兎の女神のヒーローアカデミア 作:眼球舐めは通常性癖
あれから多くの事が起きた。先ずは倒れたと思っていたAFOが力を振り絞り、捕まっていたヴィランを別の場所に個性で逃がさせようとした。後で聞いた話によると脳無工場らしき場所に移動させたらしい。しかし、そこは既に他のヒーロー達によって待ち構えられていて移動した先で他のヴィランたちは無事捕まったようだ。
AFOがそれでも暴れようとしていたけど流石に真正面からオールマイトやプロヒーローの上澄みを相手にしては勝利も見込めず、
気になったのは送られる直前にAFOが呟いた『死柄木弔は志村奈々の孫だよ』の一言。よっぽどその志村奈々という人はオールマイトにとって重要な人物だったのだろう。絶望と後悔をミックスした彼らしくない顔だった。
病院での精密検査の後、周囲をヒーローに囲まれた重警備のホテルで暫く私と爆豪くんは誘拐されていた間の精神的疲労と肉体的疲労を癒すことに。まぁこんな事が起きたんだ。じゃあお疲れ様ですと帰宅する訳にもいかない。
ある程度の休息の後は警察と公安から事情聴取だ。再発防止の為にも詳しく細部について教えてくれとみっちり部屋で聞かれた。今まで隠して来たけど、流石に本職の公安や警察相手に誤魔化すことなんて話術も得意では無い私では出来ない。天之御中についても説明する事に。どうせ私が嘘ついたところで爆豪くんや葉隠ちゃんから漏れるだろう。
説明すると随分と驚かれた。公安からはそれはヒーローとして活動するまでは秘匿しておいた方が良いと個性届でその事を明記する必要は無いと確約して貰えることに。後で警察や公安の方でもその情報は秘匿情報の一つとして扱うとの言葉もあった。正直助かる。
私としては殆ど天之御中でAFOと対峙したあたりから記憶が無いので知らないの一点張り。公安の人からはちょっとスカウト染みた事を言われて名刺と秘匿回線まで教えられてしまった。
最後に病院で再度精密検査。ここまで徹底した検査。よほど今回の事が社会に与えた影響は大きいのだろう。
そしてようやく──
「カグヤッ!」
「きょ、響香──ぐほっ」
ご近所の耳朗一家が迎えに来てくれた。胸に響香が飛び込んで来て思わず息を詰まらせかけてしまったけど、響香が泣いてくれていたのでそれでオッケーです。
「ほ、本当に良かったなぁカグヤちゃん!!」
響徳パパさんもガチ泣きしながら私と響香を一緒に抱きしめた。美香ママさんは泣きこそしないものの微笑ましそうに私達を見つめている。よく見ると目の下に大きな隈が出来ている。……きっとすごく心配させたのだろう。
「カグヤちゃん……以前から話していたこと改めて考えてほしいの」
美香ママさんが帰りの車内でそっと呟いた。車内後方をバックミラーで確認すると既に響香と響徳パパは疲れて眠っているようだった。
「……気持ちは嬉しいが、少し考えさせて欲しいのじゃ」
「ええ。今のカグヤちゃんはゆっくり休む必要がありますからね。頭の隅にでも残して置いて」
やはり私も疲れていたようだ。かなり良いホテルの部屋だったけど疲れはとれきっていない。美香ママの優しい声音と車内の心地よい揺れの相乗効果でいつの間にか夢の中に落ちていた。
ようやっと家に帰って私は体の錘がとれた気がした。ほとんど拘束状態で非日常から日常に戻ってきたんだなという実感が湧いてきた感じだ。家の中は暫く留守にしていた所為か饐えた臭いがする。警察から暫く外出をしないようにと勧められているから安全の為にも最低限の換気の為に窓を開けた。
「……はぁ〜」
警察から宿泊施設に置いていた荷物の確認をしていると携帯に通知がそこそこ来ていた。私が攫われた時に携帯も持っているのかと思っていたのか響徳パパや美香ママさん、意外な事にマーシャルレディーからも来ていた。
内容は『諦めるナ』とだけ。……なんだろう、純粋に心配した内容じゃないよな。まぁ彼女らしいっちゃ彼女らしいか?
読んでる最中続けて一件。『助かったようで何よりダ。インターンシップでは覚悟しておケ』
え、怖い。なんて返事しようか考えてたら猛烈な眠気が襲って来た。この返信に関しては明日の私に任せるとしよう。
ベッドに倒れ込み泥のように眠り──起きると深夜だった。3時か……。ペットボトルの水で喉を潤す。再び寝ようにも眠気が全然無い。どんなに精神的に疲れていても暫く安心できる場所で寝てしまえば全快、眠気なんて襲ってくる筈ないのだ。この体が余りに元気過ぎる事が嫌だと思う日が来るとは今日まで思わなかった。
それに、寝れないのは体が元気だからって理由だけではない。
最悪感。心配事。謎。抱えている懸念事項。それらの所為だった。
「…………あれは夢じゃったのか?」
思い起こすはAFOと氷雪空間で向かい合っていた時、私は警察やヒーロー公安に記憶に無いと終始説明していた。実際嘘では無いが本当の事を言っている訳でも無かった。
頭痛で苦しむ私の中から聞こえた声。
(あんな……に………………困るな……)
(あんな奴に苦戦するようでは困るな。力の使い方を教えてやろう)
あの後から意識が暗闇に沈んで、誰かの視線越しに勝手に私の体が動くのを見ていた。まるで心操くんの『洗脳』で意識が心象空間に落とされた時のような感覚。
私はその時圧倒的な力でAFOの複数個性に正面から打ち勝った。
複数の個性を腕に集中させた強力な一撃を神羅天征らしき斥力で吹き飛ばし、八十神空撃で徹底的に奴を打ちのめす。動きが私のそれとはレベルが違っていた。輪廻写輪眼も白眼も私の今までの個性が児戯と侮られても仕方ないほどの正確性と先読み能力。
一方的に強者へ振るう暴力の高揚感が私の中に湧き出る。しかし体を操る何者かは至って冷静に相手をしている。機械染みた無感情さ。こいつの感情の矛先は私にしか向いていない。こんなに簡単な事なのに十分に力を振るえない私への不甲斐なさ、伝わってくるのはそれだけだ。
『止めじゃ』
ボロボロで地面に倒れ伏すAFO相手に掌の中で共殺の灰骨を生成する。そこでようやく私の意識が戻って来た。灰骨は真っ直ぐにAFOへ飛んでいったけど、相手もかなりの実力者だ。緊急脱出の個性で回避されちゃった。しかしかなりボロボロにされて無理矢理個性を発動したせいで動く気力は絞りつくしてしまったみたい。
そもそも最初に出会った時点でこいつの体はボロボロだった。奪った個性で命を繋いでいたんだろう。もう今やその個性の維持すら苦しそうな半死半生状態。
何が何やら分からぬ体の乗っ取り。一体誰が私を乗っ取ろうとしたのだろう? 本気で乗っ取るつもりなら簡単に乗っ取れるぐらいの実力の差はあった筈だ。……そもそも私より私の体を操るのが他にいるのか?
考えても分からない事ばかり。最初に出会った時のような魔王ムーブAFOなら死んでも仕方ないと思うけど、今や生きてるのも不思議なほどだ。色々考えることが多くて誰かにAFOの処理をお願いして気を楽にしたかった。
そういった訳で爆豪くんとAFOを連れて現実空間に戻ったというお話。
まぁこんなとんでもない世迷言警察や公安の人に話せないよね。薄ら私の体を操った人物の正体に察しがついているから余計言えない。私は1年のヒーロー科の皆と一緒にヒーローになりたいんだ。
そしてもう一つの大きな懸念。
天之御中で始球空間に移動する。やはりここは良い……落ち着く。そういえば葉隠ちゃんの脱いだ服を岩陰に隠したままだったな。後で洗濯して学校に行った時にでも隠して渡そう。
『ア、母サン。調子ハ ドウ?』
……いやぁ、本当始球空間は落ち着くなぁ。
『マダ疲レテル?』
…………普段ならリラックス出来る最高の空間なんだけどなぁ?
『……煩イヨウナラ、シバラク黙ッテルネ』
(んな゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんでぇぇぇ黒ゼツがいるのぉぉぉぉぉぉぉ!!!!)
始球空間の岩の後ろから隠れて此方の様子を窺う黒いスライム状の物質。まん丸お目々とギザギザした歯が特徴的なNARUTO界の憎いあんちくしょう黒ゼツがそこにいた。
どうやら私が
流石に現実空間にいきなり出すような馬鹿な真似は出来なかった。ホテル内も監視されてる恐れもあるし。何より実質大体NARUTOの暗躍はこいつの手による物が殆ど。どんな動きをするか予想がつかない。
そんな風に警戒はしてるけど、無意識でこいつを可愛がってしまう。気が付けばイジけた黒ゼツを撫で回してスライムの体をぐでたまみたいに溶かして癒しと癒されのWin-Win関係を構築してしまっている。
『ア゛ァァァァ。ソコハ効ク゛ヨォ母サン』
「此奴めフフフッ」
まぁ今が楽しければそれで良いかぁ……(脳死)
暫く家でゴロゴロしたり、神野の事件をニュースで見る日々。雄英も今回の事件で色々大変なのだろう。しかし、そんな優雅な時間も家に届いた雄英からの簡易書留の内容を見て終わりを告げる事に。
「ゆ、雄英の全寮制じゃと〜〜〜!?」
書いてある内容を見るにクラスの皆と共同生活をすることで生徒の安全と集団生活による協調性や自主性の向上、更にヒーロー科の専門的な知識・訓練を効率的に学習管理出来ると書いてある。しかも国立なので共益費や生活費なども込み込みでかなり安い。
(ただでさえ楽しいクラスの皆との学校生活がプライベートでも自然に出来るなんて良い事しかないじゃん!)
と即決でオッケーを出したい所だったけど……何やら担任が両親に直接説明と承認までを含めてご自宅に赴いて面談すると細かく書いてあった。……マジかよ。
面談当日。私は部屋を掃除して相澤先生とオールマイトのお出迎え準備を完成させてたけどかなりドギマギしていた。ピンポンとインターホンが鳴るとネズミの心臓ばりの私の心臓の鼓動が早まる。
「どうもお邪魔します」
スーツ姿で髪の毛を纏めた相澤先生は随分と印象が違う。謝罪会見でも見たけど、やっぱ生で見ると普段の汚い印象さえ無ければなと思わざるを得ない。
「ん? 大筒木少女、ご両親は?」
こちらは触角をピンと伸ばしたムキムキスタイルのオールマイト。胸筋でスーツの胸元のボタンが今にも弾け飛び散りそうだ。
「……今ちょっと出かけておってのぅ。予め伝えておいたのにスマヌ。直ぐに帰ってくるとは思うが先ずは上がってくれ」
「そうか。暫く待たせていただくとしよう」
適当に冷えた麦茶と菓子を出して迎える。そして30分近く経ってしまった所で私は携帯を見た。
「むむっ、どうやら両親は出先で渋滞に捕まってしまったようじゃ。予め全寮制については両親も笑顔で頷いておったからワラワが代筆しとこう。先生たちもこれから他の皆の所回らなければいけないんじゃろ?」
「それは仕方ないね。だったら午後からに大筒木少女の面談は変更にして貰おうか相澤くん!」
「──いやいやいや。態々来てもらっても答えは決まっておるんじゃ。ならば早い方が良かろう!」
「……大筒木」
静かに睨みをきかす相澤先生。怖い怖いって。何か言われる前に遮るように口を滑らす。
「合理的に判断すればそう思うじゃろう?なぁ相澤先生?」
「大筒木、お前何か隠してるな」
ギクギクギックーーーン!!
「な、何のことじゃ? 今日は何かおかしいぞ先生」
「おかしいのはお前の方だ大筒木」
「ご両親は今どうしているのか聞いてもいいかい大筒木少女。今日が無理でも直接会うまで何度でも訪問するよ私達は」
オールマイトが本気の目をしている。相澤先生も無言で頷いて同調の構えを崩さない。これは……誤魔化すのは無理か。汗を流しながら苦しい無言の圧に押されていると不意にインターホンの音。これ幸いと先生を押し留めて出掛けるとやって来たのは耳朗一家だった。
響香曰く『ウチの面談が朝イチだったから次はカグヤだと思ったから』。まぁ家は近いし耳朗一家はうちの事情も知っている。どうも先ほどはお世話になりましたと先生たちと大人の挨拶の後、なんで耳朗一家がやって来たか分からない二人に響徳パパが説明をしだす。
「実はカグヤちゃんの両親とは連絡がつかない状況なんです」
「「はっ!?」」
そりゃ先生たちも驚いて当然だ。
「俗にいう蒸発というやつじゃな。毎月十分な生活費が口座に入ってくるから多分生きてはおるんじゃろうが……」
行方はさっぱりだ。中学2年の夏頃からだろうか、ある日さっぱり綺麗にいなくなっていた。書き置きには特別な事情の為にしばらく行方をくらませるがお前が生活する分には十分な金銭を通帳に入れるとだけ。
警察に捜索願いを出すのも手ではあったけど両親が失踪したら多分、児童養護施設か顔も知らない親戚の家にお世話になる事だろう。私はせっかく仲良くなった響香と離れ離れになる事が耐えきれなかったので結局そうする事はなかった。
同時に耳朗家にも両親から似たような書き置きを貰っていたらしく、私の事を頼む的な事が書かれていたらしい。両親と長年の付き合いがあったらしい響徳パパ・美香ママは私の複数個性持ちと見た目の異形さで児童養護施設や顔も知らない親戚に預けられたりなんかしたらどんな目に遭うか分からないと渋々この状態を受け入れるしかなかった。
前世一応大学生だった私にしてみれば軽い自炊なんかも出来るし、一人暮らし万歳って感じだったんだけどね。よく美香ママも心配してくれて作り置きの惣菜も貰ってるし、響徳パパもうちに来て食事しなさい、むしろ一緒に住みなさいと心配してくれて感謝の念にたえない。事実上の保護者が二人なのは間違いないだろう。
なんか良い人過ぎて、申し訳なくなってくるレベルだ。
「カグヤちゃんが頷いてくれたらいつでもうちとしては良いんですけどね」
「ほんとソレ」
養子になって一緒に住まないかと今までずっと誘って来てくれていた二人。神野事件の帰りに美香ママさんが言っていたのはそういう事だった。
とりあえず一度持ち帰って校長たちと検討してみると重苦しい雰囲気で相澤先生とオールマイトは告げて帰ることに。
今回狙われたのは私と爆豪くんだし、雄英からしてもヒーローの所属している雄英高の寮で管理するのが保護者のいない私の状況を考えると望ましい筈だ。
可哀想な人を見る目で先生に見られるのは精神的に思ったより効いた。……早く、皆と会って共同生活をしたいもんだなぁ。
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