とある個体の方向転換 作:一方通行に健康な食事を食べさせ隊
「おい、そっちも逃すなよ」
ビシャリ、と
視覚は夕焼けの空を背景にした路地裏に広がる赤色、聴覚に届くのはカラスが鳴く声に紛れた人の悲鳴と笑い声、味覚は緊張で口が乾いて血の味がするようで、嗅覚に刺激的な鉄分独特の臭い、触覚は新たに跳ねた血液によって湿る…白かったニーハイの感触。
クラリクラリと視界がアルコールでも摂取した後のように揺れ、耳に届く音の全てが遠のき、口の中は酸っぱくてヒリヒリとして、鼻は涙袋からの涙によって息がしづらくて、僅かに震えて
「た…助けて、くれ……!!!」
「……」
「…図々しいな」
グイッとワンピースが引っ張られる力に気付いて、足元を見ました。そこに居たのは、頭から血液を流しながらうつ伏せになっている男性でした。男性の焦げたような茶色の髪は血液で固まっていて、頬には何かを掠ったような傷跡がありました。
「…あ?……まさかお前…」
突然衣服を引っ張られたことで声が出るかと思いましたが、喉を少し圧迫する
「…はァ……仕方ねぇな…」
つまりは、男性を見捨てなくてはなりませんでした。この男性は人間で…性別が違えど、布束砥信のように自由選択が許された生活を送ってきたんでしょう。人口的なモノの
「オイ、そこのお前」
本来なら
「なぁオイ、聞こえてンだろ」
それだけ
「お前だって言ってンだろ」
「…っなん…です。なんの、ようです」
いつの間にか
「お前、あの木原ンとこの新人か?」
垣根帝督が指差す先は木原数多の姿で、そしてその新人であるか否か…そう問われて、少し考えてあの喋るゴールデンレトリバーが言っていた言葉を再度思い出します。扱い上は木原数多の庇護下に置かれると言っていたことを思い出し、垣根帝督の問いに対して返事をしました。
「……それが、なにか」
「人殺したことは」
「……、」
人間など日常的に殺害して何の意味があるのでしょうか。そんなストレートな垣根帝督からの問いに
「…ないンだな」
「ヒッ…だ、第二…い………た、すけ…」
「テメェの意見は聞いてねぇンだよ」
「っい…ァが!!」
「よく見ろ新人、首の真ン中から左右3cmまでのこの…張ってる筋に紛れて拍動があるのが外頸動脈だ」
「…い、やだぁ……助け、てくれ…!」
垣根帝督はその長身の身体を屈め、片手に鷲掴んでいる男性の頭を軽く上に引っ張り、まるで理科の授業などで行われるという、解剖実験をしているかのように説明する頸動脈は、皮膚の上からでは全く分かりません。
「ンで、この動脈は脳みそと繋がってんだ。だから、こうやって圧迫すると…」
その頸動脈が脳みそと繋がっていると説明する流れそのままに、もう片方の腕を使って男性の首を絞め始めます。その動作や表情は作業的なもので、淡々と相手を苦しめたり殺害する為だけの技術なんだろう、と
「ッア…グェ…ギ……」
対する首を絞められている側の男性は、口から唾液が溢れそうになりながらも抵抗を続けていました。必死に自身の首を絞め上げている垣根帝督の片腕を引っ掻き、剥がそうとしていました。
しかし、1秒ずつ時間が過ぎる内に顔が蒼白に変わりながら抵抗していた手が止まり、グッタリと意識を失いました。
「まぁ…大体、子供の握力でも10秒前後は圧迫されれば、された相手は失神するだろうな」
「……そう、です、か」
垣根帝督の言葉に返事はしましたが、アッサリと垣根帝督は自身より一回りくらい体格の差がある男性を失神させてしまったことに、やはり学園都市の二位に立っている人なんだと思いました。
…そんな垣根帝督よりも、上位である
ジッと失神した男性を数秒見つめていると、垣根帝督が無言で何かを差し出してきたことに気付いて、とりあえず差し出してきた物を受け取りました。それはしっかりと手入れが施されたサバイバルナイフで、恐らく普段に持っていたら没収される程度の刃渡りがありました。
そのサバイバルナイフを右手で持ったり左手で持ったりして、握り心地を軽く確かめた後に垣根帝督に渡してきた意図を求めるように見ると、サラッとその意図を話しました。
「今なら抵抗されねぇから、さっき教えた頸動脈切ってソイツ殺せ」
「…ぇ…」
「殺しってのはやっぱ習うよりも慣れろだからな、お膳立てしてやったンだからサクッと殺れ」
「…あのなァ、そんなンじゃ頸動脈じゃなくて肩切っちまうだろうが」
呆れたように話す垣根帝督の声にサバイバルナイフを持ったまま立ち尽くしていると、背後から誰かに抱き締められました。
「いいか、こう片手でナイフを持って…」
気付くと
昨日と同様に
けれど、洗っても洗っても心なしか残る鉄分のような臭いと赤っぽさは取れないまま、
「…疲れ、でしょうか」
明かに両手から血液は取れている筈なのに、目の錯覚のように赤っぽい両手を疲れているからと思い込んで逃げました。幸いいつも
張ってる筋に紛れて拍動があるのが外頸動脈だ」
声が、聞こえました。
あの時、垣根帝督が話していた内容が再度再生されるように聞こえていました。
その声と共に
「っは…!!…っは…っは…っは……はぁ」
どうにか苦しい悪夢から目覚めた
正直…かなり精神的に弱っていましたが、もう一度シャワーを浴びて着替えを着て、
いつものように
「…羨ましい、なあ」
無意識に口から出て行った言葉をキッカケに、目からポタポタと涙がこぼれ落ちて頬を濡らしました。初めて人間を殺し、
いつから
決して一度態度が気に入らなくなったからと言って捨てられず、反抗的に生きようと思っただけで罰を受け、自由な意志を持っていることも夢見ることも許されないモノとは違うんですよね…。
「冷たくても、温かくなくても………許してくれるんでしょうか」
そんな言葉を口に出した時、一番最初に頭に出てきたのはやっぱりあの人でした。唯一
こんな時間帯にこのマンション内を歩く人は、
戸惑っていたのか
…
「…ごめんなさい、ビックリしましたよね」
………どうか、
オマケですが…人が悪夢を見る理由の一例に、無呼吸症候群のせいがあるそうです。
作者は一時期無呼吸症候群だった時がありますが、どんなに疲労していても関係なく発症して、汗だくで飛び起きることになるので、結果的に寝不足で昼間にウトウトします。
どうにか昼間に寝てしまわないようにしても、夜寝た際に再度悪夢を見て飛び起きることもあるので、負の連鎖にハマってしまいます。
事実作者は一度浴槽で寝そうになり、意識がハッキリしたのは口が浴槽のお湯に完全に浸かって、次に鼻が浴槽のお湯に沈む直前だったので、起きるタイミングが遅かったら…となることがあります。
悪夢を見る理由は、睡眠時に軽い呼吸困難を起こしたことにより、その苦しみが夢に反映している…みたいな感じでしたね。
ちなみに無呼吸症候群は治療が可能で、個人差ありますが作者は呼吸法が問題だったので直したところ、あまり発症することがなくなりました。
無呼吸症候群かも…と思っているが治療がすぐに出来ない方は、仰向けになって寝ないことを推奨します。
体験した身としては、無呼吸症候群にはなるもんじゃないですよ。
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