とある個体の方向転換 作:一方通行に健康な食事を食べさせ隊
全てが一変したのは八月の上旬、朝昼晩関係なくクソ暑い炎天下だった。
真夜中であるにも関わらずに蒸されるように暑い外気に若干イラッとして、比較的涼しい例の路地に足を踏み入れた時だ。
「……なンだコイツ…、干からびてンのか?」
俺の目の前には思わずそう口に出てしまうほど、グッタリとアスファルトに倒れ込むソイツの姿。まさか、熱が地面よりも逃せないアスファルト照りで地獄な夏も、黒い服を着て行動しているとは思っていなかった。
予想外の現実に驚きながら近くにあった枝でソイツをつつく、軽いうめき声を出すことから生きてはいるんだろう。流石に道端に人間を放っておくのも邪魔だと思って、抱えて公園に備え付けてあるベンチに寝かせた。そう、これなら良いだろうと思って背を向けた途端だった。
「早く……
寝言かどうかも判断が付けられないソイツのうわごとに公園から出ようとしていた足が止まる。
「…そう、したら……あの……ひと…、に」
振り向くと、ソイツはベンチに仰向けになったまま顔を歪め、泣いていた。会いたい会いたいという呟きの割には死にたいだの殺してだの言って、何度も手首辺りを引っ掻く。あまりにもその動作が手慣れていたものだったから、気になってソイツの着ている上着を剥いだ。
上着の下は妙なベルトがソイツを見ただけで体型が分かってしまう程にあって、体型的に女だということに気付いて内心目のやり場に困った。
ベルトが多くあるところをなるべく視界に入れないようにしながら、手慣れたように引っ掻いていた手首辺りを見て、無言でソイツを担いで住んでいるマンションに帰る。
家に帰ってソファーにソイツを転がし、未だ使ったことのない救急箱を何とか引っ張り出して、引っ掻いていた箇所に下手くそな応急処置をした。
見ていられない程に腫れた皮膚は、ついさっきまで引っ掻かれていたせいか血が滲み始めていた。
俺自身も理由が分からないくらいに焦る手元は、せっかく巻いた包帯を間違えて解いてしまう。なんでこんなことしてるかなんて、全部分かってたらとっくのとうにやめている。ただ無性に、俺に似ていた目をしていたソイツに訳も分からない何かを抱いている。
…いや、何となくは分かっている。俺があの二人を失った直後は自暴自棄になっていたし、だからこそ落ちるところまで落ちたんだ。
いっその事…最初からそうであったように振る舞えばいいと、思ったから…今の俺がいる。
何でもいい、誰でもいい。どんな理由でも構わないから、俺を叩き落として欲しかった。
それこそ、物語の
…助けられなかった、守れなかったことを誰かに酷く責め立てて欲しかった。
多分、ソファーに転がるコイツに気をかけてしまうのは、俺が辿るかもしれなかった可能性のようだからだ。如何せん
「けっ、悪党にあるまじき考えでしかねェなァ…」
これ以上は
この呑気に人ん家のソファーに転がされたコイツに、夏に黒い服着てぶっ倒れるドジをしたコイツ自身に、俺が
目の前のソファーに横たわるヤツを、もう一度抱え上げて外に出る。
夕方になりかけている空は既に暗く、外出している人の流れもそろそろ収まったところだろう。
そう思って民家の屋根を渡り歩き、とある病院を目指す。
そこには
人がいないことを見計らって、病院のベランダに抱えたソイツを転がす。
「二度と、俺に会いに来ンじゃねェ」
そん時は…と、言いかけた口を閉じる。…何を言おうとした?そん時も何もレベル6に上がればあんなヤツなど必要ないし、そもそも会う機会などない。何慌ててるんだ、俺は。
民家の屋根を渡り歩いて、いつものマンションの一室に帰ってきても俺の調子はしばらく戻らなかった。俺が何をアイツに求めたのかも分からないまま、月日は無情に過ぎていった。
”承知”と”理解”は別物です。
”方向転換”の読み
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エンコード
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オートコンプリート