兎の女神のヒーローアカデミア   作:眼球舐めは通常性癖

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ワラワ地に這いつくばる

 演習試験。それは例年通りならロボット相手の実戦演習の──筈だった。

 

 しかし相澤先生の捕縛布から突拍子も無く現れた校長が、今回の演習試験は対人戦闘だと告げた。それも優秀な雄英の教師とのという絶望を私達に突きつけてきた。二人一組(ツーマンセル)といえど本職のヒーローとの戦闘試験。ロボット相手の実戦演習とは想定されているレベルが違いすぎる。

 

 このままではせっかく共通科目のテストを乗り越えたというのに、夏季合宿に参加出来ない可能性が急上昇してきた。今回は生徒の組み合わせや対応する先生も決められているようで、組み合わせを見るにどうやら苦手なタイプを当てているように見える。轟くんと八百万ちゃんの個性強者チームには個性を封じる相澤先生。プレゼント・マイクには声や音がキーポイントの口田くんと響香など何組かは意図が読めなかったけどきっと先生達の深い意図があるのだろう。

 

 で、私の相手は──

 

「大筒木、お前は轟と八百万の後に相手してやる」

「えっ、ワラワのペアは?」

「お前は一人だ」

 

 なんとなく察しはついてたけど悲しい。21人って偶数チームだと確実に一人あぶれちゃうもんね……。前も確か一人だった

 

 そして演習試験が始まった。私は学内バスで相澤先生に呼ばれるまで待機中。観察したかったけど他人の試験内容を見るのはカンニングと見做すと言われてしまってはどうしようも無い。暇なので站樁して待っていると暫くして放送がかかって轟くんと八百万ちゃんのチームが最初に条件を達成したらしい。その後も次々と条件達成チームが報告される。

 

「おい、大筒木次はお前だ」

 

 学内バスに帰る轟くんと八百万ちゃんに軽く挨拶して私もフンスと気合入れる。二人とも満足そうな表情をしているし、一番最初に条件達成したからきっと林間合宿は確定だろう。皆楽しい合宿の中で一人虚しい夏休みを送りたくない。

 

 

 

 住宅街を意識した運動場の中央に待機してそこで改めて細かいルールが説明される。この運動場の唯一の脱出地点から逃げるか、先生に用意されたカフスをとり着ければ条件達成ということらしい。私としては勿論脱出を狙って行く。

 

 先生の個性の前では私の輪廻写輪眼と白眼、屍骨脈に黄泉比良坂、天之御中の複数個性が使えなくなってしまう。だが私の身体能力は異形型の個性由来なので抹消することは出来ない筈だ。先生の個性もまばたきや視界外に出ることでキャンセルされる。その隙を狙って身体能力のゴリ押しで遮蔽物に隠れて、透視で屍骨脈を先生に撃ち込んで牽制して行けば突破も不可能ではないと……信じたい。

 

 私だってマーシャルレディーのもとで個性無しの組み手をやって少しは強くなった気がするけど、個性無しで本職のヒーローに真正面から打ち負かす事が出来ると思うほど自分の実力を過大評価していない。

 

 住宅街の中心に移動してしばらく、スピーカーから開始の声が流れた。脱出地点に真っ直ぐ向かうと先生にかち合いそうなので最短距離は通らずに脱出地点の斜めへ白眼で索敵しながら向かう。高度を上げると先生から見つかりやすくなって個性を抹消されるし、抹消された時に落下した時危ないので住宅街の塀の高さで飛行する。すると脱出地点の方向から建物の上から電柱に向かって捕縛布を使ってスパイダーマンのように移動する先生の姿を白眼で捉えた。

 

 なるべく視線を切りながら移動していたけど私の場所がバレているかのように詰めてくる。視界内に敵を収める為に索敵能力もエグい。逃げる敵相手の逃亡ルートの傾向等の犯罪心理学に関しても知識を持っているのだろう。

 

 直ぐに白眼の透視、遠視能力が消え普段の視界が戻ってきた。飛行も出来なくなり、地面に着地して上を見上げると電柱の上で先生がこちらを見下ろしていた。

 

「さて、どうする?」

 

 直ぐに塀を飛び越えて近くの一戸建ての窓ガラスを破って侵入する。わざわざ死角の多い室内に私を追って先生は飛び込むだろうか。それに演習試験という観点から考えてもこれから先の私の動きを窺いたい筈だ。ならばこの住宅を全て見下ろせる範囲に位置している筈。答え合わせを、再び使えるようになった白眼でしてみると案の定電柱の上で待機していた。

 

 部屋の中は本当に必要最低限の家具が数点置かれているだけで生活感は無い。あくまで障害物や実際の想定として用意された運動場の為、家の造りも実際に何年も過ごすことを考えていないのだろう。それでもこれだけの広さの住宅地を運動場として使用できるのは天下の雄英ぐらいだ。

 

 制限時間もあるし、あまり時間をかける訳にもいかない。私は先生の位置を確認しながら家の壁を蹴りぬいた。普通の家ならそんなに簡単に壊せなかっただろうが、家の造りがそこまでしっかりしてないので一発で蹴りぬくことが出来た。壁の内材吹き飛ばした壁の一部で外の塀が壊れたせいで一時的に粉塵が舞う。

 

 そこを通して部屋の中の椅子を直ぐ隣の民家の窓に向かって投げた。舞い上がった粉塵が椅子の勢いで流れて移動する。その後に窓ガラスが割れる音が聞こえた。先生の視線がそちらに向かうのが白眼で見える。けど動きはしない……まだそこにいるのが私かどうか判別出来ないからだ。

 

 追加で私は椅子を投げ込んだ民家に黄泉比良坂で裂け目を作って、もう片方を私の手元に作り出す。そこに掌から骨矢を撃ちだして射出先のゲートから相沢先生のいる方へ飛ばす。先生からしてみたら隣の民家に移動した私が牽制で骨矢を撃ったように見えた筈だ。

 

 相澤先生が隣の民家に移動したのを確認して私は逆方向の窓からこっそりと抜け出して一気にゴールへ飛行で向かう。途中で気づいた先生がこちらに向かってくるのが白眼で確認出来たけどもう遅い。今から飛行が抹消されたとしても身体能力だけで走っても間に合うだろう。内心勝ったと安心している私の行く末には脱出地点と──

 

「それは卑怯じゃろッ!!」

 

──脱出地点で待ち構えている黒いマスクとコートを着込んだエクトプラズム先生の姿があった。

 

 立ちすくむ私の背後の電柱の上から気配がする。

 

「一対一なんて言った覚えは無いぞ」

 

(そこまで仮想敵らしくなくていいんじゃないですかね?)

 

 

 

「大筒木の相手は……オールマイトさんにお願いしたいのですが」

「本来ならそうしたいところなのだが、ほら私の活動時間は知ってるだろ? 緑谷少年と爆豪少年を見た後余裕があればそうしたいところだけど」

「恐らくそうはならないというお考えのようですね……」

 

 少し悩んで再び相澤は口を開いた。

 

「大筒木は勉強以外は優秀ですが……雄英体育祭の優勝もあり最近は増長の節が見られます。此処らで厳しい経験をして精神的な成長を狙うという傾向で進めようかと」

「うん。僕としては大賛成さ! 彼女は個性に頼っているようだし相澤くんが相手するのが適任かな?」

「轟・八百万ペアと違って異形型個性由来の身体能力もあるので、万が一の逃亡を考えてもう一人協力して頂ければ」

「私ガ脱出地点デ守ロウ。優秀ナ生徒ト聞イテイル。楽シミダ」

 

 

 

 

 脱出地点で待ち構えるエクトプラズムを見て、大筒木は再び住宅街方面に駆け出した。二対一の状況を恐れて達成条件の脱出を一時的に諦めたのだろう。個性で普段から透視や遠視に頼っているせいか、索敵しながらの移動がぎこちない。しかし二階建てといえど建物の上にひとっ飛びで跳躍する身体能力でその隙をカバーしている。

 

 瞬きや眼の疲れから生じるイレイザーの個性の隙、死角に隠れることを意識しているがまだ甘い。

 

 昨今のヴィランの動きは明らかに活発的だ。雄英襲撃事件を初めとした各地でのヴィランの活動。つい最近はヒーロー殺しと同時に脳無と似たようなヴィランが投入されて生徒も争いに巻き込まれた。ただでさえ雄英を襲撃した敵連合から大筒木は目をつけられている。雄英教師陣も安全の為に各自対策はしているが一連の事件は全て不測の事態で、相手側にワープゲートを使うヴィランがいる限り完全に防げる類のものではない。

 

 大筒木の複数個性持ちという非常に珍しい特殊性はヴィランに問わず狙われる可能性がある。本人は強個性なこともあり、抜けているところがあるので危機感を持たせる為にも、そして本人の成長の為にも教師として──

 

「逃げるのは止めたのか?」

 

 脱出地点から暫く離れて、エクトプラズムの応援が来るまでには時間がかかる距離。住宅街の塀に囲まれた行き止まりで大筒木は止まった。個性で地形の把握が出来る大筒木が無策でこんな地形に辿り着くわけがない。態々この地形を選んで相澤を誘き寄せた。その理由と策を知りたい。

 

「……」

 

 無言で突っ込んできた。個性で大筒木の個性は抹消しているが、動きはやはり速い。以前までなら例え異形型の個性由来の身体能力だとしても正面から近接戦闘で対応出来る。所詮、自らの身体能力だけの猪戦法では限界がある。

 

 腕を引いて、掌底の構え。威力がどれほどあろうとも見え見えの攻撃だ。頭を捻り最低限の動きだけで回避。隙だらけの身体に蹴りを入れようとした──が、急遽後ろに跳び退く。見え見えの掌底突きに隠れて、逃げる際に作っておいたのであろう骨剣が裾の隙間から飛び出してきた。

 

「チッ」

 

 続いて、倒れ込むように踏み込んでくる。緩急の差。体の前に伸ばした掌でこちらの視界を制限しながら妙な歩法で距離感を誤って認識させてくる。今までにない理論的な動き。大筒木の職場体験先は近接戦闘のヒーローだった。そこで動きを学んで来たのだろう。

 

 やり辛いが、対応出来ない程では無い。捕縛布を近くの電柱に引っ掛けて距離をとりながら、もう片方の手で捕縛布を操り金属製のゴミ箱を投げる。蹴り飛ばされて返されるが既にそこにはいない。電信柱の上から見下ろす。気をつけるのは大筒木のワープゲートだ。利便性の高い個性だがそこそこ集中力がいるらしい。隙を見てこまめに眼を休ませて、ワープゲートを作るのに必要な集中力を確保するための時間を妨害する。

 

 複数個性持ちで採れる手段が多いだけに、咄嗟の判断力が大筒木の強個性に追いついていない。

 

 例年通りなら現状でも十分過ぎるほどだ。しかし……これからはそうもいかない。

 

 

 相澤の個性が途切れる瞬間に大筒木の骨矢がこちらに放たれた。狙うのは顔面。避けるにしても防ぐにしてもこちらの個性の隙を狙える。悪くない手だが既に演習から15分は経過している。制限時間の30分までに脱出か相澤にカフスを着けるのなら、どちらにしてもそろそろ仕掛けてくるだろう。

 

 案の定、僅かに稼いだ時間で飛行個性で脱出地点に向かう大筒木。個性を消された状態では不利だと判断したのか。直ぐに個性を抹消しても自らの身体能力で死角の建物に潜り込む。見下ろす位置の電柱に着地したところで体が不意に動いた。

 

(電柱が……倒れる?)

 

 よく見ると電柱の根元に何本も骨矢が撃たれていた。否、あれは敵襲撃事件の時に使ったと聞いた特殊な骨矢だ。敵の脳無の体を崩壊させた骨矢は生物にはかなりの威力を発揮していたらしいのだが、無機物にはそれほど効果は無いようで刺さった隙から伝播することもなく崩れていった。それでも刺さった部分から崩壊するので何本も撃てば電柱を倒すのには十分だ。

 

 周囲の別の電柱も同様に崩れて、移動先は大筒木の潜む建物ぐらいしかない。あまりに動きが早い。おそらく一番最初の脱出地点で逃走する際に予めこの場で戦うことを想定して移動中に撃ち込んで準備していたのだろう。別の場所の行き止まりでわざわざ立ち止まったのはそちらで待ち構えたことで仕込みはそこにあると勘違いさせる為。

 

 厭らしい手に思わず相澤の口端が緩んだ。

 

 屋根に着地した所で、予め個性で待ち構えていただろう大筒木の手が屋根を突き破って相澤の足を掴んだ。普段なら直ぐに反応出来ていただろうが、ハンデとして教師に装着された錘の影響でいつものような動きが困難だ。特に柔軟な移動を中心に構成した相澤の戦闘スタイルとこのハンデの組み合わせは他の教師陣に比べて重い。

 

 直ぐに手を視界に捉えて個性を封じるが、身体能力に関しては封じきれない。そのまま片足を引っ張られて階下に足だけ固定されてしまった。大筒木の手も視界の外にいって個性が完全に解除されてしまった。

 

 だがこのまま終わる相澤では無い。このままだと足に掛けられる予定のカフスを大筒木の位置を想定して蹴り飛ばす。足さきに当たる金属の感触と階下で聞こえる金属音。捕縛布を屋根と脚の僅かな隙間に引っ掛けて穴を広げることで脱出を狙う。そしていよいよ脱出が可能な程に穴が広がったところで──相澤の視界は一瞬で切り替わった。

 

 

「ようこそ相澤先生……ワラワの空間へ」

 

 先ほどの住宅街の景色は何処に行ったのか。見渡す限りの広大な空間に相澤と大筒木がいた。地面は小さなピラミッドが集まったように形成されていてそして──体が非常に重い。先ほどまでつけていた錘の比では無い。地面に縫い付けられるような高重力。しかしその影響を受けているのは相澤一人だけというわけでも無かった。

 

 余裕そうな口調だが大筒木も同じように重力の影響を受けている。地面に這いつくばって下の突起を痛そうにしながらも余裕そうな表情を必死に維持しようとしている姿はシュールだ。

 

(これは……大筒木の個性か? 個性届にはこのような個性は記入されていなかった筈。ワープゲートの応用か?)

 

 なんとか現状から脱しようにも不思議なことに大筒木の個性を抹消しても重力の影響は消えない。

 

「無理じゃよ先生。ワラワは高重力空間に繋げただけじゃ……個性を消したところで変わらん」

 

 お互いに高重力の影響は受けていても、そもそも身体能力の違う大筒木と錘を着けた相澤とでは状況的にあまりに違う。必死で重力に抗いながらもう一つのカフスを汗を掻きながら相澤に取り付けることに成功した。直ぐに大筒木は相澤に触れて、一瞬で先ほどまでの住宅街に戻って来た。いつものように体が動くのを確認しながら大筒木と向かい合った。

 

「今の……個性は何だ?」

「……あれはワラワの隠し個性で。別の空間に移動することが出来る個性じゃ」

「──何故敵襲撃事件の時に使わなかった?」

「い、いや。使いたくても使えなかったというか……。最近の個性特訓でようやく形になって……ワラワ以外を移動させるのには集中力いるし……直接触れてないと移動も出来なかったし……」

 

 見た目に反して結構素直な大筒木が冷や汗を掻きながら弁解をするのを見るに嘘はついていないのだろう。ワープゲートに異形型の身体能力。骨操作に飛行能力と加えて……別空間への移動。時代が時代なら神と崇められてもおかしくない個性。

 

 それに反して中身は年相応の少女といったところ。個性把握も含めてこれは林間合宿では更に鍛える必要がありそうだ。

 

「大筒木……林間合宿では覚悟しておけよ」

「えっ!? ワラワ必死に頑張ったのに!?」

 

 

 大筒木カグヤ。演習試験、合格。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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