兎の女神のヒーローアカデミア   作:眼球舐めは通常性癖

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ワラワ観戦する

 素早くお花を摘んで観客席に戻ってくればちょうど試合が終わったところだった。どうやら勝ったのは飯田くんのようだ。あの時上鳴に一言応援かけれていたら……あんまり関係無いかもしれないけど若干の罪悪感がある。ごめんよ〜上鳴。そしておめでとう飯田くん。後で録画を見よう。現代のオリンピック級なので比較的簡単に動画を検索したら直ぐ見れるのだ。

 

「次は耳朗ちゃんね」

「楽しみだね〜」

「うむ。ワラワも楽しみじゃ」

 

『さ〜てドンドン盛り上がって来た!! お次も1ーA同志の戦いだ! 耳たぶから伸びるコードによる自由自在なテクニックが見逃せない耳朗響香!!』

『対!』

『テープを飛ばしてくっ付けて! いぶし銀の活躍で支えてきた縁の下の立役者瀬呂範太!!』

 

「ひでぇ言われようだな」

「まっお互い目立った個性でも無いしね」

 

 バトルエリアで向かい合う二人。二人を捉えたカメラ映像がスタジアムの巨大なパネルに映し出されている。多くの観客は実際の戦闘が遠くでほとんど見えない為あれを見ているんだろう。競技者は比較的近くに座席が設定されているので十分見える距離の内だけど、それでもある程度の距離がある。しかし白眼なら二人のお肌の状況までしっかり確認出来る。最近お肌の手入れを怠っているのか響香の肌も荒れ気味だ。

 

『START!!』

 

 開始と同時に詰める響香。後退する瀬呂くん。響香の片方のイヤホンの射程はだいたい6mといったところ。区切られた戦闘エリアは縦10m、横20mぐらいだ。両者とも中距離で活躍するタイプの個性だけど瀬呂くんの個性のほうが射程は長い。自ずとそういう動きになるだろう。下がりながら瀬呂くんが肘からテープを射出する。命中させやすく躱しにくい腰ぐらいの位置に真横から飛んで来るテープ。私の屍骨脈より速度は劣っているけど彼の場合はそれが効果的だ。

 

 点での攻撃と違って線での攻撃。速度がある程度抑えられている分、滞空時間と当たり判定も大きくなるわけだ。スライディングで地面ギリギリを滑りながらテープの攻撃をすり抜けると今度は逆方向から響香本体へテープが飛んでくる。それをイヤホンコードで捌いた。粘着面を避けて、逆側の光沢のある面から打ち落とす。響香の強さはそこにある。耳たぶイヤホンの繊細かつ力強い操作。時には両手以上に器用に操って見せる。   

 

 しかし瀬呂くんも只者ではない。最初にスカされたテープを地面と接着させて一気に巻き取る。その勢いで響香に向かってすれ違いざまにラリアットの構えだ。受けて立とうと結構負けず嫌いな響香はイヤホンコードを上に待ち受ける。瀬呂くんが響香の射程範囲に入り、いざイヤホンが動き出す前にラリアットの構えを解いた。

 

「わりぃな耳朗さん!」

 

 瀬呂くんが狙ったのは最初から響香では無かった。狙いは響香の個性であるイヤホン。ラリアットで伸ばした腕を直前で肘を突き出してテープを射出。見事両方のイヤホンコードを纏めることに成功した瀬呂くんは響香に突撃する。個性を封じてしまえばこちらのものだと考えたのだろう。最初に巻き取って距離を詰めていたテープは切り離して、しかし一度ついた勢いはそのまま。

 

「……やるじゃん」

 

「不味いわね耳朗ちゃん」

「ん? そうかの?」

 

 輪廻写輪眼で二人のこれからの予測行動がある程度脳内に像を描く。

 

 瀬呂くんの狙いは肩への一撃。一発戦意を削いで、怯んだ隙に用心深い彼は切り離したほうの腕でサイドテープを巻き付けて戦闘不能へ追い込む算段だ。一方響香は軽く両手を上げて格闘技の構えとも、降参の意思有りともとれる仕草。どちらとも断定出来ないので審判のミッドナイト先生も止めないし、瀬呂くんも攻撃は続行する。私の認識ではスローモーションで瀬呂くんの拳がフック気味に響香に迫る。外側から衝撃を体内に押しつける。そういう意味では有効な攻撃だ。紳士な瀬呂くんは女子である響香のボディや顔面を狙うことに抵抗があったのだろう。

 

 ここで始めて響香の虚像が動き出す。左に迫る拳に上げた左手を内側から添えるような形で接触して外側へと押し出す。ハッキリとした驚きの表情が瀬呂くんに浮かぶ。個性を封じた相手の思わぬ行動。対応して体勢を立て直そうにも下手に勢いがついているので一度流れた体幹バランスを戻すのは難しい。響香の右手は握り締められる。反撃の気配を察した瀬呂くんは急遽流された右手を無理やり引っ込める。代償にほとんど前のめりで転びそうになってしまったがなんとか持ち直す。そして右肘から後方にテープを射出。地面に引っ付けて巻き取り、一旦距離をおこうとしたのだろう。

 

 後方に放ったテープはしかし防がれた。響香のイヤホンは一つに纏められてしまったが完全に動きを止められたわけではない。イヤホンがテープの行先を防いで、粘着する性質を利用してあえて巻き取らさせる。

 

 二人が互いの個性を通じて拮抗する。ただでさえ響香の個性は彼女の意思を自在に反映し、見た目よりずっとパワフルだ。不安定な体勢で無理やり個性を使って移動しようとした瀬呂くんのテープより張力は勝っていた。綱引きの勝者が決まると同時に響香はそのままテープごと瀬呂くんを引きずり寄せる。意図に気づいて彼はテープを切り落としたけどもう遅い。宙に浮かされて、切り離した時には既に響香の攻撃範囲に持ち込まれた後だ。

 

 響香の固く握り締められた右拳が瀬呂くんに迫る。明らかに不測の事態の連続。しかしそれでも瀬呂くんは諦めていない。体勢を崩しつつもクロスアームブロックで急所を固めて響香に落下する。あわよくば体当たりにも似た特攻。個性社会の世の中といえど基本的な男女の体格差は変わらない。十分な速度と質量さえあれば、比較的簡単に効率よく衝撃を相手に伝えることが出来るのが体当たりだ。瀬呂くんは体重こそ一般的だけど身長はそこそこある方なので当たりさえすれば落下の勢いも合わさって十分ノックアウトを狙える。

 

 その腕のガードをすり抜けて響香の拳が瀬呂くんの顎にクリーンヒット。ポイントは拳の向き。ボクシングのような基本的な横拳では無く、空手の縦拳のような形。腰のひねりや腕の回転で勢いのつけやすい横拳は同時にその勢いをつける過程での妨害が刺さりやすい。縦拳は当てる技術こそ必要だけど直線で最短距離を突ける。また、攻撃範囲が狭くなる分ガードをすり抜けやすくもなるわけだ。

 

 流石に瀬呂くんもノックダウン。直ぐに起きることは出来たけど、まだ頭がクラクラするようで救護班の肩を借りてスタジアムから出て行った。響香は観客席の私に気づくと拳をこちらに突き出した。私も同様に返してアピールする。それを見て満足そうに通路に帰っていった。

 

「響香ちゃんは武闘派系女子なんだね!」

 

 ビシビシとシャドーの素振りをする葉隠ちゃん。え、可愛い。 

 

「あの動き……格闘技でもやっているのかしら?」

「空手とかは幼少の頃からやっていたぞ。あとじーくんどー? とかもやっているらしいの」

 

 私も響香のように格闘技を習ってみたかったけど、幼い頃の私は力の制御が下手くそだったので事故が起きかねなかった。だから自粛していたのだ。最近はだいぶマシになったので今度何か習ってみようかな。

 

 次の八百万ちゃん対常闇くんの戦いは終始常闇くんの圧倒で終わってしまった。八百万ちゃんの創造は創り出すのに若干の時間がかかってしまう。中距離から影を操って攻撃し続ける常闇くんとの相性は最悪だった。せめて創造で作り出した物が持ち込めたのならば勝ち目はあったのだろうけどルールなんでしょうがない。次は爆豪くんと麗日ちゃんとの試合で気になるところだが、残念ながら私もそろそろ次の試合の為に待機しておかなきゃいけない。……緊張してきた。

 

「では行ってくる」

「頑張ってね〜」

「……手と足が同時に出てたわねカグヤちゃん」

「アイツあがり症だからなぁ……」

 

 控室で待つこと50分。爆豪くんたちの試合と、緑谷くんと轟くんとの試合が終わりようやくスタジアムに入場だ。出すものを全部出したので今は結構スッキリしている。若干喉が渇いているけど、今飲んで本戦中に行きたくなってしまうことを考えると何も飲めなかった。

 

『未だ底が見えない! 大筒木!』

『対』

『エリートヒーロー家系のホープ!! その余裕そうな鉄面皮を崩せるのか!? 飯田!』

『START!』

 

 余裕なんてあるわけないだろ! 一刻も早くこの場から去るために最初から全力で行く。開幕急加速でこちらとの距離をゼロにする飯田くん。ふくらはぎのエンジンによって生み出された超スピード。瞬間的な時速は100kmは軽く超えているだろう。野球のボールと比べると遅いと一瞬勘違いしがちだが、人間の大きさで殆ど助走もなしに最大スピードまで達すると体感速度は更に上がり普通は対応出来ない。なおかつ彼は人間で意思を持って自在に動いてこちらを攻撃してくる。

 

 速度というパラメータは攻撃、防御、回避全てに有利に働く。戦闘面においても最上位に位置するほど重要なファクターだ。

 

「なっ!?」

 

 不意打ちで私の体操服を掴んで場外に持ち運ぼうとした飯田くんの驚きの声が漏れる。目の前で掴もうとした手が突如顔面に向かって飛んでくれば動揺は避けられない。それでも身を屈めて躱した飯田くんの反射神経はさすがエリートの血を感じさせるものだった。

 

 速度は重要だが、その速度を活かす為の感覚器官。具体的に言えば視覚や三半規管があってこそ初めて十全に能力を発揮できる。ある日猛スピードで動けるようになってもその速度で障害物を感知し避けたり、加速・減速・跳躍・着地等の発揮する平衡感覚を有していない場合、起きるのは悲しい事故だ。

 

 平衡感覚については同じ個性持ちの家族に囲まれて幼少期より訓練されてきた彼にとっては問題ないだろう。しかし動体視力や、視界、反射神経に関しては輪廻写輪眼をもつ私と比べると大きく差がついていると言っても過言ではない。動揺する彼の表情が、流れる汗が私にはコマ送りで見える。

 

 それでも彼は速度で翻弄しようとする。右に左にと、フェイントを入れて。予備動作から次の行動が虚像となってイメージされる私にとってその動作はほとんど意味をなさない。無暗矢鱈に体力を消耗させるだけだ。本当は特攻覚悟で高速の連撃を叩き込まれるほうが私にとって一番厳しい。私自身がガードやら攻撃やらで対処せざるを得ない状況に追い込めば虚像が見えたとしてもほとんど関係ないからだ。

 

 それを知らない飯田くん。彼にしてみたらどんな攻撃を仕掛けても私に通用しないのかと疑い始めていることだろう。実際そんなことは全然ないけど……。 

 

 焦れた彼は目の前までダッシュして突然後ろ向きにしゃがみこんだ。そこから限界まで押し込めたバネが弾ける様に、彼の体に隠れた死角から放たれる後ろ回し飛び蹴り。一段、二段、三段。蹴り技において彼のふくらはぎについたエンジンの個性は一番の攻撃力を発揮する。まともに食らえば顎の骨なんか軽く折れてしまうだろう。

 

 それをスウェーで余裕をもって躱したところに胸倉をぐっと掴まれた。

 

「捕まえたぞっ!!」

「……スマヌな」

 

 一応そこまでの動きは全部見えていたんだ。掴まれた胸倉を軸に飛行で回転。飯田くんの離そうとした手を両手で掴んで逃がさない。そして今度は無理やり彼を宙に放り投げる。技も何も無い。ただ単に力任せで振り回して手を放しただけだ。私の真上1mに展開される黄泉比良坂の裂け目に飯田くんをシュート! 繋げた先は場外の白線の外。飯田くんはあえなく場外負けという結果に。バトルエリアから場外へ向けて飯田くんを放り投げることも出来ただろうけど流石にそれは危ないという判断だ。

 

『いったい誰がこいつを止めるんだ!? 勝者大筒木!!』

 

 急いでスタジアムの観客席に戻る。次の試合は響香と常闇くんの試合だ。帰ってきた私におめでとうと言ってくれる1ーA女子メンバー。ありがとうと感謝の礼を一つして、バトルエリアを前のめりに覗き込む。

 

 試合が始まる。先ずはお互い観察。互いに中距離戦を得意とする。常闇くんのほうが僅かに交戦距離は長い。しかし近接戦闘では響香の方に軍配が上がる。前の試合を見てそう判断したのだろう。慎重だ。

 

 しかし見合っていても勝利は掴めない。常闇くんの体から意思を持った鳥のような見た目の影が襲いかかる。黒影と書いてダークシャドウと読むらしい。センスはともかく物理的な干渉力をもった影は奈良一族みたいでカッコいい。そんな馬鹿な感想を抱いていると俄に戦闘が激しくなる。黒影の両手の攻撃を響香は軽い身のこなしでかわしながらイヤホンジャックで反撃する。しかし生命体のようでそうでないのか。影はイヤホンジャックの先から響香の心音を増幅した爆音を流されても特に効果は無さそうだ。常闇くんと時々会話しているシーンも見かけた事があるので聴覚はおそらくあるのだろうけど……。まさかあのシーンが常闇くんの腹話術か何かだとは考えたくない。個性という異常が現実に存在している以上、そういうものだと考えることにしておこう。

 

 爆音攻撃が効かないと悟った響香の表情は険しい。イヤホンジャックの精密操作は素晴らしい。一方攻撃力に関しては先端の爆音に頼っているところがあるので(それでも人ひとりを引っ張り上げる力はある)、物理的な干渉手段は鞭のように操ったりコードで締め上げたりする程度だ。比べて黒影の攻撃は素早く、人を簡単にノックアウト出来るほどの力がある。そして常闇くん本人は力を温存でき、個性を使うことによる体力の消耗はほとんど無いときたものだ。

 

 ある程度の距離さえ常に確保できればそうそう負けることは無い強個性。

 

 みるみるうちに響香の被弾が増えてゆく。なんとか距離をつめようとしても黒影に防がれる。黒影自体に拳や蹴り技のいいのが何発か当たっても僅かにその衝撃を受けるだけでダメージらしいダメージはゼロ。本体の常闇くんに攻撃を当てるしかないが、そうそう簡単に近づけない。勝つ為には前に出るしかない響香はそれでも愚直に突撃するしかない。

 

『おいおいおい。一方的な戦闘に耳朗選手、なす術無しか!?』

 

 もうボロボロだ。擦りむいた体は痛々しい。綺麗な黒髪の隙間から血も覗いている。私の握りしめた拳からいつの間にか血が流れ出ている事に梅雨ちゃんの指摘でようやく気付いた。

 

(諦めない……よな響香は。だってスゴイ負けず嫌いだもん)

 

 常闇くんも戸惑いながらも攻撃の手は緩められない。本気で勝ちたいんだ。逆転の可能性を考えると本人が近づいて場外へやるという選択肢は選べない。彼が望むのはミッドナイト先生のTKO勝ちによる試合の中断。

 

 漫画やアニメじゃないんだ。絶体絶命の危機から力が覚醒して逆転勝ちという展開はあり得ない。

 

 そのまま反撃出来ないままの響香を見兼ねて直ぐにミッドナイト先生が試合を中断して、勝者は常闇くんとなった。医療班が素早く担架に乗せてスタジアムから出ていった。リカバリー・ガールの元へ運んだのだろう。思い出すのは騎馬戦の時の宣戦布告。残念ながら響香と直接対決することは出来なかった。それでも無性に私の中でやる気が湧いてきた。

 

 直ぐに次の試合が始まる。控室へ急いだ。順調に行けばあと2戦勝利すれば雄英体育祭優勝の座はゲット出来る。

 

(ワラワは……負けない。見ておれよ響香)

 

 

 





戦闘描写で心折れそう……
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