兎の女神のヒーローアカデミア   作:眼球舐めは通常性癖

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ワラワ“悪”に出逢う

 ヴィランの手の中で運ばれつつ、ワラワ重要なことに気づいてしまう。

 

(えっ、そういえば……葉隠ちゃん!? 天之御中の始球空間に置きっぱなしだったじゃん!!!)

 

 安全が確保されてから葉隠ちゃんを出そうとしてたけど激動の事態の連続でそんな隙は無かったしすっかり忘れてた。

 

 おそらくこのまま連れ去られたなら行き先は奴らヴィランの拠点の一つ。まだ私の天之御中の個性を知らない奴らは葉隠ちゃんが私の空間の中にいると知っていない筈。奴等の私への執着は今回の襲撃で感じ取れた。このまま長期間拘束されることを考えれば、危険ではあるけどこれが葉隠ちゃんを逃す最後のチャンスかもしれない。

 

 いやそれどころか無事逃すことに成功すればヴィランの拠点の一つの場所を葉隠ちゃんを通じて雄英の先生やオールマイトに伝える逆転の一手に……。幸い葉隠ちゃんの透明な個性は隠れて逃げるのに打ってつけ。救援も見込めるとなれば──これは懸けてみるしか無いかもだ。

 

 ヴィランは私を逃さない為かしっかりこの個性由来の球状カプセルを握り締めている。外から守り抜くには良さそうだけどカプセルの私たちの中の様子は見られていない。暫くして歩いている時の振動が消えて、このヴィランが止まったのが分かった。

 

 信号待ち? エレベーター待ち? まぁ止まっているならこれがチャンスだ。

 

 直ぐに天之御中を発動。

 

「あっ!? 大筒木ちゃん! 外は一体ッ──」

 

「──スマヌが今は余り長く話せる状況では無い! 疑問はあるだろうが取り敢えず聞いてくれ!」

 

「う、うん」

 

 取り敢えずヴィランたちの襲撃に遭って、攫われてしまったくだりを説明する。そして今はヴィランの個性で閉じ込められてて、この空間に閉じ籠っていられる時間も限られていると。ずっと一人始球空間に取り残されて不安だったのだろう。触れた腕の感触から葉隠ちゃんの汗や震えが伝わってきた。こんな不安そうな彼女に脱出作戦を伝えてよいか私のちっぽけな良心が苦しむ。

 

 しかし、彼女もヒーロー志望の雄英生。暗い声音は持ち前の明るさで再び光り輝いた。ハッキリ顔は見えなくとも今の葉隠ちゃんが真っ直ぐな目をしているのが分かった。

 

「私も何かやれることないかな! ほら私の個性ってこういう潜入任務? っての向いてるもんね!」

 

「……しかし、危険じゃぞ? 今までの雄英での授業とは比べものにならん。これは実際に傷つく現実じゃ、ワラワだけでなくお主までも捕まりかねない」

 

 話の流れが私にとって都合が良すぎて余計に心苦しい。やっぱり大切な友達を傷付けるような事に巻き込むのも……でもこのまま天之御中の中にいてもいつ解放されるかも分かんないし……

 

 うお〜〜〜ん。私はいったいどうしたらいいんだ!!

 

「取り敢えず時間無いんでしょ大筒木ちゃん? だったらやってやろうよ! 私たちばかりやられてばっかじゃいられないもんね!」

 

 葛藤している私の目の前で体操着や下着を脱ぎ始める葉隠ちゃん。ちょっ、ちょっ待てよ(イケボ

 

 大胆過ぎるよ……葉隠ちゃん。

 

「えっ本気か葉隠? やめておけってワラワ──」

 

「──はい! 準備オーケー! さぁ戻ろう!!」

 

 背中を押されて渋々ワラワ達は天之御中から通常空間に戻って来た。景色は変わらず暗く、球状のカプセルの中だというのが分かる。天之御中を発動した場所に戻ってくる仕様上、カプセルの中に戻って来るとは思ってたけど予想通りで良かった。帰って来た時に一旦ヴィランの個性が解除されてカプセル外に出てしまってたら、色々と台無しになるところだった。

 

 カプセル内をちょっと動けば直ぐに葉隠ちゃんの手が触れた。そのまま彼女はおそらく人差し指を立てて私の唇に触れてきた。

 

 少しでも話せばバレるかもだから黙っといた方が良いってことね。ちょっとドキドキしながら無言で頷く。

 

 帰って来て30秒もしない内にカプセルに灯りが差し込んだ。直ぐに視界が大きくなる。個性解除されたか……身構えたところで周囲の確認。なんかお洒落なバーみたいな所だ。目の前には拘束された爆豪くんの姿。彼も捕まってたのか……私以外に誰も捕らえられていなければ多少は暴れても、命までは奪われないだろうけど彼が人質として捕らえられているならば話は別だ。そして周囲を取り囲むヴィランたち。

 

「状況は掴めましたか?」

 

 黒霧がそう言った。

 

「イヤイヤじゃがのぅ」

 

「何でお前も捕まってんだクソ白目女ァ!!!?」

 

 いや、……ごめんて。こっちも必死だったんだよ。そうしている間に葉隠ちゃんはヴィランの囲いを抜けて、出口の扉に一番近い部屋の端に移動した。とりあえずヨシッ!

 

 爆豪くんの距離までは遠い。少なくとも一息で行ける距離じゃないし、真横にはマッチョの男もいる。できる事なら彼を連れて天之御中で助けが来るまで強制籠城したいところだ。

 

 でもそれは葉隠ちゃんの脱出がまず最低条件。いきなり私と爆豪くんが消えたら周囲の捜索をされるだろうし、一度逃げ込んだら私は始球空間から外の世界を観測出来ない。葉隠ちゃんが逃げるのを邪魔するどころか捕まっても分からないし助けは出来ないわけだ。

 

 この絶望的な状況で救助も見込めず籠城作戦は現実的ではない。

 

「さぁ貴女も拘束させて貰いますよ」

 

 全身をベルトのような物で動きを阻害する拘束服を着せられた後、何だか怪しい液体の入った注射器が腕に刺される。ふしぎなくすり打たされて。気分がすごくフワフワした気持ちになって来る。夢うつつの状態で拘束されてそれに抗う気分が自分の中で弱いし手足の感覚が鈍い。毒かなんかだろうか。

 

 あれ? 個性が使いづらい?

 

 額の輪廻写輪眼の瞳が閉じてしまっているのが分かった。怪しげな液体を運んできたヴィランの一人が部屋を出て行くのと同時に薄ら葉隠ちゃんも着いて出て行ったのが、最後の白眼で見た映像。あのまま脱出が成功してくれるといいんだけど。

 

「やはりかなり抵抗力が強いですね。彼には薬が効いた後で送るとしましょう」

 

「ったく先生さえ言わなければ致死性の猛毒打ち込んでやったものの……」

 

「死柄木……」

 

「……分かってる。俺にとって重要なのは君だよ爆豪君」

 

 死柄木の声が遠い。まるで水の中にいるかのように誰かが話す声が膜越しに聞こえる感じだ。視界がグルグルと渦を巻く。意識が途切れる……。葉隠ちゃん……後、爆豪くんも……無事で……。

 

 

 

 

 

 

 次に目覚めたのは強烈な爆音の後だった。目覚ましにしては大きすぎる音は意識を覚醒させるには十分だった。意識を失う前の事を思い出す。

 

(そうか……私は囚われて……薬打たれたんだっけ)

 

 薬か毒か。どちらにしろ今の私はだいぶその解毒が進んでいるらしい。身体は怠いけど意識はハッキリしてる感じ。カグヤボディの丈夫さは知ってたけどそれは解毒も同様らしい。

 

 薄目を開けて周囲を確認すると。

 

 なんか爆豪君が解放されてる? ヴィランの動揺? 地面に落ちた死柄木の掌マスク?

 

 ええぃ、状況がさっぱりだ!?????

 

 バーのTVの画面上にはスーツをビシっと決めた先生達が謝罪をしている姿が見えた。天下の雄英高の二度目の襲撃。それに生徒が誘拐されてるとなれば社会に与えた

衝撃もデカいだろう。

 

 いや、現状はもっとヤバい!? 爆豪くんヴィランに囲まれちゃって危ないやん!! 死柄木が動き出す前になんとかしないとッ!!!

 

「爆豪ッ!! 来いッ!!」

 

「なッ!?」

 

 今まで意識を失ったと思っていた私がいきなり大声をあげて吃驚する面々。しかし爆豪君はあぁ?と怪訝な表情しつつも真っ先に動いた。ここら辺の判断力はマジでスゴイと尊敬するよ。言ったのは私だけどもし逆の立場だったら絶対ポカンと呆然してるもん。

 

 瞬時に白眼で視界を広げる。建物の外はどうやらあまり栄えてない古いビルにかこまれた場所といったところだろうか。何にせよ2km範囲内に葉隠ちゃんの姿は無い。無事逃げ出してくれたか……

 

 爆豪くんが伸ばした手が私の体に触れたその瞬間

 

 ──天之御中発動!!

 

 

 

 

「何だよ此処はッ!! 答えろ白目女!!」

 

 突如として天之御中の始球空間に飛ばされた爆豪くん。そりゃ空が薄ら緑に光ってメサのような曲面の地層が剥き出しな不思議空間に飛ばされたらそうなりますなります。でもその前に──

 

「あのぅ」

 

「ああッ!?」

 

「説明するからこの拘束……外してくりゃれ」

 

 そもそも両手足を拘束されて椅子ごと縛れたままのワラワ。酷くみっともなかった。

 

 渋々と私の拘束を外す爆豪くん。ようやく解放されたところで大きく背伸びをした。ずっと同じ体勢で拘束されていたから体中がバキバキだ。

 

「で? 説明しろよ」

 

 私は何度目かの天之御中の個性の説明を云々カンヌン。本来はなるべく隠しておきたかったけどこんな状況で使うなというほうが無理だししょうがない。爆豪くんは一通り黙って説明を聞いた後、

 

「そんだけの個性持ってるのに何で攫われてんだよ……」

 

と呟いた。いや、本当そう言われると辛い。私がもっと上手く立ち回れてたらこんな状況にならなかったかもしれない。普通なら怒りながら爆豪くんはさっきの台詞言ってたと思うから一応気を遣って貰っているようだ。

 

「……すまぬ」

 

「……テメェの辛気臭い顔見てると余計気分悪くなるから止めろ」

 

 ごめんよぉ。暫く反省しつつ、始球空間の中を片付ける。寝る前に大体入ってる事もあって岩陰には漫画やらちょっとしたお菓子なんかのゴミも置いてある。葉隠ちゃんにも見られたかもと思うと今更恥ずかしいな。

 

 おっと、これは葉隠ちゃんの脱いだ体操服と下着。年頃の爆豪くんには(私にも)刺激的過ぎる。ちょっと隠しておこう。っとそういえば葉隠ちゃんの事を話してなかったな。

 

「そういえば爆豪、これは期待を持たせるだけかもしれんが」

 

「あん?」

 

 私は葉隠ちゃんもこの空間に緊急避難先として連れて来ていて恐らく逃げ出す事に成功しているだろうと告げた。かなり希望的推測だけどこんな状況だ、爆豪くんは勿論私だってそう思い込んで自分を励ましたい。

 

 今度は逆に私が爆豪くんに現状について聞いてみる。連れ去られて変な薬を打たされて以降の記憶はほとんど無いのだ。さっきTVも着いてたみたいだし彼の方が現状の理解が出来てるはず。

 

「二日!? あの夜から二日も経っているのか!?」

 

「厳密には一日と20時間ってとこだ。さっき雄英の緊急中継やってたからな、録画でも無ければ間違い無いだろうよ」

 

(マジかぁ……マジかぁ。きっとクラスの皆も心配してるだろうなぁ。響香や響徳パパさんや美香ママさんにも心配かけちゃってるかも?)

 

 半ば強引にとはいえ自ら誘拐を許してしまった手前今更何言ってんだろうと思うかも知れない。単純にあの差し迫った状況でそんな簡単な事さえ想像してなかったのだ。あれがベストな選択肢では無くともベターだったと信じて……私って本当に馬鹿。

 

「こっから外に連絡取る方法は無いのかよ」

 

「無いな。少なくともワラワの知る限りでは……まぁ逆をいうと幸いな事にヴィラン側も此処なら干渉のしようが無いはずじゃ。救助が来るなら数日の内じゃろうし、暫くここで粘るとするか」

 

「チッ」

 

「ポテチあるが食うか?」

 

「あるならさっさと寄越せやッ!!」

 

 食料は限られている。私秘蔵のお菓子も精々三日持てば良い方だろう。必需品の水は氷の空間から持って来て溶かせば何とかなるはずだ。水を貯めるための器もマグマ空間の岩を削って酸の海で細かく形成。これがDIY?

 

 籠城後、天之御中空間から出ても外をヴィランに囲まれているようならばそれに対抗するだけの体力の余裕は必要だ。となると三日から五日ぐらいが籠城出来る限度。いや私も結構食べるし、爆豪くんも食べ盛りなことを考えるともっと短いかもしれないな。安全面から戦闘を考慮しなければ、長期籠城も視野に入れる必要もあるか?

 

 不意に視界に異物が目に入る。黒っぽい霧? いや、ここは天之御中の空間内だぞ? 自然にそんな現象が発生する筈が──

 

 

「──これはこれは聞きしに勝る素晴らしい個性だ。別空間の移動? いや、最早空間の創造といったところかな」

 

「えっ……?」

 

「おいおいおい! 何でヴィランが此処にいんだよッ!」

 

 私の癒し空間。始球空間に突如黒い霧が出現して中から現れたのは恐らく、いや間違いなくヴィラン。顔の上半分は酷く焼け爛れて人工呼吸器のようなマスクを身に付けた男は余裕を持って口許を歪める。……笑顔なのだろう? ゾッとする今まで会ったどのタイプの人物とも違う。

 

 “振る舞い”も、“声”も、“空気”も。それが“悪”だと断ずるに違和感を覚えないほどヴィランの鑑のような人物だった。

 

「随分と楽しそうだね。私も君たちのパーティーに混ぜてくれないかな?」

 

 

 私の“聖域”に(よこしま)な者が侵入した。

 

 

 

 

 

 

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