兎の女神のヒーローアカデミア   作:眼球舐めは通常性癖

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ワラワ困っちゃう

「ワラワはもう嫌じゃ」

「でもカグヤもっと勉強しないと雄英受からないって。アンタの個性強いけどそれだけだと筆記で絶対に落ちるよ」

「……それは嫌じゃ。響香と一緒の高校に行きたい」

「だったら頑張ろ。ウチだってカグヤと一緒に行きたいし、雄英は家から近いしね」

「……分かった」

 

 親友の響香に諭されて大人しく受験勉強に集中する。腰まで伸びた青みがかった髪を耳の後ろにかけてテキストと向き合う。隣で歴史の参考書を暗記する響香はイヤホンで音楽を聴いているらしく、若干の音漏れが流れてきた。どうやら洋楽のようで、無音で勉強するよりかはカグヤも集中できたので特に何も言わなかった。邦楽だとどうしても日本語部分の歌詞が頭に残ってしまうから作業用のBGMにするのならインストゥルメンタルか洋楽が良い。

 

 こうして受験勉強を再びする日がやってくるとは思いもしなかった。私、大筒木カグヤには前世がある。とは言っても特に変わり映えのしないサブカル好きの女子大生だった。NARUTOも勿論知ってる。何の因果かわからないが、どうやら私はNARUTOのラスボスである大筒木カグヤになって別の世界で生まれ変わったらしい。大筒木カグヤといえば最終戦のそれまでほとんど描写も無く、ポッと出のラスボスとしてうちはマダラがラスボスで良かったんじゃないかと散々に言われているキャラだ。次回作であるBORUTOへの伏線としての役割があったんじゃないか(因みに私はBORUTOのことはほとんど知らない)と推測されているらしい。私個人としてはそこまで嫌いにはなれないキャラだった。凄まじい力を持ってる癖に戦い慣れてないせいか詰めが甘く、ナルトの逆ハーレムの術で硬直して隙だらけになる点なんか同じ腐女子として共感出来た。

 

 この世界に生まれ落ちてからはカグヤの人外じみた見た目(主に白眼や頭頂部から生えた角、額の真ん中に存在する眼、麻呂白眉なんか)に周囲から疎外感を覚えられるかと危惧していた。しかし、この世界には“個性”と呼ばれる特殊な力を持っている人が多くいた。単純に人外じみた筋力を持っていたり、超能力者のように発火能力や念動力、変形、見た目が怪物のような異形型等が存在している。その括りで言うと私も異形型の一つなのだろう。見た目がまだ人に近い私は珍しい目で見られることはあれど、異端者のような扱いをされることはなかった。

 

「響香、この問題が分からぬのじゃが……」

「ん? 此処はね……」

 

 耳たぶから伸びたイヤホンジャックが彼女の意思を反映して滑らかに動く。カグヤの幼馴染である耳朗響香は賢い。Bラン大学も必死こいて勉強してようやく受かった学力の私より中学3年の彼女の方が明らかに学力が高いのだ。そんな彼女ですら雄英高校は合格確実レベルでは無い。脅威の偏差値79、入試倍率300倍は伊達ではないということ。筆記試験ではある程度の余裕を持っている彼女は実技の為に個性を用いた特訓に時間を割きたいだろうに、こうして付き合ってくれていることに感謝しなければ。

 

 白眼で中忍選抜試験時のようにカンニングすればと考えていた半年前迄の自分を一発殴りたい。受験時には個性届の写しも提出する必要性があるのできっと別室での筆記試験とか対応が取られるはずだ。そうじゃなかったとしても後々カンニングがバレて退学になってしまったら響香に対して申し訳ないどころじゃない。ふんすと腕まくりして気合いを入れて机に向かっていると隣で息が漏れるような笑われかたをされた。犯人をジト目で睨むと慌てたように手を交差させて、

 

「いや、ゴメンって。だってカグヤがそんな仕草するとギャップがさぁ」

「幼馴染で今更何を言っておる?」

「真剣な顔でやられるとそれでも時々ツボっちゃうわ」

 

 私の見た目は年齢相応に幼くはあるがまんま大筒木カグヤといっていい。響香のような可愛い系になりたかったがこればっかりはもう仕方ないと諦めている。口調もカグヤフィルターを通しているせいか古風でどこか上から目線になってしまう。そのせいで同年代とのコミュニケーションも苦労した。目の前で笑う親友はそんな変わった人間にも気さくに話しかけてくれた恩人でもある。少しぐらい笑われても許してやろう。

 

 国立雄英高等学校はプロヒーローの養成学科を有する国内でも希少な学校だ。個性という強力な力が存在するということはそれを悪用する存在もいる。『ヴィラン』と呼ばれる彼らに対抗し、平和を守る活動をするのが『プロヒーロー』。世界と比較しても日本は優秀なヒーローが多く在籍しており、その出身校である雄英は国内だけで無く海外からも受験を希望する者が多い。大筒木カグヤは今の世界で言うところのヴィランだった。NARUTOを読んで彼女に好意を抱く人間はほんの僅かだろう。だからこそ私が雄英に入って目指すのはヒーロー。今の世界で知る人はいないが、大筒木カグヤのイメージを私がヒーローとなって活躍することでもっと良くしたい。雄英に入る最初の志望理由は響香と一緒の高校に行きたいというそれだけだったが、私自身の志望理由を持ったことで勉強の意欲が湧いた。受験まで後三ヶ月。追い込み頑張るぞい!

 

 

 

 

 

 ……疲れた。響香との答え合わせの結果筆記テストの正解率は概ね八割ほど。通常の高校ならこれでも問題無いが倍率300倍の雄英だと少し厳しい。後日行われる実技テストでなんとかするしか無い。

 

 突然だがこの世界にチャクラという概念は無い。つまりNARUTO世界の忍のようにチャクラの流れる経絡系なんてものは存在しないし、その経絡系上に存在する点穴なんてものは存在しないのである。故にチャクラを練って使用する忍術なんてファンタジーは有り得ないのだ。全系統の性質変化を扱えるという元々の能力も意味は無いし、輪廻写輪眼の写輪眼部分の相手の術をコピーする技術も実際無いに等しい。影分身や変化の術、変わり身の術なんてのも使えないのは本当残念だった。

 

 カグヤの使っていた一部の能力、技に限ってチャクラ関係無しに使えるといったところか。因みに無限月読は使えない。膨張求道玉や八十神空撃も試してみたものの、チャクラのイメージが大きいせいか、私自身が未熟なせいか使えなかった。

 

 その代わりか何かは知らないが、この身体結構なハイスペックである。単純な身体能力は同級生の肉体強化系を超えていた。それを扱う私の運動神経が悪いせいか十全には活かせてないが、そこは要改善点。

 

 実技テストについては正直あまり心配はしていない。アメリカや日本のヒーロービルボードチャート見れば分かるが、ヒーローに求められているのは機動力だ。ヒーローの巡回先でちょうど良くヴィランが現れたり事故が起きる訳では無い。むしろ起きた事件に事後対応の形で動くのがヒーローの常と言っていいだろう。その際に何より重要視されるのはスピード。必然的に機動力のあるヒーローが現場に駆けつけやすいし評価も高くなる。駆け付けても現場で対処できるだけの実力が無ければ意味は無いけど……少なくとも雄英高校の実技テストで通用するだけの実力はあるつもりだ。

 

 そして駆けつける為の私の切り札がーー

 

 実技試験のスタートの合図を聞いて少し遅れて私は飛んだ。ーー真上に。

 宙へ飛ぶ。その感覚に流石に違和感を覚えることは無くなったが、気分の良さだけは変わらないものだ。NARUTO後半の敵は基本的に宙へ浮いていたこともあってカグヤが飛ぶという認識は当然のように私の中にあった。幼少の頃私の個性の一端として初めに目覚めたのもこの飛行能力だ。公共の場での個性の使用は犯罪にあたるので私有地での練習しか出来なかったが、前世一般人に過ぎなかった私が飛行能力を身につけたら遊び感覚でずっと練習し続けるに決まってる。個性の習熟度としてはずば抜けていた。

 

 飛行能力はある意味ヒーローの必要条件と言っても過言では無い。単純な移動速度に加えて、索敵、避難誘導、指示、囮、戦闘。あらゆる点で飛行能力を持たないヒーローより有利だ。先ずは状況観察、上空から白眼を起動して周囲を観察する。ほぼ360℃を網羅する視界範囲と遠方まで見通す索敵能力。建物や瓦礫によって隠れた撃破対象であるロボットも透視で見逃さない。地上で響香が地面にイヤホンジャックを刺して受験者が少なく、ロボットの駆動音が多い方へ向かっているのが分かった。

 

 その逆方向に向かって飛行して、上空からロボットを掌底で破壊してゆく。柔拳の元となった体術を操る設定からか自分と相性が良いのが分かる。合格確実であろう全体の4分の1程度のロボットを破壊したところで、途中からは白眼でロボット相手に怪我をした子や体調不良の子を探して介護した。倍率300倍ということもあり記念受験の子も多い。明らかに実技試験の内容を想定してない子も思いのほか多くいた。最初から諦めてスタート地点で動かず観察する子ばかりでは無い。

 

 絶対合格したい受験者の熱や、会場の集団の雰囲気、若さ故の全能感に押されてロボットに挑戦するのも無理もないだろう。私としては助けても合格を競う相手では無い為安心して助けられるし、この経験もヒーローになってからは必要な経験になるだろうと途中からはなんだか楽しくなっていた。ありがとうとお礼を言われると悪い気はしないものだ。

 

「あの……ありがとうございます」

「ワラワの手によって救われるとはオヌシなかなか運が良いな」

 

 こんな憎まれ口しか出てこない私の口が怨めしい。響香とかが相手なら結構気が緩みっぱなしでこんなことは無いのに……。

 

 途中色々と事故はあったものの、こうして私たちの雄英受験は終わった。一週間程して郵便受けに雄英高校からの手紙が届いた。それを見た途端私は愕然とした。その封筒が余りに小さかったからだ。普通なら受験合格にあたる資料ならば入学式の案内やら最終確認にあたる用紙やら、雄英の制服の採寸日やら必要書類やらがA3ほどの封筒に入って来る筈だろう。それが如何にも薄っぺらな封筒に入って送られたモノだったら誰だって不合格通知に違いないと思う筈だ。私が大学受験で志望校に落ちまくっていた時は少なくともそうだった。

 

 それでもこの目で一度確認しなければならない。心臓はバクバクで首の後ろから嫌な汗が流れて止まらない。冷や汗でびしょびしょになった手で震えながらその封筒を握って家に入ろうとしたところ、

 

「あっ、カグヤ。今郵便屋さんがカグヤの家に行くのが見えて、追っかけてきたら……ひょっとしてそれ?」

「嫌、違う。違う。チガウ。これはチガウ奴なのじゃ……あの……電気料金の……ヤツじゃ」

「相変わらず慌てた時嘘つくの下手だよねカグヤ。ほらウチもまだ開けてないし持ってきたらから一緒に開けよ?」

 

 そうして響香がカバンから取り出したのは見覚えのある小さな封筒。それを見た瞬間、口からアッと悲哀と同類を見つけた喜びが合わさった声が漏れた。きっと響香はこの小さな封筒が何を意味するか知らないのだろう。これは何も知らない響香と一緒に開けて悲しむのが親友の役割。お互いに抱き合って泣いた後、ファミレスで深夜まで一緒に駄弁ってやけ喰いしような。

 

「何で今度はそんな優しい目で見てるか分かんないけど、ほらっ家で一緒に見よっ!」

「うむっ。そうしような」

 

 場所を響香の部屋に移して、封筒の端をハサミで切り落としてせぇので取り出した。何枚かの資料と共に丸い小さな機械が入っていた。途端光が放たれ、響き渡る音声、映し出されるホログラム。

 

「えっ。オールマイトじゃん!?」

 

 映し出されたのはオールマイトの姿。No. 1ヒーローとして名高いその姿は最近こそ出番は少ないがメディアでも見る超有名人だ。

 

『『私が投影された!!!』』

 

「サラウンドでうっさ! 私別の部屋で聞いてくるね。後でちゃんと結果教えてよ!」

 

 結果としては無事合格の案内で私はホッとした。オールマイトが言うには本当は筆記はかなりギリギリだったみたいだけど受かればオッケーだ。勿論響香も合格したみたいで、過程こそ違えど結果としては二人で抱き合って泣いて、深夜までファミレスやけ食いの流れは変わらなかった。因みに後で体重計に乗ったら2キロ増えてた。

 

 


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