兎の女神のヒーローアカデミア   作:眼球舐めは通常性癖

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ワラワ攫われる

 黒霧にとって今回の雄英生襲撃は想定外の連続だった。

 

 そもそも死柄木の思いつきで始めたこの襲撃はオールマイト不在の上で雄英生を襲撃することで、雄英の批判及びヒーロー社会の慢心の噴出と世に燻る(ヴィラン)への狼煙を狙ったものだ。

 

 先日から闇雲に周囲にぶつけていた怒りが収まり、静かに目的を達成する執念の怒りへと変わった事で落ち着いた素振りは見られるようになった。なったがまだ詰めは甘い。

 

 一度目の襲撃と雄英体育祭の活躍を見て雄英一年の大筒木カグヤの個性は知っている筈なのに何処か甘く見ている節がある。他に興味を惹く人物が出来たのか、オールマイトへの明確な怨みを心に刻み込んだのか? 裏でオール・フォー・ワンから密かに大筒木カグヤの拉致を命令されている黒霧にしてみれば彼女は一方的に封殺出来る状況でも無い限り決して油断できる存在では無い。

 

 当初の襲撃予定のヴィランの追加、選抜。計画開始までの元々問題児ばかりの我慢の効かないヴィランの統制と指示の徹底と仕事は多い。オール・フォー・ワンへ脳無の追加投入の申請や元々の死柄木のお守りと忙しないことこの上無い。おまけに大筒木の遠視・透視の個性を警戒してギリギリまでは雄英生のキャビン5km内に近づかないように警告しておいた筈がヴィランの単独行動によって危うく見つかりそうになる始末。

 

 直ぐに茶毘から連絡を受けた黒霧がワープゲートの個性で一時的に避難させることになった。周囲の捜索の結果とりあえずは安全だとヒーロー達が判断しなければ計画そのものが中止になってしまうかもしれないほどの失態。しでかした追加のヴィランは茶毘の手によって灰に化してしまったが、チームを引き締める為にも仕方のない犠牲だったと諦めた。

 

 計画は三日目に始動。雄英に送り込んだ内通者の位置情報と衛生カメラによって情報を掴んでいたが、雄英生はヴィランに狙われてるにも関わらず肝試しをやり始めた。絶好のチャンスだ。流石に肝を試すのが目的の肝試しで大筒木が個性を使うような事はあるまいとヴィランを周囲の森に配置させて計画開始の合図を出す。

 

 計画は何よりもスピードが命。教師陣とヒーロー陣の合流を妨害して、応援のヒーローや警察が駆けつけてくる前に生徒を相手にしながら対象を攫う。拉致対象は爆豪と大筒木。そしてプッシーキャッツの一人。生徒を傷つけられ体育祭のNo.1とNo.2が拐われたとなればその反響は凄まじい。

 

 肝試しの中間地点にいたプッシーキャッツを脳無に襲わせるところまでは良かった。同時進行で行われた襲撃でキャビンの教師と残りのプッシーキャッツ、生徒達の襲撃も成功。ここまでは完璧と言って良い結果だろう。

 

 問題は肝心の大筒木カグヤへの襲撃。用心のために虎の子の脳無を3体も投入するほどオール・フォー・ワンはカグヤにご執心らしい。USJで対オールマイトを想定した脳無よりも一体一体の性能は低いが一人で相手するにはプロヒーローですら困難だろう。飛行の個性に対抗する為に翼持ちの脳無、木々の中を犬の踏破力と鋭い嗅覚で獲物を追い詰める脳無、後詰めとして高い身体能力と体に搭載したチェーンソーで骨ごと切り裂く脳無。

 

 そして厄介な短距離ワープゲートを封じるために黒霧本人も来ている。雄英体育祭でその個性についての把握も大分済ませているので対処法も構築している。

 

 しかし、いざ計画実行となった時には想定外の事態が起きた。

 

 目の前へワープゲートで現れた黒霧を前にすると、カグヤと共にいた透明の個性持ちの生徒と一緒に忽然とその姿を消してしまったのだ。

 

 焦りつつも直ぐに周囲を脳無に捜索させる。事前情報には無かったがもし葉隠の個性がカグヤも透明化させているのならば犬の脳無の嗅覚がそれを捕らえる筈。

 

 しかし結果は失敗。今既にいた場所の残り香を最後に忽然といなくなってしまっていた。臭いを消しているだけかと周囲をひと通り暴れさせてみたが反応も無く、茶毘に連絡をとってみたが他の連中と合流している様子も無い。

 

 確かに短距離ワープゲートの兆候は見えなかった。飛行ならばどれほどのスピードでも上空の脳無が存在は知覚する。

 

 他の生徒か教師の手によるものか? 否、そんな個性持ちがいる情報は入っていない。

 

 であるならば……大筒木カグヤの新しい個性、若しくはまだ個性を隠していた。そう考えるのが妥当か。あれだけの複数個性を持っているのだ。今更一つ増えたところで異常だとは考えるがそこまで大きな驚きもない。

 

「やはり貴女はますますオール・フォー・ワンに気に入られることでしょうね。……貴女個人にとって不幸なことに」

 

 10分程捜索を開始したところで飛行脳無の声が聞こえて直ぐにその場所へ向かう。念の為に消えた辺りに一匹残しておいて正解だった。

 

「探しましたよ大筒木カグヤ。最初はあの透明の個性持ちの少女の仕業かと勘繰りましたが、能無を使っても見つからなかったのですよ。一体どんなトリックを使ったので? ……或いは新たな個性ですか?」

「誰がヴィランに教える奴がおるか!」

 

 出て来たのは大筒木カグヤ一人だけ。透明の個性持ちを警戒して周囲を探らせているがその様子はどうやら無さそうだ。既にもう一人は此処から離れたのか? 或いはまだどこかに潜伏しているのか?

 

 どちらにしろメインディッシュは残っている。先ずはそちらからだ。注意するのは先程の忽然と消え去った個性、或いはその原因・予備動作と範囲。

 

 大筒木カグヤの新たな個性が原因だとするならばそれは少なくとも長距離移動などの能力ではまずないだろう。他の生徒やヒーロー、教師と離れた状況で合流や更に距離を離さない理由が向こうにはない。時間制限か離れられない理由があったのだと推測出来る。

 

 もし次先程のように忽然と消え去った時が謎の解明の時間。一時たりとて見逃さない。貴女相手に警戒はしてもし足りないという事は無いのでね。

 

 

 

 

 

 

 何だよ! 高度な柔軟性を維持しつつ、状況に応じて臨機応変に対応する作戦って!?

 

 私は自分の作戦とも言えぬ作戦に苦悩しつつ、夜の森の中を逃げ回っていた。いや怖い怖いよ能無たち。全身真っ黒の異形の化け物に夜の森で追いかけっことか肝が試されすぎてヤバいわ。肝が試されすぎてキモリになったわ(?)

 

 ふざけた事を考えてる側から上空の脳無が翼を此方に振りかぶる。飛んで来たのは羽根。硬質化しているのか躱した羽がストッと近くの地面や幹に突き刺さる。自らの体の一部分を飛ばして武器にするとか正気とは思えん……。

 

 躱した隙に犬の脳無が足元から迫ってくる。体長は2mを超えているんだけど四足歩行時の体高は1m50cmぐらいで人を相手にする時と違ってすごくやり辛い。人とは違って、前脚の攻撃だけでなくその後に続く巨体の体当たりがセットで運ばれてくるので、避けるのも必要以上に大きく体を動かす必要がある。

 

 そして最後の脳無。全身にチェーンソーを取り付けられた能無はその過剰な武装のせいか動きは三体の中で一番遅いけど破壊力は一番だ。速度の遅さは黒霧がワープゲートで送り出すことで一番厭らしいタイミングでカバーしてる。大木を唐竹割りにしてついでに地面も割るほどの一撃だ。

 

 普段から運動してるけど本気の敵意をぶつけられ複数相手をしているので身体に疲弊が溜まって来たのが分かる。

 

 集中するために白眼と輪廻写輪眼の範囲を狭めているので、最早他の皆のことは全然把握出来ていない。夜中にも関わらず空が僅かに橙色に明るんでいる。時折空から舞い降りてくる黒い煤。……山火事か。おそらくヴィランの仕業。

 

 戦闘の過度なストレスと複数同時個性の扱いで胸が重く、火傷しそうな熱いものが込み上げてくる。──なんとかしなきゃ!

 

 焦りで背汗が凄い。圧倒的に不利な状況。なんとかこちらが不意の一撃を成功しなければ相手の攻撃を喰らってしまうのも時間の問題だ。そしてそれは遠い話ではない。

 

「えっ!? ってアウッ!?」

 

 白眼でちょっとよそ見をしている間に右腕に飛行脳無の羽根が何本か突き刺さってしまった。メッチャ痛いッ!

 

 ジクジクとした痛み。右腕に力が入らない。……毒かな? 直ぐに引き抜いたけど却って血液が多く出てしまった気もする。たしかこういう時ってそのままにしとくのが良かったんだっけな?

 

 もう引き抜いてしまった以上悔やんでも仕方ない。毒があまり体に入る前に防げたとプラス思考で行こう。

 

「もう投降したらどうですか? 貴女が大人しく捕まれば他の生徒達の命も保証しましょう」

 

 舐め腐った事言いやがって……テロリスト(ヴィラン)とは交渉しない。最早これは国際常識! 

 

 尤も交渉という体だけで脳無の攻撃は止まない。飛行脳無が頭上から、少し時間をずらして犬脳無が後方から。チェーンソー脳無が右斜前方、黒霧が左斜前方。

 

 これはもうダメかも分からんね。

 

「……分かった。降伏する」

 

 堪忍して両手を上げた私に黒い霧の奥の瞳が喜悦で歪むのが分かった。

 

「これはこれは嬉しい返事ですね。では脳無……片腕を斬り落としなさい」

 

 まぁ……そうなるだろうなとは思っていた。

 

──だからこそ引っ掛かるんだよなッ!!!

 

 

 巨大な脳無のチェーンソーが高い金属音を鳴らしながら降り下ろされる。その瞬間に私は頭上に最大限に広げた黄泉比良坂の裂け目を発動!!

 

 当然私を警戒していた黒霧も瞬時に個性でその裂け目を封じる為に操る。奴の個性のが私の黄泉比良坂よりも速度も発生の速さも広さも(まさ)っている。私がどう対応したところで間に合う筈がない。──普通なら。

 

「何っ!? 個性が……」

 

 急に個性の黒い霧が周囲に霧散した。私はそれを待っていたのだよ!! 

 

「流石じゃ!! 相澤先生!!」

 

 森の木々の上から現れたのは無精髭と不健康そうな目をした見知らぬ浮浪者──では無く担任の相澤先生のエントリーだ!! 白眼の範囲を制限していたから先生がやって来てるのに気づくのに遅れて、敵の攻撃を受けてしまったのはお粗末だった。

 

 私が何かしようとしている事に気づいて捕縛布で備えているけど片手で遮る。

 

「上空の脳無を頼む! 先生!」

 

 今いち現場の対応力に欠ける脳無たち。まず真っ先に相澤先生への対応をするべきなんだけど、黒霧の直前の命令を愚直に実行するチェーンソー脳無。

 

 振りは遅いけど威力は抜群。それゆえに合わせやすい。最初の黄泉比良坂に繋がるもう一つの裂け目を私の真後ろに展開。

 

 降り下ろされたチェーンソーが私の頭上の裂け目に飲み込まれて私の後ろの裂け目から真下に振り下ろされる。後ろから襲い掛かろうとしていた犬脳無に見事直撃だ。とてもじゃないが暫く生肉は見たくなくなるグロテスク映像だったので此処ではその詳細について語らないで置く。

 

 上空の脳無に関しては先生が素早く捕縛布で雁字搦めにしてくれた。私はそいつにもチェーンソーを裂け目を繋げて攻撃しようとしたけど、流石にその前にチェーンソー脳無は攻撃を辞めて振り下ろした攻撃を戻してしまった。

 

 人かどうかも分からない脳無相手の所為か、極限の緊張状態の所為か、あるいは今までやられてきた怨みの所為なのかは分からないけど生き物を間接的にとはいえ殺してしまった事への忌避感は不思議と無かった。

 

 現実味に欠けるってのが一番大きい気もする。

 

 とりあえず一旦目の前の脅威であるチェーンソー脳無から離れて先生に合流した。

 

「おい大筒木、葉隠はどうした」

 

「葉隠は『例の場所』じゃ」

 

 黒霧の手前不用意な事は言えない。天之御中はシークレット中のシークレット。一瞬怪訝そうな顔をしたけど直ぐに相澤先生も察してくれたようだ。

 

「……なら聞き逃してある可能性もあるか。お前ら生徒達には個性を用いての戦闘許可を出してある。責任は俺がとる。今は生き延びる事を最優先しろ」

 

 どうやら先生の口ぶりでは天之御中に潜んでいる間にプッシーキャッツのテレパスで戦闘許可が出されていたらしい。通常このような時に当てはまりそうな正当防衛では無く戦闘許可という言い方をわざわざするということは。こちらがヴィランと判断できる相手に先んじて個性を使って良いってことか……。

 

 相手の攻撃が一発でも当たればお終い系の個性であれば確かに生徒の安全性を鑑みてその判断がベスト。一雄英の教師個人が許可できる判断を超えている。明らかな越権行為。

 

 相澤先生もしこの襲撃が終わったら責任とって教師でも辞めるつもりか!? 嫌じゃぞワラワ!!

 

 そうこう混乱している間に先生の個性の限界が来て黒霧の個性が解除されてしまう。直ぐにチェーンソー脳無が前に立ち再度先生が個性を発動するのを邪魔する。序でに横なぎに私たちの前の地面を採掘して大量の土砂を巻き上げた。これでは直ぐに先生の個性を発動出来ない。

 

 ──マズイなこれはッ!?

 

「予想以上に早い増員ですね。一旦機を改めますか」

 

 攻め入る絶好の機会かと思いきやそう言い残し、巻き上げた土砂が収まる頃には夜の闇に姿を消していた。まぁ私の白眼では黒霧がワープゲートで私の視界範囲外に消える姿はハッキリ見えていたんですけどね。(無粋

 

 先生の捕縛布で捕らえた飛行脳無もワープゲートで移動させようとしてるのに気づいて直ぐに黄泉比良坂で中断させようとしたけど、やはり個性特化の彼のスピードには敵わなかった。私の周囲に黒い霧を出してワープゲートを使おうとしたならばギリギリ間に合ったかもしれない。ある程度以上の距離のモノに干渉しようとした場合黒霧にはまだ勝てないか。

 

「先生。これからどうする?」

 

「取り敢えずはプッシーキャッツとの合流を目指すぞ。奴は口ではあんな事言っていたがいつ襲撃して来てもおかしくない。葉隠には『例の場所』に暫くいて貰おう」

 

「うむ!」

 

 葉隠ちゃんの隠密性は便利だけど襲撃の際に意図せず敵の攻撃に巻き込まれてしまった場合を考えると怖い。

 

「狙われているのは爆豪だとヴィランの一人が漏らしたらしいが、黒霧に脳無3体も寄越したとなると恐らく相手の本命はお前だろう。一瞬たりとて周囲の警戒を怠るなよ」

 

 先生の言いたいことは十分にわかる。分かった上で私は恐る恐るお伺いをたてた。

 

「……今は周囲を警戒して白眼の範囲を制限しておるのじゃが、ちょっとだけ制限解除してもよいか? 他の皆が気になる……」

 

 他の皆。私の人生史上こんなに仲良くなったクラスメンバーはいない。Bクラスにだって仲良くなりたい子もいっぱいいる。そんな大切な皆の安否が非常に気になる。響香は勿論女子や男子が怪我や酷い目にあってると考えると気が気ではない。

 

「駄目に決まってるだろ合理的に考えろ。本命がお前である以上、索敵は少なくとも合流出来てある程度の安全を確保出来てからだ」

 

「うぅ……でも」

 

 それでも皆の事が気になって仕方ない私に相澤先生は走りながら、

 

「プロヒーローもいるし、キャビンの方はブラドが補修組をしっかり守り抜くさ。……それにお前が奴らにとって真の狙いならお前が無事でいる事が一番皆にとって安全に繋がる」

 

感情の読めない声で励ましてくれた。確かに私が目的ならばヴィランも必要以上にクラスの皆を傷つけることはないだろう。私の心象にも悪いし、もしもの際の交渉材料として人質の価値を傷つけない筈。そう信じたい。

 

 緊張の中、肝試しの待機場所である広場に着いた。道中闇に紛れて襲撃が来るかもと警戒していたけど結局無かった。ただオールマイトのいないこの絶好の機会を逃すはずが無い。

 

「あっ! イレイザー!? 大筒木ちゃんも!? 無事で良かった!」

 

 白眼である程度情報を掴んでいたけど、広場では虎さんとマンダレイさんが敵ヴィランを取り押さえていたところだった。大柄のオカ……昨今のLGBTに考慮してなんて表現をすればいいか分からない人物と半トカゲ半人のような異形型の個性っぽいヴィランだ。地面に倒れているピクシーボブさんも気になる。心臓は動いているみたいだけど……

 

「暫く前にボロボロの緑谷くんが出て行っちゃって! ラグドールとの連絡も取れてないの! 二人は知らない?」

 

 現状が現状なだけにマンダレイさんも大分混乱しているようだ。

 

「分からぬ。中間地点に着いた時は既にラグドールはいなくてのぅ」

 

 代わりに新鮮な血痕が残っていた事はこのタイミングで言えなかった。更に混乱させてしまう可能性もある。今の私に出来ることは──

 

「先生! 合流したことだし白眼で索敵するぞ!」

 

「ああ──待てッ!」

 

 突然空から飛行脳無が強襲して来た。直ぐ様白眼の範囲拡張を中断させて回避に専念する。ヴィランを捕らえて上に乗っかっていた二人もその襲撃で無理やり降ろされてしまっていた。

 

 脳無がいるということは……

 

「お待ちしておりましたよ大筒木カグヤ」

 

 やはり森の中から現れた黒霧。その前には巨体のチェーンソー脳無もセットだ。

 

 現れた脳無2体と黒霧。こっちにはプッシーキャッツの二人と先生もいるけど捕らえていたヴィラン二人も解放されて5対4と数的不利。そればかりか解放されたヴィランによって素早く倒れているピクシーボブさんを逆に人質に取られてしまった。

 

 控えめに言って絶体絶命の状況である。ピクシーボブさんが人質にとられてさえいなければ逃げながら一人ずつ天之御中に移動させて籠城作戦もとれたのだけどこの状況では難しい。先生も下手に個性が使えない。

 

「少しでも個性を使う素振りを見せたらこの女ヒーローの顔がギタギタになるわよ。大人しく両手を挙げなさい」

 

「貴様ッ! それ以上傷つけるようなら容赦はせんぞ!!」

 

「ええ。私もなるべく傷付けたくないから自分たちの置かれてる状況をしっかりわきまえなさい虎」

 

「くッ!!」

 

 ピクシーボブの頭からの流血は思ったより酷そうだ。顔も青ざめて意識喪失の状況。此処で無駄に時間を取られてしまえば治療が間に合わないかもしれない。一刻の余談も許さないだろう。

 

 両手を挙げながら一歩ヴィランの方へ歩き出す。

 

「おい大筒木やめろ」

 

「……仕方あるまい。あ奴らの目的はワラワのようじゃし」

 

「大筒木さん! ヴィランの言いなりになっちゃダメよ!」

 

「お前が行った所で状況は悪くなるだけだ」

 

「その通りだ大筒木!」

 

 こんな状況で凄く不謹慎なのだけど皆の心配する声が嬉しい。本当に私個人の事を心配してくれる大人の人なんて今まで周りに()()()()()

 

 だからこそ行かなくちゃいけない。これ以上皆が酷い目にあうのを見たく無いから。

 

「次、こちらの許可無く貴方達が喋ればそこの女ヒーローの腕を折ります」

 

 黒霧の脅しに静まり返る皆。そっちの方が私にとっても良い。聞いてると胸が苦しくなってくるから。

 

 黒霧の背後にワープゲートが開いてそこから何人かのヴィランが追加で現れる。顔の下半分を縫って全身火傷跡の酷い男。奇術師のような振る舞いのコート姿の男。顔下半分を不思議なマスクで覆っている笑顔の少女。全身黒タイツ姿の男。

 

 ここまでの敵戦力が集中している。相手が隙を見せたら内心暴れるつもりだったけど此処までされたら流石に難しい。黒霧の野郎少しは油断してくれよ。

 

「念の為彼女()お願いします」

 

了解(ラジャ)

 

 奇術師のような男がこちらに近寄って手を翳す。身構えていると急に視界が変化した。何だろう。いつのまにか透明な丸いカプセルに閉じ込められてしまった。それと奇術師の手が妙に大きい。いや、周囲の人や物が全部大きい? ──私が小さくなってるのか?!

 

 かなりエグい個性だ。マーシャルレディーの言っていた一発でも喰らうとお終い系の個性の典型的みたいな奴。叩いてみたけどかなり頑丈で、私の異形系個性由来の怪力でもびくともしない。共殺しの灰骨なら壊せそうだけど今の状況で抜け出せても仕方ないかぁ。

 

 黒霧のワープゲートで消える寸前、相澤先生や虎さんの悲痛な叫びを聞いた気がした。

 

 

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