兎の女神のヒーローアカデミア   作:眼球舐めは通常性癖

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ワラワ職場体験で鍛えた

 パトロールを終えて帰ってくるのにそれなりの時間がかかってしまった。

 

 詳しい事情聴取は警察の仕事だ。繁華街での争いなので今日の夕刊やNEWSではおそらく彼らの暴れぶりが大きく取り上げられることだろう。現場を携帯で撮影している人も多くいたのでひょっとしたらマーシャルレディーや私の姿が一般人からの情報提供という形でTVに映るかもしれない。

 

 何だろう……恥ずかしいのとほんのちょっとミーハー気分で嬉しいのと、何も出来てない自分が悔しいのとで複雑な気持ちだ。

 

 マーシャルレディーは警察に状況説明をする為に私を先に帰してたのだが、暫くして彼女も帰ってきた。本来なら今まで練習してきた事務処理を発揮できる格好のチャンスだけど、今日は初めての現場と前もって約束していた型の披露の為に翌日に回すことになった。

 

 午後一番の動きの型の披露の結果は合格。嬉しいけど気は抜けない。まだスタートラインに立ったばかり。

 

「良かろウ。先ずハ……」

 

 何の予備動作も無しに拳が此方に迫る。輪廻写輪眼で直ぐに気づいたので頭を僅かに退いて回避。午前中の喧嘩を取り押さえた時のような速さは無いので余裕で追える。彼女も本気で攻撃する気はそもそもないのだろう。

 

「今の攻撃……お前にはどのように見えタ?」

「どのようにと言われても……?」

「言い方が悪かったナ。お前の眼で見た私の動きの体感スピードの話ダ。雄英体育祭で見てから動けるレベルの動体視力なら私の今の動きはどのくらいの速度に見えタ?」

 

 ならこのぐらいだろうと、私はゆっくり先ほどの彼女の動きを自分の体で再現してみせた。それを見てマーシャルレディーは大きく溜息をつく。

 

「……流石にちょっとショックだナ。だが納得もいっタ。それほどの動体視力があるなら武も身につかぬ筈ダ」

「ワラワも一応頑張っておるのじゃが……」

「その時点で考えが甘イ。武が一応程度の努力で身につく筈が無いだろウ。千日の稽古をもって鍛とし万日の稽古を練とすダ」

「むむむっ」

 

 何も言い返せない。

 

「……これからやるのは組手ダ。お前の個性は勿論封印してナ。だが流石にそれではお前ノ勉強にならんからナ。一つ条件追加ダ」

「条件とは?」

 

 言葉より行動でと、再びマーシャルレディーの拳がこちらにゆっくりと向かってくる。今私は輪廻写輪眼を使ってないけど、使った時のようなゆっくりとしたスピードで。理解が及ばずに頭の上に?を浮かべている私に彼女はその横長の細目の奥の瞳を冷たく光らせた。

 

「お前もこの速度で組手をやル。互いの急所に先に攻撃を当てた方が勝ちダ。分かったナ?」

 

 怖くて何度も壊れた人形のように首を縦に振る私。彼女は嫌がっているみたいだけど、お嬢と呼ぶ人達の気持ちも分かる気がする。この人の笑顔その筋の人達の圧あるんだよなぁ。

 

 

 

 彼女がゆっくりと此方に歩を進める。私も同じく亀より少々速いぐらいの速度で対応する。

 

 歩法がまだ身体に芯から染み込んで無いせいだろう。彼女の歩法と同じ動きの筈なのに、ゆっくり行動すると動きの精密さや滑らかさが段違いだ。右手を掌底の形で前に出して、相手の視界を遮りながら脱力。動きの起こりとなる“意”を相手に掴ませない徹底した実戦重視のスタイル。

 

 脱力で緩んだ分、伸びもある。片足を大きく伸ばして一気に二人の距離が縮む。スピードは無いのにヌルッと詰めて来るイメージだ。ただでさえ格闘技術においてはマーシャルレディーとの差は明白で……後手後手で腹部に向かって来る掌底をなんとか逸らしたところで、もう片方の手で首元に指先を突きつけられて敗北。

 

 いつもなら敵わないまでも輪廻写輪眼で抵抗ぐらいは出来るが、条件を揃えただけでここまで手も足も出ない。脳無ほどのフィジカルエリートや、私と同じかそれ以上の動体視力・反射神経のヴィランには到底勝てないのがハッキリ分からされた。

 

 その後も10回程続けて組手をやってみたが、一勝はおろかまともな攻撃さえも出来ない不甲斐ない結果に終わってしまった。

 

「……ワラワはまだまだ弱いのぅ」

「いえいえ。最初にしてはなかなか良い方ですよ」

 

 いつの間にか部屋の端にいたホンダさんに話しかけられて物理的に飛び上がるほど驚いた。組手を始める前は確かに二人だけだった筈。集中しすぎて気づかなかったのだろう。ゆっくりとした動きなので考える時間も長くなり精神的な疲労も大きい。肉体的にはそれほど疲れてないけど、精神的な疲労が肉体にも影響を及ぼして全身から汗が流れる。

 

 一息落ち着いて水分補給。改めて、ホンダさんのお世辞だろうけど少し嬉しくなってしまった。

 

「コイツは褒められると図に乗るタイプだホンダさん。こちらにも指導方針があるので口を挟まないでくレ」

「ほっほっほ。老人の独り言は大きくなりがちですからなぁ」

 

 全く悪びれる様子もないホンダさんには敵わないとマーシャルレディーも諦めてしまった。手の平を上に首を振る挙動にふと午前中のパトロールの件が思い浮かぶ。

 

「……そういえばマーシャルレディーの個性とはいったいどういう個性なのじゃ?」

 

 午前中のパトロールで見た個性らしき挙動。緑谷くんからマーシャルレディーは格闘術と相性の良い個性を持っていると聞いたけど具体的にどんな個性なのかは聞いていなかった。私としては八卦掌を実戦レベルで使えるというのが彼女の所を職場体験に選んだ理由の大部分だ。実際公式のHPでは功績とPVが大半で詳しい個性の内容についての記載は無かった。

 

(個性届って本人の自己申告による所が大きいから、結構詳細については緩いんだよね。ヴィランは勿論、ヒーローでさえ二つや三つぐらいは申告してない個性の使い方があるし。マスコミ嫌いでおそらくリアリストな彼女はあえて個性についてHPに乗せて無いのかもしれない)

 

 それでも熱心な緑谷くんのようなヒーローファンや地元民は知ってるだろう。あの妙な挙動からある程度の想定は出来るけど、お世話になっているヒーローのことだし詳しく知っておきたい。

 

「オマエそんなことも調べずに来たのカ? ハァ……教えてやるのは簡単だガ、折角の職場体験ダ。実戦ではこちらの個性は知られてヴィラン側の個性が分からない状況が基本的に前提。私の個性について推測するのもオマエの職場体験中の課題としよウ」

「えっ」

「何か文句でモ?」

「い、いや。何でも無いのぅ……」

 

 こうなるのならあの時緑谷くんに詳しく個性について聞いておくべきだったと後悔。……でも彼のヒーローオタク熱が怖かったしなぁ。

 

 しばらくゆっくり組手を相手してくれていたマーシャルレディーも仕事があるので途中で出ていってしまい、私はトレーニングルームで稽古を続ける。型を無意識で行えるまで身体に染み込ませる。ホンダさんは彼女の代わりに私の型を見て、違和感があったり間違ったりしたらその都度訂正してくれた。

 

 マーシャルレディーの師匠の現役時代から彼女達と付き合いがあったみたいで、何度も型を見ているので初心者に指導出来るぐらいには知識もあるらしい。

 

 一通りの型を満足出来るぐらいには認めて貰って、お次は站樁行をしようという運びになった。これは私でも知っている。中国拳法が出てくる漫画では大体の修行でこれが行われているし。

 

 やり方は単純だ。まず直立状態から足を肩幅よりやや広めに開いて、腰を軽く落として空気椅子と直立の丁度半分ぐらいの位置で固定。両手は前に。これを維持するのが站樁行だ。

 

「初心者に気の流れとか言うと途端に嘘っぽくなってしまうので、今回の站樁は精神統一站樁(たんとう)と体幹トレーニングとして受け止めてください」

「……エェ」

 

(そんなんで良いのか……)

 

 私の唖然とした感情が表情に出てしまっていたらしい。皺だらけのホンダさんは更に皺を増やすように微笑んだ。

 

「行の本当の意味が分かって来るまではそれで良いのです。では私も事務処理がありますので……サボっては駄目ですよ」

 

 そう言い残して去っていった。トレーニングルームの鏡に映るのは私一人だけ。部屋に監視カメラなんてものは無いし、飛行でこの体勢のまま維持すれば幾らでも続けていられるが、自分の為にならないのでしない。折角最近私の個性の何かを掴みかけてきたのだ。学校ではこんなに纏まった時間を得られないし、この貴重な経験を無駄にしたくなかった。

 

 站樁は結構キツイ体勢だ。続けていると腕の関節や膝あたりが疲労とジッとしていられない多動性で震えてくる。異形系の幼少期によく見られる多動性や衝動性は私の場合そんなに酷くなかったけど、身体の有り余るエネルギーを持て余して動き回る異形系の個性持ちの気持ちが良く理解できる程度には私もやんちゃだった。

 

 現在も雄英高校で午後からのヒーロー基礎学で動き回る授業の有無によっては、夜に力が有り余って直ぐに眠れなかったりする。そういう時は始球空間へ移動して安心感から眠るか、始球空間で暴れ回って疲れて眠るかのどちらかだ。

 

 今日は事務処理をしてないので精神的な疲労も無く、パトロールも私は実際特に実戦に参加した訳でも無いので元気は有り余っている。

 

──つまり、かなり辛い

 

 動く方が楽な脳筋タイプの私には站樁のような修行方は未体験で正直舐めてた。動けない分、脳内でマーシャルレディーとの組手を思い出してあの時こうしていたらと色々妄想を膨らませる。でもどうシミュレートしても勝てない。妄想だけで勝とうと思えば脳内のマーシャルレディーを弱くすればいつでも勝てるのだが、直ぐに虚しくなってしまって考えるのを辞めた。

 

 どうにか妄想の材料をトレーニングルーム内を見渡して探すけれど、無機質な金属のトレーニングマシーンしか無くて妄想も膨らまない。

 

 視界にキョロキョロと動くモノがある。そう私だ──いるじゃないかこれ以上にない妄想相手が。

 

 私の動きは私自身が一番知っている。今までの妄想と違ってよりリアルな実体となって私の前に現れた。

 

 鏡に映った私が私の脳内で動き出す。鏡から抜け出した私と私が向き合う。構えも動きも一緒。

 

 走る。接敵。狙いは肩。それも同じか──互いの掌底で弾き飛ばされた。

 

 いや。違う……もう一人の私のほうは体勢を立て直す速度が私よりか若干遅い。私の明確に想像できる私とはまだマーシャルレディーに歩法や型を教わる前の自分だ。つまり私の方がまだまだ浅いとはいえ一日の長がある。

 

 平均台を渡るような一本の線を歩く歩法。大事なのは踏み込み。最初の一歩目は浅く、少し間を置いて二歩目は深く踏み込んだ。人差し指と中指を中心に親指を添える柔拳のイメージ。その指先は──簡単に躱された。

 

 瞳にはギョロッと輪廻写輪眼。そりゃ簡単に当たるはずが無いよね。その後は何とか一発喰らわせることに成功したけど、私たちの間にそれ程大きい戦闘力の差は無いせいか殆どの攻撃がお互いに当たらない。

 

站樁(たんとう) 言ってしまえば輪廻写輪眼を使える者同士で条件的にはスロー組手と一緒だ。それでも学ぶ事は大きかった。正直マーシャルレディーとのスロー組手は実戦経験を積む良い機会なのだけど、八卦掌の技術差が大き過ぎて技術を教わるまでのレベルに私自身が到達していない感があった。そう考えるとスロー組手で八卦掌を試せる自分シャドーはかなりタメになった。

 

 ノック音で妄想の世界から我に帰る。

 

「カグヤちゃんそろそろ帰ろうか……おやおや、站樁行は辛くなかったかね?」

 

 時刻は既に19時を過ぎていた。確か18時前ぐらいに站樁を始めたんだっけな。1時間ぐらいはやってたのか……。当初の予定が精神統一と体幹トレーニングだっけ。体幹トレーニングに関しては効果があったかもしれないけど精神統一に関しては途中忘れてしまっていた。站樁を真面目にやっていたとは到底言えないわけで正直大変気まずい。

 

「まぁ……の」

「その調子では負荷が足りなかったようだね。明日からは錘を付けて站樁行をしようか」

「えっ?」

 

 挫けるな私! Plus Ultra!!

 

 ホテルに帰ってシャワーを浴びて着替えているとスマホに着信が来ていた。緑谷くんからだ。理由は分からないけど位置情報だけ送られている。

 

(え……来てくれってことかな? 住所は保須、流石に九州からでは非現実的だ。イタズラ? でも峰田・上鳴ならまだしも緑谷くんがふざけてこんな突拍子もない連絡はしない筈だし)

 

 他の人にも緑谷くんから似たような連絡が来てないかグループチャットに送ってみる。

 

 どうやら他の人も同様らしい。麗日さんは心配で直接電話したけど出ないらしい。余計に緊急事態な予感がして来た。そういえば保須はヒーロー殺しが最近事件を起こした土地でもある。なんでも飯田くんのお兄さんであるヒーローインゲニウムも命は助かったものの重傷を負ったと聞いた。一応心配で相澤先生にも連絡をしておいた。こっちに任せてお前らは職場体験に集中しろとのありがたいお言葉をいただいた。相変わらずツンデレ力の高い先生だ。

 

「心配じゃのぅ……」

 

 それでも流石に保須は職場体験中に現実的に行ける距離では無い。私は緑谷くんの無事を祈りながら睡魔には勝てず、ベッドに倒れ込んだのだった。

 

 

 翌朝起きてふとTVを点けると大変なことになっていた。なんと保須であのヒーロー殺しが現れて現地のヒーローが捕まえることに成功したらしい。動画サイトでも奴の声明が取り上げられていて、その動画の端の方に轟くん、緑谷くん、飯田くんらしき人影もあった。

 

(やっぱり現地にいたんじゃないか!? しかも緑谷くんだけじゃなくてッ!?)

 

 色々とTVを観ながらスマホで並行して情報収集してみる。大々的に報道されているのはヒーロ殺しステインの話題だが、他にも事件は同時に起こっていたようでヒーロー殺しとは別に脳味噌剥き出しの化け物も街を襲ったらしい。

 

──ゾッとした。思い出すのはUSJで戦った脳無。オールマイト並みの身体能力で私は手も足も出なかった。日々のヒーロー基礎学やマーシャルレディーに教わった拳法で私の力もあの時より高いが、今まともに脳無と肉弾戦をしてもあの時と結果は変わらない。

 

 そんな奴が複数体いる? 私と同じ複数の個性持ち……奴は見た感じ自らの意思を持たずに死柄木や黒霧の命令に従って行動しているように見えた。──まるで造られた生物兵器のように。そして今回現れた脳味噌剥き出しの複数個性持ち、脳無。明らかに偶然ですむような事例では無い。敵連合の兵器として生産されているのは最早疑いようも無い事実だろう。あの時の黒い脳無と違って今回は白い脳無。一般人やマスコミの撮影した映像では黒い脳無程の動きは見せていないが、一般人や並のヒーローでは到底太刀打ち出来ないレベルだ。今回の職場体験でしっかり鍛えようとは思っていたけどその気持ちは益々強くなった。

 

 同じようにTVを見たクラスのメンバーのチャットが盛り上がっている。概ねメンバーを心配する声がほとんどだ。私も何度か打ち込んで朝の支度を始めた。因みに昨日の繁華街での争いは地方新聞の端の方に小さく載っていた。そりゃヒーロー殺しと脳無の襲撃なんて大事件があればそうなるか。

 

 事務所でも昨日の話題で持ちきりだった。ヒーロー殺しの気迫ある宣言の動画が出回っていて若年層のカッコいいなんてコメントが書き込まれているらしい。

 

「馬鹿らしいのぅ。所詮犯罪者の妄言では無いか?」

「私も同意見だよカグヤちゃん。今時の子は良くも悪くもヴィランの全盛期を知らない……ヒーローの数も少なかったし、私もかつて暴漢から助けてもらった時はヒーローの存在が有り難く思えたものだよ」

「とはいえ一定数の賞賛の声があるのは確かダ。ヒーローに憧れるのは構わんガ、ヴィランとしてヒーローの粛清を目的とした模倣犯が現れるやもしれんナ」

 

 雑談もそこそこに今日も朝からパトロールだ。本来は事務処理の予定だったけど、昨日の今日で報道の影響で浮かされたゴロツキが犯行に及ぶ可能性が高い。そいつらを締めて、ヒーローとして市民を守るのと同時に治安を守るヒーローは顕在とアピールもしなくてはならない。

 

 しかし今日のパトロールのルートは普段と違った。いつもなら人の多い市街地が殆どなのだけど、市街地は通りつつも奥の細い道に進んでゆく。かといって治安が悪くなる訳ではなく、むしろ壁の落書きは無いし、焼杉の塀や道沿いの花から小綺麗に整った印象を受けた。

 

 大きな一軒家や和風の建物に出向いて、中から現れる明らかにカタギでは無さそうな強面のお兄さんや老人にマーシャルレディーは手土産を渡して挨拶してゆく。

 

「ここらの権力者ダ。影響を受けそうな若い衆に気をつけておくようにと忠告をナ」

「……その手土産。黄金色の饅頭では無かろうな? ワラワ、マーシャルレディーに感謝しとるが、流石にそれは見逃せんぞ」

「本当にそうだとしたらお前を連れて来る訳無いだロ」

「……お願いだから否定してくりゃれ」

「クッ──クハッ! イーヒッヒッ!! ちょ、止めろw 私を笑い死にさせる気かッww」

 

 珍しく声を上げて大笑いするマーシャルレディーにポカンとする私。普段なクールの印象を捨てて、地面に蹲って笑いを堪える姿になんとも言えない微妙な空気で佇むしか出来ないでいた。ようやく笑いの波が過ぎ去ったマーシャルレディーは、涙を裾で拭き取りながら今見たことは内緒にしろと低い声で耳元で囁いた。私の返答? そんなの聞くまでもないよね。

 

 パトロールから帰って事務作業を手伝った後、型を復習してマーシャルレディーとのスロー組手。その後は站樁とイメージトレーニング。

 

 1日の流れは基本的にそんな感じだ。敵連合の脳無という兵器が明確な敵として平和を乱す可能性が高い。そう考え始めてから私の修行に対する本気度が増した。コテンパンにやられた個人的な怨みもあるし、実際に相対した身として危険度が身に染みて分かっている。濃密な体験で時間が過ぎるのもあっという間で一週間の職場体験も気付けばもう最終日だ。

 

 そして──私のスロー掌底突きがやっとマーシャルレディーに有効打を与えることが出来た。当たったのは当初の目的の急所では無いし、マーシャルレディーが手加減してくれたことはわかっているけどそれでも嬉しかった。

 

「やっと──やっと一撃当てられたぞ!!」

「おめでとウ」

「だいぶ成長しましたねカグヤちゃん」

 

 柄にも無く興奮でホンダさんとハイタッチしてしまった。後で自分のやらかしを思い出して恥ずかしくなったのは内緒だ。

 

「で、課題の方だが分かったカ?」

「……課題?」

「私の個性を当てるという課題だガ……ひょっとして忘れていたのカ?」

 

(あ、あ、あぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!? 言ってた……確かにマーシャルレディーは言ってた! 言い訳になるけどあの後保須の事件があったからすっかり忘れてしまってたッ!!! ヤバッ!?)

 

「その感じだと忘れていたようダ……ハァ、カグヤお前のそういう抜けている所は直せよ──次のインターンシップまでにな」

「イ、インターンシップとは?」

 

 インターンシップはヒーロー仮免を取得したヒーロー科の生徒が職場体験と違って自らの個性を活用して、実際にヴィランを捕らえたりヒーローとしての活動をヒーロー事務所に一時的に所属してする本格的な体験らしい。なんでも本来職場体験とは2年からのインターンシップまでの顔合わせと、人脈の繋ぎとして活用するのが常らしい。そんなことは相澤先生は言ってなかったと思うけど、そう言ったら普通そういう事は自分で調べたりヒーロー科の先輩から聞いて知っておくべき情報だと逆に怒られてしまった。

 

「まぁそこそこ楽しめたヨ。仮免試験に落ちたらインターンシップの指名を取り消すからカグヤも気を抜かずに勉強と修行も続けるんだナ」

「ウ、ウム。頑張るぞ」

「それではまた会いましょうカグヤちゃん」

 

 こうして長いようであっという間だった私の職場体験は終わった。帰りの新幹線を待つ間、緑谷くんにお願いされていたサインを貰うのを思い出して急いで事務所に戻ってお願いした所、ガチで殴られて痛い思いをしたのは内緒だ。

 

 因みにサインは2枚貰っておいた。

 

 

 

 

 

 

 

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