兎の女神のヒーローアカデミア   作:眼球舐めは通常性癖

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ワラワ頭痛が痛くなる

(何なんじゃ……コイツは!?)

 

 突然の侵入者。挨拶がわりに白眼と写輪眼起動した結果とんでもないモノが見れてしまった。

 

 体がボロボロだ。見た目からして顔の上半分は焼けてるから機能してないとは思ってたけどそれ以外の身体の内部も酷いもんだ。普通の人間なら立ってることすら不思議なほど。それでも余裕で振る舞っているのは人並外れた精神性か? 或いは個性によるものか?

 

 そんなボロボロの姿でも全く油断出来ない。存在としては真逆なのだけどまるでオールマイトの全盛期の時のようなカリスマ性と凄みを感じる。

 

「警戒してるのかい? 安心してくれ。今日は話し合いに来たんだ」

 

 一瞬でも気を許せば次の瞬間に打ち倒されているイメージが否応に脳内で再生される。爆豪くんも同様なのだろう。汗を垂れ流しながら警戒している。

 

 きっとコイツからしてみれば私たちの警戒は子猫が見知らぬ相手にシャーッと唸っている程度のものなのだろう。ゆったりとこちらに歩いて来て、私たちの交戦想定の限界線ちょうどで立ち止まった。

 

「紹介が遅れたね。僕はオール・フォー・ワン、君達のような将来有望な子たちに会えて嬉しいよ」

 

 ダメだ。勝てるビジョンが浮かんで来ない。今は時間稼ぎじゃ……。私たちが勝てなくてもオールマイトなら、オールマイトならきっとなんとかしてくれる! その為にもこいつから少しでも情報を絞り出す。

 

「……何故」

 

「ん?」

 

「どうやって此処に入って来たんじゃ……?」

 

 単純な疑問。私の天之御中はそう簡単に干渉できる個性では無い。単純な個性で空間を作っていないからこそ、イレイザーのような相手の個性に干渉する個性だとしても一度空間に移動してしさえすればどうしようもない。

 

 物理的にとてつもなく離れた空間に直接干渉するなんて限りなく不可能に近い。

 

 言ってしまえば深海とか宇宙空間と同じだ。個性社会で技術も前世とは比較にならない程発展してるけど、まだまだ人間という種の技術力ですら未開の地。

 

 私が言うのもどうかとは思うけど、単純な個人の個性の力だけでこの地に来るのは考え辛い。

 

「死柄木弔と違って君は随分勉強熱心だね大筒木カグヤ。良いだろう。教えてあげるよ。僕の部下の黒霧は知っているだろう? 彼のワープゲートの個性と僕の個性の合わせ技と言ったところかな」

 

 黒霧のワープゲート。確かにあれは範囲も広くそれだけでもすごい個性だ。加えて個性の組み合わせによっては単体では微妙な個性でもかなり強力な結果を導き出す事も出来る。しかし、それでも私には想像し難かった。

 

 いったいどんな個性を組み合わせれば此処に辿り着けるというんだ……。

 

「ふむ。君には隠す必要もないからこの際説明しておこうか」

 

 そんな私の納得いかない様子を読み取ったのか男。AFO(オール・フォー・ワン)は語り出した。その間に爆豪くんが静かに私の右斜め前に移動して遮る。それが姫を守るナイトにでも見えたのかマスクの顔の下が歪むのが分かった。爆豪くんは実際はいつでもこの空間から逃げ出せるように私と近い距離をキープしているのだろう。

 

 コイツが此処まで来てるってことは向こうでも私たちを待ち構えている可能性は高い。それでも。複数のヴィランに囲まれることになったとしても現実空間に戻った方がコイツと同じいる現状よりかはマシ。そう考えたのだろう。

 

 私も同意見だ。しかし、コイツが此処に来れた理由を少しでも明らかにしないと、戻ったとしてもずっと追われ続けているしまう。我慢の時だ。

 

「まず僕は君と同じように複数の個性を持ちあわせている。いわば先輩に当たるのかな? 違うのは僕は不必要な個性の持ち主からは譲って貰って、必要な者にそれを分け与えている。どんな突飛な商品に思えてもいつの世も需要と供給は必ずあるものだからね」

 

「──なっ!?」

 

 複数個性持ちってだけでも厄介なのに、奴の言葉を信じるなら他人の個性を奪って人に付与出来る個性だとは……勿論奪った個性をそのまま使う事も出来るのだろう。厄介ってレベルじゃねぇぞ!!

 

 そんなんチートや! チーターや!

 

「実は君には前々から興味を抱いていてね。その為に個性を探し回っていたんだ。……認めよう。今回ラグドール、彼女の個性が無ければ此処に来ることは困難だった」

 

 ラグドール!? 確かに彼女が待っている筈の肝試しの中間地点には姿が無かった。残っていた血痕もあり襲撃と無関係とは思っていなかったけど……コイツに個性を奪われてしまったのかッ! 彼女の無事を祈りつつ、言葉を紡ぐ。

 

「嘘じゃな」

 

「嘘だって?」

 

「ああ。彼女の個性でもワラワがこの空間に居る時は場所まで突き止める事は出来なかった。ならばオヌシが嘘をついているのに違いない!」

 

 そう突き詰めても奴の余裕は崩れない。むしろ納得したと言わんばかりに肩をすくめた。

 

「そうか。勘違いさせてしまったようですまないね。使ったのは彼女()()の個性では無いんだよ。君はアジトに来て直ぐに注射を撃たれなかったかい? あれには複数の薬物と私の()が混ぜてあったんだよ」

 

「血!?」

 

「……キメェな」

 

 え、私他人の血液を静脈注射されちゃったの!? 血液型が違ってたら大変だぞ! いや、それ以前にこんなキモイ感じの奴の血液が私に輸血されたのが何より嫌だ。

 

「個性《血縁》。二親等以内の人物の位置がどんなに離れてても分かるというものだ。血の繋がりは強いってよく聞くだろう。……尤も一時的に輸血して誤魔化しただけだから直ぐにその個性の効果は無くしてしまったがね。

 

 しかし消える前に個性《ピン刺し》《個性維持》《星見》《サーチ》、その他十数個の精神増強系の個性と《イメージ共有》を黒霧の《ワープゲート》と組み合わせて此処に来たという訳だよ」

 

 コイツ……マジでやばいな。何だよそのレベルの複数個性持ちなんて聞いた事無いぞ。

 

「そして」

 

「避けろッ! 白目女!」

 

 不意に何の前触れも無く私の後ろにAFOが出現した。超スピードとかそんなレベルじゃない!? 瞬間移動? 時止め? 何の個性かサッパリだけど私の肩を軽くポンと叩いた。

 

 攻撃かと、直ぐに振り払って飛行能力で大きく距離をとる。しかし奴は特に何も追撃は無く私が飛んでいる姿を愉快そうに眺めていた。

 

「な、なんの……つもりじゃ?」

 

「これで、もう逃げ場は無いよ大筒木カグヤ。今のは《緊急脱出》の個性の発動条件だ。指定できるのは一人だけという条件だけど触った相手の元に一瞬で跳べる。つまり君が何処にいても私はやって来れる。例えこの空間だろうとね」

 

「……嘘じゃ」

 

「そう信じたい気持ちは分かるとも」

 

 震えそうになる肩を必死に抑えて平静を装う。複数の個性を使って聖域の始球空間までやってきた奴だ。不可能と決めつけるのは最早どんなに自分を騙しても難しかった。ただでさえ此処は全ての空間に繋がる始球空間。黒霧でもこの空間に辿り着けば他の空間に移動出来るかもしれない。

 

(なんだこいつの私に対する執着心は……!?)

 

 怖い。……コイツが。底知れない悪意が、執着心が、同じ空間にいることがたまらなく不快だ。

 

「さぁ話し合おうか。──君の身体の所有権について」

 

ゾゾゾッ

 

 無言で私は黄泉比良坂で爆豪くんを掴んでマグマ空間に移動する。此処を選んだのは浮いてさえいればそんなに危ない空間では無いし、奴が来れたとしてもワンチャンマグマに落ちてくれないかなと思った為だ。爆豪くんはいきなり連れて来られてメッチャキレるかなと思ってたけど、こちらを睨み付けるだけで勘弁してくれた。

 

 やっぱり彼もAFOと同じ空間にいるのが嫌だったみたいだ。

 

「おいクソ白目女」

「なんじゃ?」

「奴がこの空間に来たら次は酸の海に移動しろ。再び追いかけてくるようなら現れた瞬間に俺の閃光弾(スタングレネード)で視界と思考を奪って酸に叩き落とす。お前も骨矢でサポートしろ」

 

 爆豪くんは真剣な眼でそう言った。ヴィランを生け捕りするのがヒーローの仕事。ヴィランを酸の海に突き落として殺そうという提案はヒーローを目指す雄英高生の言葉とは思えない。

 しかし私は素直に爆豪くんの提案に良い提案だと納得した。

 

 私達は本能的に奴を殺すことこそが正義であり、平和への近道だということを理解させられた。この世界の誰に聞いてもオールマイトが平和の象徴ならAFOこそが悪の根源。

 

 殺す事への忌避感は生まれようも無い。少なくともその時の私たちにこれから悪い事をするという罪悪感は欠片も無かった。今考えると怖い。むしろ正義は私達だと確信犯染みていた。

 

 

 暫くして。案の定マグマ空間にいると、目の前の空間が歪む。奴は落ちる素振りも見せずにまるで透明な床でもそこにあるかのように悠然と空中に足を置いて静止していた。

 

 マグマに落とすという淡い期待は潰えた。奴が何か喋る前に黄泉比良坂で移動する。これでは酸の海に落とす計画も通じないかもしれない。……いや、今なら私たちが無駄な追いかけっこをやってるとなめて油断しているかもしれない。

 

 やってみる価値はある。

 

 

「集中しろ……」

 

 爆豪くんのいう通りだ。絶対に成功させる気概でやらないと駄目だ。

 

「うむ」

 

 酸の海の直ぐ真上で待つ。

 

「奴の“緊急脱出”の個性にも条件はある筈だ。さっきの奴の出現した位置からして、お前の前方10m以内に現れるんだろう。そこをヤる!」

 

 緊張してて全然そんな個性の出現場所なんて考えてなかった。目の付け所が流石だ爆豪くん。全面的に信じるのは危険だけど、緊急脱出という名前からして指定先の私からそう遠く離れた場所には出現しないだろう。警戒する範囲を狭められるというのは精神的に楽になる。

 

「来たぞッ!」

 

 奴が現れる瞬間の空間の揺らぎ。波打ったような波紋が空中に走る。すかさず背中の爆豪くんが閃光弾(スタングレネード)を放つ。巻き添えを喰らわないようにその瞬間だけは輪廻写輪眼と白眼も使えない。予め身構えていた私ですら怯みそうになる程の爆音と閃光。間近で喰らった奴の衝撃と来たら堪らないだろう。

 

 同時に打ち出した骨矢。貫通能力を高める為に螺旋状に変形させた特注品だ。その威力は5mmの鉄板をも軽く貫く威力。

 

「……いけない子達だ」

 

 しかし奴は閃光弾(スタングレネード)に怯みもせず、いつの間にか巨大化していた奴の片腕が私たちに向かって降り下ろされる。オールマイトの全盛期のテキサススマッシュ? 或いはそれを上回る威力の一撃は骨矢も私たちも纏めて風圧で吹き飛ばした。

 

(──え? あっ一瞬意識が飛んでた?!)

 

 耳の直ぐそばを流れる風切り音で目覚めた私は、体が妙に軽いことに気づく。

 

 爆豪くんは!? 何処に!?

 

 直ぐに白眼で見ると酸の海に真っ逆さまに落ちて行く爆豪くんの姿が!? あの速度では黄泉比良坂の展開速度より早く酸の海に叩き落とされてしまう。急いで飛行の個性で向かう。友達が溶けちゃう姿なんてゴメンだ。

 

「爆豪ッ!!!!」

 

 そんな必死な私を他所に当の吹き飛ばした本人のAFOは爆豪くんを酸の海に落ちる前に下から受け止めようとする素振りだ。これがマッチポンプってやつか。

 

「さぁ安心して、受け止めてあげよう」

 

「つっ……!? 誰がテメェの世話になるか!!」

 

 ちょうど奴が伸ばした腕に触れる前に爆豪くんは手の平から爆破させて、爆風を奴にぶつけながら反対方向に自分の体も反動でぶっ飛ぶ。計算していたのか私の方に飛んで来たので衝撃に押されながらもなんとかキャッチすることに成功!

 

 しかし、状況は一切好転の兆しを見せない。私達はひいこら言ってるのに奴の余裕は全く崩せないままだ。爆豪くんの個性は正面切っての近距離戦タイプなんだけど、私の天之御中の空間の中では彼の個性が活かしにくい。そもそも酸の海にマグマ、砂漠に氷雪空間と重力空間と、個性を持っている私にすら牙を剥く場所ばかり。

 

 共闘したところで所詮私達学生の身では互いの隙をカバーする動きを逆に利用されてしまうだけだと判断した。奴の狙いは私だけっぽいし、これ以上彼を巻き込むのはよくない。

 

 つまり、始球空間に爆豪くんを放り込んで奴が追っかけてくる前に私は氷雪空間に移動した。空間の歪みが閉じる前に爆豪くんは叫んでたけどごめんと小さく呟いてしばしの別れ。

 

 

 

 

 私を追いかけて氷雪空間にやってきたAFOは不気味な焼け爛れた顔で私を見つめる。マスクの下は満面の笑みだ。そればかりか舌舐めずりすらしている。

 

「おや? お友達は何処に消えたのかな?」

「……さぁのぅ」

 

 生命の危機。否、人間としての尊厳が蔑まされるような事になる私の未来のヴィジョンが万華鏡写輪眼を使わずとも先読み出来た。冷や汗どころか少し漏れてしまってる。

 

 今更になって打たれた注射の毒でも回って来たのか激しい頭痛が襲う。自分の呼吸音すら煩く感じてしまっている。極限の緊張状態に遂に私も少しおかしくなってしまっているらしい。

 

「それにしても素晴らしい個性だよ大筒木カグヤ。マグマに酸の海にこの空間。他にも空間があるのかな?」

 

「答える必要は無い。それを聞くということは……ワラワの個性を奪うつもりか?」

 

 疑問というよりほとんど確信に近い問いを投げかける。奴は他人の個性を奪える。そんな奴がワラワの個性を欲しく無いはずが無いだろう。あらゆる個性を使ってこの空間にまでやって来たことからその執着は既に窺えている。

 

「さっきも言っただろう? 僕は君の身体が欲しいんだ。君の強力な複数の個性を許容出来るその身体がね」

 

「へっ?」

 

「……個性特異点という言葉を知っているかね?」

 

「うむ。両親の個性の遺伝で複雑に個性が組み合わさり、将来的には個性が人間の扱える限界を越して手に負えなくなるというやつじゃろ」

 

「まさにそれだよ。人類が個性という力を得て複数個性持ちは私以外にもそこそこの数がいた。しかし君ほどの複数個性持ちは歴史的に見ても数人程度。個性の内容を鑑みると君の存在は奇跡といっていい」

 

 ……要するにこいつは他人の個性を奪うという特性上、一足先に個性特異点に達してしまった訳か。身体がボロボロなのもその所為?

 

 そこで現れた私。普通に考えておかしいレベルの個性持ちの私は別に個性特異点に達して個性を暴走させている様子も無い。さぞコイツからしてみれば食指が動いたことだろう。他人の身体を乗っ取るなんて眉唾物の個性も、こいつ長生きしてるっぽいし個性を奪って持っていてもおかしくない。何でもありかよてめぇ……ッ。

 

 頭痛の痛みは止むばかりか立っているのも苦しい程だ。こんな奴を前に一瞬でも気を抜いたらダメなのに! とてもじゃないが耐え切れない痛みに膝をついてしまう。

 

(あんな……に………………困るな……)

 

「な、何?」

 

 ついには幻聴までも聞こえ始めてしまったのか。途切れ途切れに脳内から声が聞こえてくる。

 

「どうかしたかな?」

 

 

 

 

 

 雄英高教師陣、現役プロヒーローたちは既に現場に集結していた。二日前の雄英ヒーロー科一年の襲撃が社会に与えた影響は大きい。

 尊い人命が失われることは無かったが複数の生徒や現役ヒーローがヴィランによって重軽傷を負い、生徒二名・ヒーロー一名がヴィランによって誘拐されるという事件。ことは雄英だけで無く、ヒーロー社会そのものへの疑問を一般人が浮かばさせ始める契機となった。

 

 誘拐された三名の安全を鑑みて、この状況の早期解決を求める声が公安からも上がった。即ち電撃作戦。幸い、誘拐されたと思われていた葉隠少女が直ぐに脱出に成功しヴィランの拠点の一つの居場所を暴き出したので余計に作戦の実行スピードは加速した。同時に八百万少女の機転で発信機を着けた脳無に別働隊も控えている。

 

「全く! 葉隠少女と八百万少女の勇気ある行動には感謝の念が絶えない」

 

「……同時にヒーローとして将来ある子供達に逆に助けられてしまってる事が不甲斐ないとも言えますね」

 

 オールマイトの背後にスッと舞い降りるヒーロー。新進気鋭のヒーロー、ホークスだ。彼は個性『剛翼』で突入前の最終チェックを終えて戻ってきたばかり。オールマイトという象徴を前に皮肉で返したのだから、集まったヒーローや警察に少しばかり無言のなんとも言えない気まずい空気が流れた。

 

 しかしそこはオールマイト。

 

「まさにホークスの言う通りだ! 私も目の前の人を助け続けてきて、今や平和の象徴と呼ばれるまでになった。だが、結果はこのザマだ。──だからこそ! 未来ある少年少女を救ってこの先のより良い平和を築く手助けを私達はしていかなければならない!」

 

 一気に空気が和らぐ。温かくなる。ホークスにとってのNo. 1ヒーローは彼では無いが、こういった雰囲気を作り出せる魅力やカリスマ性はオールマイトでしか作り得ないものだろう。素直に謝罪して少年少女を助け出す為の作戦を練ることに集中する。

 

「俺の翼を侵入させてバーの隅々や周辺の建物全てを捜索させましたが、何処にも生徒の姿はありませんでした。恐らく爆豪くん達を捕らえたヴィランの一人の個性で隠されているのかと思います」

 

「それは……慎重に素早く行動不能にする必要があるね」

 

 

 突入は迅速に行われた。最近大きくランクを上げているシンリンカムイ、ホークス、エッジショットにオールマイトとその師匠であるグラントリノ。後詰めにはNo.2のエンデヴァーまで控えているという、歴史的に見ても此処までの豪華メンバーが集結したことはヒーローファンでも現実味が無さすぎて妄想したことは無かったであろう編成。

 

 制圧はあっさりする程簡単に成功した。厄介な黒霧のワープゲートも速攻でエッジショットにより意識を落とされ脱出することも出来ない。厄介な(さこ)圧絋(あつひろ)の個性の起点となる両腕も捕縛。

 

 最大の問題は人質の姿が何処にも無かったことだ。身体検査をしても、無理矢理ヴィランを吐かせようとしても、知らないの一点張り。これにはオールマイト率いるヒーロー達も困った。いずれ捜索に長けた個性を持ったヒーローの応援も来るが救助をなるべく早くしたい気持ちは変わらない。

 

 敵連合の若きリーダー死柄木弔はこの絶望的な状況に困惑し、反発し、激怒した。今までせっかくヒーローたちの築いていた偽りの平和に傷を入れてこれからだという反撃の時。その瞬間を打ち砕かれたショックは大きい。

 

「こんな……あっけなく……ふざけるな。失せろ……消えろ」

 

 一向に進まない事態に、この計画の裏の立役者。密かに構えている黒幕の存在にオールマイトは苛立ちを抑えられなかった。

 

()は今どこにいる死柄木!!」

 

「おまえが!! 嫌いだ!!」

 

 死柄木が執念じみた瞳でオールマイトを睨みつけながら叫んだ瞬間。バーの空間が歪む。ワープゲートの個性かと黒霧を確認するがシンリンカムイとエッジショットに捕らえられて確かに気絶している。ならば、一体──

 

「いやコレは!?」

 

 確かにオールマイトにはこの空間の歪みに記憶があった。それは普段からヒーロー科でもみていた個性の前兆。

 

「大筒木少女の個性だ! 皆攻撃は一旦やめてくれ!」

 

 大筒木少女命名の黄泉比良坂。空間の裂け目から現れたのはまさかの男の体。ボロボロになったスーツを身に纏った男、AFOは宿敵のオールマイトをニヤリと見つめる。

 

 予想はしていたがいざ目の前に現れると緊張感が膨れ上がる。確かに数年前に倒した相手、それも因縁の相手を前に様々な感情が湧く。後悔、疑問、怒り、焦燥。

 

 この狭い室内の中で暴れたら他のヒーローや囚われの生徒を巻き込む恐れがある。なんとか別の場所にと考えていると──

 

──AFOはそのままバーの床に倒れた。

 

「「なっ!?」」

 

 疑問符が浮かびすぎてまともに状況を理解出来ない。直ぐに少女の手が裂け目から伸びてきた。病的なほど白くて瞳の虹彩まで真っ白な神秘的な雰囲気の少女。その後には草臥れた顔つきの爆豪少年の姿も。

 

「お……」

 

「お……」

 

「大筒木少女に爆豪少年!!! 無事で何よりだ!!」

 

「おぅるまいと゛ぉ〜〜〜〜」

 

 熱い抱擁を交わした。

 

 

 

 

 

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