とある個体の方向転換   作:一方通行に健康な食事を食べさせ隊

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今回はだいぶグロ多めです。


方向転換して、弱音を吐きたくなる

13577号(自分)が過去に見た、一方通行(アクセラレータ)削除される(殺される)妹達(シスターズ)のように、目の前で悲鳴をあげている人が木原数多の手によって殺害されていきます。しかし、あまりにも殺害方法が酷いことから視線を逸らすことも出来ないまま、13577号(自分)の身体は緊張で硬直していました。

 

 

「おい、そっちも逃すなよ」

 

 

ビシャリ、と13577号(自分)の立っている地面スレスレまで、赤い血飛沫が跳ねました。ドス黒い血液と鮮やかな血液が、殺害されたばかりの遺体の近くで入り混じりながら広がっていました。血液に含まれるヘモグロビンが、暗い筈の路地裏を見る13577号(自分)の視界を鮮やかに彩りました。

 

視覚は夕焼けの空を背景にした路地裏に広がる赤色、聴覚に届くのはカラスが鳴く声に紛れた人の悲鳴と笑い声、味覚は緊張で口が乾いて血の味がするようで、嗅覚に刺激的な鉄分独特の臭い、触覚は新たに跳ねた血液によって湿る…白かったニーハイの感触。

 

クラリクラリと視界がアルコールでも摂取した後のように揺れ、耳に届く音の全てが遠のき、口の中は酸っぱくてヒリヒリとして、鼻は涙袋からの涙によって息がしづらくて、僅かに震えて13577号(自分)の上顎と下顎の歯がカタカタとぶつかりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「た…助けて、くれ……!!!」

 

「……」

 

「…図々しいな」

 

 

グイッとワンピースが引っ張られる力に気付いて、足元を見ました。そこに居たのは、頭から血液を流しながらうつ伏せになっている男性でした。男性の焦げたような茶色の髪は血液で固まっていて、頬には何かを掠ったような傷跡がありました。

 

 

「…あ?……まさかお前…」

 

 

突然衣服を引っ張られたことで声が出るかと思いましたが、喉を少し圧迫する変声機(ボイスチェンジャー)によってその声は防がれました。けれど、13577号(自分)は男性の言葉に何も返せませんでした。何故なら今日13577号(自分)がここに立っている理由が、しばらく暗部として行動することだったので、男性の言葉を叶えることは出来ないからでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はァ……仕方ねぇな…」

 

 

つまりは、男性を見捨てなくてはなりませんでした。この男性は人間で…性別が違えど、布束砥信のように自由選択が許された生活を送ってきたんでしょう。人口的なモノの13577号(自分)よりも上位の存在で、自由な言葉も行動も許された存在です。

 

 

「オイ、そこのお前」

 

 

本来なら13577号(自分)よりも上位の存在である男性を助けるべきで、見殺しなどすれば13577号(自分)は燃えるゴミとして捨てられるでしょう。

 

 

「なぁオイ、聞こえてンだろ」

 

 

それだけ13577号(自分)と男性の存在の価値は違いがあって、きっと天秤で測った時は男性の方が価値があるのでしょうね。

 

 

「お前だって言ってンだろ」

 

「…っなん…です。なんの、ようです」

 

 

いつの間にか13577号(自分)の背後から肩を掴んでいた垣根帝督に驚いて、返事の初めの声が少し裏返りかけます。ずっと声をかけられていたようで、そのことに少し申し訳なく感じながら、垣根帝督が言葉を続けるのを待っていました。

 

 

「お前、あの木原ンとこの新人か?」

 

 

垣根帝督が指差す先は木原数多の姿で、そしてその新人であるか否か…そう問われて、少し考えてあの喋るゴールデンレトリバーが言っていた言葉を再度思い出します。扱い上は木原数多の庇護下に置かれると言っていたことを思い出し、垣根帝督の問いに対して返事をしました。

 

 

「……それが、なにか」

 

「人殺したことは」

 

「……、」

 

 

人間など日常的に殺害して何の意味があるのでしょうか。そんなストレートな垣根帝督からの問いに13577号(自分)は当然ある訳がありませんと、返事を返そうとは思っても喉から出るのは掠れた生暖かい空気だけでした。

 

 

「…ないンだな」

 

「ヒッ…だ、第二…い………た、すけ…」

 

「テメェの意見は聞いてねぇンだよ」

 

「っい…ァが!!」

 

 

13577号(自分)が何も言わなかったと解釈したらしい垣根帝督は、慣れたような手付きでうつ伏せ状態な男性の頭を鷲掴みし、傷跡のある背中を容赦なく踏み付けました。踏み付けられた男性の顔は恐怖で溢れ、情けなく助けを求める呟きがか細く聞こえていました。

 

 

「よく見ろ新人、首の真ン中から左右3cmまでのこの…張ってる筋に紛れて拍動があるのが外頸動脈だ」

 

「…い、やだぁ……助け、てくれ…!」

 

 

垣根帝督はその長身の身体を屈め、片手に鷲掴んでいる男性の頭を軽く上に引っ張り、まるで理科の授業などで行われるという、解剖実験をしているかのように説明する頸動脈は、皮膚の上からでは全く分かりません。

 

 

「ンで、この動脈は脳みそと繋がってんだ。だから、こうやって圧迫すると…」

 

 

その頸動脈が脳みそと繋がっていると説明する流れそのままに、もう片方の腕を使って男性の首を絞め始めます。その動作や表情は作業的なもので、淡々と相手を苦しめたり殺害する為だけの技術なんだろう、と13577号(自分)はすぐに推測できました。

 

 

「ッア…グェ…ギ……」

 

 

対する首を絞められている側の男性は、口から唾液が溢れそうになりながらも抵抗を続けていました。必死に自身の首を絞め上げている垣根帝督の片腕を引っ掻き、剥がそうとしていました。

しかし、1秒ずつ時間が過ぎる内に顔が蒼白に変わりながら抵抗していた手が止まり、グッタリと意識を失いました。

 

 

「まぁ…大体、子供の握力でも10秒前後は圧迫されれば、された相手は失神するだろうな」

 

「……そう、です、か」

 

 

垣根帝督の言葉に返事はしましたが、アッサリと垣根帝督は自身より一回りくらい体格の差がある男性を失神させてしまったことに、やはり学園都市の二位に立っている人なんだと思いました。

…そんな垣根帝督よりも、上位である一方通行(アクセラレータ)になど、13577号(自分)は一矢報いることができるのでしょうか…。

 

ジッと失神した男性を数秒見つめていると、垣根帝督が無言で何かを差し出してきたことに気付いて、とりあえず差し出してきた物を受け取りました。それはしっかりと手入れが施されたサバイバルナイフで、恐らく普段に持っていたら没収される程度の刃渡りがありました。

 

そのサバイバルナイフを右手で持ったり左手で持ったりして、握り心地を軽く確かめた後に垣根帝督に渡してきた意図を求めるように見ると、サラッとその意図を話しました。

 

 

 

 

 

 

 

「今なら抵抗されねぇから、さっき教えた頸動脈切ってソイツ殺せ」

 

「…ぇ…」

 

「殺しってのはやっぱ習うよりも慣れろだからな、お膳立てしてやったンだからサクッと殺れ」

 

 

13577号(自分)へ返ってきた言葉に、サバイバルナイフを持つ手が急に重たく感じました。このサバイバルナイフは余程鋭いのか、刃に13577号(自分)の顔がうっすらと映っていました。先程よりも持ちづらくなったようなサバイバルナイフの持ち手を両手で握ると、垣根帝督からため息を吐かれました。

 

 

「…あのなァ、そんなンじゃ頸動脈じゃなくて肩切っちまうだろうが」

 

 

呆れたように話す垣根帝督の声にサバイバルナイフを持ったまま立ち尽くしていると、背後から誰かに抱き締められました。13577号(自分)よりも体格が大きく、身長が高いことから男性でしょうが……まさか、ですよね…?

 

 

「いいか、こう片手でナイフを持って…」

 

 

13577号(自分)の背後から、抱き締めるような体制をとっているのが垣根帝督だと分かって少しした瞬間、13577号(自分)の視界全てが赤で染まりました。ベットリとしていて鉄分の臭いがするそれは、垣根帝督の補助によって切り付けた男性の血液でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気付くと13577号(自分)は研究所で指定された自分の個室にある、シャワーを浴びた後に着替えて硬いベッドに倒れ込んでいました。今の時間は夜の八時前で、既に夜と言ってもいい時間帯でした。

 

昨日と同様に一方通行(アクセラレータ)が住んでいるマンションへ行こうと立ち上がり、外出用の衣服に着替えている最中、不意に両手が赤っぽいように見えました。いつもより何だか赤みが増しているような気がして、こびり付いた血液を流す為にも両手を洗面台で洗いました。

 

けれど、洗っても洗っても心なしか残る鉄分のような臭いと赤っぽさは取れないまま、13577号(自分)は十回以上洗面台で両手を洗っていました。

 

 

「…疲れ、でしょうか」

 

 

明かに両手から血液は取れている筈なのに、目の錯覚のように赤っぽい両手を疲れているからと思い込んで逃げました。幸いいつも一方通行(アクセラレータ)のマンションに行っている時間帯までは時間があったので、少し仮眠と取ろうと硬いベッドに身体を横たわらせて両目を閉じました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく見ろ新人、首の真ン中から左右3cmまでのこの…

張ってる筋に紛れて拍動があるのが外頸動脈だ」

 

 

声が、聞こえました。

あの時、垣根帝督が話していた内容が再度再生されるように聞こえていました。

 

 

「ンで、この動脈は脳みそと繋がってんだ。だから、こうやって圧迫すると…」

 

 

その声と共に13577号(自分)の呼吸が苦しくなりました。まるで誰かに首を圧迫されている訳がないのに、あまりにも現実的なその感覚で本当に呼吸が苦しくて堪らなくて、全身が酸素を求めて鼻や口から呼吸をしようとして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っは…!!…っは…っは…っは……はぁ」

 

 

どうにか苦しい悪夢から目覚めた13577号(自分)の身体は汗でベトベトでした。

正直…かなり精神的に弱っていましたが、もう一度シャワーを浴びて着替えを着て、一方通行(アクセラレータ)の住んでいるマンションに向かいました。少しだけ駆け足で辿り着いたマンションにはまだ一方通行(アクセラレータ)は帰ってきていませんでした。

 

いつものように一方通行(アクセラレータ)を待っている間、お風呂上がりのすぐ後だったこともあり、湯冷めで身体がだんだんと冷えてきていました。一方通行(アクセラレータ)が住んでいる部屋の扉の前で体育座りになって、両手で身体を包むようにしてじっとしていました。

 

 

「…羨ましい、なあ」

 

 

無意識に口から出て行った言葉をキッカケに、目からポタポタと涙がこぼれ落ちて頬を濡らしました。初めて人間を殺し、13577号(自分)の手を他人の血で染めました。目の前であの男性の命が尽きていく瞬間を見ていました。13577号(自分)の知っている人達もあのように冷たくなって、動かなくなるのだと思うと両目から涙が流れました。

 

いつから13577号(自分)も人間として生きて、人間として死ねたらなど思うようになったんでしょう。13577号(自分)の中では人間は自由に生きて、好きなものを好きと言えて、どれが嫌なのか言える権利があって、そのままの言葉を口に出しても許される存在です。

 

決して一度態度が気に入らなくなったからと言って捨てられず、反抗的に生きようと思っただけで罰を受け、自由な意志を持っていることも夢見ることも許されないモノとは違うんですよね…。

 

 

「冷たくても、温かくなくても………許してくれるんでしょうか」

 

 

そんな言葉を口に出した時、一番最初に頭に出てきたのはやっぱりあの人でした。唯一13577号(自分)を全否定しなくて、13577号(自分)が人間に対してのこと言っても受け入れてくれました…。ぼんやりと考え事をしていると、マンションの何処かを歩いている足音が聞こえました。

 

こんな時間帯にこのマンション内を歩く人は、一方通行(アクセラレータ)くらいしかいません。そう思ってこの階の階段方面を横目で眺めました。白くぼやけている何かが階段の方から移動してきて、だいぶ近くなった辺りで13577号(自分)に声をかけてきたことで、13577号(自分)はその白くぼんやりとした塊めがけて抱き着きました。

 

戸惑っていたのか13577号(自分)の両肩に手が置かれましたが、もう少しこのままでいさせて欲しいと言うと、その手は軽く添えるだけになりました。一方通行(アクセラレータ)の身体に擦り寄るように頬を寄せると、微かに聴覚が一方通行(アクセラレータ)の心臓の音を聞き取りました。

 

一方通行(アクセラレータ)、貴方には…生きて頂かないと困ります。13577号(自分)の名前も貴方の名前も教え合っていないあの時間だけは、13577号(自分)の心が人間であることを許されるんです。人間と流れている血液の色も身体的基礎構造も同じですが、人間として生きることが許されない13577号(自分)でも人間として呼吸が出来る時間をください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ごめんなさい、ビックリしましたよね」

 

 

………どうか、13577号(自分)がいなくなった後でも生きていてください。




オマケですが…人が悪夢を見る理由の一例に、無呼吸症候群のせいがあるそうです。
作者は一時期無呼吸症候群だった時がありますが、どんなに疲労していても関係なく発症して、汗だくで飛び起きることになるので、結果的に寝不足で昼間にウトウトします。
どうにか昼間に寝てしまわないようにしても、夜寝た際に再度悪夢を見て飛び起きることもあるので、負の連鎖にハマってしまいます。
事実作者は一度浴槽で寝そうになり、意識がハッキリしたのは口が浴槽のお湯に完全に浸かって、次に鼻が浴槽のお湯に沈む直前だったので、起きるタイミングが遅かったら…となることがあります。
悪夢を見る理由は、睡眠時に軽い呼吸困難を起こしたことにより、その苦しみが夢に反映している…みたいな感じでしたね。

ちなみに無呼吸症候群は治療が可能で、個人差ありますが作者は呼吸法が問題だったので直したところ、あまり発症することがなくなりました。
無呼吸症候群かも…と思っているが治療がすぐに出来ない方は、仰向けになって寝ないことを推奨します。
体験した身としては、無呼吸症候群にはなるもんじゃないですよ。

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