兎の女神のヒーローアカデミア 作:眼球舐めは通常性癖
久しぶりの雄英高校。一週間しか職場体験に出ていないのに通うと懐かしいと感じる。もう私にとって雄英高校は帰る場所になったんだとちょっとセンチな気分。入学当初は毎日登校で緊張していたのだけど友達も出来て安心する場所の一つにいつの間にかなっていたらしい。
朝から教室は賑やかな笑い声で包まれていた。懸念だった緑谷くんや飯田くんに轟くんも怪我はしたらしいけど今は元気そうで安心した。笑いの原因は爆豪くんのツンツンヘアーが綺麗に撫でられて整っているのが原因らしい。私はあれ結構似合っていると思うけどなぁ。本人に言うと絶対逆上するので言わないけど。
因みに緑谷くんに頼まれていたマーシャルレディーのサインは渡しておいた。怪我して事件に巻き込まれた緑谷くんに渡してもそんな気分じゃないかなと不安だったけど、目をギラギラさせて喜んでいたようで良かった。
「へぇー敵退治までやったんだ! うらやましいなあ!」
「避難誘導とか後方支援で実際交戦はしなかったけどね」
羨む芦戸ちゃんとクールに返す響香。梅雨ちゃんなんかは隣国からの密航者を捕えたなんか言ってるけどそれぞれの職場体験先で体験内容はかなり違っていたようだ。それって仮免取らないと拙くないかと思うような体験もしているみたいだけど書類上はそこの所属ヒーローやサイドキックが対処したとヒーロー公安委員会に報告すれば一応問題無い。
「カグヤはどうだったの。マーシャルレディーってヒーローのところだったっけ?」
「うむ。基本的にワラワはパトロールや拳法の修行や実際の事務処理じゃったな」
「ちょ何それ? 凄い気になるんだけど」
「私も気になるわカグヤちゃん。事務は機密情報もあるから触らせて貰えなかったの」
「実名部分は修正テープで伏せた記入例は貰ったから気になるのなら後でコピーを渡そうか?」
「欲しい! 欲しい!」
予想以上に好評を頂いて私も満更ではない。お茶子ちゃんにも声をかけようとしたところ、バトルヒーローの所で格闘技をみっちり鍛えられたようで息吹と共に繰り出される正拳突きの威力はとても一週間で覚えられるレベルではなかった。きっと元々才能があったんだろう。私も拳法を学んだ身なので今度手合わせをお願いしたい所だ。
話は職場体験の流れで自然と事件に巻き込まれた3人の話になった。そして上鳴くんがヒーロー殺しに対して肯定的な意見を出した時、教室内の空気が確かに凍った。被害を受けた三人や飯田くんのお兄さんがヒーロー殺しでヒーローとして活動できない体になってしまった実状、空気を読まない発言なのは明白だった。直ぐに上鳴くんも自らの失言を反省して謝罪した。しかし当の飯田くんは予想に反して冷静だった。
奴の信念に憧れるのも無理もないと理解を示しておいて、その手段が粛清なのはどういう信念を持っていたとしても間違っていると断じた。真面目な飯田くんらしい意見だ。彼の表情もどこかスッキリしているように見える。自分で悩んで納得いく結論に達したのだろう。そのまま暗い空気になりかけた所を彼のうるさいくらいの始業の準備をしようの声でいつもの空気に戻した。飯田くんのそういう所は素直に好感が持てる。彼の憧れる兄のようなヒーローになるという夢が叶う日もそう遠い話ではないだろう。
そこからの午前中は久しぶりの授業ということもあってものすごく長く感じた。一週間の職場体験で予習していた部分は全て吐き出してしまった。今までこれからの授業の予習と復習でなんとかついて来れてこれたところが大きい。流石に今日は久しぶりの授業ということで若干復習気味の内容に先生が手加減してくれたようで授業を理解出来た。しかし、次からはこうもいかないだろう。
急いで勉強会をしなければ……。
滲む脂汗を拭う。このままでは期末テストで赤点をとってしまう未来が見える。2年の仮免試験を受ける前に留年とか笑えない。急いで響香か八百万ちゃんに勉強を教えてもらう為の勉強会の開催をお願いしなければ。私以外も芦戸ちゃんや上鳴くんなんかは苦労している様子が見てとれたし、どうせなら皆で勉強して見張り合った方が効率が良いに決まってる。響香とマンツーマンだと気が緩んで勉強に集中出来る自信が無い。さらにお互いに苦しみを乗り越える事で連帯感も生まれて一石三鳥だ。クックックック
「カグヤちゃん何だか楽しそうだね!」
「そうでしょうか? 私には悪巧みをするヴィランのように見えますが……」
「いやアレはどうせくだらん事考えてるから気にしなくていいよヤオモモ」
「……本当最初の印象と違ってたなぁ大筒木は」
そんなこんなで午後。久しぶりのヒーロー基礎学でオールマイトの顔が普段の三倍濃く見える。
「職場体験直後ってことで今回は遊びの要素を含めた救助訓練レースだ!!」
場所は運動場γ。配管や剥き出しの鉄骨で複雑に入り組んだ密集工業地帯をイメージした実質ヒーロー科専用の運動場らしい。USJは災害救助専用の場所だし、恐らくは例の敵襲撃事件であまり良い印象が私達の中に無いのを危惧してのことだろう。
この周囲に私達は配置され、中にいるオールマイトを要救助者と見立ててスタートの合図と共に一番先に辿り着けば勝利というルールだ。救助で求められるのは何よりスピード。災害時では72時間以内に救助活動が成功するかどうかで要救助者の生存率は大きく変わってくると聞くしレースで競う形にしたのは納得だ。
私がいるので5人3組と6人1組という組み合わせだ。初めの組は瀬呂くんや飯田くん、尾白くんと緑谷くん。紅一点の芦戸ちゃんという組み合わせ。全体的に動けるメンツだ。基本的な速度なら飯田くんが一番だけど、狭い道や入り組んだ構造のここだとそこまでスピードは活かせないかもしれない。高所にオールマイトがいるので3次元的な動きが得意な瀬呂くんと尾白くん、後は芦戸ちゃんも身軽でバリバリのスポーツタイプなので有利か。ワンチャンパワーの緑谷くんが大穴ってところだろう。
しかし予想と違って序盤は緑谷くんの圧倒的速度で他の4人を引き離した。今までパンチの一撃で威力に注いでいたパワーを機動力にでも割いたのだろうか? オールマイトのような増強系の個性ではそんなに珍しくもない事例だけど、二人の個性って似ている。
もしかして──二人は師弟関係なのでは無いだろうか? 若しくはオールマイトの後継者として育成している?
こないだの敵襲撃事件でも二人の距離は近かったし、本来の姿も緑谷くんは特例として知っているみたいだし怪しいな。
そんな私の疑念は緑谷くんが最下位でゴールに辿り着いた事で少し薄らいだ。単純に足元不注意で落っこちただけなのでそれさえ無ければ1位を獲れていてもおかしくなかったのだが、やはり出力がオールマイトと比べるとあまりに違いすぎる。いや、オールマイトが飛び抜け過ぎているだけなのは分かっている。だけどヒーローの象徴ってのは皆の期待を常にPlus Ultraしてゆくものだ。目指す壁は果てしなく大きい。私ももっと頑張らなくちゃ!
それは救助訓練レースが終わり、更衣室でヒーローコスチュームから制服に着替えている時だった。私達女子は制汗スプレーと汗拭きシートの爽やかな香りの中で今日の訓練の談笑をしていた。隣の男子更衣室から大きな声が聴こえる。
「オイラのリトルミネタはもう立派なバンザイ行為なんだよォォ!! 八百万のヤオヨロッパイ!! 芦戸の腰つき!! 葉隠の浮かぶ下着!! 麗日のうららかボディ、大筒木の着痩せッパイに蛙吹の意外おっぱァァァァ」
大声で覗き行為を自ら喧伝する峰田の覗いているだろう穴に響香のイヤホンが差し込まれて、隣の更衣室から爆音と共に人の倒れる音が聞こえた。
「ありがと響香ちゃん」
「何て卑劣……!! すぐにふさいでしまいしょう!!」
「…………」
流石の私も我慢の限界だ。ふさごうとする八百万ちゃんを手で遮って穴の前に立つ。
「峰田!! 聞いているかどうかは分からぬが! 響香を忘れるで無いぞ!! 確かにクラスの女子は魅力的じゃが、響香はスレンダーなのじゃ! 考えてみろ、普段はサバサバした女子がふとした瞬間に見せる女子っぽさ。それはスレンダーな響香だからこそ十分に魅力的な武器になり得るのじゃ! クラスの女子が基本的にふくよかな体型で自らの一部の大きさに不満をもって陰で豊胸トレーニングをしていると考えてみろッ!! ほらっ、込み上けてくるものがあるじゃ──ふぐわッツ」
主張している間に響香に更衣室の壁まで殴り飛ばされてダウンする私。その後も暫くダメージで動けないでいる私をゲシゲシと何度か蹴られてしまった。
「もう行こう」
「流石にこれはカグヤちゃんが悪いわ……」
「ほどほどにしときなよ〜大筒木」
……無念。しかしその後から若干クラスの男子が響香を意識するようになったので結果的には私の勝ちってことで♦︎
その後、相澤先生が私達にとんでもない爆弾を落としてくれた。
「夏休み林間合宿やるぞ」
喜色満面の私達。いかにも青春の1ページを彩る素敵なイベントだ。普段の生活を知らないクラスの皆と寝食を共にすることで新たな発見と深まる絆。肝試し、花火、キャンプの食事。想像するだけでウキウキしてきてしまう。
しかし、
「その前の期末テストで合格点に満たなかった奴は……学校で補修地獄だ」
その一言で一気に緊迫感が生まれた。正直私の成績はクラスで最下位だ。クラスの中でも頭悪い組と良い組があるけれど、それはあくまで成績優秀なエリート集団雄英高校のヒーロー科1ーAの中で相対的に悪いというだけで、基本的な普通科より頭は良いのだ。その基本的な普通科レベルの私にとってその知らせは絶望的だった。
中間テストもかなりギリギリだったのに……このままでは皆と楽しく夏休み林間合宿の夢が潰えてしまう。
そういう訳で私は暫く口を聞いてくれなかった響香に土下座して個別指導を頼み込んで、八百万ちゃんにも勉強会の開催をお願いした。響香には渋々オッケーをいただき、八百万ちゃんは友達を呼んで勉強会をするのが嬉しかったのかプリプリしながら快諾してくれた。
「はい……ここの文法間違ってるよ」
「そ、そうか」
英語は苦手だ。中学の時は苦手意識はそこまでだったけど高校からは苦手教科になってしまった。ヒーローの象徴のオールマイトが日本人(違和感しかないけど)だから日本語も前世と違って結構使える海外の人が多い。でもアメリカとの仲も良いから英語の重要性も上がっている訳で本格的な英語の文法や口語の英文も多く、私の知っている英語問題とはまた難易度がグッと上がっている。リスニング問題や実際の発音テストもたまにある。大筒木カグヤ口調の私にとって英語の発音がどうしてもお粗末になってしまうのだ。
個性由来のところもあるだろうからと山田先生(プレゼント・マイク)からは若干お目溢しをもらっているけど、それ以外では当然忖度など無い。響香は洋楽を小さい頃から聞いて発音もバッチリで、日本語から英文にしろという問題では南部の荒っぽい英文になってしまうが意味は通じると山田先生から難しい顔で褒められていた。
「……演習試験ってどんなのかな?」
「夏休みの林間合宿を控えておるから、そこまでハードなものじゃないと信じたいが……雄英じゃしなぁ」
「そうなんだよねぇ」
クラス7位の順位の響香にとって演習試験の方が心配なのだろう。相澤先生は1学期でやったことの総合的内容としか教えてくれていない。1学期。色々あったけどやっぱり敵襲撃事件が一番に思い浮かぶ。
「……やはり対人を意識した内容なのかの?」
「でもそれだったら芦戸や上鳴はキツくない? 個性が手加減出来ないし」
「同じ試験内容とは限らんしのぅ。それぞれの個性ごとに調整して試験をするやもしれんぞ」
「……やりかねないね。相澤先生なら特に」
変に相澤先生に関しては嫌な意味での信頼がある。一番私達が苦戦する選択をしてヒーローとしての成長を促す。教育者として自分は生徒に恨まれても真に生徒の将来を思えばという奴だ。
それからは放課後は響香の個人レッスンと個性特訓の付き合い。予習・復習は勿論、マーシャルレディーに教わった型もだいぶ身体に染み込んできたと思う。そういう意識の時点でまだ染み込んでない証拠だと本人に怒られてしまいそうなので無意識でやれるレベルまで繰り返しは忘れない。站樁も寝る前に1時間ほどやっている。
緑谷くんたちが1ーBの拳藤さんから毎年演習試験はロボットとの実戦演習だと聞いて少し気持ちは軽くなった。流石の相澤先生といえどもまさか林間合宿も控えた状況で無理をする筈も無かったか。
とはいえ安心もしていられない。私にとって普通科目の試験のほうが差し迫って対策する事案なのには変わりないのだ。授業の後は先生に分からない事を積極的に聞きに行く。職場体験の一週間を取り戻すのに倍以上の時間がかかってしまった。
八百万ちゃんの家で週末勉強会もやった。口調からなんとなく分かっていたけど見るからにデカい家で入口の門から車で5分は走るほどの豪邸だった。お母さんも大変な美人で百ちゃんに似てる──ってのは逆か。百ちゃんがお母さん似で大変美人な理由も分かった。案内された講堂で出された紅茶は格式高い高級品を思わせる一杯で、私には美味しいって感想だけしか伝えられない。
6人で押しかけてしまったのだけど自宅に講堂があると言っていただけあって、余裕で空間を持て余していた。生まれの差を見せつけられて気遅れ気味だったけどプンプンと張り切る可愛い八百万ちゃんを見ているとどうでもよくなってしまう。そしてクラスNo. 1の学力の八百万ちゃんは私達の質問に全て答えて、そして分かりやすかった。
本当に頭の良い人の説明って一般人でも理解出来る程に噛み砕いて教えてくれる。
私以外の人の質問は理解してる人特有の質問って感じがして、ますます私に危機感を募らせた。毎日個人レッスンしてるからと若干余裕のあった私にとって今回の勉強会は自分の学力の無さを理解して焦らせる良い機会だった。
そして期末試験は始まり、あっという間に終わった。テストでは八百万ちゃんが予め出てきそうな所と注意しておいてくれた問題や、響香との個人レッスンでもやった場所が出て自己採点でも赤点は流石に免れただろう。平均点は60点ぐらいだけどボソッ
そしていよいよ演習試験の日がやって来た。