兎の女神のヒーローアカデミア   作:眼球舐めは通常性癖

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ワラワ騎馬になる

「響香……騎馬は」

「組まないよウチは」

 

 は〜い、皆で二人組を作ってください。

 

 昔から体育の授業は好きではなかった。体を動かすのは好きだったけど、幼い頃は(今でも決して得意とは言えないけど)自分の溢れるフィジカルを制御していたとは言い難く、チームワークの必要な球技で私は見当違いの方向に球を打ち上げたり投げたりしてた。しかもそれがトンデモない距離飛ぶものだから一時的に試合を中断させてしまったり迷惑もかけた。空気の読めないやつ、盛り上がった雰囲気をぶち壊すやつ。そんな風に周囲の印象が固定されてしまったのも当然だった。

 

 だから体育の先生の言う二人組はそんな私を孤立にさせようとする陰謀でもあったんじゃないかと見当違いな恨みを先生に抱くこともあった。しかし響香は違った。二人組に誘ってくれたしいつだって明るくて、私の失敗を大口を開けて笑ってくれた。クラスの人気者の響香が笑って雰囲気を和ましてくれるものだからそこまで私は孤立をしないで済んだ。感謝してるし、一番の親友はと聞かれたら真っ先に挙げるくらい大事な存在だ。

 

 だから騎馬戦で組んでくれないと言われた時は滅茶ショックだった。

 

「だってカグヤ2位でしょ。1位程じゃ無いけどそれでも狙われるしさ。それに……」

「それに……?」

「ウチもアンタに負けたくないんだ。最近色々と調子に乗ってるみたいだし……真正面から叩き潰してやんよ」

「響香……」

「何?」

「……爆豪みたいになってしもうたな」

「あんッ!? ……その喧嘩買ったからね」

 

 そう言い残して騎馬のチーム探しに行ってしまった。とりあえずは嫌われたとかじゃなくてホッとした。しかしそうなると騎馬のメンバーをどうしようか? とりあえず響香と組んでそれから決めるかと軽く考えていた。ライバル宣言されちゃったし私もいつまでも響香に甘えてばかりなのは良くないよな。

 

 とりあえず個性を活かした構成が望ましい。折角の集団戦なのでそれぞれの個性が活きる形がベストだ。ミッドナイト先生曰く、個性は使い放題だが悪質な騎馬の崩し目的の個性を使った攻撃は一発退場と厳しい条件。攻撃的な個性持ちよりか妨害や守備・移動に向いた個性持ちがこの時点で有利となる。

 

 そして大事なのがそれぞれに振り分けられたポイント。私は2位で205P、因みに私を操っていた1位の心操くんは1000万Pらしい。雄英のPlus Ultraっぷりは流石だァ。昭和のクイズ番組じゃないんだから……。

 

 正直、私の個性の一つである飛行能力を活用するのなら4人で騎馬戦を組むのはよろしくない。3人を掴んで飛行するのは難しくはないだろうけど、それでは私が掴んで飛行するのに集中して他の力が使えないし的も大きくなってしまう。安定した飛行では無いだろうから掴んでる3人も早々に酔って個性を使う余裕もない。私が騎馬として活動するのなら安定性も考えると1人か……小柄な人でギリギリ2人ってところかな。騎手は鉢巻を奪う決定力のある人物が望ましい。もう一人は妨害か陽動に向いた個性がいればバランスが取れる筈。

 

 その条件に合って、尚且つ私の個性と相性の良さそうなメンバーと来たら……。

 

 

 その人物を探すのは簡単だった。何せ注目されているから白眼を使うまでも無い。尤も注目はされてはいるけど、誰も遠巻きに見て声をかけようとしなかったけど。私がその人物を目指して歩くと向こうもこちらに気づいたようでなんとも複雑な顔で出迎えてくれた。

 

「おっと……そんな顔をしてくれるな。別に恨み言を言うつもりは無い」

「……どうだかな」

 

 暗めの紫色の髪を逆立てた目的の人物。何を隠そう心操くんだ。

 

「おっとワラワに個性を使うのはお薦めせぬぞ。せっかくの騎馬戦メンバーを操っては、その能力も十分に活かせまい」

「……騎馬戦メンバー? お前正気か?」

「……おいおいこんな奴誘うの止めようぜ大筒木。オイラを騎手にするなら1ーAのメンバーで組んだ方が」

 

 私の後ろをついてきたのはモギモギ粘着ボール個性の峰田くんだ。なかなかメンバーを組めないでいたのを先ほどスカウトしてきた。

 

「騎手? 騎手なら心操にやって貰おうかと思っておる。峰田、オヌシは妨害に特化しろ」

「えぇーー!? オイラ、騎手ならあわよくば大筒木っぱいにありつけるかと……」

 

 一旦、こいつ絞めても誰も文句言わないと思うんだ……。普段からセクハラ発言が目立っていたけどまさか此処までとは。もし本当に触ろうとして来たら屍骨脈でその手を突いてやろう。貫通こそはさせないが赤は少々出して貰う。一度痛い目見させて峰田の魔の手から1ーAの女の子は私が守ってみせる。 

 

「揶揄ってるんならアッチでやってくれ」

「揶揄ってなどおらん。ワラワは本気じゃ」

 

 実際私を操って1次試験を突破した心操くんに何も思ってないほど私は心の広い人間では無い。それでも強力な個性持ちで私の背中に(本人にとっては不本意だろうけど)ある程度乗り慣れているというのはこの騎馬戦を突破するのに大きなアドバンテージだ。

 

「ワラワの飛行能力と其方の個性。そして峰田の個性があれば例え1000万ポイント以上持って周囲から狙われ続けようとも勝てると判断した故に誘った。無論ワラワと峰田を操らないという前提さえ約束すればな。其方の個性、操っている相手は突発的な判断力に欠けるのじゃろう?」

 

 彼は苦々しく眉を寄せた後、大きくため息をついた。現状チームを組む相手がいない以上諦めたのだろう。

 

「……それだけで勝てると判断した訳じゃないだろ?」

「策はある。かなりリスキーじゃがな」

「え〜せっかく1000万Pと205Pもいる高得点チームだから周囲の妨害と逃げまくっての安定策と行こうぜ」

 

 峰田の気持ちは分かる。せっかくのポイントを不意にしかねない博打だ。しかし今回はスタジアム内で、競技会場の5m程上空には予選にあった透明な粘糸が張り巡らせてある。いくら今度は洗脳で操られていなくとも、その程度の距離で見知らぬ個性を扱う生徒全ての攻撃をいつまでも躱しきれるか分からない。私だけで無く騎手の心操くんへの攻撃も避ける必要があるので尚更だ。

 

 そうなると勝つためには多少のリスクもある作戦を考えなければならない。

 

「どちらにしろ既に全てのチームから狙われている以上リスクは度外視していいだろ……なんだよ?」

「いや、意外と乗り気じゃったから……」

 

 結構堅実に攻めるタイプかと思ってたから心操くんの印象が少し変わった。それに比べて峰田は未だ納得がいってない様子だ。

 

「オイラは大反対だ!!」

「……峰田。逃げるより一発逆転のほうが全国の女子にモテるぞ」

「やったろうじゃねぇかお前らッ!!」

 

 コイツちょれぇわ。

 

 

『残虐バトルロイヤルカウントダウン!! 3!!! 2!!! 1!!! START!』

 

 開始と同時に一斉に騎馬が押し寄せてきた。想定はしていたけど全ての騎馬から狙われる迫力は凄まじい。

 

「実質、それの争奪戦だ!!」

 

 まぁ、普通そう考えるよね。この鉢巻さえとってしまえば第2関門を一位通過出来る。直ぐに飛行で心操くんと峰田を乗せて空へ飛び立った。予選で私の飛行については知られているので周囲もそこで動じず、私の下へ寄って来て個性で撃ち落とそうとして来た。飛び交う爆炎、氷、音波、セロハン、酸。ここら辺は見覚えがある。粘液、茨、漫画の吹き出しがそのまま飛び出してきたかのような攻撃。これは知らない……おそらく1ーBの個性だろう。

 

 白眼と輪廻写輪眼を併用しながら回避に専念する。大概の攻撃がスローモーションに見える動体視力は持っているが別に本当にスローで動いている訳では無い。逃げる先を間違えれば追い詰められてめった撃ちにあってしまう。額の瞳が目まぐるしく動いて索敵と騎馬の動きを補足する。

 

(これも悪質な崩し目的の攻撃……じゃないのね?)

 

 ミッドナイト先生の方を見ても止める気配は無い。どうやら本当に重傷にでもなりそうにない限り退場の判定は緩いらしい。

 

『右に左にと大筒木!! 個性の十字砲火を躱し続けるッ!? 予選の不安定な動きは何処へ行きやがったWHEREE!?』

『……あれが本来の大筒木の動きだ』

 

 宙返り、バレルロール、錐揉み飛行に急制動と散々家で練習した動きが再現出来る楽しさに自身で酔ってしまいそうになる。

 

「ウェッップぅ……大筒木……も、もっと安全飛行を……」

「……加減しろ」

 

 おっと背中の二人は乗り物酔いか。こればっかりは少々我慢して頂きたい。私の予想が正しければもう少しの筈だ。

 

『開始三分経過!! そろそろ一位を狙うのを諦めて手近なチームに狙いを変え始めたぜッ!!』

『まぁ当然だろうな』

 

 足元ではそれぞれ目の前の騎馬から鉢巻を奪い始めた。こちらを狙ってくるチームもゼロでは無いが、先ほどより随分攻撃は散発的になった。曲芸飛行はやめにして背中の二人の休息時間にあてる。

 

「峰田。少し休んだら個性の粘着ボールを準備してくれ」

「……オウヨッ」

 

 心操くんと峰田の間に、私の曲芸飛行を乗り越えた同士としての絆が芽生えたらしい。二人とも……きっとそれはストックホルム症候群だよ。

 

 爆豪くん率いる、切島くん、芦戸ちゃん、瀬呂くんチームがまさに爆発的勢いで周囲に襲い掛かっている。他にも轟くん率いる、飯田くん、八百万ちゃん、上鳴くんの一人以外優等生組みは此方を狙える範囲内で的確に鉢巻を奪っているように見える。

 

 そして響香はというと……騎手が響香で、緑谷くん、麗日ちゃん、常闇くんという組み合わせだ。響香のイヤホンジャックで索敵、そして索敵によって得た情報を用いて司令塔となり、ついでに鉢巻を奪いにきた騎手への攻撃と防御が行えるイヤらしい配役だ。此方は最初の攻撃以降、特に今の所こっちに攻撃はして来ずに周囲の鉢巻を堅実に奪っているようだ。敵対宣言をした割に大人しいのが逆に怖い。

 

『さァ残り時間半分を切ったぞ!!』

 

「そろそろ奪るぞ」

 

 轟くんチームがこちらに向けて一直線にやって来る。それだけでは無い。B組の女の子チームと男の子チームも別方向からやって来ている。こちらは1ーAと違って互いに協力体制のようだ。

 

「作戦開始だ」

「うむ。峰田?」

「任しときな。全国にオイラの名を轟かせてやる」

 

 峰田の粘着ボールが地上にばら撒かれる。速度も狙いもなく適当にばら撒かれたそれに当たるような生徒は流石にいない。警戒させて進行を遅くさせる。それだけで良い。そこから一気に急降下。背中で息を呑む声が聞こえる。地面スレスレまで降りてこちらに気づいてない騎馬に近寄ると心操くんが

 

「その鉢巻を寄越せッ」

 

と声をかけて注目を集める。一応この時も洗脳が出来るのなら試してみるらしいけど大事なのは注目を集めることだ。今まで手の届かない存在だった1000万Pオーバーが目と鼻の先にいる。そうなるとやはり人は狙わざるを得ない。何組かは隙をついて実際に鉢巻が奪えたみたいで、悲鳴のような叫びが上がり余計に注目を集めた。

 

 十分注目を集めたところで一度ある程度の高さまで上がり、心操くんは徐に額にかけていた1000万Pの鉢巻をーー落とした。

 

『WHYYYYYYYYYYYY!? 心操が鉢巻を落としたッ!?』

 

 おそらくプレゼントマイクの絶叫と同じ思いを会場皆が抱いたことだろう。そして一瞬の空白の後に、

 

「うおおおおおおおおおおおおおお!」

「寄越せやクソがッ!!」

 

 落ちた地点に向かって騎馬集団が突っ込んだ。血気盛んなチームは我先に突撃して、その隙を狙うチームもその後を追う。傍観しているチームを除いて自然と落ちた地点に多数のチームが集う形となる。狙うのはそこだ。身軽になって他のチームから向けられる視線もかなり減った。空間に黄泉比良坂の裂け目を作り出してそこに入り込む。裂け目の大きさが広くないので移動する際はなるべく密着するように予め言っておいたが、峰田が案の定胸に手を伸ばして来ていた。胸から突き出た肋骨で我慢して貰おう。繋げる先は騎馬戦のフィールドの地面からだ。私たちが移動する瞬間を見ていても、まさか上方から真逆の地面から出てくるとは思うまい。

 

 峰田が粘着ボールを近くの騎馬の足にくっ付けて心操くんが隙をついて騎手の鉢巻を奪う。洗脳という個性だけではなく彼自身の運動能力もそこそこ高いみたいだ。何組か奪ったところで気づかれてしまったが既に峰田の粘着ボールで動けなくなった後だ。

 

『残り時間3分切ったZEE!!』

 

 私たちに気付いた1ーBの女子組が迫って来ていた。視界の端に目だけが浮かんでこちらを見ている。自分の体を切り離して操る個性だろうか? とりあえず距離をとろうと下がる前に女子組から何かが飛んできた。

 

(二本の……角?)

 

 まるで意志を持っているかのように2本の角がこちらの動きを追うように飛ぶ。迎撃しようと峰田の粘着ボールが投げられるが、宙に浮いた目で得た情報を伝えているのか上手く躱されてしまう。

 

「オイラ……そろそろ……もぎりの限界だ」

「しっかりしろ峰田」

 

 あの個性どうやらもぎり過ぎると頭皮から血が出るらしい。これから先の峰田の個性の使用回数には制限がかかる。最後に投げようとした粘着ボールを止めて、私は屍骨脈で手の平から骨を突き出す。その先端に粘着ボールを刺して空飛ぶ一対の角に向かって射出する。空気抵抗が大きいので真っ直ぐ飛ばすのに苦労したが、回転数を上げることで短距離ながらもなんとか真っ直ぐ飛ばせた。流石にただ投げられただけの粘着ボールと違い、遠隔で回避出来る速度では無い。2本の角の中間を通った粘着ボールは角を絡め取り、送り先の1ーBの女の子チームの元へ届けられた。

 

『残り1分だ!! そして……あの集団から1000万Pを手にしたのは1ーA耳朗チームゥゥ!!』

 

 正直これは予想外だった。響香チームも編成としては優秀だが、轟くんチームや爆豪くんチームに比べれば一つ及ばないという印象。やはり重要なのはチームワークと個性の相性だなって思う。

 

「狙うぞ……」

「心操……一応念の為に教えておくぞ。もし例の作戦が失敗した時はゴニゴニョ」

「……それはひょっとしてギャグで言ってるのか?」

 

 二人が何やら背中で会議中だ。万が一を想定するのは悪くないけど私にまで聞こえない程の小声で内緒話をする理由も分からない。男の子同士が密着して内緒話なんて……グット。

 

 耳朗チームに追従して先ずは先制攻撃だ。峰田ボールWITH屍骨脈を騎手の響香目がけて放つ。

 

「させないよ大筒木さん!!」

 

 しかし緑谷くんの凄まじい威力のデコピンが風圧で吹き飛ばしてしまった。続けてカウンターに常闇くんの影が襲って来たので回避しながらも黄泉比良坂を展開して響香の死角から裂け目を展開した。今回の作戦は一度自分達の高ポイント鉢巻を落とすことでフリーになりその隙に他の鉢巻を集めて、1000万Pを激しい争いで疲弊しながらもようやく手にしたチームを死角から黄泉比良坂で掻っ攫うという内容だったのだ。

 

「当たんないよ! カグヤッ!」

 

 しかし相手は私の個性も、行動パターンも大体把握している響香だ。私のしそうなことぐらいは想像出来るのだろう。不意打ちの黄泉比良坂で奪おうとした手は回避されてしまった。

 

「心操……分かるな?」

「……先ずは普通に試してみてからだ」

 

「おい! 耳朗って言ったなあんた?」

 

(ここで少しでも受け答えしてしまったら心操くんの洗脳で簡単に勝つことが出来る。響香を相手にこんな風に勝つのは少々悔しい気もするが、真剣勝負とはこういうものだ。しょうがない)

 

 自らを納得させる。ところが予想外なことに響香は心操くんに一切返事を返そうとはしない。一応何度か心操くんがあの手この手で言葉を引き出そうとするけど完全に無視。騎馬に洗脳相手を変えても同じ結果だ。流石にこれは偶然では無い。

 どうしてか心操くんの個性がバレている。予選で私が操られたシーンでも見られたのか? 或いは私たちが第2関門前に会話しているのを響香の個性で盗み聞きでもされたのかもしれない。

 

『残り10秒!』

「おい! なんとか言えよ!」

『9 8 7』

「心操……やるんだ」

「クソっ!」

 

 二人がまた話してる。結局どんな手を使うんだろう? そしてどうしてそんなに心操くんが嫌がっているのだろう?

 

『5 4』

「実は……俺と大筒木、付き合ってるんだ」

 

 ハァァッ!? 何言ってんのこの人!?

 

「……あっ?!」

『3 2 』

 

 心操くんが洗脳されて隙だらけの響香から鉢巻を奪うと同時に、常闇くんが影を繰り出した。…イヤっ、私も思わぬ事態に回避行動するだけの心の余裕が無いって!!!

 

『1 TIME UP!』

 

 

 

 

 

 

 

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