無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.察してくれると思ってた。
報連相は仕事の基本。
ルーキーに手持ちの羽を渡した翌日。
愛用の受注端末が任務の受注を告げていた。
未知のアラガミの物と思われる痕跡集め
先の黒い羽に引き続き、更なる痕跡を集めてこいとの事。
画面に表示されているのは特務の文字。
目を擦り、目を覆い。
顔を洗って見直してもやっぱり表示されたまま。
ちくしょう、全部喋ったなルーキーめ。
あれほどわかりやすい形で伝えてやったのに。
タイミング的に俺からだってのはわかるだろ。
それを周りに言って欲しくないからあんな回りくどい渡し方したんだよ。
まったくこれだからルーキーは…ああいや。
改めて考えてみれば、これは俺が悪いのか。
あの子はまだ神機使いになってまだ一年と経っちゃいない。
特務任務を受けるようになってから見ればそれこそ半年たったかどうか。
優秀とは言えまだまだ新人である事には違いない。
戦闘面ではいざ知らず、この辺の機微にはまだまだ疎かったという事か。
いやはや俺としたことが。
新人、ましてや女の子相手にその辺りの配慮を忘れてしまうとは。
意思表示は社会人の基本。
次からはちゃんと口にして伝えないとな。
まぁこうなってしまっては仕方ない。
特務として正式に発注された以上、無視して別な事をしてる訳にはいかない。
これでも立派な古参兵。
公私の区別はきっちり出来ている。
改めて任務に目を通す。
何々、一体何を集めて来いって?
"漆黒の翼"ね。
何とも仰々しい名前だこと。
しかし残念。
名前から察するに、俺の目的もついでに果たすというのは難しそうだ。
何しろトカゲに翼は無いからな。
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ここは通称"贖罪の街"。
表向きは定期的に表れるヴァジュラの討伐ミッション。
本当の目的はこの辺りにあるであろう特務素材の探索と回収である。
まぁ流石にアラガミが闊歩してる中で探すのは危ないので。
どちらにせよ討伐はやる羽目になるけれど。翼だけに。
うーん駄作。
この前の羽だったならまだ面白かったんだがな。
まぁいいや。
気を取り直してミッションに取り掛かろう。
「さて、作戦ですが…今回こそ私が前でいいですよね?」
開始ポイントに向かう途中。
ルーキーからの質問に少し考える。
既に何度も交戦した事があるヴァジュラ神族。
実力だけなら極東トップクラスのルーキーが今更後れを取るような相手とは思えない。
接触禁忌種が相手なら念のため俺が前衛に出るが。
ただの通常種相手にまでそこまでするのは過保護というもの。
今や彼女は立派な部隊長。
何時までも先輩が庇護してやらねばと思うのは大きなお世話なのかもしれないな。
となれば面倒な小細工は不要。
ルーキーの提案通りに動き、前後から挟み撃ちにして袋叩きにするのが手っ取り早いか。
頷き、作戦に肯定の意志を返したところ。
その反応は予想していなかったと言わんばかりにルーキーが驚きの表情を見せる。
「あ、あれ?良いんですか?私が前ですよ?」
良いも何もお前が提案したことじゃないか。
何でそこで驚くんだよ。
もしかして言ってみただけだったりとか?
紛らわしい、仕事中に冗談を言うのは感心しないぞ。
まぁそれならそれで俺が前に出るだけだが。
歩を速めて前に出た次の瞬間。
いきなりルーキーに腕を掴まれ引っ張られる。
「ま、待ってください!私、私が前に出ますから!今回は貴方が後ろからでお願いします!」
何故か大慌てでそう弁解しながら前に出るルーキー。
いや別にどっちでもいいんだが。
何でそんなにテンパってるんだ?
相手はたかだかヴァジュラ一匹。
今更そんな作戦重視しなけりゃいけない相手でも無かろうに。
ふーむ、これは怪しい。
まさかお前、何か隠してるんじゃないだろうな。
例えば今から討伐するヴァジュラ。
実は特殊個体で超強いとか。
こんな見た目だがこの娘は部隊長で特務兵。
この前みたく俺も知らないミッションを受けていたとしても不思議ではない。
おまけに榊博士とも仲が良い。
あの人普通にえげつない依頼してくるからな。
翼探索のついでに危ないからやっつけてきてとか言いそうだ。
まぁここでそんな話をしても詮無い事か。
どの道俺に真実を知る術は無いし。
任務とあれば、ただただそれに従うだけ。
宮仕えの下っ端の悲しい所だな。
おっと、そうこうしている内にポイント到着。
遠目だがヴァジュラの姿も確認できた。
何にせよ。
まずはさっさと倒してしまおうか。
特殊個体だったら困るから、最初から全力でかかるとしよう。
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まぁ悲惨。
何とも惨いクオリティ。
中心から潰れるように真っ二つになってしまったヴァジュラの遺体。
凄惨な姿に進化してしまったアラガミの姿に思わず目を覆ってしまう。
作戦通りルーキーが前に出て。
その間に俺が背後へ回り込んで。
対ハンニバル用の特別なお薬を飲み。
建物の影から隙を伺い、間合いに入った瞬間に
俺が最も得意とする死角からの必殺剣。
程なくグシャリと快音が響き、確かな手ごたえが静寂と共に広がっていく。
…いや、正直言うと手応えあり過ぎるなと思ったんだが。
動かなくなったアラガミを改めて確認したところで合点がいった。
コイツ普通のヴァジュラじゃん。
特殊個体じゃないじゃないか。
確かに全力でかかるとは言ったけど。
幾らなんでも通常種相手には全力過ぎである。
ソーマよろしく力に物を言わせた全力の一撃。
それも滅多にやらないドーピング全開の本気モードで。
普通にオーバーキルもいいところ。
強化薬は使い放題な訳じゃないんだぞ。
それにアイツ用は身体にかかる負担も強い。
使った後は確実に筋肉痛が待っている。
おまけに俺は若いから。
下手をすると今日の夜には凄い事になってるかもしれない。
この話は止めようか。
考えるだけで気が滅入る。
お邪魔虫も片付けた事だし。
本題のミッションに入るとしよう。
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お待ちかねのデートタイムを満喫中である。
うん、女の子と一緒にお散歩するのは楽しいな。
俺はシャイだから手を繋いだりはしないけど。
探索任務なんだから散開しろよとか言ってはいけない。
今言ったら間違いなく殴られる。
「またですか?まだ私はまともに戦わせてもらえないんですか?」
視線が痛い。
なるほど、これが熱視線と言うやつか。
モテる男というのもツライな。
恐る恐る盗み見た眼はアラガミを見るように冷たかったけど。
というか。
戦わせてもらえないってなんだよ。
言いがかりにも程がある。
寧ろ普通に完封スレスレの戦いぶりだったじゃないか。
よそ見する余裕が無い程ヴァジュラ追い込んでくれたから上手い具合に不意打ち出来たんだよ。
多分だけどあんな戦い方出来るのお前だけだぞ。
いくら極東じゃヴァジュラを倒せて一人前と言っても。
正面から斬り合って磨り潰せるのは普通にバケモノクラス。
強いて上げてもソーマくらいしか思いつかん。
俺やリンドウみたいな一般神機使いじゃ、とてもじゃないが真似できない。
ヴァジュラ一体で総出になる他所の支部に至っては言わずもがな。
うむ、改めて考えるとこの地域。
人もアラガミもバケモノしかいないな。
ひょっとして守るよりも封鎖した方が人類のためになるのではなかろうか?
まぁその辺の切り分けはもっと立場が上の人たちに任せよう。
宮仕えの下っ端は気楽なのだ。
本当に封鎖するって言ったら抵抗するけど。
せめてリンドウ助けるまで待て。
閑話休題、探索に戻ろう。
ルーキーが付いて来るのには何も言うまい。
せっかくのデートタイム、大人は自分から地雷を踏み抜くような真似はしないのだ。
………
屋外の探索も一区切りつき。
建物の中に入ってそれらしい痕跡探しに段階が移る。
「見つかりませんね。まぁわかってはいましたが…」
そりゃあな。
俺達別に偵察班みたいに物探しや情報収集が得意な訳じゃないし。
やってる事は素人二人、キョロキョロしながら歩いてるだけ。
おまけに散開せず二人固まってるんだから効率だって悪い。
「何か当ては無いんですか?この前みたく、どこからかパッと取り出して見せるとか…」
無茶言うなよ、手品師じゃないんだぞ。
俺の事を何だと思ってるんだ。
まぁルーキーがそう言いたくなるのもわかるけど。
結構な時間当てもなく探し回っていたからな。
出来る事なら俺もパッと取り出して見せたい所だが…ん?
良い方法が無いかと視線を漂わせて所。
不意に吹き込んできた風に、転がっていた空き缶が流されていくのが目に入る。
そしてそれは吸い込まれるように崩れた瓦礫の隙間の方へ。
よくよく観察してみれば、隙間の周囲には吹き流れてきたであろうゴミが他の場所よりも多めに転がっている。
ふむ、怪しいな。
自分で言うのもなんだが。
こういう時の俺の勘は冴えている。
瓦礫に近寄り観察する。
どうやら隙間の向こうに空間があるようだ。
出来る事なら隙間の向こうも探索してみたいところだが。
人が通り抜けられるような大きさではなく。
さりとて道具も無しにどかせるようなサイズの瓦礫でも無い。
後ろからルーキーが何か叫んでるけど気にしない。
-ズガンッ!-
ふっはっは、脆い脆い。
ヴァジュラの方がまだ硬かったな。
砕け散った瓦礫を踏み越え、隙間の向こうの空間へ歩を進める。
隠し空間と呼ぶには少々大げさだが。
こういう場所には決まってお宝アイテムが転がっているのがお約束。
--ほら、あった。
翼、というよりはアーカイブで見た鳥の片翼と表現する方が近いが。
色の方は名前通りの漆黒。
とりあえずこれがお探しのブツで合っているだろう。
後ろで口を開けたままのルーキーに持ち上げてそれを見せつける。
どうだルーキー、パッと取り出して見せたぞ。
極東の古参兵は専門外の事でも優秀なのだ。
自慢に思われたら嫌だから言わないけど。
とりあえずはミッションコンプリート。
アナグラに帰って飯にしよう。
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「…神機はね、土木工具じゃないんだよ?」
はい、大変良く存じております。
「壁ごとアラガミを切ったんだって?君ならそんな事しなくても他に戦う手段持ってるよね?」
はい、両手で数えきれないくらいには。
「瓦礫をどかす方法だってさ、別に神機で砕く以外に方法あるよね?」
だってアレが一番手っ取り早かったから。
「ねぇリーダー。君の目から見てさ、この人躊躇いとかあった?」
「全くありませんでしたね。」
おいちょっと待て、ここは助け船を出す場面だろ。
誰が火に油を注げと言った。
それとも船(石油タンカー)とか言う冗談か?
「…前々から思ってるんだけどさ。君、ホンット~に神機の使い方荒いよねぇ?」
そんな事はございません。
神機使いたる者、自分の神機に愛着を持たない奴はおりません。
粗雑に扱うなんてとてもとても。
ただ便利だから
ほら、もし壊してもリッカの腕なら何とかして--
「何か言いたげだね。言いたい事があるなら言っても良いんだよ?」
…俺シャイだから。
女の子の目を見ながらじゃ話せないんだ。
決してスパナで頬をペシペシされているからではない。
「…ねぇリッカさん。この人反省してると思います?」
「まさか、絶対してないよこの人。だって神機壊すの何度目だって話だもん。」
「ですって。そうなんですか?」
なんだよルーキー、何企んでやがる。
やめろよその笑顔。
可愛いけど今浮かべるのは趣味悪いぞ。
「無言ですか。じゃあ反省してないって事ですね。」
「それはごめんなさいって言わないからって事?」
「いえ、"沈黙はイエス"ってアーカイブの映画で言ってましたから。」
…嘘だろお前。
このタイミングでさらに煽るのかよ。
なるほど、と呟いたリッカが凄いニッコリしてる。
ちくしょう可愛い、これ本気で怒ってる時の表情じゃないか。
別に本気でそれを信じた訳じゃないけれど。
本気になって構わない、都合の良い言い訳見つけたって顔してる。
「ヴァジュラ倒させてくれなかった仕返しです。私の実力、次はちゃんと信じてくださいね。」
助けを求めてルーキーに視線を向けたところ。
意地悪げな笑顔でそう返される。
ちくしょう可愛い、いつか絶対仕返ししてやるからな。
ルーキーちゃんは認めてほしい。
無口さんは認めてる。
お互い、肝心なところが伝わってないだけ。
次回ちょっと寄り道話。
シリアスとシリアルを混ぜていきましょう。