兎の女神のヒーローアカデミア   作:眼球舐めは通常性癖

2 / 32
ワラワ……孤立してる?

「さっさと入りなよカグヤ」

「……響香、ワラワの前のドアを開ける栄誉をやろう」

「はぁ……別にいいけどさ。クラスメイトにわざわざそんな口調で扉を開けさせるって初対面の人からしたら相当印象悪いと思うよ」

「……き、響香?」

「そんなに泣きそうな顔して助けを求められても……あっ後ろから(多分)クラスメイトが来てるよ。ほらさっさと行った行った」

 

 後ろから押されて恐る恐るヒーロー科Aクラスの巨大なドアを引く。既に教室内には何人かクラスメイトが揃っていた。倍率300倍を乗り越えて入学したヒーローの卵たちだ。当然のようにコミュニケーション能力を身につけている。前世は陰キャだった私にとって初対面のコミュニケーションというのは色々と準備と覚悟を決めて自らに負荷を強いるものだが、彼らにとってコミュニケーションと私のコミュニケーションはそもそも意味合いが違っているように感じた。

 

 昔コミュ力強者である響香にどうしたら友達がそんなに増えるんだと聞いたことがあった。彼女が言うにはまず一人友達を作って、今度は出来た友達と二人組で同じ二人組の子たちに話しかけて友達になり、今度は四人組みで……といったことを重ねて行けば直ぐに増えるよっと返された。……正直震えたね。こっちは先ずその一人目に話しかけることがギリギリで、何度か話したりと切っ掛けがなければ友達という認定に変わるのですら難儀してると言うのに。響香は話しかけてイコール友達になるってことが当然と無意識に定義しているのが恐ろしい。実際彼女はかなり友達多いし、コミュ力強者と弱者の違いを見せつけられたようでその時は響香を何処か遠くに感じたものだ。

 

 既にその響香は左前の席の子に積極的に話しかけている。指定の時間までまだ時間はある。私もそれまでに友達を増やして……というほど私は自分のコミュ力を過信していない。せめて顔見知りにさえなっておけばこれから先の学校生活に有利に運ぶだろう。幸い、実技試験会場で見た顔もチラホラある。私も必死だったし名前までは覚えていないが、『あの時会場で会ったよね』なんかは初対面の人に声を掛けるには絶好の話題ではないだろうか。しかし人の記憶とは儚い。この話題が使えるのもせいぜい今日明日。長くとも一週間程だ。覚悟を決めて荷物を置き、席から立つ。思わず力が入ってしまったせいか椅子が大きな音を立ててしまったが、気にしない。頑張れ私!!

 

 目指すは前の方の席のエキゾチックな女子。彼女はピンクの髪と肌をもち、2本の角が頭から生えている。私も角が生えてるし見た目が異形チックな者同士共通する話題もある筈だ。教室内で他にも騒いでいる人が結構いるが、正直私の脳は今から話しかける彼女のことで処理能力は限界まで酷使されている。そちらに関して気を遣う余裕は一切ないのだ。

 

「そ、そこの……」

「ん? アタシのこと?」

「そーー」

 

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け。ここは……ヒーロー科だぞ」

 

 教室の外から低い大人の声が私の声を遮った。扉の隙間から寝袋にくるまった不衛生そうな男性が見える。ひょっとしてあれが教師なのだろうか? いや流石にそれは信じたくない。衝撃的な光景に話しかけようとしていた彼女も固まってしまっている。もちろん私もだ。

 

「担任の相澤消太だよろしくね」

 

 教師どころか担任だった……。その後なんやかんやあって担任の相澤先生の指示通りに体操服に着替えさせられて運動場に集合させられることとなった。他のヒーロー科や普通科、経営科は入学式やガイダンスをしているというのに私達だけ個性把握テストをするらしい。先生曰く『雄英は自由な校風が売り文句、そしてそれは先生側もまた然り』らしい。そう断言されるとある意味この破天荒な展開こそがトップを目指す雄英らしい気もして来た。個人的にはここでいきなり学力テストとかやらされるほうがよっぽど嫌だったので、個性を使った身体能力テストなら全然オーケーだ。雄英の筆記テストまでに勉強した記憶は正直ほとんど残っていない。なんとか響香に置いてかれまいと必死で自分の本来の実力以上を出し切った反動だ多分。

 

 それにここで良いところ見せたらきっと他のクラスメイトも私に興味を持ってくれるかもしれない。こちらから話しかけるのは気後れするのでコミュ力強者揃いの1ーAの皆に話しかけて貰えるように頑張るぞ。まっ、それで友達が出来たら響香に紹介してやるのも良いかもしれない。いつも逆パターンだったので今度こそはね。

 

 え? トータル最下位は除籍処分? マジ?

 

 

(……実技試験の時からズバ抜けていたがまさかここまでやるとはな)

 

 大筒木カグヤ。異形系が基本的に持ち合わせている身体能力の高さに加えて、浮遊能力、遠視、動体視力等の様々な能力を併せ持つ複合個性。その詰め込み過ぎな個性は問題視されている個性婚での集大成と言っても過言では無い。もう既にある程度プロヒーローとしての仕事の一端はこなせるだろう能力だ。特に飛行能力に関してはプロヒーロー事務所からは常にサイドキックとして募集がかかってる程には強い個性。正直筆記テストに関しては彼女の点数は雄英の基準に達しておらず実質落とすレベルのものでしか無かった。実技試験の結果と彼女の強すぎる個性がヴィランの思想に染められないようにする為といった思惑が無いでもなかった。

 

(だが……それだけに惜しい)

 

 ソフトボール投げは己の持つ身体能力を活かせる投球フォームが出来ておらず爆豪に僅かに劣る。

 立ち幅跳びや50m走、持久走は飛行能力のおかげで首位か次位を勝ち取り、握力は力の入れ方が下手なのか思うような結果は出せていない。反復横跳びや長座体前屈は並だが、上体起こしは飛行能力で上半身を浮かばせてトップ。

 

 自分の身体能力を十全に使った行動というのに慣れていないのだろう。彼女ほどの身体能力は雄英に入ってプロヒーローを目指す訓練でもしない限り、日常生活において確実に持て余す。必然、それを完璧に扱えるように鍛えるなんて必要性が今まで無かったのだろう。つまり訓練せずともこの結果なのだ。雄英校の実技試験を突破する為に厳しい訓練と個性での特訓を積んだ新入生にとって彼女の存在は異質。圧倒的な彼女の能力はその感情の窺えない白い瞳と表情をあまり表に出さない外面も相まって圧を感じてしまっている。クラスメイトは競うべきライバルでもあるが、前提として同じヒーローを目指す仲間だ。

 

(ヒーローは民衆にとっての光でもあるが、都合の良い存在でもある。時には守ろうとした市民から中傷を受け、矢面に立つことも多い。そんな時に頼りになるのが仲間。潰れるなよヒーローの卵)

 

 

 なんかトータル成績最下位の人が除籍処分になるって言われてメッチャ頑張って良い成績とったんだが、結局それは私たちの最大限の力を見る為の先生の合理的虚偽ってやつだったらしい。何だよ焦ったよ〜。必死こいて真顔でテストやった私が馬鹿みたいじゃん。私以外の人たちもやっぱり相当驚いてたみたいで、特に最下位だったデク?って男の子の驚き方は増強系の個性じゃなくて幽霊の個性だったんじゃと思ってしまった。

 

 優等生っぽいオッパイの大きな女の子はウソだって最初から分かってたみたいだった。私もこの時ばかりは表情にあまり出ない自分の顔面に救われた。ウンウンと頷いて、

 

「当然じゃろ……」

 

と有能ムーブでアピールしてみた。白眼で後ろから響香の呆れた視線を感じたけど無視だ。眼鏡をかけた委員長キャラの男子は流石だっ! と高く評価をしてくれた。こうした細かいポイント稼ぎが後で実るのよ。

 

 その後は教室に戻ってカリキュラム等の書類に目を通しながら簡単な説明を受けた。正直雄英高校の教育システムを甘く見積もっていた。通常の授業は勿論、ヒーロー科にはヒーロー基礎学と呼ばれる授業が設定されていて単位数も一番多い。ヒーロー活動における現場での判断や法的な根拠と活動。そして実戦訓練。今年からはあのヒーローの中のヒーローであるオールマイトが担当教師なのだ。現場の最前線で活躍して来た経験から学ぶことは多い。私の個性に関してもアドバイスを頂ければ更なる強化のヒントになるに違い無い。

 

 その日は初日ということもあって昼頃には解散となった。卒業生の誰もが絶賛するランチラッシュの料理を味わってみたかったがそれは明日からの楽しみとしよう。そして何だか個性テスト以降他のクラスメイトから距離を感じる。一部の男子生徒からは敵対心、そして何より恐ろしかったのはデクって子の視線だ。私を見ては何かを考えて高速でメモを取っている。え、怖い怖いってこの子。動きこそは兎のような小動物だが、あわよくば肉食動物の寝首を掻こうと作戦を立てる狡猾なタイプだ。

 

 結局誰とも話すキッカケを掴めずに、一緒に下校する相手は勿論響香。

 

「どうだった?」

「……まずまずと言った所じゃな」

「その感じだと誰にも話しかけて無いんだ?」

「……したのじゃが先生に遮られてな」

「まぁ良いけどさ。後になればなるほど話しかけ辛くなるよ」

 

 いつもより響香の当たりがキツイ気がする。いや、多分私自身の無力感や後悔によってそう見えているだけで彼女はいつも通りだ。私のジェネリッククールと違ってナチュラルクールな響香が羨ましい。それと同時に少し寂しい。あの有名な雄英校初日、不安は勿論多いがそれ以上にこれから先の学生生活を楽しみにしている。何より親友の響香と一緒にようやく夢の高校生活が送れるのだ。それなのに響香ときたらいたって普通通りでひょっとして今のワクワクを共有出来ていないのでは無いかと不安になる。

 

「あ……普通に楽しいよウチは」

「え、ワラワの脳内モノローグ口に出てた?」

「いや。なんかそんな顔してた」

 

 そんなに私のカグヤフェイスに表現力は無い筈なんだけど……。我ながら悲しくなってきた。

 

「ほらウチらも付き合い長いじゃん? こう見えて結構楽しみなんだぜ雄英校生活」

 

 バッグを片手で背中に担いで綺麗な笑顔を浮かべる響香。男勝りなイケメンムーヴに居た堪れなくなって、照れた顔が見られないように後ろから抱き着いた。

 

「ちょっ!? 暑苦しいから放せって」

「嫌じゃ」

 

 口で言うほど響香は無理矢理引き離すこともしなかったが、流石に調子に乗って暫くくっついていたら地面に転かされた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。