
もしかしたら珈琲にも当てはまるのかもしれない。
あーぁ、今からでも俺の部隊に来ないかなぁ。
豆は俺が調達してくるから、毎日俺のために珈琲を入れてくれ。
男同士だとヤバい振りになると気付いたのでこの辺りで思考は中止。
精神衛生上よろしくないので、気付かなかった事にもしておこう。
とにもかくにも。
今俺がいるのは鎮魂の廃寺。
同行者は今や極東で知らない奴はいないと言っても過言ではない実力者となったルーキー。
可愛く、そして強い。
流石に経験の浅さこそは否めないものの。
それを感じさせない程に卓越した戦闘技術と。
モキュモキュと小動物のようにお菓子を頬張る姿が愛らしいと巷の野郎どもに人気の女の子である。
入隊したての頃に比べれば随分年相応になったもの。
同年代であれば俺とてギャップにクラリと来ていたかもしれない逸材である。
どうだお前ら、ルーキーちゃんは俺の後輩。
補足するならよくお菓子を買い与えていたのも俺である。
つまり俺が育てたと言っても過言ではない。
告白したい?あーダメダメ、俺は許しても懐のチャカが許さないからな。
極東風に言う所の"後方兄貴面"と言う奴である。
お義兄さん?ハハッ、ナイスジョーク、あいにく俺は一人っ子だ。
もし仮に居たとしても。
その子は両親共々、とっくの昔にアラガミの腹の中だな。
閑話休題。
話を戻そう。
俺の目の前でルーキーが今回のミッションについて説明する。
表向きはアラガミの討伐だが…何でも実態は榊博士から依頼された特務が絡んでいるらしい。
「…正直に話すのは守秘義務違反だと理解してます。でも同じ特務部隊の貴方なら、それでも私が話した意図を組んでくれると思って話しました。」
ふむ、この辺りの感覚はやはりルーキーだな。
信じてくれるのは嬉しいが。
公私のそれは別な物。
立場で言えば俺も同じ特務部隊。
である以上、ミッションが終わり次第にでも、榊博士に機密漏洩の件について伝えなければならない。
まぁ言わないけど。
どの程度自分を信用してくれているのかわからない胡散臭いオッサンと。
自分を信じた上でわざわざ不利益になる話をしてくれる可愛い後輩。
可愛い女の子。
大事な事なので二回言った。
オッサンなんぞで同じ土俵に立てると思う方がどうかしている。
と、いう訳で。
ミッション内容は完璧に理解した。
ルーキーが何かしらの特務案件を果たしている間。
俺がアラガミを引きつけておけばいいのだろう。
任せろ任せろ。
これでも立派な古参兵。囮役くらいは難なくこなして見せるとも。
あぁ、念のため聞いておくけど。
全員斬り飛ばすけど別に良いよな?
……………………………………………………………………………………………
砲火後ティータイム。
一度は声に出して言ってみたい極東の名言である。
まぁ今日の俺の神機はお馴染み旧型。
ノコギリタイプのそれはどこをどう切り取っても砲火の文字の欠片も無いが。
とにもかくにもターゲットは全員沈黙。
携帯コンロでお湯を沸かし。
雪景色を肴に優雅にお茶を啜って一息入れる。
「………………………」
静かだ。
悪くない。
決して、決して悪くない。
思えば最近は何だかんだで心がずっと張り詰めていた気がする。
偶にはこんな心落ち着くミッション明けも悪くないな。
並んでいるアラガミの亡骸?
生憎俺の目には映らない。
コアはもう抜いてあるから、どうせもうすぐ塵になるし。
………
討伐したアラガミが塵と消え。
辺りに静寂だけが木霊する。
聞こえてくるのは風雪の音。
湯気立つお茶を啜りつつ。
ただ白銀の世界に意識を溶かして…
いや、ルーキーどこに行ったんだよ。
確かにアラガミの相手は引き受けたけど。
何も告げずに姿を眩ます奴があるか。
これがアネットやフェデリコのような新人だったら心配の一つもするけれど。
流石に極東随一の実力者が対象では心配よりも不満の方が先に上がる。
さっき聞いた話を思い出す。
たしか何かの素材を回収するのがこのミッションの目的だとか言っていたっけ。
素材、素材。
素材回収ねぇ。
採取ポイントと呼ばれる素材がよく回収できる場所を漁ってみる。
それなりに豊富な資源が手に入ったものの、それはどこにでもあるありふれた素材。
同じ特務部隊の経験がこれではないと。
頭の中で否定の言葉を告げていく。
というかそもそも。
俺、ルーキーが何を探しているのか知らないし。
うーん困った。
その内戻っては来るのだろうが。
こんな雪原で何時戻るかわからない人間を待つなんてしたくない。
しょうがない。
こちらから探しに行こう。
まったく、いい歳こいて迷子とは。
リンドウといいルーキーといい、第一部隊の隊長は方向音痴がデフォなのか?
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ここは通称"鎮魂の廃寺"…の外れにある民家。
本来は作戦エリア外なので立ち入りが禁止されている場所なのだが、今回は迷子になったルーキーを探しに訪れた次第である。
あの後一般的な作戦エリアを見回ったがルーキーを見つけられず。
よもやと思って足を伸ばしてみたエリア。
うむ、我ながら中々良い勘している。
何時ぞや見た廃民家の入口付近。
そこに蹲り、何かを拾って観察しているルーキーの姿。
多分だが。
アレが榊博士から依頼された特務案件に関係する品だろう。
別に探りを入れるつもりはない。
が、こんな所まで来ると言うならそれはそれで一言言って欲しい所--
…アレ、何を見てるんだろうか?
不満の感情もそこそこに。
ふと悪戯心に近い別の思惑が頭をよぎる。
いや、別に教えてくれなくても気にしないんだが。
何も言わずにエリア外に来るのはいただけないよな。
そしてそれを探しに来たために。
偶然それを見てしまうのもしょうがない話であるよな。
理論武装も出来たので。
気付かれないよう、そっと背後に忍び寄る。
抜き足、差し足、忍び足。
ルーキーはまだ俺の存在に気付かない。
気付かれないよう、蹲るルーキーの背後から覗き込む。
黒い羽が。
ルーキーの手に収まっていた。
そう言えばこの人、あの時結構羽拾っていましたね。
長くなったので次に続きます。