兎の女神のヒーローアカデミア   作:眼球舐めは通常性癖

13 / 32
ワラワ──爆殺神の大筒木攻略

 苛々する。控室で爆豪は己が煩悶していること事態に気付く度、言い表せぬ不快感が込み上げてきた。その鬱憤を晴らす為に控室のパイプ椅子を蹴飛ばしたが一向に気分はスッキリしなかった。それは遡る事30分ほど前のこと。

 

 準決勝の試合。大筒木、轟共に注目株同士の戦い。戦闘は激しいものになると予想されたが試合内容はいたって一方的なものだった。緑谷との試合で封印していた炎の個性を解禁したと思われていた轟は次の試合から炎を使うかと思いきや、再び氷の個性しか使わなくなったのだ。その様子は大筒木戦でも変わらずどこか調子の悪い轟は射程外から一方的に骨矢を撃たれて氷の壁が破壊され、そのまま敗北。あっけない程アッサリした終わり方だった。

 

 その後の常闇戦では爆豪も同様にほぼ一方的な展開で勝利をおさめた。それでも苛つきは収まるばかりかフツフツと湧いてくる。

 

 爆豪は自身の才能と戦闘力を正しく評価している。同年代の中でもトップクラス。どれほど他者から傲慢だと言われようが自他ともに認めるところだと自負している。実際それらの輩を今まで蹴散らしてきた。

 

 しかし、大筒木を前にして果たして絶対勝てると言い切れるだろうか?ーーあの大筒木相手に

 

 そんなくだらない問い掛けが何処からか湧いて来て、その出所が自分の中以外に有り得ないことに気付き苛立ちは加速した。

 

「ありえねぇッ!!! クソがッ!!」

 

 鈍い金属音をたててパイプ椅子が床に転がる。続けて壁に頭を叩きつけて雑念を振り払った。ジンジンと鈍痛が響き、冷たいパネル壁の冷気にあてられてようやく少しマシになった気がした。

 

「ば、爆豪選手、そろそろ準備お願いします」

「……おう」

 

 大筒木が強敵であることは認めよう。であればこそ勝って自らが一番であることを証明するに相応しい。証明する相手は他の大多数では無く己自身。過去にヴィランに襲われた経験が爆豪に飽くなき強さとヒーローとしての憧れを強く植え付けた。特にその時の事件でマスコミに悪意をもって大きく報道されたこともあり、他者からの評価より自身の絶対的な価値観で評価することに並々ならぬ拘りを持っていた。

 

「ぶっ潰す!」

 

 決勝戦が今始まる。

 

 会場は熱気の渦に包まれていた。決勝戦は毎年視聴率も最高潮に達する。緊張とは殆ど無縁な爆豪でさえもひりつく空気を察した。大衆のギラギラとした視線が物理的な干渉力を有して肌に突き刺さる。そんな錯覚。

 

 対面する大筒木。緊張など皆無。会場の観客などまるで興味無いといったところ。普段なら苛つくところだが今回ばかりは爆豪には好ましく思えた。相手が集中しているのはこちらだけ。真剣勝負に舐めプをして見せた轟のような態度では無い。自然と口許がニヤリと弛む。

 

『雄英1年の頂点がここで決まる!! 決勝戦!! 大筒木』

『対』

『爆豪!! 今!! START!』

 

 突撃。今までの試合を軽く見てきたが大筒木の骨矢がやはり厄介だ。とりあえず近づかなければ爆破範囲にも入れない。向こうもそれは分かっている。当然のようにこちらに骨矢が飛んできた。速度は……そこまで。轟戦の氷壁を打ち壊した時のような破壊力は無い。人の体に直接当たればタダでは済まないと考えているのだろう。

 

「舐めんなッ!! クソ白目女ァ!!」

 

 真正面から飛んでくる骨矢を横から爆破して逸らす。貫通力に劣る攻撃なら正面からでも爆破の方向さえ考えればいなすことは簡単だ。余裕ぶったスカした態度のツラが少し崩れた。その隙に前転して手が地面に着いて離れる瞬間に手から爆破。爆風と前転の勢いを利用して加速しながら一気に彼我の距離をゼロにする。爆風で起きた粉塵を突っ切るとそこには骨で出来た短剣を構える大筒木の姿。

 

(当然……隠し玉はあるよな。だが)

 

「しゃらくせェッ!!」

 

 先ほどと同様に爆破で払う。しかし剣先が僅かに揺らいだだけでその骨の剣は無傷。焦げ跡すら見当たらない。今までの骨矢とはそもそもの強度が段違いのようだ。お返しとばかりに剣が振られるがそれは身を屈めて躱す。

 

 ……これだ。確かに大筒木のスペックは高い。単純な身体能力、透視能力、動体視力、飛行能力に骨矢、骨剣。そして二点を繋ぐ短距離ワープホールを生み出す個性。どれか単体だけでも十分戦闘に通ずる個性を複数持って運用している。一つだけでも個性をヒーローとして活躍出来るレベルまで練度を上げるのは容易では無い。複数の個性ならば何をか況やだ。

 

 しかしだからこそ大筒木は複数の個性を十全に扱う訓練に時間を費やしたのか、或いは生まれ持った身体能力で技術を磨く必要が無かったのだろう。速度や力こそあるものの、狙いは単純で読みやすい。一発当てさえすれば強力だが、その当てるまでの技術が伴っていない。つけいる隙は十分ある。

 

 攻め続ける。何度か試したがフェイントには驚くほど引っかからない。だから全ての一撃を当てる。当てるつもりで攻撃し続ける。大筒木には超人的な反射神経で避けられ、骨剣で逸らされ、初動を潰された。

 

 今はそれでいい。こちらの攻撃に対処しなければならない。その状況を維持すれば奴はいつか焦れて短絡的な行動に出る。

 

 バトルエリアに爆煙が舞う。

 

『決勝戦!! まさかまさかの高速近接戦闘が5分は続いているーッ!? お前ら数字の稼ぎ方分かってて好きだぜェー!YEAH!』

『少しは下心隠せ……しかしここまでやるとはな』

 

 ある程度の時間が経ち、爆破の威力が上がって来た。気のせいかいつもより爆破のノリが良い。反応も。ダッキングして直ぐに後頭部を剣が過ぎ去る。

 

 見えてる。大筒木の顔も、動きも。相変わらずの無表情。動きは嘘をつかない。無駄な攻撃が増えてきた。

 

 こちらの爆破範囲が増えて大筒木へ有効打が増えた。確かに当たっている筈。奴は怯む素振りを見せない。むしろ爆破が大きくなったことで逆にこちらの視界が制限され始めた。

 

「ツッ!」

 

 爆煙に隠れて右太腿を骨剣で強く打ちつけられた。向こうは爆煙越しでも透視能力でこちらの姿をハッキリ捉えているらしい。思わず一歩後ろに下がると右太腿に痛みが奔る。大筒木の額の瞳がその挙動を追いかけているのが分かった。好機と一歩踏み込むのが見えた。

 

「馬鹿がッ!?」

 

 両手の平の付け根を合わせて指先を広げる。普段とは違い、個性で爆破の威力を絞り込むようなイメージ。代わりに爆発の光にリソースを注ぐ。常闇戦で披露した閃光弾を見開いた瞳に直接ぶち込んでやる。

 一瞬。視界が真っ白になるほどの明るさが周囲に放たれる。今更目を閉じたとしても焼き付いた残像で暫くまともにお得意の動体視力や透視も使えない筈だ。今が待ちに待った攻め時。

 

 爆煙を掻き分けるように拳を打ち込む。確かに人の感触が伝わってくる。それを確認して爆破。爆破。爆破。

 

「ウヌッ!?」

「死ねオラァァ!」

 

『おっとぉ爆豪容赦のない連続爆破!! 爆煙で見えねぇが……流石にこりゃ』

 

 ゆっくり爆煙が風に流れて晴れてゆく。構わず爆破し続けていた爆豪だが嫌な予感をおぼえて攻撃の手を辞めてバックステップでその場を飛び退いた。直後チュガッと不吉な音をたててバトルエリアの床に骨矢が突き刺さった。体勢を立て直しつつも一歩踏み出そうとした足先に同様に骨矢が刺さる。先程被弾した右太腿に痛み。踏ん張って力を入れようにも何処か感覚が遠い。

 

 幸いそれ以上追撃は無かったが、爆煙から姿を現した大筒木を見て会場がどよめく。

 

 爆煙で煤けているが連続爆破を食らった割にダメージが見受けられない。歩行の際に痛みを庇う無意識の所作さえもなかった。その事自体も驚愕すべき事だったのだが……。

 

『……UNBILLY BABO!? そしてーー』

 

 流石の大筒木の頑丈さも雄英の体操服には反映されなかったようで、爆破で所々破けてしまい大筒木の病的なまでに白い肌が露出してしまっていた。局部が曝け出すことは無かったが、健康的な太腿や腋、背中に脇腹と際どいラインギリギリが見えてしまっていた。奇跡的にギリギリ公共の電波に乗せることが許されるレベルなので審判のミッドナイトも中断するのに戸惑った。昨今の女性ヒーローは人気取りや本人の個性の都合上ヒーローコスチュームも露出や体のラインがハッキリ出るデザインも多い。個性社会においては男女の性差も個性の延長線上の印象が大きく限度はあれどそれまで問題にならない。ミッドナイト本人も自身のコスチュームが公共の場に出るのを許されるまで何度もNGを食らった。その経験上からすると……セーフだった。ノリに乗っている青春バトルに水を差すのも辛い。

 

『これは……大丈夫か〜〜〜〜? 審判のミッドナイト先生の判断は……? 特に中断の判断は無しッ! 続行だ!!』

 

 会場中にむさ苦しい男たちの歓声が響く。周囲の冷めた女性陣の視線で少し弱まったが、先程よりバトルを見つめる視線は熱い。

 

 雄英公式が認めるなら戦いを止める理由にはならない。爆豪は痛む右太腿に喝を入れて大筒木に向かった。道中ふと気付いた。爆煙から現れるまで特に構えらしい構えがなかった大筒木だが、確かに今彼女は構えている。

 

 左拳を前に、握りは爆破の個性にも単純な肉弾戦にも状況に応じて変化出来るよう少し甘く。右は半身後ろで腰の捻りと一番威力のある右ストレートを加速するだけの空間を確保。

 

 まるで鏡合わせのように、爆豪のスタイルそのものの大筒木の振る舞い。僅かに左右の足を交互に浮かせて体重移動をさせる無意識の癖まで完全にトレースしている。単純な見様見真似とは違う堂に入った安定性を感じた。無論、それを簡単に認められる爆豪では無かった。戦闘に関して天賦の才を持ち合わせる彼が己の個性と併せて最も嵌まったスタイルを見出すのにかかった時間はそれなり以上に長かった。それが簡単に真似されて気分が良いわけが無かった。

 

「お前ッ……猿真似してんじゃねぇぞッ!!!」

 

 最早右太腿の痛みは激しい激昂で何処かへ飛んでいった。選んだのは右ストレート。取り敢えずその顔に一発ぶち込んでやりたかった。それを左手で軽く透かされて、先程の爆豪の右ストレートの焼き増しのような一発。当然避ける。自分の攻撃は自分が一番分かっている。それでも元々の身体能力の違いから掠っただけで肌が切れる。お返しの爆破は腕ごと膝蹴りをする大筒木によって潰された。

 

(ムカつく。こいつの動きのあちこちに俺の影が見えるッ……)

 

 元々反応速度は大筒木と大きな差があったのをセンスと接近戦で食いついていた。驚異的な反射神経で見てから事後対応していた大筒木はそれ故に攻撃後に大きな隙があった。それが爆豪のスタイルで先手を取り続けるスタイルに変わった。爆破という個性専用にカスタマイズされたスタイルなので大筒木の個性と合致している訳ではない。それでも持ち前の身体能力と動体視力を先手先手で発揮されるのはかなり厳しい状況と認めざるをえない。このまま状況が続けばジリ貧なのは明らかだった。

 

 賭けに出るしか無い。その発想に至るまで大きな葛藤が爆豪にあったのは言うまでもない。プライドの高い爆豪だが、敗北を迎えるぐらいならとそのプライドもGOサインを出した。

 

 先ずは地面を爆破。爆破の威力もだいぶ上がっている。細かなセメントの破片や爆煙を大筒木に向かって飛ばした。先程の閃光弾の件もあって額の目を攻撃されることを嫌がっている。目を庇いながら透視能力でこちらの位置はバレている筈だ。それでも愚直に飛ばして、反撃の骨矢を真正面から爆破で弾く。個性を使い過ぎた。動き回り続けて体力も底を尽きそうだ。

 

 だからこそ演技では無い。だから通じる。

 

 予定通り爆破で奴をステージ端近くまで追い詰めた。

 

 爆破でブーストもせずに自分の足だけで大筒木に向かう。愚直な特攻に見えただろう。実際賭けに勝たなければこれはそのまま敗北への直通切符だ。振り上げた拳を手で止められる。そのまま上空に空間がゆがんで大筒木のワープの個性が出現した。

 

 飯田戦で見せた勝ち方。ここからステージ外に攻撃して弾き飛ばすのは少し距離がある。であれば大筒木は必ずワープの個性を使うだろう。投げられる直前まで抵抗を続けるフリ。本当の最後の一撃まではギリギリ体力を温存しておく。

 

 投げられてワープゲートを潜った先はステージの範囲外の白線が見える。投げられた勢いもあってこのままでは確実に場外負けだ。

 

 最後の力を振り絞って足元から爆破。これで場外負けからは一時的に脱出。そのまま両手を広げて同時爆破だ。風車のように爆破する向きを調整して回転。自らも回転して遠心力を追加して小さな竜巻のように大筒木に向かって……。

 

(大筒木は……何処だ!?)

 

 先程爆豪を飛ばした大筒木がバトルエリアにいない。世界が激しく回転しながらも、見逃すなんて有り得ない。あれだけ自分の手で捩じ伏せると誓った相手を見失うほど爆豪の執念は甘くない。

 

「信用しておったぞ……爆豪」

 

 後ろッ!? コイツ、自らもその後ワープゲートに飛び込んで……。

 

 大きな衝撃を受けた。何処か遠くで歓声が聞こえる。激しい怒りは解消する場所も見つからず鎮火されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「素晴らしい……」

 

 弔を見守っていた時のようなフツフツとした興奮が男の足元から全身に侵食して来た。涎なんて今の体には出る筈も無いのに無意識に口元を拭う。思わず口から漏れてしまった言葉。その続きが口から漏れてしまう前に通話相手に会話を投げた。

 

「……弔。彼女を倒せるかい?」

『いくら先生でも……あまり俺を苛つかせるなよ?』

「すまないね。だけど分かっているね?」

『奴は壊したらダメだって言うんだろう? けど捕らえる時に反撃をされたら思わず事故が起きるって事もあるだろう?』

「……事故なら私は君を責めないよ弔」

 

 その程度でやられるようならそもそも合わなかったというだけだ。通話越しに指を交差させて親指だけは軽快なリズムを刻んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。